複雑・ファジー小説
- 第1章 ~ルチカside ( No.2 )
- 日時: 2015/03/07 14:37
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
私は貴族の娘だったらしい。
でも今は奴隷。
物心ついたときから奴隷だったから、お姫さまのころなんて覚えていない。
毎日掃除で重い水を何度も運び、失敗するたびに主人や先輩から鞭を打たれるのが当たり前の日常。
これから新しい主人に買われることになる。
新しい主人の前に立たされ、体も触られた。初めての感触でとても気持ち悪い。
嫌悪感を感じ、身をよじろうとしたら、ビンタされた。
手が触れられるだけでとても恥ずかしくて泣きそうになった。
そして、私の値段は金貨8枚にきまった。
「そ、そんな!金貨10枚の約束では!?」
ご主人様は狼狽えた。
すると、新しい主人は私を見てこう言っていた。
「顔はいいが痩せすぎだ。それにあちこち傷がついている。引き渡しまで値打ちを下げないことだな」
私の価値を決められたみたいで気持ちはどん底に落ちた。
その後、ご主人様は猫撫で声で「今日から仕事はしなくていいからな」と言った。しかし、目は笑っていない。
連れていかれるとき、お母様は足にはめられていた鎖を細工してくれた。
「あなただけでも自由になって」
お母様、自由になって私はどうすればいいの?
- 第1章 ~ルチカside ( No.3 )
- 日時: 2015/03/07 14:38
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
日が傾き始めたとき、私は木箱の中に入れられた。
背中を伸ばす余裕でさえない狭い箱。
蓋が閉められ、日の光が入らなくなる。
箱は馬車に乗せられた。
耳に入れた噂によると、私は新しいご主人様の夜の相手をするらしい。
薬漬けにされ、飽きるまで毎日無理矢理される生活が私を待っていた・・・・・・
私は猫の獣人。
30年前、人間の国と戦争をはじめて、負けちゃったから奴隷になったんだって。
人間は獣人より力は弱いけど、知恵があったから。
もし、戦争がなければ私は今とは考えられない生活をしていただろう。
箱がガタゴト揺れ、馬車が移動しているのがわかる。
日の光が入らず、時間も場所もわからなかった。
突然、箱が大きく揺れた。
しばらく体を固くして耐えていたが揺れは大きくなり、体が箱ごと投げ出された。
箱が壊れ、私は外の世界へ飛び出してしまった。
足の鎖がチャリンと音がして外れる。
今なら逃げられる?
足の鎖は獣化防止の機能がついていた。
獣化できれば人間の何倍も速く走れるから逃げられる可能性がある。
「逃げたらまずい、追え!!」
ご主人様の声が聞こえた。
周囲はレンガ造りの建物がそびえ立っている。空は赤く染まり始めている。
私は猫になり、駆け出した。
どうせ、新しい主人に買われても酷い生活であることは変わらない。
- 第1章 ~ルチカside ( No.4 )
- 日時: 2015/03/08 11:00
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
生まれてはじめて獣化する。
普段から獣化防止されていたため、景色の違いに驚いた。
馴れない獣化のため、うまく走れない。何度も足がもつれ、転びそうになった。
「逃げられると思うな、小娘!」
図上から翼が羽ばたく音と声がした。追っ手も獣化しているのだろう。
それでも必死で逃げて、角を曲がった時、誰かとぶつかってしまった。
同時に、ぶつかった衝撃で獣化が解除されてしまう。
「捕まえたぞ、手を煩わせやがって。さあ、いくぞ」
追い付かれてしまったのだろう。後ろから肩を捕まれる。
「いや!」
私は抵抗した。
誰かのオモチャで、役立たずは捨てられるだけの人生は嫌だ。
そのとき、優しく腕を掴んでくれる人がいた。
「あの、何があったのか知りませんが、乱暴はよくないですよ」
声でぶつかった人は人間の男の人だとわかった。
カラスの奴隷は答える。
「この奴隷は逃亡してご主人様を怒らせました。だから相応の罰が必要です」
「いや、でもこんな小さな女の子をそんな風に扱ってはいけませんよ。逃げたのも何か理由があるのでしょう?」
男の人の手はとても柔らかく、私が今まで知っている人間とはあまりにも違っていた。
私と目が合うと「ごめんね、大丈夫?」と聞いてきた。漆黒の瞳が私を写した。
- 第1章 ~ルチカside ( No.5 )
- 日時: 2015/03/08 19:01
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
少しして、ご主人様が犬の奴隷を連れてやってきた。
「なにをやっている!約束の時間に遅れてしまう、早くそいつを連れていけ!」
私は男の人に抱きついた。人間は怖いけど、今はこの人に頼るしかなかった。
獣人の私に、男の人は安心させるように頭をなでた。
ご主人様は男の人を見て、声色を変えた。
「あなたが捕まえてくれたのですね。お手数をおかけしてすみません。この娘は今日取り引きをする大事な商品なのです。お礼はいたしますので、商品をこちらにお渡しください」
男の人は相槌をうちながら、私とご主人様を交互に見ている。何を考えているのだろう。
獣人は物として扱われる。普通なら主人に返すのが当たり前だろう。
「お願い、私を助けて!」
「いい加減にしろ!獣人ごときがこれ以上迷惑をかけるんじゃない!」
ご主人様は私の髪を引っ張る。
それでも私は必死で男の人にすがりついた。
そのとき、男の人は私を優しく抱き締め、口を開いた。
「お礼はこの子でよろしいでしょうか」
男の人の言葉で私の髪を掴んでいたご主人様の手が緩んだ。
「その娘は見目がよく、特別な商品です。とても高価ですよ」
「いいですよ、いくらです?」
あっさりと言った。ご主人様はニヤリとした。
「・・・・・・金貨20枚です」
この人、嘘ついた。私の本当の値段は金貨8枚なのに。
わざと高い値段をいって、諦めてもらおうと思っているのだろう。
普通の人にはとても手が届かない金額だ。
男の人は持っている黒い鞄の中に手を突っ込んだ。そして、たくさんの金貨をわしづかみにして取り出した。
「ひぃふぅみぃ・・・・・・数えるのも面倒臭い。これでいい?」
明らかに20枚より多い。ご主人様の目がこぼれ落ちそうなほど見開かれる。
「十分でございます!!では契約成立ということで・・・・・・」
ご主人様は両手を差し出して、金貨を受け取ろうとする。受けとるときに金貨が2、3枚落としてしまった。
ご主人様はかがんで拾おうとすると、男の人はご主人様の手を軽く踏んだ。
「あ、すみません」
男の人は微笑むと、すぐに足を引いた。ご主人様はなにも言わず、苦笑いしている。
「旦那、この奴隷の首輪も必要です。なにしろ素材が大変高価なもので・・・・・・」
「俺、商売しにきたわけじゃないんで。失礼します」
そういって、男の人は立ち去った。
えっと・・・・・・
私は今からこの人の奴隷なんだよね?着いていけばいいの?
なんか取り引きをしたという実感がないんだけど・・・・・・
ご主人様は私を見ていった。
「はやくいけ。取引先にはお前は病気で死んだことにしてやる。最後に役に立ててよかったな、お陰で儲けたよ」
この人の汚い笑みをみたくなくて、私は男の人の背中を追いかけた。