複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.62 )
- 日時: 2015/06/30 21:17
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
そこには、アマデウスがジュリアンを待っていた。珍しく笑顔だ。
「おかえり、ジュリアン。よく頑張ったな」
アマデウスは柄にもなく、ジュリアンの頭をなでる。正直、気色悪い。ジュリアンは身ぶるいをこらえながら、口を開く。
「ほんと……地獄ってモノがどんなのか、身を持って分かりましたよ。ところで教官、クィンシーは……?」
ジュリアンは辺りを見渡しながら問いかけた。ホールには、訓練生の姿が一人も見当たらない。
「……ジュリアン、おめでとう。お前が改血手術成功者、第1号だ……」
アマデウスは祝辞を送る。しかし、その顔は暗く沈んでいた。明るい言葉で取りつくろい、残酷な真実をジュリアンに打ち明けている。
「それって……」
間接的な表現だが、ジュリアンは理解した。ジュリアンが成功体第1号であるならば、他の者は全員失敗だったのだ。
ジュリアンは第7ターム。ここに来るまでに、すでに34人が失敗した。もちろんその中には、クィンシーも含まれている。
「そんな……」
ジュリアンはその場に崩れ落ちた。アマデウスは、弱り切ったその身体を支える。
ジュリアンの心には、二つのものが渦巻いていた。
一つは、もうクィンシーに会えないという悲しみ。
そして、もう一つは……
———マーガレット……どうか、死なないでくれ!
+ + +
「……これを、例の医師たちに……」
アルビオン軍本部、将軍の間。リチャードは27歳で将軍の座につき、それから4年が過ぎていた。飾り物のような存在だが、彼には将軍としての権限も十分に与えられていた。軍内の事項に対する決定権は、ほとんど彼が所有している。
リチャードはその書類を、副将軍のラングレー・キャトラルに手渡した。ラングレーは白髪交じりの髪を頂き、銀縁のモノクルをした、人のよさそうな壮年だ。鼻の下に白いひげを生やしていて、漫画に出てくる年のいった執事そのままの容姿である。彼は、自分の20歳下の若造の頼みでも、丁寧に応対した。
ラングレーが退室し、一人きりになったリチャードは、溜息をついて机の引き出しを開けた。そこには、強化手術を受ける予定の、少年少女の資料。リチャードはその中の、第10ターム被験者名簿を開いた。そして、彼らの写真を、順に指でなぞる。
「……許してくれ……」
そう言って、一番下の少女の写真で手を止めた。少女は、その曇りのない青い相貌で、リチャードを見つめていた。