複雑・ファジー小説
- 第3章 ルチカside ( No.15 )
- 日時: 2015/03/16 22:42
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
朝、目が覚めるとセージ様はいなくなっていた。
セージ様は黒い髪と瞳の男の人。茶髪か金髪の人間しかみたことがないから、とても神秘的。
一緒に同じご飯を食べた。食後にむずかしい名前のお菓子をくれた。こんなにおいしいものを初めて食べた。
セージ様は私を見て、嬉しそうな顔をしていた。
私の名前を綺麗だって言ってくれた。名前でこんなことをいう人は初めて。
セージ様は私を奴隷にしたつもりはないっていうけど、セージ様のなら奴隷になってもいいって思った。
1つしかないベットに私を無理矢理寝かせて、セージ様は床で眠ってしまった・・・・・・。
今まで穴蔵で眠っていたのが信じられない。これは夢かもしれないって思った。
まさか昨日のことは本当に夢だったの?
セージ様がいないと私はどうすればいいの?
涙が溢れてきた。
そうだよね、あんなに優しい人間がいるわけないよね・・・・・・
そのとき、扉が開いた。
セージ様だ。
「あれ、起きてたの?ていうか泣いてたの?」
手には二人分の食事を持っている。
- 第3章 ルチカside ( No.16 )
- 日時: 2015/03/17 21:42
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
セージ様は食事を取りにいくために、部屋を出ていたらしい。
「大丈夫だよ、俺はいなくなったりしないよ。」って言った。
食事をテーブルの上に置く。
「おいで、一緒に食べよう」
私は椅子に座ってセージ様と同じ食事をとる。
どれもとても美味しい。
奴隷は主人と同じ食べ物を口にいれることは滅多にできない。
時々パーティの残りにありつける程度。でも、それさえ先輩たちがほとんどを横取りしてしまう。
普段は雑草や木の実。虫も食べる。
罰で食事を抜かれることもある。
お母様に食べさせてあげたかったなあ・・・・・・。
特に名前忘れちゃったけど、フィ・・・なんとかっていう難しい名前のお菓子。
食事が終わったら、セージ様は空になった器を持って部屋を出た。
それ、奴隷の仕事なのになあ。
セージ様は不思議な人。
今まで知っている人間とはあまりにも違いすぎて、何を考えているのか全くわからない。
少しして戻ってきた。
何か命じるのかなって思って待っていたらなにも言わない。
視線をあげ、私のほうをみて言った。
「なあ、ルチカはこれからどうするの?」
「えっ・・・・・・」
私は戸惑った。
どうするってどう答えるの?
すると、セージ様は質問を変えた。
「どこもいくところがないなら、俺と一緒にいるか?」
私は頷いた。
主のいない奴隷なんて、絶望しかない。奴隷よりも酷い生活をしていると聞いたことがある。
セージ様は微笑んだ。
「そっか。なら昼前に服、買いにいくか。着いてきてもらっていい?」
「はい」
セージ様の服を買いに行くのね。
今着ているセージ様の服は白と黒の変わった服。何枚も重ねている。
とても似合っているのになあ・・・・・・なんだかもったいない
- 第3章 ルチカside ( No.17 )
- 日時: 2015/03/21 16:31
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
出掛ける前にセージ様は不思議な鞄を自分の膝の上に乗せた。
あの鞄から夕べは金貨と光る板を取り出していた。
光る板で何かしているところを後ろから見てみたけど、何をしていたかもさっぱりわからない。
今日も光る板を取り出した。
紙と筆記用具も取り出し、近くに置く。
光る板に指で何かして、紙になにか書いていく。四角と直線ばかり。
奴隷は字が読めないからセージ様がなにをしているかやっぱりわからない。
セージ様は「地図で服屋の場所を探しているんだよ」と教えてくれた。この不思議な板が教えてくれるなんて信じられなかった。
作業が終わったのか、セージ様は板の光を消して鞄の中にしまった。
じっと見ていたら、私と目があった。
「なあ。少し試してみたいことがあるんだけど、いい?」
私は「はい」と頷く。
セージ様は鞄の口を私のほうに向ける。さっき不思議な板をいれたはずなのに、鞄の中はなにもない。
「手を入れて、金でもなんでもいいから出してみて」
セージ様に促されるままに手を入れる。
なんでもいいの?じゃああのお菓子がいいな
でも、鞄から手を出しても手にはなにも握られていなかった。
セージ様は私の手をじっとみる。
「あれ?ダメなのか。お前、何を出そうと思った?」
「昨日食べたお菓子・・・・・・です」すると、セージ様はブッと吹き出した。
「そんなんでよかったの?まあいいけど」
セージ様は鞄からお菓子を取り出した。私は出来なかったのに、セージ様はできるんだ。
そして私に「はい」と渡してくれた。そのお菓子の名前はフィナンシェって教えてくれた。
セージ様はきっと特別なんだな。
こんなに優しいんだもん
- Re: リーマン、異世界を駆ける【いろいろ募集中】 ( No.18 )
- 日時: 2015/03/19 19:59
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
セージ様と一緒に宿を出る。
街にいくときにコートっていう服を貸してくれた。
セージ様は黒い髪だから皆から注目される。
セージ様は皆の視線を無視して、まっすぐと背を伸ばしてきびきびと歩いている。
男の人だけど、歩いている姿が綺麗だなって思った。
私はセージ様の後姿に着いていった。
「いらっしゃいませ。どのような品をお探しでしょうか」
洋服店に入ると、店主さんが迎える。
セージ様は答えた。
「この子に合う服をお願いできますか。お金はいくらでも出します」
え、私だったの?セージ様の服だと今まで思っていた・・・・・・。
店主さんも目を点にしている。
「この獣人ですか?」
「ええ。いくつかお願いいたします」
セージ様は迷いなく頷く。
すると、店主さんは店の奥に入り、服を何着か取りに来た。
それは奴隷の衣服でよく使う素材でできたもの。粗末なつくりでとても薄くて破れやすいものだ。
セージ様はそれを受けとると、布地を引っ張る。
それほど力を入れなくても、やっぱり服はビリビリと音を立てて破れてしまった。
「あの、破れてしまいましたが。こちら弁償いたしますので、もっといいの、あります?」
店主さんは眉1つ変えずに答えた。
「これは奴隷が着る服ですが」
確かに奴隷の私に合う服はこれ。その服さえ支給されないことがある。
すると、店主さんの表情とは反対に、セージ様は穏やかにニコリと笑った。
「左様でございましたか。こちらこそすみません。では、言い方を変えます。この子に合う人間が着るような服はありますか?」
セージ様の目は笑っていない。
私が人間の服を着る?この方は本気で言ってるのかしら。
店主さんも同じことを思ったようで、顔をしかめた。
「申し訳ありませんが、私の店舗にはそのような服は取り扱いはございませんが・・・・・・」
店員さんはとても困った顔をしている。
セージ様は立ち上がった。
「わかりました。では他の店に当たります。無理な注文をして、失礼しました」
そう言って私を連れて店を出ていこうとした。
店の奥からお爺さんが出てきて、慌てて私たちを引き留めた。
「お待ちください!息子の非礼、すみませんでした!
我々がなんとかいたします!」
セージ様はお爺さんの言葉で立ち止まった。
- 第3章 ルチカside ( No.19 )
- 日時: 2015/03/22 15:15
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
店主さんはお爺さんのところに行って店の奥の部屋で小声で話し合っている。
猫族は耳がいいから、小さな音を聞き取ることができる。
「昨日噂で、黒髪の若い男が大量の金貨を持っていると聞いたのじゃ」
「親父、そんなの噂だろ」
「いや、あの奇妙な姿は間違いない。異国の商人かもしれない。やつの機嫌を損ねるな」
異国の商人、確かにセージ様ってそんな感じがする・・・・・・。
不思議な道具をいっぱい持っているし。
しばらくして、店主さんとお爺さんがたくさん服を抱えて部屋から出てきた。
「お待たせしました。お気に召したものを選んでください。尻尾の部分はこちらで開けます」
たくさんの服・・・・・・見たことがない。
セージ様は私のほうをみる。
「ほら、好きなもの選べ。遠慮するな」
店主さんに見せる笑顔と私に見せる笑顔が違う。
こんなに服があっても選べないし、私には勿体ないよ・・・・・・
汚したりしたら怖いから触れない。
セージ様は1つを手に取ってしばらく眺めては、違うものを手に取った。
「髪は銀から焦げ茶のグラデーションだから難しいかなって思うけど、意外と大抵の色が合うんだな」
よくわからないことを言っている。今の、誉められたのかな。
結局、私は水色のワンピースを1着だけ選んだ。
店の人が尻尾の部分に小さな切れ込みを入れてくれたから、私はワンピースを着ることができた。
「気に入ったか」
「はい!」
ぴったりで、肌触りもいい。
さらにセージ様は私の服をいくつか選んでくれた。
こんなにたくさん、充分すぎるよ・・・・・・
「このまま着て帰ってもいいぞ」
今まで着ていた服はお店が処分してくれる。
セージ様も自分の服を買い、鞄に入れた。
あの鞄、何でも入るんだなあ…
- 第3章 ルチカside ( No.20 )
- 日時: 2015/03/21 16:34
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
店を出ると、周りの人たちが私たちを見る。
怖くなって思わずセージ様の後ろに隠れた。
だって人間はまだ怖いから。
それに、獣人たちも羨ましそうに私を見る。なんだか悪いことをしたような気分になってしまう。
つい昨日まで私はあの獣人たちと一緒だった。
ささいなことで主人に鞭で叩かれて当たり前の日常だった。
まるで私、生まれ変わっちゃったみたいだなあと思う。
「昨日の噂のやつってあの男で間違いないな」
「護衛もつけないで隙だらけだな。だが油断するなよ」
歩いていると、背後からそんな会話が聞こえた。後ろを振り返ると、何人かが隠れて私たちに着いてきていた。
もしかしてセージ様を狙っているのかな?
セージ様は彼らに気づいていないみたいですたすた歩いている。これって伝えたほうがいいよね。
「セージ様」
「ん?」
「私の勘違いかもしれないけど、怪しい人が着いてきています・・・・・・」
セージ様はちらりと後ろを見る。
「うん。わかった」
それだけ言って、何もなかったように歩いた。
あれ、あんまり反応がない。
言わないほうがよかったのかな・・・・・・
私は後ろに着いてきてる人間を気にしながら歩いた。
足音がだんだん近づいてくる。
私は緊張していた。気のせいではなかった。
セージ様は大丈夫なのかな・・・・・・。
そして一人が、セージ様に触れられるぐらいの距離まで縮まった。
セージ様の鞄を奪おうと手を伸ばす。
セージ様、危ない!!と声を出そうとした。
私が声を出す前に、セージ様は振り向くと同時に勢いをつけて拳を泥棒の顔に当てた。
泥棒は呻きながら顔を押さえて踞る。
「大丈夫でしたか?」
セージ様は少しかがんで泥棒に話しかける。
殴られた泥棒はセージ様を睨み付けている。
泥棒の仲間が言った。
「俺の子分を殴るなんていい度胸だな」
「すみません、後ろから気配がしたもので」
仲間は顔を押さえている人を合わせて4人。セージ様、大丈夫かな・・・・・・
リーダー格の男はにやにやと笑う。
「おいおい、謝って済むと思ってるのか?こいつ怪我したんだよ」
「おたくらが僕の鞄を引ったくろうとしたからですよね。さっきからずっと後をつけてましたよね?」
すると、リーダー格の男は笑顔を消し、声を低くした。
「・・・・・・その鞄を渡せば痛い目にあわない。よこせ」
セージ様は泥棒を睨み付けるだけで答えなかった。
「そいつの鞄を奪え!」
この男の合図と共に、泥棒は一斉に私たちに襲い掛かった。
- 第3章 ルチカside ( No.21 )
- 日時: 2015/03/22 15:08
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
「ルチカ、鞄持ってて」
セージ様から鞄を受けとる。
皮でできていて、見た目よりずっと軽い鞄だった。
私はあの人たちから取られないように、ギュッと握りしめる。
セージ様は泥棒たちの攻撃を避けながら、拳や蹴りを確実に入れていく。
この中で、セージ様が一番動きが鮮やかだと思う。
後ろから攻撃されてもひらりと避けるし、細いのに大きな人を投げ飛ばした。
あっという間に三人を倒してしまった。気絶したり、痛むところを押さえて呻いたりしている。
残ったのは一人。
泥棒はセージ様から後ずさる。膝が震えているのが見えた。
セージ様は1歩ずつ距離を詰めた。
そのとき、私は後ろから突然抱きつかれた。
抱きついてきたのはリーダー格の男だとわかった。
「鞄を渡せ!獣人!」
「いや!」
私は必死で鞄を抱き抱えた。
これはセージ様の大切な鞄。その大切な鞄を私に預けてくださった。渡すわけにはいかない。
もの凄い力で引っ張られたけど、抵抗した。
でも、男に顔を殴られ、私は飛ばされてしまう。
「ルチカ!!」
セージ様の声が聞こえる。
ごめんなさい、鞄取られちゃった。
しかしすぐに、鞄を取った男は地面に落としてしまう。
「なんだこれ、凄く重い!」
え?私でも持てるぐらい軽かったんだけどな。
しかし、男が両手で持ち上げても、鞄はびくともしなかった。
「くそ、金さえあればいいんだ!よこせ!」
男は鞄に手を突っ込む。
そして男が何かを掴んで鞄から手を抜くと、その手が掴んでいたのは蛇だった。
「ワアアアア!!なんじゃこりゃあああ!!」
私も茫然としてしまう。
蛇は男の首に絡み、牙を見せて威嚇していた。
男が蛇で騒いでいる間にセージ様は顎に蹴りを入れて、気絶させた。
「ルチカ、大丈夫か」
「あ、はい・・・・・・」
セージ様に支えられて立ち上がる。鞄を取られたのに、怒っていないようだ。
周囲の人たちは遠巻きに私たちを見ている。
鞄を拾って、セージ様は「誰か110番よろしく」と言って宿に向かってしまった・・・・・・。
- 第3章 ルチカside ( No.22 )
- 日時: 2015/03/22 22:40
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
私たちは走って宿に戻った。
「大丈夫か?冷やすもの、持ってくる」
どうして鞄より私の心配をしてくれるんだろう・・・・・・。
あの鞄にはセージ様の大切なものや金貨がいっぱい詰まっていて、私の何倍も価値があるのに・・・・・・。
部屋に入ってすぐに水が入った桶と布を持ってきてくれた。
セージ様は水を布に浸し、私の頬を冷やしてくれる。布はひんやりと冷たくて、セージ様の手は柔らかい。
頬の痛みが引いていく。
「ごめんなさい・・・・・・」
自然とこの言葉が出た。
セージ様に迷惑をかけてしまった。
さっき殴られても手を離すべきではなかったと後悔する。
「なんで謝るんだ。あのときルチカが後をつけられてるって伝えてくれたから、俺は助かったよ。
俺こそ危険な目に合わせてごめんな」
あの時、伝えていてよかったんだ・・・・・・。
いつの間にか涙が流れていたらしい。セージ様は涙を拭ってくれた。
「ルチカが無事ならいいんだ。
お金よりルチカが危険な目に合うほうが俺は辛い」
そう言って慰めてくれた。
人間は私たちを使い捨ての道具のように扱う。でも、セージ様は対等に扱ってくれた。
夜は昨日と同じくベッドで寝かせてもらった。
セージ様は床で眠っている。
本当は奴隷が床で眠るべきなのに、セージ様は「俺は大丈夫。女の子を床に寝かせるわけにはいかない」と断ってしまう。
なんだか他の奴隷に申し訳ないぐらい幸せだ。
私は布団を持って、足音をたてないように、眠っているセージ様に近づいた。
セージ様の上に布団をかける。
ありがとう、セージ様。