複雑・ファジー小説
- 第15章 セージside ( No.141 )
- 日時: 2015/05/30 01:10
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
【第15章】
俺は白い空間に立っていた。
もう慣れたよ、これ。
どうせ神だろ。
「どうせなんて酷いなあ」
やはり神が現れた。
さらに「どう?ここに慣れてきたでしょ。魔法の勉強も進んでいるようだね」と色々聞いてくる。
俺は口を開いた。
「俺がここにいるってことは何かあるんだろ。前置きはいいから簡潔に言え」
俺の機嫌を伺うような前置きがあったということは、かなり面倒な用事があるのだろう。そんな気がした。
神は「ひどいなあ、僕は神なのに」と小声で言ってから説明を始めた。
「非常に申し訳ないんだけど、僕がウッカリして一人こっちの世界に送っちゃったんだよね」
はぁ!?どれだけいい加減なんだよ!
お前のウッカリで人が消えたら大事だぞ!
・・・・・・と言いたいんだが、あまりにも呆れて言葉にできない。
しかし、神は俺の心を読めるようで「ほんとにごめんねぇ」と言う。
両手を合わせて首を傾けるぶりっ子みたいな動作から反省しているのか疑わしいが。
可愛いと思っているのか?
「悪いんだけど、その人を見つけてくれる?日本人だから言葉は通じないってことはないから安心してね」
なんという面倒事を押し付けるんだ・・・・・・。
俺はそのときふとあることが疑問に思った。
「なあ。俺がそんなことしなくても、あんただけでできるだろ。神なんだろ」
すると神は苦笑いした。
「僕ねぇ、これから沖縄へ旅行なんだよねぇ」
「はぁっ!?私用を優先するのか!?」
あり得ない、この人。
『神は死んだ』と言った哲学者の気持ちもなんかわかるわ。
「神だってね、休日は必要なんだよ。帰ったらその人を元の場所に戻すから」
ふざけるな。日本は休日返上して働いている奴もいるんだよ。
可愛そうだな。ウッカリで飛ばされちゃった人。
俺は神からその人について詳しい説明を聞いていない。
てがかりがないため、探しようがなかった。
- 第15章 セージside ( No.142 )
- 日時: 2015/05/30 01:12
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
目が覚めたときには俺の部屋だった。
ほらやっぱりな。
あの神はいつも肝心な説明をしないんだよ。
性別さえ聞いていないぞ。
外見やどこにいるのかわからなかったら探しようがないだろ。
まあいいや。
元々あいつのミスだし、俺が探す必要はない。
俺も自分のことで手一杯。
マカロン事業が本格的に進んで、色々考えないといけないことがあるんだよ。
飛ばされちゃった人は可愛そうだけど、あの神が沖縄旅行から帰ってくるのを待ってもらおう。
しかし、もう7時か。
俺もそろそろ起きよう。
ベッドから起きて、トイレに行こうと扉を開けると、そこにはルチカが立っていた。
「ルチカ、おはよう。どうしたんだ」
珍しいな、俺より早く起きるなんて。
しかし不安そうな顔で枕をぎゅっと強く抱いていて、様子がおかしい。
「庭に何かいるんです・・・・・・。たくさん」
たくさん?
ツバサの時みたいに泥棒かもしれないし、見に行ってみるか。
ルチカによると、家畜小屋にいるらしい。
サイトも呼んで、そちらに向かった。
そういえばあの小屋使ってなかったな。何か飼おうか考えていたけれど。
扉を開けると、まず強い酒の臭いが鼻腔をくすぐった。
中には5人。獣人もいる。
皆床で眠っていた。
酔っぱらいなのか?
朝から面倒臭いな。
サイトに手伝ってもらって力ずくでも追い出すか。
「オイコラ、起きろ」
声を低くして相手を威圧する。
「なんだよぉ、人が気持ちよく寝てたのによぉぉ」
茶髪の男は文句をいったが、それはこっちがいいたい。
5人はノロノロと体を起こした。
俺は続ける。
「ここは俺の敷地内だ。どんな事情があったのか知らないが、今すぐ出ていけ」
茶髪でがっしりした体型の男がいう。
「黒い髪・・・・・・お前がセージか?会わせたいやつがいるんだよ」
しゃべるごとに酒臭いな。
初対面で馴れ馴れしすぎるだろ。
そのとき、変わった服装の女が目についた。
ストライプ柄のフレアスカート、水色のカーディガン。まるで日本人の服装じゃないか。
ん?日本人?
まさかあの【神】が言ってたやつか?
女も俺を見ている。
「セージって田村聖司?」
あ、久しぶりにフルネームで呼ばれた。
俺は返事した。
「はい、俺が田村です」
「あんたそこにいたの!?」
すみません、どちら様でしょうか。
俺はすっかりこっちの世界に馴染んでいた。
- 第15章 セージside ( No.143 )
- 日時: 2015/05/28 21:24
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
女性は伊藤美奈子といった。
あ、名前聞いて思い出した。この人総務の人だ。
部署が違うからあまり会うことはなかったけど、綺麗だし仕事できるから、色んな人に慕われていたな。
将来お局様になりそうな感じの人だけど。
神がウッカリ送っちゃった人がまさか俺が知っているだとは思わなかった。
俺は伊藤さんに事情をある程度伝えた。
ここは日本ではなくて、常識が通じない世界であることを。
獣人という人種がいて、同居して生活していたこと。
そして、迎えが来るまで伊藤さんはここで暮らしてもらうことを伝えた。
敢えて伊藤さんを異世界に送ったのは神であるということは言わなかった。
そんなこと言ったら端から見たらヤバい人じゃん、俺。
この世界に送った張本人は沖縄で旅行してるなんて言ったらキレるだろうなあ。
伊藤さんは数日すれば帰れるということを聞いて少しホッとしたようだ。
「本当に帰れるのね?帰れないと困るし・・・・・・ところであなたは帰れないのですか?」
さっきから敬語とタメ混ざっているのはどっち使ったらいいのか迷っているんだろうなあ。
俺のほうが年下だから余計に。
別に会社じゃないからどっちでもいいんだけど。
おそらく俺は帰れないだろう。なんか目的あるみたいだし。
会社のほうはどうなっているか不安だったので、聞いてみた。
伊藤さんの話によると、会社で俺の仕事は先輩が上手いこと引き継いでくれたようだ。
しかし、俺がいなくなってしばらくパニックだったらしい。
皆様に申し訳ない。
「俺はわかりません。ご迷惑おかけしてすみませんが、退職は自己都合ってことにしてください」
帰るつもりはない。
俺にはここでやるべきことがある。ルチカたちを放っておけないから。
「わかったわ」
この人仕事の処理は確実だから、頼りになる。なんとかごまかしてくれるだろう。
ふと、俺は気になっていることがあった。会社の携帯電話、ずっと持ったままだ。
「・・・会社の携帯は返したほうがいいですか?」
「私が持ってると面倒なことになりそうだから、あなたが持っていてください。なんだか勿体ないわね。あなた4月には主任に昇進する予定だったのよ」
と伊藤さんはいった。
今はじめて知った。俺、あのままだと主任になるのか・・・・・・。
ちょっとデカイ魚を逃がしたような気がする。まだあの会社に未練が少しあるんだろうか。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【おかげさまで参照1800】 ( No.144 )
- 日時: 2015/06/26 23:38
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
「あのー・・・・・・お取り込み中失礼します。お二人さんって知り合い?」
そういって割り込んできたのは酒臭い茶髪のガチムチ兄ちゃん。
「そうですけど。あなたは?」
「俺はフォルドだ、よろしくな!・・・・・・で頼みがあるんだが、今、手持ちの金がないんだ。お友達助けてやっただろ?だから少しの間泊めてくれないか、頼む」
「知人がお世話になりました。
お金ならいくらか渡しますので、用が済んだら出ていってください」
俺はできるだけ機械的に言った。
こんなやつらを泊めてやる必要はない。簡単に信用するのは何があるかわからないし危険だ。
フォルドは「なんだよ、冷たいな」と肩を落とした。
「ルチカちゃん、また会ったわね。最近どう?」
白っぽい狼の女性はルチカに話しかける。
ルチカはペコッと頭を下げた。
ん?なんでルチカの名前知ってるんだ。
人見知りするから、俺がいないところで誰かと親しくなることはないはずだ。
「ルチカ、知ってる人?」
「あ、えっと・・・・・・セージ様が病気で寝込んでいた時に一緒に薬草を探してくれたんです」
あぁ、そういえばルチカと翼が勝手に外出していたときがあったな。そのときに会ったのか。
この狼の女性はセシリーさんというらしい。
他のちゃらんぽらんなメンバーよりは話が通じそうだ。
他の二人もルチカに紹介してもらった。
猿っぽい顔で曲芸師ののサルベグサさんと、七三分けの従者のトラブルさん。
よし、個性的なメンバーだから顔も覚えた。
フォルドさんは「ルチカちゃん、お願い!」と頭を下げている。
女の子に頭下げるって恥とかないのか・・・・・・。
ルチカが困ったような顔をしてこっちを見ている。
こら、そんな顔をするんじゃない。
この顔に弱いんだよな・・・・・・。
ルチカを使って卑怯者め。
まあ、伊藤さんを連れてきたのとルチカが世話になったから・・・・・・義理で一晩ならいいかな。
悪い人たちじゃなさそうだし。
俺は彼らに一晩だけならならいいと伝えた。
一晩だけならいいだろ。
すると、フォルドは肩を寄せてこう言う。
「兄ちゃん、あの獣人に惚れてるな?可愛いもんな」
近づいたから酒くさい息がかかる。
前言撤回してもいいかな?
- 第15章 セージside ( No.145 )
- 日時: 2015/05/18 20:57
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
一晩だけなら泊めてやってもいいと伝えたら、四人とも喜んだ。
トラブルさんは言う。
「助かったよ、ありがとう。先日憲兵に捕まった時、金品を没収されてしまって、どうしようかと・・・・・・」
こいつら犯罪者かよ!
捕まった原因は喧嘩だという。
チンピラ集団なんだな。
それならなおさらだ。明日になったら金を積んでさっさと出ていってもらおう。
伊藤さんたちは2階の空いてる部屋の2つを使ってもらおうと考えた。
個室なんて与えられるかよ。
そのためには掃除と家具運びだ。早速5人にしてもらう。
二日酔いだと?知るか。
セシリーさんを除いてブツブツ文句を言ってるが・・・・・・。
不法侵入を見逃して、おまけにタダで飯を食わせてやるだけでもありがたく思え。
勿論伊藤さんも例外ではなく、手伝ってもらう。女性たちには掃除をしてもらう。
「なんで私まで・・・・・・客なのよ」
「無断で敷地内に入る酔っぱらいは客とは呼びません」
見かねたのかサイトが家具を運ぶのを手伝いだした。
ルチカまで掃除を手伝っている。
お前らまでしなくていいよ、そんなこと。
まだ朝ごはんも食べていないのに。
伊藤さんが使う部屋の扉が開いた。
そこには翼がいた。今起きたのだろう。
「なんかすげえ音してるんだけど・・・・・・なに?」
すると、フォルドが運んでいたベッドを放棄して、翼に駆け寄った。
「ツ・・・・・・なんとか君!君の主人は重労働させるんだけど、倫理観はどうなってるの!?」
うるせぇ。不法侵入者に言われたくねぇよ。
そんなことより今ので一緒にベッドを運んでいたトラブルさんが大変なことになってるぞ。
翼は口を開いた。
「ツバサだよ。セージは細かいし冷たいし大人げないしそういうやつだよ」
翼くん、君は俺のことをそう思ってたんだね・・・・・・。
「君までそんな冷たいこと言うの!?」
「うるせぇ。セージ、腹へった。メシ」
またうるさいやつが増えたな・・・・・・。
女性たちをちらっと見ると、井戸端会議みたいなことをしている。女性ってすごいな。
伊藤さんが俺の悪口言ってるような気がするけど。
セシリーさんは美人だな。こんな汚いチンピラ集団にいて苦労するだろうな。
そういえば俺も腹へった。空腹だから余計にイライラしてるんだろうな。
俺は口を開いた。
「よし、ツバサ。牛乳飲んだら手伝うぞ」
「はぁ!?なんでおれまで!」
皆がやってるのに、俺だけ優雅に食べてるってできないだろ。
あと、酒くさいからこいつら風呂に入れてやりたい。
- 第15章 セージside ( No.146 )
- 日時: 2015/05/19 19:30
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
掃除を大体終えたら、皆で朝食をとることにした。
食器はお客さんが来たときに備えて多めに買っておいてよかった。
9人分も作るなんて大家族みたいだな。オムレツを作るのはルチカに手伝ってもらった。
大きなものを一気に作って、後で9人分に切り分けるようにしてもらう。
オムレツもだいぶ上達したな。半熟具合が絶妙だ。これなら店に出しても文句はないよ。
スープを作りながらボーっとルチカを見ていると、視線に気づいたのか、こちらを見た。
「どうしたのですか?」
「いや、上手になったなーって思っただけだ」
「ありがとうございます」
少しの間の沈黙。
なんなんだ、この空気は。
俺、黙っていても平気なのに。
ルチカは口を開いた。
「伊藤さんってお知り合いですか?どんな人なんですか?」
やけに聞いてくるな。
俺は答えた。
「ああ、うん。総務って会社のサポート側の人なんだけど、あまり話したことはないな。仕事がよくできるし、面倒見いい人だよ」
するとルチカは「そうなんですか・・・・・・」という。
なんとなく返事が素っ気ないような気がする。
もしかしてヤキモチか?
ちょっと嬉しいな。
・・・・・・いや、これは喜ぶことなのか?
他のことに気をとられていたせいか、スープが手の甲に跳ねた。
「あづっ」
「セージ様、大丈夫ですかっ!?」
ほんとに、なにやってるんだよ・・・・・・俺。
普段の俺はこんなヘマしないのに。
朝食を食べている間は伊藤さんと話ばかりしていた。
話題は誰が転勤になったとか、ここ最近あったニュースについてだ。
久しぶりの日本についての会話は楽しい。
話に夢中になって、途中まで気づかなかったが、ルチカが俺をじっと見ていた。
話に割り込んできたり、睨んだりすることはなく、ただ微妙な目で見ているだけだ。
俺に対する想いが推測でしかなかったことが確定になりそうだ。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【おかげさまで参照1800】 ( No.147 )
- 日時: 2015/05/20 19:57
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
朝食の片付けが終わったら、自分の部屋の掃除をする。
俺は毎日ほぼ決まった時間に掃除している。
時間を決めておかないと、いつまでも後回しになるし、スッキリした部屋じゃないと心が落ち着かないからだ。
他のやつらは各自で任せてある。俺がルチカの部屋に入るわけにはいかないだろう。
でもな、サイト。お前は例外だ。汚すぎる。
大体この時間帯は皆好き勝手にやってるんだよな。
サイトは畑を耕してるし。
ルチカは本読んだり、畑仕事を手伝ったり。
ツバサは部屋で何かしてたり、ほかの奴と雑談したりしてるな。
今日は珍しい人たちが来ているから、皆庭に集まっている。
サルベグサさんが曲芸を披露して盛り上がっていた。さすが猿っぽい外見だ。綱渡りを見事にこなしている。
掃除しながら窓の外をみると、皆きゃっきゃっと楽しそうにしているのが見えた。
普段とは違う奴らに会ってあいつらにはいい刺激になるかな。
・・・・・・で、なんでフォルドさんは外に出ないんだ。俺にずっと着いてきて・・・・・・ストーカーか。
掃除を手伝ってもらったら嬉しいんだけど、さっきの言動を見ていると、足手まといにしかならないことがわかっている。
「セージは外に出ないのか」
「掃除が終わってからだ。決まった時間にやらないと、リズムが狂う」
フォルドさんはふぅ、とため息をついた。
「お前暗いな。だからその年でも彼女ができないんだよ」
「すみませんね」
なんだよ、どいつもこいつも彼女、彼女とばかり。放っといてくれよ。
日本では一生独身でいる人もいるんだよ。
「大体フォルドさんも皆と一緒にいればいいじゃないか」
「俺はセージと話してみたいんだ。良き友になれたら嬉しい」
なんで俺が不法侵入者のチンピラと友達にならないといけないんだ?
無視して掃除を続ける。
すると、フォルドは俺の腰を掴んで持ち上げられた。
「何をするんだ!?」
俺はジタバタ暴れるが、フォルドさんのほうが強い。
そのまま肩に担がれた。
「今日ぐらい掃除を休め!ひ弱な体しやがって」
「下ろせ、バカヤロー!」
フォルドさんの腕から抜けようとしても、びくともしない。
軍の人たちに【姫】とかふざけたアダ名で呼ばれているが、この世界の基準でいけば俺ってモヤシなのか?
フォルドさんは豪快に笑いながら庭へ走っていった。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【おかげさまで参照1800】 ( No.148 )
- 日時: 2015/05/21 21:34
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
フォルドさんに庭へ拉致され、俺も強制的に参加することになった。
サルベグサさんの曲芸は凄いと思ったよ。
野球もやったよ。
道具はないからそれっぽいもので。
ルールはシンプルに教えた。そもそも人数が足りないし。
・・・・・・で、そのあとなんで取っ組み合いの大乱闘になるんだ!
9回しか試合がないのが寂しいだと?どんだけ体力有り余ってるの?
トラブルさん曰く「フォルドだから仕方ない」
あのね、あなた従者でしょ・・・・・・。
まあ、あんなむちゃくちゃな主人なら世話も大変だな。
俺はフォルドさんに木刀で叩かれたので、叩き返した。いつの間にか俺も夢中になっていた。
ついにはチーム対抗戦になっていたりな。
こんなに子供みたいにはしゃいだのは久しぶりだな。
普段カッコつけてるが、ばか騒ぎは好きだ。
あんなに暴れたから怪我とかするのは当たり前で、俺は体を綺麗にしてからルチカに手当をしてもらっていた。
自分でできるからといっても聞かなかったから、任せている。
膝とかあちこち擦りむいてるな。いい大人が羽目外しすぎたな。ちょっと反省している。
ルチカの手が俺の手に触れたまま止まっている。今朝からだが、ルチカになんとなく元気がない。
「ルチカ、どうした?」
「いえ・・・・・・」
伊藤さんのこと気にしてるのかな。
ルチカのためにあの人に好意はないってちゃんと言わないとな。
俺がいう前にルチカは口を開いた。
「セージ様は・・・・・・日本に戻りたいですか?」
原因はそっちのことだったのか・・・・・・。
俺が日本のことを楽しそうに話していたのを見て、不安になったんだろうな。
俺はルチカに率直に伝えることにした。
「全く戻りたくないと言えば嘘になる。家族や会社の人に迷惑かけてるからな。
でも今戻ったら今度はルチカたちに迷惑がかかる。ちゃんと責任を果たしたいんだ。
それにルチカたちといて楽しいんだ。ここで一生暮らすって決意したんだ」
今みたいにルチカの悲しむ顔なんて見たくないしな。
今戻ったらルチカやサイトはおそらく奴隷に逆戻りだろう。自分の都合で悲惨な目に合わせたくなかった。
ルチカは涙を流す。
「ほんとに?私たちとずっと一緒?」
「ああ。日本に帰るのは伊藤さんだけだ。俺はずっとここにいるよ」
「いかないでください・・・・・・。お願いします」
しばらくの間、ルチカは俺の手をずっと握っていた。
まるで日本に帰さないかのように。
俺はルチカの気がすむまで好きにさせてやっていた。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【おかげさまで参照1800】 ( No.149 )
- 日時: 2015/05/22 20:17
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
夕飯を食べた後、俺は自室で自主勉強をしていたが、ほとんど頭に入らなかった。
ルチカに『いかないで』なんてすがるように言われちまった。
こんな悲しい顔で言われたらお兄さんちょっとでも外出できないよ。
ルチカに手当された跡を見る。そこには丁寧に包帯で巻かれている。
気がつくとルチカのことばかり考えていた。
ヤバい。俺のほうが好きになっちまったんじゃないか?
今まで誰かに恋愛感情をもつということはなかった。
これは一時的な気の迷いだろう。
時間が経つのを待てば、きっと思いは変わっていく。
ルチカはまだ若く、青春はこれからだ。恋愛というものがよくわかっていない可能性がある。
大人の俺が彼女の人生を壊すわけにはいかなかった。
あれこれ考えていたら、酒を飲みたくなってきた。
今朝のフォルドたちの酒臭さのせいもあるかもしれない。
同居者が未成年ばかりだったから、今まで飲むのを我慢していたが、今日は飲んで忘れてしまいたくなった。
そのとき、フォルドが現れる。手には瓶を持って。
「セージ、どうだ。大人同士で飲まないか!」
ナイスタイミング!
ただし、その酒はうちの貯蔵庫にあったやつだ。
俺たちは広間で酒を飲むことにした。
俺の向かいにはフォルドが座って、右隣には伊藤さんがいる。
セシリーさんもいるけど大丈夫か?ちゃんと二十歳越えてるのかな。
酒のつまみに居酒屋でありそうな料理を適当に作っておいた。
「お、気が利くな。トラブルもこれぐらい気が回ればいいのに」
料理が出ると、フォルドは早速口に入れた。トラブルさんは少し苦笑した。
伊藤さんも料理をつまむ。
「この人ね、いつもこんな感じなのよ。だから部長にも気に入られていたのよ」
伊藤さんがそういうと、サルベグサは「へえ、男にしておくのは勿体ねぇな」と呟いた。
それはどういう意味だ?
俺はあえてそこを突っ込まず、黙々と酒を飲んだ。
賑やかな中で酒を飲めば、多少気が紛れるだろう。
いつの間にか無意識になっていたらしい。
気がつくと、フォルドの顔が目の前にあった。キスするんじゃないかと思うほど近い。
俺は思わずのけぞる。
「なにぼーっとしてるんだよ」
とゲラゲラ笑う。そういえばこの人たち昨日も飲んだんだよな・・・・・・。
フォルドは声を潜めて言った。
「獣人って美人が多いと思わないか。もっと身なりを綺麗にすればいいのにな」
「なんなんだよ・・・・・・」
なぜ急にそんなことを言い出したのか。
フォルドの意図がわからず、俺は酒を一口飲む。久しぶりのアルコールが喉を刺激した。
ついにフォルドはこういった。
「ルチカって子、可愛いな」
なんてことを言うんだ!
酒を吹き出してしまった。
ああ、もう!汚い!
フォルドさんが急にこんなことを言うからだ!
- 第15章 セージside ( No.150 )
- 日時: 2015/08/15 23:51
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
酒で汚れたテーブルを急いで拭き取る。
テーブルを汚した原因であるフォルドさんにも顔に酒がかかっているが、お構いなしだ。
彼の顔をセシリーさんが布巾を出して、拭いていた。なんか仲いいなあ・・・・・・この二人。
セシリーさんに拭いてもらいながら、フォルドさんはにやにやする。
「その反応怪しいねぇ」
「俺、見たぞ。お前とルチカが手を握りあってるところ」
サルベグサさんも加勢する。
そんなところ見られていたのかよ。握りあってねぇよ。手当されていたんだよ。
しかも伊藤さんという一番厄介な人物が近くにいる。
「え、あんたロリコンだったの?」
ズバリと言われてしまう。しかしそう思われても仕方がない部分もある。
「違いますよ。・・・・・・フォルドたちだって仲いいですよね。馴れ初め聞いてよろしいですか」
俺は話題を逸らすことにした。
すると、フォルドは肩をすくめた。
「誤解だ。俺の場合は親父への嫌がらせだ。俺は俺の好きなように生きるんだよ」
そして、セシリーさんに「な、そうだよな」と同意を求める。
ワザワザ彼女に同意を求めなくてもいいじゃないかぁ。
セシリーさんも少し恥ずかしそうにモジモジと頷いた。
なんかフォルドって軽い人かと思ったけど、色々複雑な事情をもっているかもしれないな。
トラブルさんは生暖かな視線で二人を見守っているし、サルベグサさんは無言で酒を飲んでいる。
しかしそろそろその辺にしとけよ、サルベグサさん。もともと赤い顔がさらに赤いぞ。
飲み会が佳境になってきたとき、フォルドが突然視線を外した。
彼の視線の先には俺の同居人たちがいた。
「おーい、そんなとこにいないでお前らもどうだ」
3人は広間を覗きこんだままピクリと反応する。
いつからそこにいたんだろう?声をかけてくれればいいのに。
待てよ、ルチカのこと聞かれたりしたのか?
だとしたらかなり恥ずかしいぞ・・・・・・。
「あーもう、お前らはジュースだ!酒は飲むなよ!」
俺は恥ずかしさを振り切るように言ってジュースを取りに行く。
未成年に酒を飲ませるわけにはいかないだろ?
ちょっとぐらい夜更かしは許してやるよ。
背後から翼の「ケチ!!」という声が聞こえてきた。
- 第15章 セージside ( No.151 )
- 日時: 2015/05/23 18:56
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
飲み会が終わった朝・・・・・・。
フォルドさんたちはまた二日酔いをしていてぐったりしていた。
そりゃあんだけ飲めば、そうなるわ・・・・・・。
ていうかまた泊まるつもりなのか?
ここで毅然とした態度でいないと、甘やかしたら家に寄生される可能性がある。
今日の昼頃にそれとなく言ってみるか・・・・・・。
伊藤さんはピンピンしていた。
朝食ができる時間に起きてきた。
あの人酒豪なんだよな。
忘年会とかぐらいしか一緒に飲む機会はないけど、ドンドン飲むもんな。
そして、絶対酔わない。
日本酒の酔いをワインで覚ます人だ。
お酒は水じゃないんだよ?
「あら、何か手伝うことはある?」
「配膳お願いしていい?」
昨日の飲み会で俺たちの距離は確実に縮まっていた。
料理を運びながら伊藤さんはポツリと言う。
「言い忘れていたけど私、もうすぐ結婚するんだよね」
朝から衝撃的なニュースだ。
国債情勢より、法令が新しくなったことよりも重大なニュースだよ。
それをついでみたいに言うなよ・・・・・・。
「え、おめでとうございます。相手はどんな人ですか?」
「うふふ・・・・・・、実は岡田係長よ」
まさか伊藤さんが結婚するとは思わなかった。
しかも社内恋愛で。あの堅物で真面目な岡田係長と。
どう考えても合わないだろう。
「どうやってくっついたんですか・・・・・・」
「一緒に仕事して助けあったりしているうちにね。あの人意外と陽気な人よ。よくしゃべる」
そうなのか・・・・・・。
伊藤さんは続ける。
「10歳年上なのよ。あなた多分種族とか年の差を気にしてると思うけど、結婚ってなると多少は覚悟してるわよ。問題があって当たり前、二人で乗り越えるのよ」
「でも、ルチカは若いでしょう。俺なんかでいいんでしょうか」
「だったら諦めなさい。結婚するというのは『俺が幸せにしてやる』ぐらいの覚悟がないとダメなのよ」
なんか伊藤さんの言葉がストンと胸に落ちた。若い事務の女の子が伊藤さんを頼るのもわかる。
ルチカについて改めてじっくり考える必要があるかも。
伊藤さんは微笑む。
「実は私も迷っていたの。でもあなたを見て、やっと決心したわ。私も新境地で頑張ってみる」
会社を辞めて、岡田係長と結婚するようだ。
俺を見て決めたなんて、俺ってキューピッドなの?
なんか責任重大・・・・・・。
俺は「幸せになってください」と言った。
少し飲み過ぎた。
昨日の飲み会でサイトたちが参加したとき、ルチカは俺の隣に座った。
「なあ、いつからいたの?」
俺が聞いてみると、ルチカは無言で耳をペタンと伏せる。
あのな、無言は肯定なんだよ。
それから何か言おうとしているフォルドの口をトラブルさんが塞いでいた。
ツバサのやつ、伊藤さんに酒ねだってるし。
二日酔いで今日はちょっと頭が回らないかも・・・・・・。
あ、やべぇ。
今日はハッツガグさんところの坊っちゃんが来る日じゃないか。
あいつらがいたら確実にヤバいことになりそうだ。
フォルドも危険だが、伊藤さんも危険だ。
彼女は社会保険労務士の資格を持っている。そのため、労働法に詳しい。
フォルドさんみたいに暴れることはないが、ネチネチ責めていくだろう。
あの女の子みたいな容姿のリリナ君が、二人と会うのは危険すぎる。
リリナ君の初仕事を潰されないようにしなければと思った。
神様、早く伊藤さんを連れていってくれ。
出来ればフォルドも。