複雑・ファジー小説

第22章 ~ルチカside ( No.214 )
日時: 2015/07/04 19:54
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

[第22章]

セージ様がまた連れていかれた。
今回は事情が違う。
セージ様を連れていったのは、私の前のご主人様。
この人の名前を聞いただけで体が震えた。
きっと私を買ったセージ様への恨みに違いない。
セージ様が何をされるのか考えると、怖くて眠れなかった。

翌日のお昼過ぎぐらいになって、カスパルって人が家にやってきた。他に人間が四人ぐらいいる。
サイトが鼻息を荒くして出迎えた。
「テメエ、よくも勝手に旦那を連れ去りやがって・・・・・・」
そう言って、胸ぐらをつかむ。
カスパルは表情を変えなかった。
「いきなり暴力を振るうか。貴様のような野蛮な獣人には用はない。この中に人間はいるか」
サイトは「なんだとっ!」と殴りかかろうとするが、メルトさんが止めに入った。
この中で人間といえば、ツバサしかいない。ツバサは玄関にやってきた。
「俺に何か用か?」
「ふん、ガキか。大人はいないのか」
「悪いが、セージ以外に人間は俺しかいないよ。ここは獣人も人間も関係ない。理解できないなら帰ってもらおうか」
怖そうな年上の人なのに、ツバサは全く物怖じしない。
カスパルは口を開いた。
「わかった。では貴様と話したいことがある。時間をもらえないだろうか」
「おう。こっちも聞きたいことがあるから入れよ。
・・・・・・ただし、武器はここでサイトに預けろよ」
サイトはカスパルたちを睨んでいた。カスパル以外の人間は震えあがる。
獣化防止の首輪をつけていない獣人は恐怖なのだろう。
それに獣化しなくても、サイトは充分大きい。
カスパルはにやりと口の端をあげる。
「ガキだと思って侮っていたら怪我をするな」
カスパルたちはナイフや剣をサイトに渡した。
それを見たツバサは彼らを広間に案内した。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑2500!!!】 ( No.215 )
日時: 2015/07/05 09:25
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

いつもは皆で集まってお話ししたり、エリックさんやミシェルと一緒に勉強するような和やかな雰囲気なのに、今は重々しい空気が広間を支配していた。
ツバサとカスパルたちはテーブルを囲んで、その回りには私たちが彼らを見張るように立っていた。
彼らが逃げないように、ガズナは玄関に繋がる扉の近くに立っていた。
ツバサに客人じゃないからしなくていいと言われたけど、私はお茶を彼らに用意した。
セージ様はどんなお客様でもおもてなしするのが大切だと教えてくれた。
きっとこの人たちも私たちが怖いんだよね。
セージ様がいなくても、しっかりしなきゃ。
全員分のお茶とお菓子を置かれると、ツバサは口を開いた。
「さて、セージを連行した理由を教えろ。誰の差し金だ」
「セージは依頼人を騙して奴隷を盗んだという疑いがある。依頼人の名前は個人情報保護のため、言えない。そしてもうひとつは彼の所持している金貨が本物か調べたい」
そして、カスパルは私の方を見た。まさか・・・・・・私?
私が買われたときを考えると、当てはまるような気がした。
セージ様が誤解されている。私は口を開いた。
「セージ様は騙してなんか・・・・・・!」
「黙れ、獣人。貴様に話す権利はない」
カスパルに睨まれると、私は言葉が出なかった。
セージ様を守らないといけないのに・・・・・・。
何か言おうとしても、声が出なかった。
ツバサは頭の後ろに手を組んで、大きく息を吐いた。
「カスパルさん。俺、何て言ったっけ?・・・・・・約束忘れちゃっただけだよな。でも、次はないからな」
その場にいた人間は息を飲む。ツバサは私より年下なのに、怖いときがある。
カスパルさんは「ああ、失礼した」と言った。
「いいよ。ルチカ、話せよ」とツバサは言った。
私はセージ様との出会いを思い出しながら話した。
あのときセージ様がいなければ、私の人生は大きく変わっていた。
大勢の前で一人で話すのは苦手で、詰まったりしたけど、なんとか伝わったと思う。
カスパルさんは睨んでばかりだったけど、口を挟まなかった。
ツバサは言った。
「ルチカの話が本当なら、グ・・・・・・なんとか侯爵の取引先に聞いてみればいいんじゃね?ルチカが死んだって相手に伝えたなら、詐偽じゃねーか。それに、いい加減な奴なら奴隷契約書をいつまでも持ってるって可能性もあるぜ」
ツバサは勘がいい。
頭がよくて、セージ様を驚かせるときがある。
まさかこの言葉も当たるのかな・・・・・・?

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑2500!!!】 ( No.216 )
日時: 2015/07/05 19:05
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

セージ様がいない間は第3部隊の人やエリックさんが来てくれた。
セージ様はいないのに、皆とても優しくしてくれた。
ミシェルは「きっとセージ様なら大丈夫ですよ」と励まして、お菓子まで持ってきてくれた。

セージ様は前のご主人様に襲われていた。
私はカッとなって、獣化して前のご主人様に飛びかかった。
ご主人様は「まて、話し合えばわかる」「お前がいなくて寂しかったんだ!」なんて言ってたけど、知らない。
私はこの人の顔を噛んだり引っ掻いたりした。

セージ様を救出した時、本当にツバサの言った通りになった。
かつて私を買おうとしていた人は私が死んだと聞いていて、そのことが書いてあった書類も残していたのが証拠になった。
こうして、かつてのご主人様は詐欺罪で全財産没収になった。

少しだけれど、お母様に会うことができた。
セージ様との生活は幸せだけど、ずっとお母様のことだけが気がかりだった。時々夢に出ることもあった程だ。
私を逃がしたから酷い目に合っていないか心配だったけど、どこにも怪我はなくてよかった。
私たちは涙を流して抱き合った。
「優しいご主人様に買われてよかったわね」
お母様はこう言った。
あのとき、お母様が足枷に細工をしなければセージ様に会うこともできなかった。
「お母様。あのとき、逃がしてくれてありがとう」
私はお母様に感謝した。
お母様はこれからの処遇を決めるため、しばらく軍に預けられることになった。
もう2度と会えないだろう。奴隷がこうして話せただけでも充分すぎる。
寂しいけど、感謝できてよかった。

セージ様は体の力が抜ける薬を飲まされていたみたいで、一日ぐらい眠っていた。
「部長、俺嘘ついてませんよ・・・・・・いや、ホントですって」
たまにこうしてうわ言を言っている。
怖い夢でも見てるのかな。
手を握ると、以前よりセージ様は痩せて細くなっていたのがわかった。体温も冷たい。
エリックさんは命に関わることはないから大丈夫って言ってたけど・・・・・・。
そういえば、ミシェルから借りた本に『王子様のキスでお姫様が眠りから覚める』ってあったよね。
ダメかもしれないけど、試してみよう。
セージ様も何でもやってみろって言うし。

セージ様の唇に私の唇をつけてみる。

やっぱりダメだったかな。
そう思って顔を離すと、セージ様が目を開けた。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑2500!!!】 ( No.217 )
日時: 2015/07/06 19:24
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

目が覚めた後、セージ様はカスパルたちから話を聞いて、お母様の引き取りを望んだ。
お母様に会えただけでも嬉しいのに、さらに一緒に暮らせるなんてセージ様はやはり神様のような人だと思った。

セージ様が戻ってきてから私たちに仕事を任せてくれるようになった。
普段は私たちだけじゃ危険だからって自由に外に出られなかったけど、取引先への挨拶やおつかいも頼むようになった。
今までセージ様は一人で外に出ることが多かったが、私たちを連れていくことが増えた。
前にセージ様は『自分がいなくなっても大丈夫なように』っていってたけど、セージ様がいないと寂しい。
もっと一緒にいたいのに、いなくなるなんて言わないで欲しい。
セージ様は時々一人で抱え込むときがあるから、いつも傍にいて笑っていてほしいと思った。

あと一週間で秋の祭りの日になる。
この国では収穫を祝い、これからの豊作を願う祭りが年に2回ある。
とても大きな規模のお祭りで、この日はほとんどの人間たちはお休みになる。
獣人は祭りには無縁だけど、セージ様は私たちも祭りを楽しめるように何か考えているようだ。
セージ様は祭りの日にお菓子を売るみたいで、何を売るかは私たちに任せると言っていた。
だから私とメルトさんとお母様がいくつかお菓子を作って考えている。
「ねえ、ルチカ。最近セージ様とはどうなのよ?」
メルトさんは悪戯っぽく私を見る。
「どうって・・・・・・いつも通りよ」
「そんなことないわよ〜。一緒にいる時間増えたんじゃない?」
確かにそうだけど、それは皆に対してもそう。私だけを特別扱いをしない。
お母様はクッキーの生地をこねながら言った。
「ルチカはセージ様の愛人ではないの?」
「うん。愛人は作らないってさ」
セージ様は『愛人』という言葉を嫌う。聞いただけでも顔をしかめる。
日本ではその言葉は良くないイメージみたい。私にそんなことはさせたくないと言っていた。
私は愛人じゃなくていい。奴隷でもいいから傍にいられるだけでいい。
メルトさんは「あの人ね、ネズミよりも小さな心臓で、凄く小心者なのよ!」と言った。

第22章 ~ルチカside ( No.218 )
日時: 2015/07/07 20:13
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

セージ様は祭りの日のことについて心配していることがある。

それは、レジスタンスの存在だった。
たくさんの人間が集まるから、きっと彼らも動くだろうと思っているようだ。
軍の人も祭りが近くなると、警備が厳しくしないといけないからよく愚痴を溢していた。
ネスカもマーティも例外ではなく、いつもよりイライラしているように見えた。
ネスカは「後先考えずに行動するバカたちのために私たちの仕事が増えるのよ」と言っていた。
私もレジスタンスの人たちが怖い。
以前、レジスタンスの幹部でライカって人に連れていかれそうになった。
私を解放してやるって言って。
でも私は今の生活がとてもいいと思ってるし、セージ様から離れたくないと言うと、ライカは怖い顔をした。
獣人の味方みたいだけど、乱暴な感じがして苦手。
セージ様とは話し合いをしたらきっと仲良くなれると思うんだけどな。

そして、祭りの日になった。

天気は快晴で祭りをするにはピッタリの気候だ。
セージ様はこの日の前日にお母様に髪を切ってもらった。
祭りのためにお休みにしている店もあれば、祭りのときだけの特別なお店ができていたりした。
私たちの店は広間が見渡せる位置に指定されていた。
セージ様がレイズさんに頼んでこの場所を貸してくれたようだ。
獣人が人間の命令なしで店番をするのは危険だとレイズさんは護衛を何人もつけてくれた。
家を買ったときからこの人にお世話になってばかりだなあ。
私たちは交代で店番をするみたいで、店番じゃない時間帯はお祭りを楽しんでいいと言っていた。
セージ様は店番だけでなく、レイズさんの様子を見に行ったり、私たちの近くにいたりするみたいで、休み無しみたいな感じだった。
「セージ様、また一人で抱え込んでいませんか?」
「大丈夫だよ。これが俺の仕事だから。
そのかわり明日にでもガッツリ休むから。そのときは甘やかせて貰います」
え?セージ様も甘えることがあるの?
セージ様を見ると、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
大抵のことは完璧にできるセージ様が甘えるなんて想像できなかった。

第22章 ~ルチカside ( No.219 )
日時: 2015/07/08 22:19
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

私たちのお店は『クレープ』というものを売っている。
セージ様に日本で流行りのお菓子について聞いてみたら、色んなお菓子を答えた。
セージ様は何でも知っていて、凄いなあって思う。
そのなかで『クレープ』というお菓子が気になった。
材料を切って、生地を薄く焼くだけだから、誰でも簡単にできる。種類が豊富で見た目も華やかだから祭りにピッタリ。
それに歩きながら食べられるというのが魅力的だった。
メルトさんに話すと大賛成してくれた。
おかげであっという間に色々な種類のクレープが考えられた。
持つための包み紙はツバサが図案を考えてくれる。
ツバサは絵がとても上手い。特に色の使い方が綺麗だ。
レイズさんに気に入られていてスカウトされているようだ。ツバサも乗り気なようだ。
祭りが終わればツバサはリードマン商会に修行しにいくらしい。
なんだかちょっと寂しくなるなあ。

「いらっしゃいませ・・・・・・」
私は道を通る人たちに声をかける。
「ほら、ルチカちゃん。元気ない声だとお客さんは振り向いてくれないわよ」
メルトさんは言う。接客の練習はしたけど、当日になると失敗や緊張してしまう。
セージ様は怖いなら店の奥で材料を切ったり生地を焼いてくれればいいと言うが、セージ様も休み無しで頑張っているんだから私も頑張る。
ガズナさんもレイズさんの獣人もいるんだし、大丈夫だよね。
出店してる店で歩きながら食べられるものなんて、私たちの店以外で売っていないから大繁盛だった。
たまに私たちをみると、明らかに嫌そうな顔をしたり、嫌みを言う人間もいるけど、レイズさんの獣人が守ってくれる。
メルトさんはお客様と会話して打ち解けている。
なんだか楽しそうに見える。すごいなあ、私も頑張らないと。

そのとき、知ってる人たちがやってきた。
「よう、ルチカ。お前、店やってんの?」
フォルドさんたちだ。
お祭りあるからこっちに来てたんだね。
「はい。クレープっていうんです。よかったらどうですか?」
知ってる人なら話せるから大丈夫。
セシリーさんはメニューをじっと見ている。
「たくさんあるのね。ルチカちゃんのお勧めはなに?」
「ええと、これがいいと思います」
私は果実とクリームが巻かれているのを指さした。
セシリーさんは頷いた。
「わかった。それにするわ。フォルド、いい?」
フォルドさんはにやりとして親指と人差し指でわっかをつくる。
「ルチカ・・・・・・俺たちね、これが・・・・・・」
何を言っているのかわからなくてキョトンとする。
後ろでトラブルさんが「賭け事なんてするからですよ」と言った。
あ、つまりお金ないんだ。
メルトさんが顔をしかめて言った。
「しょうがないわね。1つだけサービスしますから、選んでください」
「サンキュー!セージよりも全然気前いいな!」
それを聞いたとき、フォルドさんはすごく喜んでいた。
メルトさんはセシリーさんのほうを向き声を潜めて言う。
「金銭管理のできない男は覚悟したほうがいいわよ」
確かに毎日賭け事だと大変かもね。ご飯が食べられないなんてつらいもん。

その後、フォルドさんは1つだけと言われたからあれもこれも具材を注文して、メルトさんに怒られていた。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑2500!!!】 ( No.220 )
日時: 2015/07/09 19:49
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

フォルドさんはセシリーさんから果物をわけてもらって頬張っている。
「新顔がたくさんいるな。ところでさ、セージは?」
「セージ様はサイトたちと広場を回ってると思う」
「そっか。じゃあそのうち見つかるかもな。行くぞ!」
そういって、フォルドさんは駆け出してしまった。
えー・・・・・・もう少しお話ししないの?
トラブルさんは「もっと落ち着いて行動しなさい」って口にクリームつけて言ってる。
フォルドさんってあちこち動き回るから着いていくのが大変そう・・・・・・。
セシリーさんは笑って「またね」と言った。
そういえば、フォルドさんとセシリーさんはどうなったのかな・・・・・・。何か変わったかな?

少ししてセージ様がサイトとキリを連れて戻ってきた。
「おつかれ、何か変わったことなかった?」
私はさっきあったことを伝えた。「さっきフォルドさんたちがここに来ましたよ」
「マジか。俺もさっき広場でサルサさんに会ってきた。入れ違いになったかもな」
あ〜あ、もう少しお話ししてたら会えたかもしれないのにな。
会ったら喧嘩になってたかもしれないけど。
キリはサルサさんの曲芸について「剣を飲み込んだり、炎を吐いたりしてたんだぜ。俺もできないかな」と目を輝かせて言っていた。
セージ様は私の頭をポンポンする。
「どうする?次はルチカが祭りを見に行くか?お母さんも連れていこうか?」
私は頷いた。

お母様は「私はいいからルチカが行ってきなさい」と言った。
セージ様はメルトさんにも誘ったけど、メルトさんは「私が店番しないでこの店大丈夫なの?」と断った。
ツバサにも誘ってたけど「空気読め、バカ!」って怒られてた。
こうして、私とセージ様の二人だけで街を歩くことになった。
私は帽子をかぶる。
初任給の日に買ったものだ。
セージ様によく似合うって言ってくれたから、お気に入りだ。

第22章 ~ルチカside ( No.221 )
日時: 2015/07/10 19:16
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

セージ様と街を歩いたのは2回目だ。
人が多いから、手を繋いで歩く。
「ルチカはどこか行きたいところある?」
セージ様はいつも自分よりも私たちのことを優先する。
セージ様が何かしたいと言うのをあまり聞いたことがない。
私は逆にセージ様に聞いてみた。
「セージ様は行きたいところはないですか?」
セージ様は首をかしげて考える。
「うーん、俺は特になあ・・・・・・。そうだ、何か食べるか」
「はい!」
セージ様とご飯を食べることになった。
よくみると、セージ様は私を庇うようにして歩いているのがわかった。
人とぶつかりそうになったら、さりげなく手を引いたり、前に出たりしている。
見えないところで気を配っているんだなあ・・・・・・。

街を歩いていると、【すーつ】というセージ様と同じような服を着ている人を何度も見かける。
綺麗な服を着た獣人もいる。
今、この国ではセージ様みたいなことをするのが流行っているとミシェルから聞いたことがある。
「でも一番似合ってるのはセージ様ですよね」って言ってた。
私もそう思う。セージ様にそういうと、少し嫌がるけど。
誉められるのが苦手みたい。
獣人たちへの扱いが少しでもマシになったのかなって思ってたけど、そうでもないみたい。
セージ様は私たちよりももっと見かけることがあると思うけど、何も言わない。
こういう人たちを見てどう思っているのかな。

お店を見つけて、二人でご飯を食べることにした。
カフェの二階席に座った。
セージ様と二人きりで食べたのは初めて会ったときぐらいだ。
セージ様の顔を見ると、少し難しそうな顔をしている。
セージ様は考え事をしているとき、こんな顔をしてずっと一点を見つめている。
最近はよくこんな顔をしているのを見る。
「セージ様?どうしたのですか?」
「ルチカ。なんでもないよ。これウマイな」
「あまり無理しないでくださいね。私ももっとお手伝いします」
セージ様は「ありがとう」なんて言ってるけど、祭りまで忙しかったよね。

ご飯の後、私はあまりセージ様を疲れさせないようにするにはどうすればいいのか考えた。
考えた結果、カフェの二階席からパレードを眺めることにした。
華やかな服装をした人たちが長い列を歩く。
セージ様はパレードはあまり見たことがなかったみたいで、窓から身を乗り出して見ていた。
これなら場所を移動しなくてもいいからよかったと思う。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑2500!!!】 ( No.222 )
日時: 2015/07/11 11:01
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

パレードが終盤に近づいて、私たちは店に戻ることにした。
お金はセージ様が全て払った。
「ありがとう、ルチカ。パレード見れてよかったよ」
セージ様にお礼を言われて嬉しい。
その後「俺に気を使わないで、もっとこうしたいってワガママ言ってもいいんだぞ?」って言われた。
バレちゃってたんだ・・・・・・。
でも、私はセージ様の側にいるだけで満足だからいいの。

店に戻るまでまた手を繋いで歩く。
なんだかちょっと寂しいと感じた。
この時間が終わらなかったらいいなあ・・・・・・。

突然、後ろで大きな爆発音がした。
音がしたほうを振り向くと、石像が倒れるのが見えた。
「ルチカ!」
セージ様が私の名前を呼んで、後ろから庇うように抱き締めた。
石像まで少し距離があるから、私たちは大丈夫だったけど、破片が少し飛んできた。
「大丈夫か?」
セージ様に抱き締めたまま聞かれた。怪我はどこもしていない。
「私は平気です。セージ様は?」「俺も大丈夫だ」
私から離れると、スーツに着いた砂ぼこりを叩いて払う。
倒れた石像の方へ駆け寄ると、大勢の人が倒れていた。
中には血を流している人もいる。
「怪我人を安全な場所に運んで!後は軍か保安官が来るまで勝手に動くな!」
セージ様はすぐ近くにいる人に指示をだした。
しかし、セージ様の指示を無視して我先にと逃げ出す人もいた。
男の人たちは怪我をしている人を運んだ。
石像のほうに3人いるのが見えた。
フォルドさんだ。石像を押し退けようとしている。
町の人がフォルドさんを引き留める。
「お前さん、ここは危険だよ!離れなよ!」
「うるさい!セシリーがそこにいるんだ!」
セシリーさんが石像の下に!?
セージ様もその会話が聞こえたようだ。フォルドさんのもとへ駆け寄る。
「おい、それは本当か!」
「ああ、子供を助けたときに、下敷きに・・・・・・」
そのとき、町の人の笑い声が聞こえた。
「兄ちゃん、諦めなよ。今ここにいるほうが危険だ。獣人なんてまた新しいの買えばいいさ」
「今なんつった、あぁっ!?」
フォルドさんは走りだし、町の人を殴り飛ばした。
さらにつかみかかる。
「お前にセシリーの何がわかる?
セシリーはな、美人で優しくて、こんな俺でも文句1つ言わずにずっと側にいたんだよ。人間よりも綺麗な心を持っているんだよ!代りなんてなるやつはいないんだよ!」
話しながら、フォルドさんは何度も何度も相手を殴る。
それを止めたのはセージ様だった。
フォルドさんの手をつかんで、空いている方の手はフォルドさんの頭を勢いよく叩いた。

パァンと辺りに響く。

その音で辺りは静まりかえった。
セージ様は言う。
「そんなに大事な人ならいらない喧嘩は買うな。救助に専念しろ」
そして、今度は町の人たちを見渡す。
「お前ら邪魔だ。次なんかしたら俺が消す」
とても低い声だった。
町の人たちは小刻みに頷いた。
セージ様は無言で石像の方へ戻った。その後にフォルドさんもあわてて戻る。

第22章 ~ルチカside ( No.223 )
日時: 2015/07/11 20:01
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

セージ様は鞄から道具をいくつかだした。
金属の棒のようなものと、先が尖ったものもある。
「役に立つかわからんが、これで岩をどかしたり、砕いたりするぞ」
そう言って、フォルドさんたちに渡した。
フォルドさんは岩を砕きながら言った。
「すまねえ、あんたになんて言ったらいいか…」
「謝罪より、助かったあとの感謝だけでいい」
セージ様は棒を岩の下に差し込んで動かそうとするが、岩は僅かに浮いただけだ。
町の人はセージ様が怖いのか、距離をとっていて何か言おうとしなかった。

そのとき、背後から足音が聞こえた。
振り向くと同時に人間が何人か飛ばされたのが見えた。
「邪魔だ、どけ」
周りよりも頭が2つ分大きい人が大股で歩いてきた。
サイトより大きい。
アゴヒゲまで繋がった赤い髪が風に靡いて、大きな牙を見せる。
人間たちは彼を見ただけで逃げ出した。
周囲には鷹や狼の獣人がおり、逃げる人間を追いかけたり、建物に火を放ったりした。
さっきまでの楽しい雰囲気が嘘みたいに崩壊した。
「ふん、腰抜けどもが」
獣人は辺りを見回してふん、と鼻を鳴らす。
その獣人の側にはライカもいた。
この人がレジスタンスの一員だというのがわかった。
ライカは私と目が合うと、驚いた顔をした。大きな獣人は口を開く。
「ライカ、知り合いか」
「は、はい。一度だけ会いました。勧誘したのですが、断られて・・・・・・」
獣人は「ほぅ?」と私を見る。
見られるだけで泣きたくなるけど、なんとかこらえた。
私は石像を指さした。
「あの・・・・・・あそこに獣人が下敷きになっているんです。仲間なら助けてください」
獣人は「ふっ」と笑った。
「小娘。随分いい生活をさせてもらっているようだな。他の獣人がどれだけ辛い生活をしているか考えたことはないか?
我々は貴様らのような人間の手先も攻撃の対象なんだよ」
今まで他の獣人から嫉妬と羨望が混じった目で見られることは知っていたし、そのたびに罪悪感を感じていた。
私も以前は彼らと同じ生活をしていたから気持ちがすごくわかる。
彼らにできることが何もなくて、申し訳なく感じる。
私は口を開いた。
「だからってこんなことするのは間違ってるよ!私、暴力で解決する人、大嫌い!!」
私がそう言うと、獣人は顔をしかめた。
「人間とつるんで堕落しきった獣人と話し合っても無駄だな。この何もわかっていない小娘を制裁するか」
「ダグ様・・・!」
「見事に振られたな、ライカ。この娘のことは諦めろ」
後ろでセージ様たちがセシリーさんを救助しているところだ。助けを求めるわけにはいかない。
こんなことぐらいしかできないけど、私は彼らの前に立ちふさがった。

第22章 ~ルチカside ( No.224 )
日時: 2015/07/12 09:21
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

そのとき、いつの間にかすぐ背後にセージ様が立っていた。
「さっきから邪魔だよ、おめーら」
石像のほうを見ると、セシリーさんの上半身が見えた。
意識を失っているみたいで、ぐったりしていた。フォルドさんが手を握って励ましている。
セージ様はセシリーさんのほうに指をさした。
「これがお前らがやったことだ。わかっているか?」
「人間の味方は我々の敵だ。始末して当然だ」
「人間もお前らに同じように報復するかもしれないな」
「望むところだ。そのときは我々獣人は受けてたとう」
ここでセージ様はより低い声で言った。
「お前の意思が獣人全体の意思みたいなことをいうな。
お前の結論が下にいるやつらの命を奪うことになっているのがわからないのか」
痛いところを突かれたのかダグの顔が歪んだのがわかった。
セージ様が言ったことはなんとなくしかわからないけど、また戦争が起こってたくさんの人が死ぬのは嫌だな・・・・・・。
獣人もそうだけど、人間も。
人間にもいい人がいるってわかってるんだもん。
ダグは声を荒くして言った。
「貴様に何がわかる!仲間を、家族を殺された上、誇りを奪われた獣人の気持ちがわかるか!」
そのとき、なにか破裂したような大きな音が聞こえて、ダグの胸が突然出血した。
聞いたことがない音で私は思わず耳を塞いだ。
レイズさんが手に黒いものを持っていた。その黒いものの先端から煙が出ている。
「我がリードマン商会の最新武器を試させてもらったよ。的が大きいと、当たりやすいな」
レイズさんの周辺には軍隊の人たちがたくさんいた。
すでに獣人と戦っている人も見えた。
彼らはジリジリとダグを取り囲んでいく。
ダグは言った。
「ライカ。貴様だけでもいい、逃げろ!」
「ダグ様、私も最後までお供します」
「貴様まで死んでどうする!私の代わりにレジスタンスの頭となって獣人たちを導いていけ!」
そう言ってダグは獣化を始める。
「獣化するぞ、気を付けろ!」
「怪我をしていても油断をするな、獣の王だからな!」
軍人たちは緊張した面持ちで武器を一斉に構える。
そのなかには獣人もいた。
ダグは赤いライオンに獣化した。
レイズさんは今度はダグの足を狙った。もう一度大きな音が聞こえる。
二ヶ所を怪我しているにも関わらず、ダグの動きは衰えなかった。
「ダグ様・・・・・・生きて会いましょう!全体、撤退するぞ!」
ライカは命令すると獣化して、軍人たちの頭を鮮やかに飛び越えた。
そして、軽やかに逃走する。
「逃がさんぞ!あいつも高いんだ!」
軍人たちの何人かはライカを追いかけた。それを阻むように、ダグは牙を剥く。
ライカの命令でほとんどの獣人がこの場から去った。
ダグだけが多くの軍人たちと戦った。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑2500!!!】 ( No.225 )
日時: 2015/07/12 18:39
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ダグは一人になっても、最初はたくさんいる軍人を相手に互角に戦っていた。
しかしレイズさんの武器で負った怪我が効いているようだった。

セージ様は私を抱き締めて、そっとその場から離れた。
まるで、私に戦闘を見せないように。
「怖いか?」
いつもの優しい声が頭上から聞こえる。
私は頷いた。
セージ様は言った。
「俺も怖いんだ。戦いなんて嫌いだ。俺たちはできることをやろうな」
そう言ってセシリーさんが倒れている場所に向かう。
ちょうどセシリーさんを救出できたようだ。
石像は壊されていて、破片があちこちに散らばっている。
セージ様が近づいたことがトラブルさんとサルサさんは気づいたみたいだけど、フォルドさんは顔を上げない。
「セシリー!しっかりしろ!」
トラブルさんもどう声をかけたらいいのかわからないようだ。
セージ様が声をあげた。
「揺さぶるな!脳に損傷があったらどうする!」
声の鋭さにフォルドさんはようやく気づいたようだ。目が真っ赤だ。
いつもの底抜けの明るさを感じない。
「じゃあどうすればいいんだよ・・・・・・」
「任せとけ。まだ間に合う」
セージ様は「失礼します」というと、セシリーさんの服をはだけさせた。
体に直接触り、傷を探す。
そして、傷のある場所は光って消えた。
フォルドさんはまばたきせずに、セシリーさんを見ていた。
そして、傷が無くなったときはセシリーさんは穏やかに眠っているようだった。
「とりあえず応急処置で細胞を繋げただけだから、あまり無理させると傷が開くぞ。今日はうちに泊まっていけ」
「ここまでしてもらってなんて言ったらいいか・・・・・・」
「感謝だけでいいっていったろ?」
セージ様は上着をセシリーさんの体に掛けた。

ダグはレジスタンスのリーダーのようだ。
ライオンの獣人で、一人で人間が百人分の力があると恐れられていた。
彼はさっきまでここで戦って殺された。
軍隊もかなりの人が怪我をしていた。セージ様は彼らの手当てにも駆り出された。
こうしてダグの体は運ばれた。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑3000!!!】 ( No.226 )
日時: 2015/07/13 19:30
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

お祭りがあった日なのに、私たちはぐったり疲れてしまった。
夕食はフォルドさんも一緒に食べたけど、静かだ。
キリでさえ、騒がなかった。

セシリーさんは夕食の直前に目覚めた。
会話ができるぐらいには回復している。
明日から体力の回復を少しずつするみたいだ。
フォルドさんたちもここにしばらく滞在するようだ。

夕食が終わって、セージ様は皿洗いをしてから自分の部屋に籠ってしまった。
きれい好きなのにお風呂にも入らないなんて珍しい。
しばらくすると部屋から出て、セージ様はお酒を持ってまた部屋に籠ってしまった。
誰とも会話しようともしない。皆も遠巻きに見守っているような感じだ。
セージ様は格闘技はできるけど、戦うために身に付けていないと話していた。
日本はかつて戦争に負けて、戦争をしないと誓った国だと教えてもらった。そのため争いや戦争を嫌う。
さっきのことがとてもショックだったんだと感じた。
私はセージ様の部屋の前を少しの間ウロウロしてから部屋に入ることにした。
扉をノックする。
「セージ様・・・・・・」
セージ様の返事はない。
恐る恐るドアノブに手を掛けると、鍵はかけていなかった。
部屋の中に入ると、セージ様はスーツを着たままベッドに横たわっていた。
机には、難しい計算がしてあるノートと、お酒が少し残ったコップが置いてあった。
私が近くに寄っても目覚める様子はない。
このままゆっくり休ませてあげたいけど、セージ様がいつも大切にしているスーツがシワになってしまう。
私はセージ様の耳に顔を近づけ、そっと言った。
「セージ様、上着だけでもかけておきますからね」
「うん・・・・・・」
セージ様はそれだけ返事した。お酒の匂いが少しする。
起きているかどうかわからないけど一応返事したので、私はセージ様の上着のボタンに手をかけて外した。
なんとか上着を脱がせることができたので、掛けようとするといきなり尻尾を捕まれた。
振り向くと、セージ様は尻尾を掴んだまま幸せそうな顔をして眠っている。
尻尾を触られるのは好きじゃないけど・・・・・・眠っているから仕方ないよね。
私は上着を畳んで、近くに置いた。
そして、セージ様が私にいつもやっているように頭を撫でてあげる。
明日、少しでも元気になったらいいな。
私も眠くなって、いつの間にか私はセージ様の隣で眠ってしまっていた。