複雑・ファジー小説

第10章 セージside ( No.104 )
日時: 2015/04/23 19:34
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

勉強を教えてもらう教師ができ、仕事も大体の方向性が決まった。
俺はマカロンのレシピをレイズさんに教えた。
俺はまた新しいお菓子を考えればいいんだよ。
レイズさんは日本のことを聞きたがる。話題はありとあらゆる分野だ。
俺の話の中に商売のヒントがあるのだと。俺が少し話をして、お金を貰えるなら簡単なお仕事だ。

用事がない時間に、マカロンを作っている。それをレイズさんに納品する日々だった。
マカロン50個あたりで銀貨1枚もらう契約だ。
勉強してわかったことだが金貨1枚の価値は平民の年収ぐらいらしい。
銀貨を100枚集めると、金貨1枚と同じ価値だ。
毎日作ったら俺は平民の3倍年収があることになる。
噂によると、一部の富裕層が殺到しており、高値で取り引きされているようだ。
そんなに価値があるものなのか?メレンゲとアンヌの粉を混ぜて焼いただけだぞ。
まあ、すでに大金持ちの俺には金はいらない。あいつらにはいつも頑張ってるから給料としてやるつもりだ。
困るのはメレンゲの泡立てすぎで手首が少し痛いことと、卵黄が大量に余ることかな。
今はルチカがオムレツ作ってるけど、この卵黄で何か新商品作ってみようかな。
防腐の魔法があるらしいので、それをマスターすれば、料理の幅が広がるだろう。

昨日はレイズさんから紹介してもらった建築会社と契約した。
現場監督はリリナ・ハッツガグという建築会社の御曹司。現場経験は初めてだという。おい、大丈夫なのか?
初めて顔合わせしたんだが、少し長めの金髪に栗色のつり目で女の子と間違えそうだった。
「僕の名前はリリナだ。 少女でもなければガキでもない! れっきとしたハッツガグ建築組合の跡取りだっ!」
いきなり偉そうだな・・・・・・。
誰も性別のことは聞いてないよ・・・・・・。
きっと見た目がコンプレックスなんだろうな。そのような話題に触れないように気をつけよう。
「田村聖司と申します。よろしくお願いいたします」
俺は立ち上がって名刺を渡す。
「ふ、ふん。話は聞いている」
リリナは少し驚いたようだが、おずおずと名刺を受けとる。
俺の名刺はリードマン特性だ。
ルチカお茶とマカロンを持って部屋に入ってきた。
「し、失礼、します・・・・・・」
大丈夫か。ちょっと危なっかしいぞ。こけるなよ。
相手は人間で、しかも俺の今までの知り合いと違うタイプだから緊張してるんだろうな。
手が震えていたが、お茶は溢さずに出すことができた。
リリナは出されたものに口をつけようとしない。獣人が出したものは食べないってか?
まあ、俺が少数派でこういう人間が大多数なんだろうな。

リリナから獣人小屋の改築の説明を受けた。
さすが跡取り。初めてにしてはなかなかしっかりしている。
元獣人小屋を厨房に改築したら事業は本格的に始まる。それに間に合うように俺も色々準備をしなければ。
契約の前に俺はリリナにある条件を出した。
「獣人たちに暴力を振るわない。これを約束できないのなら、いかなる場合であっても契約を解除します」
「そんなっ・・・・・・反乱が起こったらどうするのだ」
リリナは驚いているようだが、当たり前だ。
人間同士でもそんなことあったらパワハラどころか犯罪だ。
俺は冷たく答えた。
「申し訳ありませんが、私もお答えしかねます。ここにいる獣人たちに影響を与えますので、できる限りお願いします」
リリナは唇を噛み締めて少し考えてから、承諾をした。
逃げ出すかと思ったけど、その根性は認めよう。
俺は彼に契約書をサインさせた。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.105 )
日時: 2015/04/23 20:18
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

セージくんもなかなか強情ですね!そしてリリナくんという男の娘が登場しましたね。今のところあまりセージはエリックの事に関しては何とも思っていないようですが、これから何か彼について明かされるかもしれませんので、楽しみにしています!

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.106 )
日時: 2015/04/23 23:11
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

子供であれ容赦はしないセージ殿です。
自分の理想のためなら曲げません
セージにとってのエリック様は「え、、、なに!?この人」みたいに思っています。

裏の方はあす更新の予定です

第10章 セージside ( No.107 )
日時: 2015/04/24 21:03
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

エリックさんは貴族だが、獣人に優しくていい人だった。
教えかたもとても上手くて、俺はどんどう覚えた。簡単な文なら読めるようになったほどだ。
・・・・・・時々怖いときがあるが。貞操的な意味で。
「手首が痛いのですか」
急に手を重ねられる。エリックさん、目が怖い。
「痛いのなら、いつでも言いなさい。どこでも癒してあげましょう」
そういって、治療の魔法をかけてくれた。
愛の言葉よりも日常会話やマナーを勉強したいんだけど。
そこはミシェル君がなんとかしてくれるよね?ミシェル君とたたならぬ関係っぽいけど。
嗜好さえ問題なければ完璧なんだけどなあ。

神からもらった魔術の本を翻訳してもらい、スマホの充電の魔術をマスターすることができた。
これで心置きなくスマホが使える。バッテリー切れのストレスから解放された。

勉強していると、いろんなことがわかってきた。
ここはクレイリア王国。この世界で一番豊かな国だ。一番豊かでもあんな感じだけどな。
ルテティア帝国はクレイリアより弱国。最近は領地を巡って小競り合いが起こっているらしい。
このまま戦争が起こるのではと思われている。
獣人の国はたくさんあるが、1つ1つが小さい。森や砂漠に位置する国もある。小さな国が集まって同盟を作るそうだ。
しかし、今は存在しているだけでほとんどが占拠されてしまっている。
なんとなく懐かしい気がするのは前世のせいなのかな。
ところで、離れたところになんか島があるんだけど無人島なのかな?名前もないみたいだし。

ルチカとサイトはミシェルという狐みたいな獣人に文字を教えてもらいながら仲良くなったようだ。
二人に文字を優しく丁寧に教えている。

軍の人たちは二回目から獣人と一緒にいたほうが警戒されないと思ったのか連れてくるようになった。連れてくるのは主にマーティやネスカだ。
マーティは人当たりがいいやつだし、ネスカはツンツンしているが悪い奴じゃない。
捕まった時に仲良くなったのもあって、あいつらも打ち解けることができた。
あいつら見てると、楽しそうだな。
ルチカとサイトに年の近い友達ができたらと思っていたので、俺としては非常に嬉しい限りだ。
あいつらだけで遊ばせてやりたいな。どこかでのびのびと。
そういえばこの世界の娯楽ってなんだろう。

軍の人たちは特になにもしてこない。たまに「元気でしたか?」など少し会話を交わす程度だ。
やっぱり人間なんだな。軍人の仕事になると偉そうなやつばかりだけど、普通に話せばいいやつばかりだ。
観察っても本当に様子を見に来たって感じだな。
あいつらにマカロンやるとすげぇ喜ぶ。
もしかしてマカロン目当てに来てるんじゃね?高値で取引されているらしいし。
ところでなんで花束を持ってくる奴がいるんだ?確かに礼儀として正しいんだけど、食えるものが欲しい・・・・・・。

なにもかも怖いぐらい順調に事が進んでいる。
足下すくわれないようにしないとな。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.108 )
日時: 2015/04/25 06:07
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

ようやくセージくんのエリックに対する感情が明らかにされましたね。
いろいろな意味で怖がっているみたいですが、彼なら大丈夫でしょう。
裏の方も読んできました。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.109 )
日時: 2015/04/25 12:55
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

モンブランさん
ありがとうございます
実はここまでが10章の前座!です
今日はルチカちゃんデーになりそうです

第10章 セージside ( No.110 )
日時: 2015/04/25 12:58
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

それは、ルチカの一言から事件は始まった。
「セージ様・・・・・・今日、一緒にお風呂に入ってもよろしいでしょうか」
え、今何言った?
鼻水が出た。
一緒に風呂に入るの?俺が?女の子と?なんで?
頭の中が混乱した。
ルチカの目を見ると、冗談で言っているわけではないとわかる。
俺は咳払いを1つした。
「エー、コホン。ルチカ。
俺は健全な男だ。ルチカは思春期の女の子だよな。
そんな二人が裸で同じ空間でいたら何か間違いがあるのかもしれん」
ルチカが驚いた顔をする。
「ま、間違いですか!?セージ様にも間違いがあるのですか!?」
何か勘違いしてやがるな。
サイトもだが俺を完全無欠な人間として見ているところ、やめてほしいな。
俺は混乱した頭を抱えながら説明をする。
「俺も人間だ。間違いがあって当たり前だ。
その・・・・・・俺がハッスルして、ルチカに・・・・・・えっとイタズラするかもしれない」
ルチカは意味がわからなかったのか、首を傾げている。
ごめん、言ってる俺が一番恥ずかしい。
これ以上恥をかかせるな。
俺の頭の中でルチカに対する欲望があんなことこんなこと次々と思い浮かぶ。

そりゃもう男としてこんな可愛い子とやりたいよ!
しかし大人として理性を保たなければならない。

ルチカは泣きそうな顔になりながら「わかりました・・・・・・ワガママ言ってごめんなさい」と言って、耳がシューンと折れていく。
俺、悪いことしたみたいで心が痛む。
欲望に勝ったのに。
ルチカに「嫌ってるわけじゃないからな!」と頭をワシャワシャ撫でた。
それでもルチカは俯いたままだ。
ごめんな、ルチカ。5才ぐらいの女の子ならいいんだけどな。
もしかして俺は男として見られていないのか?だとしたらちょっとショックだな・・・・・・。

そして、ルチカはサイトのほうへ行ってしまう。
「サイト・・・・・・。今日ね、一緒にお風呂に入ってもいい?」
なんでやねーん!!
俺の中の理性と欲望の戦いはなんだったんだ!
サイトも「いいよ」じゃねぇよ!

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.111 )
日時: 2015/04/25 19:01
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

普段ルチカは誰かと一緒に風呂に入ろうとしない。
何か様子がおかしいと思い、理由を聞いてみることにした。
「家に・・・・・・なにかいるんです」
泣きそうな顔して言う。
ルチカによると、風呂に入っているときや就寝のときに物音が聞こえるらしい。
一人になると、物音が気になって不安になってしまうようだ。
「俺とかサイトとかとじゃないの?」
「セージ様の音とは違うんです」
ルチカは耳がいい。俺が外にいても足音で聞き分けるほどだ。
なら誰か侵入者がいるってことか?
「わかった。家の中見回りとかいつもより厳重にやっとくよ」
気にしすぎかもしれないが、放置していたらセキュリティ上の問題があるだろう。
この先トラブルを防止するためにも原因を解明するべきだ。
ルチカは涙を浮かべながらこんなことを言い出した。
「スライムとかいたらどうしよう・・・・・・」
スライム?ゲームにでてくるあの青い水滴みたいな奴?そんなのこの世界にいるのか?
「スライム?見たら潰しておくよ」
ゲームだと序盤に出てくるザコキャラのポジションだよな。俺、赤い帽子の髭親父のゲーム会社派だからやったことはないけど。
最初の敵だから、多分素人でも倒せるはずだ。
すると、ルチカの顔が真っ青になる。サイトまで同じような表情だ。
「旦那、スライムは危険ですぜ・・・・・・。舐めてたら死にますぜ」
え、俺の知ってるスライムと違うの?
スマホで調べてみると、こっちの世界のスライムは猛毒を持っており、触わるとその手が腐り落ちてしまう。
最悪の場合死んでしまう。
街に出現したら避難命令など騒ぎになる。
ごめん。俺、スライム舐めてたわ。
そんなのが家にいたらこえぇよ。

第10章 セージside ( No.112 )
日時: 2015/04/26 11:55
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ルチカが風呂に入っている間、俺とサイトは家の中を見回りする。
物音は夕飯を食べ終わってからよく聞こえるらしい。
もし就寝時間になって「一緒に寝てもいいですか?」なんて言われたらどう反応したらいいかわからない。
物音が気になって眠れなかったら可哀想だしな。

スライムはブルーベリー色をしていて、鉄も砕く牙を持っているのが特徴だ。
剣などの武器は効かない。
火に弱いらしく、火の魔法で焼却するのが一般的だそうだ。
火の魔法はマカロン焼くときに使うやつの応用でいいか。

「旦那〜。気をつけてくださいよ〜」
俺とサイトはランプを持って歩いている。
スライムを見つけたらランプを投げればいいのだが・・・・・・
うっかり火事になってしまったら困る。
中古だけど、まだこの家に住んで1ヶ月も経っていないんだぞ。燃やしてたまるか。
二人で一組になって部屋の中を歩いたが、スライムどころか虫一匹みつからない。
日々の掃除の賜物だ。
残りは俺の部屋だ。パッと見なにもいなさそうだ。
ルチカの勘違いだろうな。
俺は呟いた。
「隠し部屋とかあったりしてな」
「隠し部屋ってなんですか」
俺はサイトに説明する。
「昔な、偉い人が侵入してきた敵から逃げたり隠れたりするときに使う部屋だよ」
この世界にあるかはわからないけどな。
もう何もいないだろうと思って、俺の心は完全に緩んでいた。
俺は近くにある備え付けのクローゼットの扉を開けた。
「扉はわかりにくいところに隠してあるんだよ。例えば・・・・・・」
いいかけて、俺は言葉を失った。
クローゼットの奥に扉がある。
まさかの隠し部屋だ。
今まで全然気づかなかったよ。
俺は無言でサイトと見合わせ、扉を静かに開ける。

「うわっ」
俺は後ろへ飛び退く。
開けると、ナイフが飛び出てきたからだ。
「旦那っ!・・・・・・お前!」
サイトはタンスに頭突きする。
サイトの頭蓋骨は固く、タンスはボロボロになった。
ああ、タンスが・・・・・・俺、あのタンスの彫刻気に入ってたのに。
サイトの頭突きに驚いて、人影は腰を抜かしていた。
よく見ると子供じゃないか。小学生ぐらいか?
金髪に近い薄い茶髪は外にピンピン跳ねており、気の強そうなつり目はこちらを睨んでいる。
「覚悟しろ!!」
サイトは小学生に掴みかかる。
「痛ぇ!離せ、離せよぉー!」
小学生は手足を振り回して抵抗した。当然だがサイトはびくともしない。
俺は彼のナイフを持っている方の手首を掴んだ。
「無駄な抵抗はするな。刃物をよこせ。そんなもの振り回してると危ないぞ」
小学生は息を飲んで俺のほうをみた。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.113 )
日時: 2015/04/26 18:15
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

隠し部屋にいたのは10才ぐらいの人間の少年だった。ひどく痩せていて、服も汚れている。
名前や動機を聞いても答えてくれない。
仕方ないので、彼を倉庫に一晩閉じ込めることにした。
「すまないな。答えてくれないからこうするしかないんだ。食べ物は明日用意するよ」
少年は何も返事をしなかった。

隠し部屋は2畳ほどあった。
あの家にこんな部屋があったとは気づかなかった。
この部屋に外に繋がる通路もないんだが、少年は食事とかどうしていたんだろうか。

ルチカに物音の犯人は人間の子供だったことを報告した。
「そうだったのですね・・・・・・セージ様は怪我はありませんか?」
「すぐに避けたから大丈夫だよ」
あの子は明日にでも第3部隊に引き渡そう。
心が痛むが、そうしなければならない。
あんな小さな子供でも犯罪に手を染めるなんて考えられないことだった。
犯罪に手を出さないと生活できないんだろうな。

翌日、あの少年の部屋にも朝食を置いてやる。
午前中に詰め所に連れていくつもりだ。
俺は身仕度をして、少年に「ごめんな」と言って手枷をはめる。
武器を持っていたからいつ抵抗されるかわからない。
この俺がこんなものを使う日が来るなんてな。しかも獣人じゃなくて人間の子供に。

第3部隊の連中は俺の突然の来訪に驚いているようだ。
いつも事前に連絡いれてるからな。
真っ先に話しかけてきたのはネスカだ。
「あんたとその汚ならしいガキの臭いがしたから出迎えてやったなのよ。その子となにかあったの?」と出迎えてくれた。

俺は彼らに事の成り行きを説明した。
アーノルドは複雑な顔をして頷く。
「ふむ。その子はベイン盗賊団の一員かもしれないな」
ベイン盗賊団とは、最近軍を悩ませているこの町を拠点とする盗賊の集団である。
王の親族の持ち物を盗み、そのおかげで第3部隊を始めとする多くの部隊はその捜索に駆り出されていた。
「助かったよ。なかなかやつらの拠点が見つからなくて、うちの隊長は機嫌が悪かったんだ」
と、アーノルドは少年の肩をを乱暴に掴み、マーティに引き渡した。
「なあ、その子どうするんだ」
その様子が不穏に感じ、思わず聞いてしまった。
マーティは眉1つ変えずに答えた。
「これから尋問するんだよ。拷問の準備をしなくちゃね。なにがいいと思う?」
穏やかな顔に似合わず怖いことを言うなあ・・・・・・。
ネスカも「火炙りは定番なのよ」じゃねぇよ。
なんか子供がそんなことされるってわかってて、俺は見てるだけって心が痛い。
マーティもネスカも未成年のはずだ。なんで簡単に拷問とか言えるんだよ。
過酷な環境で育っていたら当たり前になるのかな。
なんだろう。前の俺はもっとドライだったような気がするが。
「いい方法があるよ」
俺は思わずアーノルドさんにあることを提案した。
変わっていようがなんでもいい。
ただ黙っているだけの自分が嫌なだけだ。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.114 )
日時: 2015/04/27 19:29
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

俺は少年に金貨を1枚渡した。
「君はまだ子供だから釈放するんだってさ。よかったな。もうあんなことするなよ。
昨日何も食べていないから、おなか空いただろう。これでなんでも食べろよ」
少年は目を丸くして金貨を受けとる。そして、ポケットの中に入れた。

よし、特に疑わなかったな。

少年はお辞儀もせず、俺たちから背を向けて歩きだした。
時間が経って、俺たちは少年の後をつける。ネスカがいるから臭いですぐにわかる。

少年に釈放して、金を渡せば必ず目的地に向かうはずだ。
そこには少年の仲間が必ずいるはずだと思った。
うまくいけば、少年を尋問する手間をかける必要もなく、芋づる式に摘発できる。
異邦人である俺の提案を受け入れてくれるか疑問だったが、アーノルドさんが賛成してくれた。

少年は何も買わず、ひたすら歩いている。人気のない裏の路地に入っていく。
そして、ある一軒の前に止まる。ここがアジトのようだ。少年は扉を叩いた。
「俺だ。開けてくれ」
少年がいうと、扉が開いた。中から柄の悪そうな男がでてきた。
「何をしていた、遅かったじゃないか。収穫はどうだ?」
「金貨1枚だよ」
少年はポケットから金貨1枚出す。男はにやにやした。
「ほう・・・・・・まあまあやるじゃないか。どうやって手に入れたんだよ」
「もらったんだ。黒髪の男に」
すると、さっきまでにやにやしていた男の表情は一変した。
気迫に恐れ、少年は少し後ずさる。
男は震える唇を開いた。
「もらったんだと・・・・・・。お前、はめられたんだ!」
アジトから次々と男たちが飛び出した。
俺の策略を今知った少年は金貨を握りしめて震えている。
一人の男は少年の顔を殴った。
「この役立たずが!」
一人が殴ると、2、3人もあとに続く。
その中に獣人もいた。
少年は地面にうずくまって彼らの攻撃に耐えた。
俺は第3部隊の静止を無視して、やつらの前に姿を現した。
俺はいじめをずっと見てる趣味はない。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.115 )
日時: 2015/04/28 19:50
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

男たちは俺を見ると、少年に暴力を振るうのをやめ、静止した。
「テメエが噂の金持ちか」
「俺ら、貧しいんだよ。どうかお慈悲をください」
こいつら下品だな。見ていてイライラする。
少年はすがるような目でこっちを見る。お前、辛い境遇で育ったのにこんな顔もできるんだな。
生きるために盗みをやっていたんだよな。
「俺は善人じゃない。大の大人が複数で子供に暴力を振るうようなゲスにかける慈悲はないよ」
俺が応じないとわかると、男たちは武器を構えてこちらににじりよる。
第3部隊の人たちも慌ててやつらに対峙する。つい勝手な行動をして悪かったな。
俺は鞄から木刀をだす。日本にいたとき愛読書にしていた漫画みたいだろ?
前に剣を出したことあるけど、勝手に剣自身が発光しやがったから使わないようにしている。
剣が光るとかなんか変だし、刃がついてたら重いし危ないしな。
一人の男が斧を振り下ろしてきた。俺は横へ避ける。

危ねえ、危ねえー!

こんなもの直撃したら死ぬわ!
情けないけど、もう戦意喪失。
戦いは第3部隊に任せ、俺は少年の方へ走り、救出をすることにした。

こうして、奴等は騎士団に拘束された。近くに死体が三体転がっている。
死体は全員盗賊団の人たちだった。騎士団の人たちには怪我人はいるが、死んだ人はいない。
アジトに例の盗品が発見されたらしい。これでこのアジトがベイン盗賊団のものだと確定された。
騎士団の人たちは必死になってずっと探していた物を発見し、歓喜に沸いた。

俺は勝手に行動をしたことでアーノルドさんに怒られていた。
「あなたは可憐でひ弱なんですだから!ご自分を過信するのはおやめください!」
すみません、剣道授業でやってたからって戦い舐めてました。反省してます。
でも可憐ってなんですか。俺、男ですが。
次々と盗賊団の人たちが縄で縛られ、連行されていく。
少年も例外ではない。縄にかけられそうになる。
・・・・・・こいつ、盗みをやってないとあいつらに殴られていたんだよな。やりたくてやったわけじゃないんだよな。
獣人だけじゃなくて子供もここでは扱いが酷い。
この先騎士団のところに連行されていく。このあとはどうなるかわからない。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.116 )
日時: 2015/04/29 11:38
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

俺はアーノルドさんに声をかけた。
「アーノルドさん、その少年だけは俺が引き取ってもよろしいでしょうか」
すると、アーノルドさんは厳しい顔をした。
「獣人の次は人間か。憐れにおもったのか」
確かに俺は甘いと思う。
しかし、この少年がああなったのは俺たち大人に責任があると思う。
「あなたの仰る通り、俺の我が儘です。しかし、彼らも仕事がないから犯罪に手を染めるしか道はなかったのです」
この子は何も悪いことをしていない。
この世界での子供の環境は過酷だ。弱肉強食の世界で常に脅威に晒され、生きるだけで命がけだ。
いや、直接見るわけではないが日本だっていじめや虐待がある。
俺は見て見ぬふりをして、処世術を学んできた。
大人の自分勝手な都合で弱者は強いたげられてきたんだ。
アーノルドさんはため息をついた。
「いい加減にせよ。日本とは違うのだ」
俺はこれ以上アーノルドさんに何も言わなかった。
彼らにも彼らの事情がある。
他国のことに口出しするのはあまりよくないと判断した。

そのとき、拍手が急に聞こえた。
拍手をしたのはアーノルドさんの上司であるヘンツェルさんだった。
一見すると白髪にみえるが、実は銀髪であり、実年齢は見た目よりも若い。
第3部隊の隊長で、堅物なアーノルドさんとは違って、面白味のある人物だ。
「ふむ・・・・・・では、仕事があれば犯罪が減り、結果的に治安がよくなるというのか」
「ええ、大学ではそう学びました」
戦争が終わったら、武装を解除させるために仕事を与えると聞いたことがある。
金を稼ぐ手段があれば、武器をもつ必要なんてないと感じさせる。
だから自ら進んで武器を捨てるようになる。
まあ、勉強した通りに上手くいくことなんてないけどな。
ヘンツェルさんは頷く。
「面白い。君を信じて賭けてみよう。やってみなさい。ただし、責任は全て君が持つんだよ」
「はい!!ありがとうございます!」
俺は頭を深く下げる。
ヘンツェルさんは「いや、こちらも陛下の勅命で探していたものが早く見つかって感謝してるんだよ」と笑った。

後になってアーノルドさんから聞いてわかったことなんだが、ヘンツェルさんは国王の命令で探していたものが見つかって機嫌がよかったらしい。
盗まれたものが王族の関係者のものだったため、その捜索が優先されてしまい、普段の業務が滞ってしまったことでずっと不機嫌だったらしい。
そしてベイン盗賊団から盗まれたものというのは国王の従兄弟の孫の玩具だという。

そんなん探すために業務が滞っていたら俺でもキレるわ。
ヘンツェルさん、お疲れさまでした。