複雑・ファジー小説

第19章 翼side ( No.174 )
日時: 2015/06/11 20:47
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

[第19章]

午前中にセージは奴隷市場にいくと言った。
新しい厨房が完成したら忙しくなるので、人手が必要だという。
あいつは菓子を売っているだけではない。詳しいことは知らないが、レイズさんとこに行って新しい商売の提案もしているようだ。
あいつが考えた菓子が今、貴族の間で流行しているようだ。綺麗な包みに包んで贈り物をするのがいいらしい。
その包み紙の絵を描いているのが俺。評判が上々だと聞いて、気分がいい。
家族に贈るため、恋人に想いを伝えるため、色々種類がある。
それを考えたのは商魂逞しい人の気持ちを弄ぶ汚い大人たちだ。

あいつはいつも俺たちを気遣うが、自分の心配をしろよ。休んでるのか?
今日はルチカと一緒に留守番だった。サイトは護衛としてついて行っている。奴隷市場は危険で何が起こるかわからないからだという。
ルチカは掃除が終わったら、窓の外を見ている。
「セージ様大丈夫かな・・・・・・」
おいそれ呟いたの何回目だよ。
俺はルチカに声をかける。
「なあ、お前はこのままでいいのか?」
「・・・?私は今とても満足してるわ。昔とは比べ物にならないぐらい幸せすぎるわ」
ダメだ。どっちもずれてる。
ルチカはセージに好意を寄せている。おそらくセージもそうだろう。
両思いでよかったじゃないか。
しかし、お互いあと一歩を踏み込まない。
ああもう、まどろっこしいな!
なんで躊躇ってるんだ。
セージがさっさとルチカを愛人にすればいいのに。
同意で愛人になるなんてこれ以上いいことない。
あいつ、慎重になりすぎなんだよ。

セージが連れて帰った奴隷は3人だった。
思ったよりも少ない。あいつは部屋に仕切りを作ったり、風呂の増設を検討していた。
聞いてみると、大半がレジスタンスに拉致られたという。
あいつら余計なことをしたな。
解放してもその後はどうするんだよ。
セージが拾ってくれて感謝してる。今もここにいさせてもらっている。
あのとき、セージに拾われていなかったら、俺の未来は大きく変わっていただろう。

あいつにとっては獣人は耳と尻尾が生えただけの人間だろうな。
獣人に対する思いやりは、ルチカとサイトだけではない。皆平等だ。

第19章 翼side ( No.175 )
日時: 2015/06/12 21:55
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

厨房が完成した日、建築に関わった獣人たちも巻き込んで打ち上げをした。
どうやらあいつは密かに計画していたらしく、俺たちが知ったのは打ち上げの3日前である。
食べ物が並んで、好きなものを自由に取っていく。『バイキング』という形式らしい。
メルトさんがいてよかった・・・・・・。獣人でルチカ以外料理できそうなやつはいないしな。
俺はそんな疲れそうなことはしたくないし。
腹をすかせた獣人たちの食欲は凄まじい。
特に、リリナに雇われた獣人は勢いが比べ物にならない。普段、うまいもの食ってないからだろうな。リリナも開いた口がふさがらないようだ。
「ほらほら、食べ物は逃げないよ」なんて、メルトさんは笑っている。
料理が少なくなると、メルトさんは手際よく大量に作っていた。

「リリナ、お疲れさまでした」
「セージ殿、こちらこそ色々ありがとうございます。勉強になりました。その・・・・・・今後も何かあれば」
「ああ、風呂とかトイレの増築も頼むつもりだ」
セージはリリナと和やかに話している。
何があったのかわからないが、セージはリリナのことを気に入っているらしい。
顔は子供だけど、頭の中は年寄りだから若いやつに世話を焼きたいのかな。
年は違っても、本質はなんとなく似た者同士(ケツの穴が小さいとことか)だから親しくなりやすいようだ。
少し話していると、ルチカがセージのところにお酒を持ってきた。そういえば、さっきメルトさんになにか言われたのを見ていた。
セージは最初は遠慮していたようだけど、結局飲んでしまう。飲みたかったんだろうな。
すると、ルチカのほうが一口も飲んでいないのに、なぜか酔ってしまった。
なんで!?って思ったけど、あの酒にはマタタビが入っていたんだな。
「ルチカ!?リリナ、なにがあったの!?」
「し、知らないよ!君は主人だろっ!?」
セージもリリナもオタオタして・・・・・・お前らしっかりしろ!

マタタビ入りの酒を持ってこさせたのはメルトさんの策略だったのか・・・・・・。
まあ、これはこれで作戦成功だな。俺は心の中でメルトさんに密かに感謝して酒を少しもらう。
すると、サイトに注意された。
「ツバサ、いいのか。旦那に怒られるぞ」
「今日ぐらいいいじゃねぇか。俺は平気だよ。サイトもどう?」
「俺はいい。旦那からダメだって言われてるから」
サイトは生真面目だ。
デカイから酒を飲んだからといって体に悪い訳ではないのに、セージに言われてから頑なに守っている。
盗み癖ってそんなに簡単に治るものじゃないぜ?
それに、今あいつはルチカの対応でいっぱいいっぱいだしな。
早く部屋に連れ込まねぇかな。
セージがやっとルチカを運んだので、後をつけた。
そして、二人で部屋に入ったから期待して待っていたんだけど・・・・・・
「お前悪趣味だぞ!」
部屋から出てきたセージにおこられた。
ちなみにルチカに何もしていないという。
紳士すぎるのも考えものだ。

リーマン、異世界を駆ける【参照2000、ありがとー!】 ( No.176 )
日時: 2015/09/16 22:29
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ある日、俺は着替えさせられ、どこかに連れていかれる。
服はまるで貴族のぼっちゃんが着る服で、セージの鞄から出てきた。そんないい服を着て、どこに連れていく気だ?
珍しく馬車を借りて、乗せられる。
「おいコラ、セージ。目的ぐらい教えろ」
「・・・・・・お見合いです、俺の」
連れていかれたのはあいつのお見合い相手の実家。
なんでお前の見合いで俺を連れていくんだ?相手も変な目で俺を見ている。
なんだか居たたまれない気持ちになる。

見合いぐらい一人でいけ!

結局、わかりきっていたことだけど、お見合いは相手から断られた。
どうやらセージの狙いはそれだったようだ。
リードマン商会の取引先や、軍の関係者から何人か紹介されているらしい。
あいつのことだから、多分断れなかったんだと思う。1回は断るけど、何度か押すと引き受けることがあるからな。

早く結婚しようよ・・・・・・。
もういい年なんだから。
もしかしたらこいつが1番子供かもしれない。
こいつの見合いの肖像は俺が書くことになった。専門の画家に頼めばいいのに、俺でいいのかよ・・・・・・。
肖像はスーツを着ているときの格好にしておいた。1番スーツが似合うからな。

その後も俺は何度も連れていかれたし、サイトとか他の獣人を連れていくこともあった。
今日もセージに呼び出された。
「翼君、君にお願いがあるんだけどさ」
「また俺かよ!?」
「画材かってあげるからさ」
物で釣ろうとするな!
どうやら見合いに連れていく人物は【アミダくじ】というもので決められているらしい。
しかし、やけに俺ばかり当たっているような・・・・・・。
なんか細工でもしてんのか?

だが、セージはルチカを連れていったことがない。
俺はルチカに話しかける。
「次はお前がいけば?」
ルチカは首をかしげる。
「どうして?」
「あのな、あいつは言われないとわからないんだよ。もっとああして、こうしたいとかさ」
ルチカは黙りこんだ。こいつも思うところはあるんだよな。
俺は続けた。
「早く手を打たないと、セージは誰かのものになるぞ」
ルチカは微妙な微笑みを浮かべ、頷いた。
「いいの・・・・・・セージ様が幸せなら。私は考えられないぐらいとっても幸せよ」
本当にいいのかよ?
その微笑みはなんだよ。
自分を押さえつけてもなにもいいことはないぞ。

次に見合いに行くときはルチカに行かせてみよう。
うん、それがいい。
あいつら二人俺が何とかしないといつまでもあのままっぽいもんな。