複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.63 )
日時: 2015/07/11 21:51
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)




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 しばらくたって、第9タームのドミニクという少年が帰ってきた。さらっとしたブロンドの髪で、クィンシーほどでないにせよ身体が小さく、細身な少年。濃紫の垂れた目が特徴的な、気の弱いヤツだ。

 彼は周りに嫌われることを恐れ、マーガレットのいじめにも加担していた。そのためジュリアンは、このドミニクがあまり好きではない。

 二人きりでいることに気まずさを感じていたころ、第10タームのパトリシアが帰ってきた。ジュリアンやドミニクは完全な回復に3週間以上かかったのに対し、パトリシアは手術後2週間半で帰ってきた。

 彼女が異常なのだ。ジュリアンはそう自分に言い聞かせた。

———大丈夫、マーガレットは必ず帰ってくる。

 しかし、5週間たっても、マーガレットは帰ってこなかった。さすがのジュリアンも、動揺を隠せなくなってきた。

「あんなクズ、手術に耐えられた訳がないわ」

 ある日、パトリシアは鼻で笑ってそう言った。ドミニクは、彼女の横で震えている。

「何だと?」

 ジュリアンの眼は、豹のような鋭さを持ち、静かにパトリシアを睨みつけている。

「分かり切っていたことでしょ?あの子は実技48位よ。ここにいるドミニクですら16位。順位が半分以下のマーガレットが、生き残れるはずがないわ」

 ジュリアンはその言葉に激高し、パトリシアの胸倉をつかむ。この時ジュリアンは、レディーファーストなどという都合のいい言葉を、すっかり忘れているようだった。ドミニクが端で縮こまっていた時……

「ただいま〜」

 明るい、能天気な少女の声がした。3人は、信じられないもの者を見るような眼で、声のした方を振り向いた。

 そこには、アマデウスと、彼に連れられてきたマーガレットが立っていた。なぜか彼女は、左腕を首からつりさげている。

「なんで……生きているんだ……?」

 さっきと主張が間逆のジュリアンに、他の二人は心の中でツッコミを入れた。しかし、妙である。なぜ、今頃になって……

「あ、遅れたことには深い訳が……」

 あさっての方向を向くマーガレットに対し、アマデウスはあきれたように溜息をついた。

「何が『深い訳』だ。リハビリ中、階段を踏み外して左腕を骨折して、そのまま入院が長引いただけだろうが……」

「ちょっと、教官!!」

 マーガレットが、怒った表情でアマデウスを見上げている。いつものようにドジをこいて、いつものようにみんなに笑われて……

「ははは……」

 ジュリアンの口から、笑い声が漏れた。パトリシアとドミニクは、また驚いた顔をしてジュリアンを見つめる。それもそのはずだ。いつもは他の者がマーガレットのことを笑うと、彼が必ず喝を入れていたのだから。

「ちょ、ジュリアン、ひどい!!」

 マーガレットは顔を赤らめてジュリアンに詰め寄る。その様子を見て、アマデウスは微笑を浮かべた。いつもの厳しい顔つきではなく、優しい笑顔だった。

 ハーリド討伐計画第一段階 生存者 4/50