複雑・ファジー小説
- 13章その前に ( No.132 )
- 日時: 2015/05/09 13:00
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
こっから13章です。
12章はもともと閑話休題扱い(話が長くなったので、12章になりました)でしたので、短かったのです。
13章はセージから見たはじめてのおつかいです。
よろしくおねがいします
- 第13章 セージside ( No.133 )
- 日時: 2015/05/09 13:03
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
皆頑張っているから、そろそろ給料をやろうと考えていた。
働いていたら報酬は当たり前。
金を貰えたらモチベーションもあがるだろうし、あいつらの自立のきっかけになるかもしれない。
俺は若いあいつらの将来を応援してやりたい。(俺も若いけど、最年長だしな)
サイトとルチカには銀貨3枚。
翼は入ってまだ日が浅いから銀貨1枚と銅貨5枚にしておいた。
本当はもっと多く渡してやりたいが、あいつらお金持つのは初めてだろうから、まずは試験的に少額からにしようと思う。
サイトは畑仕事を頑張ってくれてるし、俺のボディーガードをしてくれる。
バカだからからかうと面白い。
面倒見がいいし、年下の二人を見てくれている。
とても頼りになる。
ルチカはよく気がつく子だ。
俺が病気で寝込んでいたときも、体を拭くためのタオルを持ってきてくれたり、スープを作ってくれたりしてくれた。
勉強に一生懸命取り組んでいて、少しずつ文字の読み書きができるようになっている。
あの子は秘書に向いているんじゃないか?可愛いし。
だから今はお客さんにお茶を出したりして秘書の修行中だ。
人見知りするのが難点だな。
翼は年の割りにしっかりしている。やっぱり生い立ちが関係しているのか?
生意気な口を利くけど、ギリギリのところで一線を引いている。計算してやがるな。
でも、どっかで抜けてやがる。まだまだ子供だな。
思ったよりも早い段階で馴染んだみたいでよかった。
俺に弟ができたらこんな感じじゃないか?
仕事が見つかるまで育てるつもりだったが、いっそここで仕事を手伝ってもらえるならそれでいいと思っている。
あいつらスゲェ純粋。スれていない。俺なんかとは違って。
汚い俺のようにはならないでほしい。
まあ後はレイズさんとこに行ったり、エリックさんに魔法を教えてもらったり。
あ、俺アレルギー持ってるみたいだな。テミナってやつ。
日本ではアレルギーとかなかったけど、この世界の食べ物は違うからな。
「ルチカは優秀ですね。主人のために薬を探すなんて、思い切った決断ですね」
「ええ。でも勝手に外出したと聞いて、ヒヤヒヤしましたよ。風邪を引かないようにしないといけませんね」
エリックさんは「その通りですね」と頷く。
そして、俺の耳に近づけ、囁いた。
「ルチカにこんなに心配されて、あなたは幸せ者ですね」
俺は思わずエリックさんから顔を背けた。
皆の看病のおかげで乗り切ることができた。
この世界は非常識だらけだが、優しい人もいる。
今は右も左もわからなかったこの世界で、多くの人に支えられながら毎日それなりに賑やかな生活を送っている。
- 第13章 セージside ( No.134 )
- 日時: 2015/05/09 20:03
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
給料を渡そうと考えていることをルチカに話し、何が欲しいか聞いてみたらこんなことを言い出した。
「セージ様ともっと一緒にいたいです」
ふと、俺はなんとなく思った。
あれ?
こいつ、俺のこと好きなんじゃないか?
やめておけ、ルチカ。
年齢的にアウトだし、俺は性格が悪いから苦労するぞ。
ルチカはまだ若いし青春真っ只中だ。この先もっといい奴が見つかる。
この年代の女の子って年上の男に憧れるからなぁ。妹もそうだった。
妹なら欲しいものを聞いたら、鞄とか服とか色々言ってくる。ルチカは欲がないなぁ。少しはルチカを見習え。
まあ、一緒にいるぐらいならそんなのプライスレスだ。
市場に連れていけば、何か欲しいって気持ちがでてくるかもしれないしな。
初任給の日につれていこう。
そして、初任給の日。
今日は奴隷市場もない日だから人もそんなに多くない。
俺は皆を広場に連れていった。
「これから15分・・・・・・いや、3つの鐘がなったら、あの像に集まること。
それから一人で行動するのは危険だから、広場から出るなよ。
それまで各自自由行動、以上!解散!」
解散って学校かよ。
自分でも突っ込みどころが多いこと言ったな。
行動範囲を広場だけに限定すれば、ギリギリ全体を見渡せる。それに15分という短い時間なら危険にあうこともないだろう。
あいつらを自由に行動させてみたら、違う一面も見られるかもしれない。
ふりかえってみたら、ツバサは早速店を物色していた。さすがだな。あいつ、ルチカより猫っぽくないか。
サイトはオロオロしている。デカイから目立つぞ。
ルチカは俺に着いてきていた。
目があうと、ぴたっと止まる。
ダルマさんが転んだかよ。
俺はルチカに話しかけた。
「一緒に来るか?」
ルチカは顔をパァッと輝かせ、コクコクと頷いた。
人生初、女の子とデートだな。
日本だったら職務質問されるけど。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【おかげさまで参照1500】 ( No.135 )
- 日時: 2015/05/10 09:13
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
ルチカと手を繋いで歩く。
人が怖いみたいで、少しでも離れていると不安がるからだ。
いや、手を繋ぐぐらいで何を今更。抱き締めたことだってあるんだぞ。
まだ街にだす時期じゃなかったかな。しかし、少しは外の世界に触れるべきだろうと思った。
「好きなところ行けよ」
「はいっ!」
ルチカはアクセサリーが売っている店を選んだ。
なるほど、やっぱり女の子だな。思春期の女の子はお洒落とか気になるよな。
俺はルチカの後を着いていくだけでなにも言わない。店主も俺がいるからルチカが買い物しても口出ししなかった。
店を出る頃にはルチカの手には帽子とヘアピンを持っていた。
「可愛いな。どっちもルチカに似合うと思うぞ」
すると、ルチカは少し困ったような笑みを浮かべ、ヘアピンを俺に渡した。
これ、俺に?
ルチカは口を開いた。
「セージ様、この頃前髪を鬱陶しそうにされていましたから・・・・・・」
そういえばそうだった。
こっちに来てから1度も髪を切っていなくて、髪は伸びていた。
営業だったこともあり、髪は非常に気にしている。そろそろ切ろうかと思っていたところだ。
「ありがとう。大切にするよ」
俺は鞄から鏡を出して、早速着けてみた。
色は黒だし、小さくて目立たない。あいつなりにちゃんと考えてくれたんだな。
勉強や料理のときとか使わせてもらおう。
ルチカは帽子を被った。耳を隠すためだろうな。
初任給を他人のために使うなんて、ほとんど全額貯金に回した俺とは大違いだ。
あと5分ほどで3つの鐘が鳴る時間だ。
俺たちは一足早く待ち合わせの像に向かった。5分前行動は大事だ。
像の前にはまだ誰もいなかった。
「ルチカ。俺、ちょっと飲み物買ってくるからここで待っていてくれるか?」
ルチカは「はい」と頷いた。
近くにジュースを売っている店を見つけた。ルチカに買ってやったら喜ぶだろうか。
ヘアピンを買ってくれたお礼だ。
それに俺も喉が渇いたから。
往復で2、3分ぐらいだろう。
俺は店に急ぎ足で向かった。
- 第13章 セージside ( No.136 )
- 日時: 2015/05/10 22:38
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
ジュースを2つ買った後、サイトを見つけた。
サイトはねーちゃんと何か話している。
親しそうに見える。モテモテだな、相手は美人だし羨ましい。
しかし男女関係でトラブルになったら非常にややこしくなる。
もしかして絡まれてるのか?
あいつ、ウブそうだからすぐに騙されそうだ。
俺はサイトと目が合ったので声をかけることにした。
「こら、サイト!初任給を女遊びに使うなんて感心しないなあ。そういうのは成人してからだぞ」
サイトはビクッと震える。
別に怒っていないんだけどな。
ホントにあいつ面白いな。
後で色々聞き出してやろう。
戻ってくると、ルチカは誰かと話していた。
相手はオレンジ色の髪で、猫っぽい耳がついている。
誰だあいつ。
ルチカと同じ猫か?
何を話しているかわからないが、なんかムカムカする。
すると、奴はルチカの腕を掴んだ。ルチカは首をイヤイヤと必死にふる。
これは止めてやらないとな。
声をかけようと近づいたら、ルチカは俺に気づいたようでこっちを見た。
「セージ様」というルチカの表情は眉を八の字にしている。
「ルチカ、知り合い?」
ルチカは首を横にふる。
ナンパされてるのか。困ってるみたいだし、追っ払っておくか。
「嫌がってる女の子に強引なことはしない方がいいですよ」
奴はエメラルドグリーンの瞳で俺を睨み付けた。おお怖。
「てめぇがこいつの主人か」
「厳密にいうと少し違いますが、あなたにお答えすることではありません。その子の手を離してください」
そのとき、奴の右手が俺を手に当たった。ジュースの入ったコップが1個地面に落ちる。
「汚い人間め、こいつを解放しろ!!」
は?解放?
何言ってるんだ?こいつ
「セージ様はひどいことなんてしないわっ」
ルチカは奴の腕を振り払おうと抵抗しながら言う。
しかし奴は「君は騙されているんだ!」と言った。
ルチカの言う通り奴隷にしたつもりはないんだけどな。
話通じないのか。
俺はもう片方のジュースをベンチの上に置いた。
戦うことを避けられないかもしれない。
そのとき、憲兵たちが現れた。
助かった。俺の知り合いだ。
先頭ではネスカが走っている。
「そこで何をしている!ネスカ、いけ!」
ネスカは早速獣化した。
あいつはルチカを引っ張ろうとしたが、ルチカが抵抗したため、腕を離した。
「必ず助けに行くから!」
こんな訳のわからない言葉を残して。
怖い思いをさせてしまったな。
俺は震えているルチカを抱き寄せた。
- 第13章 セージside ( No.137 )
- 日時: 2015/05/11 19:40
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
あいつはルチカから手を離して、獣化して逃げた。
オレンジ色でデカイ猫だ。
テレビで似たようなやつを見たことがある。カラカルか?
そいつは屋根の上まで軽く飛びあがり、逃走した。
ネスカは塀に登ることができず、何度か吠えたあと、迂回した。
ネスカの姿が見えなくなったところで憲兵は説明する。
「あいつはレジスタンスの幹部ですよ。畜生、もう少しのところだったのに」
レジスタンスとは、獣人たちが組織して、人間に対抗するグループだ。
裕福な人間の屋敷や奴隷市場などに現れてテロを起こすらしい。
どこの世界にも似たような組織があるんだな。
ルチカは人間に飼われている奴隷だと思われたから話しかけられたようだ。
しかも同じ猫族だからなおさらだ。
「セージ様・・・・・・大丈夫ですか?」
ルチカに言われて気づいたが、俺は手を怪我していた。
さっきあいつの手が当たったときだろうな。
ルチカの小さな両手が傷口をハンカチで押さえてくれた。顔を見ると泣きそうだ。
きっと自分のせいで傷ついたって自責の念に駆られているんだろうな。
悪いのは俺なのに。
「一人にしてごめんな。俺の意識不足だ。ジュース買ってきたからそんな顔をしないでくれ」
ルチカは顔を上げる。
「そんな、さっき1つ・・・・・・」
俺の分はあいつに落とされてしまった。1つでも残ってよかったと思っている。
「これはルチカのために買ってきたんだ。俺のはどうでもいいからさ」
ルチカにジュースを渡す。
ルチカはおずおずと受けとって一口飲んだ。
「ありがとうございます」
そして、俺の方にコップを渡す。「くれるのか?」
ルチカはコクりと頷く。コップを持ったまま俺をジッと見つめる。
ルチカの好意だ。ありがたく頂くとしよう。
「ありがとう、一口いただこうかな」
俺はコップを受け取ってこんなことを考えた。
これって間接キスだよな・・・・・・
いや、何を考えているんだ。
中学生かよ、俺は。
邪なことを考えるんじゃない。
俺は一口飲んだ。
ああ、喉が渇いていたから助かった。
ピュアな心で考えるんだ。
これはただのジュースだよ。
俺はルチカにコップを返した。
これでルチカも飲めば間接キスだ。
俺は開き直って間接キスを期待した。
いけ!飲むんだ、ルチカ!
そのとき、翼が待ち合わせ場所にやって来た。
あと少しってところでルチカは顔を上げる。
「あ、ツバサ。ジュース飲む?セージ様が買ってくれたの」
「おう、飲む飲む」
なんでこんなタイミングで来たんだよ!
オイコラ、飲むんじゃねぇ。
ツバサは俺の方を見ると、ニヤリと笑う。
「もしかして俺、お邪魔だった?」
俺は力なく「そんなことないよ」と言うしかなかった。
邪魔じゃありませんよ・・・・・・。
ご自由にお飲み下さい。
あいつ、全部わかってやがる。
3つの鐘が鳴ってからサイトが戻ってきた。
俺はサイトに愛のタックルを食らわせた。
サイトはゴツいからビクともしなかったけど。