複雑・ファジー小説
- 閑話休題3 ( No.177 )
- 日時: 2015/06/14 14:54
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
[閑話休題3]
今日はセージ殿の館へ行く日。
この日を楽しみにしている。
私はミシェルと馬車に乗った。
馬車から見渡すと、最近の町の様子が変わったように感じる。
セージ殿が着ている【スーツ】というものが流行しているという。
リードマンがセージ殿が身に付けているものに目をつけたようだ。
販売すると、身分の上下を問わず飛ぶように売れた。
身分が高い者になると、色鮮やかな色になり、宝石やレースをふんだんに使う。
しかし、ミシェルは「セージ様みたいに黒が一番かっこいいと思います」と言った。
私も同意見だ。
そして、誰が着るよりも彼が一番似合う。
近いうちに女性用のスーツも販売するという。
この先、おそらくセージ殿が服装の流行を牽引することになるだろう。
ミシェルはあるものを見つけると、悲しそうな顔をして、そこに指をさした。
「エリック様・・・・・・」
ミシェルが指をさした方向には一人の人間と数人の獣人がいた。
獣人のうちの一人はまるで人間のように着飾っている。
「ご主人様、これ綺麗だわ」
「ああ、似合うと思うよ。買ってあげよう」
獣人をまるで家族や恋人のように扱う人間が増えた。
しかし、その獣人の下に未だに奴隷のように扱われる獣人もいる。
ごく一部の獣人が人並みの扱いを受けているだけで、獣人の間に格差が広がっているように感じる。
結局、どちらも人間の奴隷という立場は変わっていないのだが。
主人に装飾品を買ってもらって幸せそうな顔をした獣人は、近くで辛そうに荷物を持つ複数の獣人の存在に気づかないようだ。
そのとき、荷物を持っていた獣人はバランスを崩し、倒れてしまった。
着飾った獣人は怒りを露にする。
「ちょっと、なにしてるのよ!私のなのよ!」
倒れた獣人は「すみません」と謝っている。
しかし、彼女の怒りは収まりそうもない。
「なにがすみませんよ!私はあなたのようなゴミクズじゃなくて、選ばれた獣人なのよ」
倒れた獣人を踏みつける。
ミシェルは手で顔を覆った。
彼らはセージ殿の表面だけを真似した愚か者の集まりだ。
そのような者が増えてとても嘆かわしい。
セージ殿はこのような現状をみて、どう思っているのだろうか。
見ていられなくて、私は馬車から降りた。
「エリック様、危険ですよ!」
護衛の獣人は私を止める。
ミシェルも私の袖を掴んでいる。彼の大きな瞳から涙がこぼれそうだ。
私は落ち着かせるように穏やかに言った。
「大丈夫だよ。少しだけだ」
私は彼らのところに向かい、声をかけた。
「君たち、そろそろこの辺にしてあげないか」
もし、できれば私は奴隷のような扱いを受けている獣人を引き取ろうと思っている。
私なら彼らを幸せにしてやれる自信がある。
セージ殿は少しずつだが、確実に世界を変えつつある。
これからどうなっていくのだろう。
私とミシェルの関係も少し変わった。
ミシェルに笑顔が増えた。以前より生き生きしている。
ルチカやサイトという友達もできて、うれしそうだ。
私も若い者に魔法や政治学を教えている。
彼らが将来、良い国へ導くことができるように。少しでもセージ殿の手伝いをしたい。