複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.64 )
日時: 2015/08/16 16:56
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)




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強化手術から3ヶ月後、成功体の4人は初任務に就くことになった。

指令内容は『アダーラ』ベルベラ基地での殲滅任務。ベルベラ基地は、アデン湾岸に位置する基地だが、その規模は小さい。

「本作戦は、お前たちの強化手術による戦闘能力の伸びを測るものだ。任務のレベルとしては、アルビオン一個小隊で片の付く低レベルなもの。とはいえ、油断は禁物だ。心してかかれ」

「は!」

4人は敬礼をして、アマデウスの指示を受け取った。軍人らしく成長した4人に、アマデウスの顔はついほころんだ。しかし、すぐに顔を引き締め、次の指令を出す。

アマデウスは、机の引き出しから4枚の用紙を取りだした。順に、パトリシア、ドミニク、ジュリアン、そしてマーガレットに渡す。

「今から、ベルベラの地図を配る。全員、この地図を暗記して任務に臨め」

「は!」

先ほどと同じ、威勢の良い返事。アマデウスは、微笑を浮かべて力強くうなずいた。……若干一人、うろたえている者もいたが……

「……さっきから地図を逆さにしたり、戻したり。いったいどうしたのよ?」

呆れた顔で、パトリシアがマーガレットの顔を覗き込んでくる。マーガレットは散々考えた末、自分一人では理解できないとの結論に至ったようだ。

「……教官、この線は等高線ですか?」

マーガレットが指さしているのは、明らかに公道の表記。他の4人は言葉を失っていた。

「……本気で言っているのか、マーガレット?」

ジュリアンも、いつものように庇おうとはせず、冷たい視線を向けている。

その様子を見て、アマデウスは思い出した。地図の読み取り能力は、座学の評価に含まれない。マーガレットは実技48位。壊滅的戦闘能力・任務遂行能力の持ち主であった。

「まさか、お前にこんな落とし穴があったとはな……しかたあるまい、ジュリアンがマーガレットに、地図の見方をたたき込め」

「え?あ……はいっ!」

一瞬のジュリアンの動揺。アマデウスは怪訝な表情で、ジュリアンを見つめ直す。しかしジュリアンは、平然とした表情に戻っていた。

後の話によれば、この時からアマデウスは見抜いていたようだ。ジュリアンが平静を取りつくろう後ろに隠した、その想いを。



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「……わかるか、これが広場で……」

「じゃあ、こっちが島?」

「海図と陸図の区別をつけろ。それはムスクという礼拝堂だ」

ジュリアンは、窓の外が暗くなるまで、根気強くマーガレットに地図の見方をたたき込んでいた。

女性は地図が読めないという迷信があるが、それにしては限度があるだろうとジュリアンは思った。海兵らしく海図から教えたところ、今度は混乱して陸図が読めないという状況だ。救いがない。

就寝時間が近くなってきた。

「……よし、ここまでにしておこう。教官には、お前に単独行動をさせないように頼んでおくよ」

「う……ごめんなさい……」

とうとうジュリアンは、マーガレットに地図をたたき込むことを諦めたらしかった。こんなにも頑張って教えてくれたジュリアンに対し、マーガレットは申し訳ない気持ちになる。

マーガレットが落ち込んでいるその様子を見て、ジュリアンは彼女の髪を優しくなでた。驚いてマーガレットが顔を上げると……

「に……任務までに体調を整えておけよっ」

ジュリアンは顔を反らし、そしてそそくさと帰って行った。