複雑・ファジー小説
- 閑話休題 ( No.117 )
- 日時: 2015/04/30 21:48
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
暗闇の狭い空間からかすかな光をじっとみていた。
「ルチカ、今度スープ作ってみるか」
「私にできるのですか?」
「野菜切って煮込むだけだから簡単だよ」
時おり聞こえてくる話し声。
俺には関係ない世界だ。
俺は捨て子だ。
生まれてすぐに捨てられたから親の顔なんてわからない。
盗賊団の仲間は家族同然だ。
脅しなんてできないから盗みをしないと殴られるし、飯ももらえない。
悪いことだってわかってたけど、拾ってくれたんだから逆らえなかった。
金持ちの男から金を盗んでこいと言われた。
そいつが住んでいる館に隠し部屋を見つけたからそこに何日か住み着いた。
獣人はたったの二人。忍び込むのは簡単だった。
そしてついに俺はそいつらに見つかってしまう。
俺たちのアジトまでばれてしまい、軍隊に捕らえられてしまった。
終わった、と思った。
そのとき、あの館の主が俺を引き取りたいと頭を下げた。
なんで?俺を引き取ってどうするの?奴隷にするのか?
何か話していたようだけど、俺には理解できない。
そして、俺が引き取られることが決まった。
館の主は軍人に頭を深く下げた。
「名前は?」
男は俺に聞いたけど、俺はすぐに答えられなかった。
俺には名前がないから。
「49」
俺はこう呼ばれていた。
男は「ふぅん」とだけ言った。
それから男と館につくまで会話はない。
獣人たちは俺が戻ったことに驚いていた。
猫の獣人は俺から距離をとるし、牛の獣人は睨んでくる。
俺だって望んでここにきたわけじゃないんだぞ。
俺がいることで雰囲気がぎこちなくなってしまった。
温かい食事と風呂、そして俺の部屋が与えられた。
でも、俺は一人になってしまった。
翌日、男は俺たちにこう言った。
「昨日はビックリさせてごめんな。今日からこの少年は俺たち家族の一員になる」
家族?こいつらと?
俺はキョトンとした。
男は続ける。
「獣人だけじゃなくて、人間も悲惨な生活してる奴がいるんだな。俺はこいつを育てて仕事に就けようと思う。
難しい話かもしれないが、仕事があれば犯罪する必要なんてないだろ?そうなればこの国はよくなると思うんだ」
よくわからないけど、盗みをやらなくて済むのか?
この国はよくなるのか?
男は俺の方に向いた。
「俺の勝手な理由で申し訳ないが・・・・・・って泣いてるし」
俺はいつの間にか泣いていたらしい。男は涙を拭ってくれる。
次から次へ涙が溢れてきて、俺は生まれて初めて声をあげて泣いた。
「えー、彼が落ち着いたところで改めて紹介します。
名前聞いたけどないらしいので、俺が勝手につけました。【翼】です!」
ツバサ?変な名前。
男、いやセージはこう言った。
「俺も人間だし、お互いに差別はしないでほしいな。難しいことだけど、少しずつ慣れていこうな」
こうして、俺は暗闇の中から見ていた光景の一員になった。