複雑・ファジー小説

第23章セージside ( No.228 )
日時: 2015/07/14 22:16
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

【第23章セージside】

目覚めたらルチカが目の前で眠っていた。

あれ?

俺、あのあと売り上げの記録をつけて、あまりにも疲れたから酒飲んで寝てたんだよな。
そこから記憶がない。
なんでルチカがいるの?幻覚?
いや、密着してるから多分実体なんだろうな・・・・・・。
何故か俺、上着脱いでるし、何かにしたのかな。
とにかく離れないとまずい。
猫だったら嬉しいけど、ルチカは女の子だからな・・・・・・。
身じろぎをしたからか、ルチカも目を覚ました。
「あ・・・・・・、セージ様。おはようございます」
いや、おはようじゃねぇよ。
朝から俺の頭の中が緊急事態だよ。俺、低血圧だから頭が働くのに少し時間がかかるんだよ。
酒を飲んで羽目をはずしたことなんてないが、念のため何があったか聞いておこう。
「おはよう。ルチカ、なんでそこにいるの?昨日俺、何かした?」
「えっと・・・・・・。
昨日、セージ様の様子がおかしかったから、気になって、部屋に入ったら、セージ様が眠っていて・・・・・・。
スーツがシワになったらいけないと思ってかけようとしたら、セージ様が尻尾を掴んで・・・・・・」
話を聞いて大体わかった。
まあ、きっと何もなかっただろうなと思っていたのだが。
「そうか。ごめんな、猫って尻尾触られるのは嫌だっただろ」
「いえ、セージ様なら・・・・・・いいです」
なんだ?その意味深な言葉は。
たまに誤解を招きそうな言動をするよな。
俺がルチカに言おうとしたとき、ルチカのほうが先に口を開いた。
「セージ様、喉乾いていますよね。お水持ってきます」
俺が朝起きたら一番に水を飲むってよくわかってるじゃないか。
嫁さんになったらいいよな・・・・・・。
膨らみそうになった妄想を中断する。
あんな出来事があった翌日に、楽しい妄想なんて不謹慎じゃないか。
またプロポーズのタイミングを逃してしまったような気がする。
いや、このままズルズルと引きずるつもりはない。
落ち着いたころに絶対にしてやる。
しかし、告白されたことはあってもしたことはないんだよな・・・・・・。
断られてもきっとルチカは俺に気を使うだろうなあ。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑3000!!!】 ( No.229 )
日時: 2015/07/15 21:53
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

祭りの日にレジスタンスの連中がテロを仕掛けてきた。
以前からテロの警戒をしており、軍は対策を綿密に練っていた。
俺はその情報を第3部隊やレイズさんから受け取っていた。
ある日、レイズさんからこんなことを言われる。
「君も店をやってみないかい?うちが後ろ楯になるからさ」
俺は躊躇した。
普段頑張っているあいつらに色々な体験をさせたかった。接客は勉強になることがたくさんある。
しかし、獣人に対する差別が根強いのと、テロのことが気になっていた。
レイズさんはおそらく俺をリードマン商会の広告塔にさせたかったんだと思う。
日本では何でもないことがこの国では新鮮なようで、何をやっても目立つようになってしまった。
挙げ句の果てに俺の真似までする奴まででてきた。
俺からしたら気恥ずかしいんだけどな・・・・・・。
レイズさんが熱心に色々提案してくれて、俺は店を出すことにした。
俺もやってみたかったしな。
獣人が中心となって店を動かすから、護衛としてレイズさんの従業員を借りた。
衛生法とか小難しい法律がないから細かいことは考えなくていいって便利だな。
さらに第3部隊の詰め所に頻繁に訪問し、最新情報を受け取ったりした。

その結果がこれだ。
やつらはクレイリアを建設したときの国王の石像を爆破しやがった。
セシリーさんは子供を庇おうとして、石像の下敷きになった。
そのときレジスタンスの親玉であるダグが現れ、軍と乱闘した結果、ダグが討ち取られた。
獣人も人間も多くの人が血を流して後味悪い状態で祭りは幕をしめた。
セシリーさんがなんとか一命をとりとめことだけでも救いだ。

たしかにレジスタンスのいうとおり、俺の都合であいつらを振り回している自覚はある。
危険だからといって、あいつらの行動を制限してばかりだ。
レジスタンスのボスに偉そうに説教を垂れていたが、俺自身やっていることは正しいかどうか俺自身がわからない。
獣人を家族のように扱う奴が増えたというが、結局は奴隷であることは変わりはない。むしろ、奴隷同士の差別という新たな問題ができてしまった。
こんな俺だが、あいつらも俺に着いてきてくれるから、俺も応えなければならないと思っている。
まともな生活をさせるまで時間がかかるかもしれないが、それまで俺は力を尽くすつもりだ。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑3000!!!】 ( No.230 )
日時: 2015/07/16 19:23
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ルチカが水を持って戻ってきた。
俺はコップを受け取って飲み干した。冷たい水がカラカラの喉を潤した。
ルチカは口を開いた。
「セージ様、今日はゆっくり休んでくださいね。料理も掃除も私たちがやりますから」
そう言って甘えるように見上げてくる。
そうだな、今まで働きづめだったしな。たまには休息も必要だ。
特にここ最近は忙しすぎて、皆とまともに会話できていなかったと思う。
しばらくはスケジュールも空けておくか・・・・・・。

部屋から出ると、扉の前で皆が待ち伏せをしていた。
なんかこの前もこういうことがあったような・・・・・・。
さらにいつものメンバーに加えて、トラブルさんとサルサさんもいる。
「何をしている」
俺の問いかけに皆は気まずそうに視線をそらす。
そして全員俺から背を向けてしまった。
ひそひそと声が聞こえる。
「あれ?皆でおめでとうって言わないの!?」
「バカか、この雰囲気でできるわけないだろ」
「これから旦那とルチカにどう接したらいいんだろう・・・・・・」
「普通にしてたらいいんじゃないの。セージ様は繊細なんだから」
おーい、どういう会話だ。
なんか俺、誤解されているような気がするぞ。

朝食の席で俺は言った。
「まさかお前らがここまで下世話なことが目的だとは思わないが、一応言っておく。
昨日はルチカと何もない」
すると、周囲はしんとした。
俺に対する視線が痛い。
食器がカチャンと鳴る。静かな部屋にはやけに大きく聞こえた。
おい、図星かよ。
翼が身を乗り出してきた。
「じゃあ昨日のはなんだったんだよ!一緒に寝ただけで何もしてないのか!?」
「そうだよ!
ていうかお母さんの前だぞ!そんな下世話な話題をするなよ!」
ルチカのお母さんこと、タチアナさん(ついお母さんとよんでしまう)はニコニコしていた。
「私のことは気になさらないでくださいね。娘を気に入っていただけると、幸いです」
おいおい・・・・・・。
母親までそんなことを言うか。
自分の娘を得たいの知れない外人のお兄さんにはいどうぞ、と渡すのか。
俺とルチカの交際は半ば公認になっているような気がしていた。

第23章セージside ( No.231 )
日時: 2015/07/17 23:05
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

フォルドさんを朝から見かけない。
トラブルさんによると、セシリーさんに付きっきりだったそうだ。
そりゃそうだろうな。昨日は愛の告白みたいなのを聞かされたんだからな。
あんな真っ直ぐな言葉、セシリーさんに聞かせてあげたかったなあ・・・・・・。今の日本でなかなか聞かねえぞ。
あの二人なら、結婚まで時間の問題だろう。初めて会ったときから付き合ってそうな雰囲気だもんな。
フォルドさんがギャンブルにはまらなかったらいいんだけど・・・・・・。
皆さあ、俺よりフォルドさんのこと気にしようよ。俺なんか見てても面白くないよ。
あの二人が結婚したら盛大にお祝いしてやろう。からかわれた仕返しだ。末長く爆発しろ。

セシリーさんは少し遅れて起きてきた。フォルドさんも一緒だ。
フォルドさんに支えてもらいながら歩いている。
俺はセシリーさんにあいさつした。
「セシリーさん、おはよう。もう動いて大丈夫なの?」
傷を塞ぐだけの応急処置はしたが、流れ出た血は戻らない。
「おはようございます。少しフラフラしますが、大丈夫ですよ。昨日は家に泊めていただいて、ありがとうございました」
と礼儀正しく頭を下げる。
思っていたよりもセシリーさんがしっかりしてそうなので、少し安心した。
獣人は人間よりも体力があると聞く。怪我の治癒も早いのはそのせいかな。
セシリーさんの顔色は悪くないし、この調子なら予想よりも早く完治するかもしれない。
フォルドさんは口を開いた。
「そういえば、セージ君。君はルチカと一緒に寝たんだっけ?」
「てめぇ・・・・・・。人のことよくそんなこと言えるな」
昨日のことがなければ一緒に酒を飲んで、からかってやろうと思っていたのに。
そのとき、フォルドさんは神妙な顔をして言った。
「なあ、ずっと思っていたけど、恥ずかしいことなのか?」
「そりゃ恥ずかしいよ。日本人は相手への思いをオープンにしない民族なの」
むしろ皆がオープンにしすぎだと俺は思う。
日本人特有のオブラートに包むということを知らない。失礼なことも平気で言う。
「ふぅん。そんなんだと、いつまでも伝わらないな」
「うるさいな。心の準備ができて落ち着いたら伝えるつもりだよ!」
そのとき、フォルドさんもセシリーさんも目を見開いた。
なんか俺、ポロっと言ってしまったような気がする。
フォルドさんの顔がみるみる明るくなる。
「よく言った、セージ!さっさとルチカに思いを伝えろ!できればやれ!」
「いやあのこのタイミングはちょっと・・・・・・あの、やれってなに?」
「なに言ってるんだ!いつまでもウジウジウジウジするな!
いつまでも決まらなさそうだから俺が代わりに言っちゃうぞ!」
「わ!まて!やめろ!」
朝から騒いだおかげで昨日からのちょっとセンチメンタルな気分が飛んでいってしまった。
こんだけ騒いだら、ルチカは聞こえてるだろうな・・・・・・。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑3000!!!】 ( No.232 )
日時: 2015/07/18 19:55
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ルチカは確か庭で洗濯物を干しているはずだ。先程洗濯物を持って歩いているところを見た。
窓から見ると、予想は当たった。
一瞬俺を見たが、すぐに視線をそらして洗濯物を干していた。
あーあ、これ聞こえてたな。
これ以上隠すこともないか。
俺はルチカがいるところへ向かった。

ルチカは俺が近づいてきたのに気付いていたのか、目をあわせようとしないし、動作がぎこちない。
「ルチカ、話をしてもいいかな?」
ルチカは恐る恐る俺を見る。手には俺のシャツを握りしめて。
俺は続ける。
「聞こえてたと思うけど、改めて言う。本当はもう少し日が経ってから言うつもりだったけどな」
俺はここで一旦区切りをつけ、深呼吸する。
人生最大のターニングポイントだ。落ち着け、俺。
「俺はルチカが好きだ。・・・・・・その、君が女性としてだ」
友達とかの好きではないと通じたはずだ。
ルチカは小刻みに震えて顔を真っ赤にしている。
俺はルチカの様子を見ながら、続ける。
「この世界では獣人は愛人にするのが普通らしいが、俺はそんなことする気はない。将来、ルチカと結婚も考えている」
ルチカはようやく口を開いた。
「セージ様・・・・・・私なんかでよろしいのでしょうか・・・・・・」
「それは俺もだよ。ルチカは俺のいいところしか見ていない。
本当の俺はもっと汚い。自分の立場をよくするために常に演じているんだ。
これからルチカはそんな俺を見ることが増えるだろう。そんな俺を見て、絶望されると怖いんだ。
好きな女の子が傷つくところは見たくない」
そのとき、ルチカは俺に抱きついた。勢いが強くて少しよろめいたが、抱き止める。
ルチカは口を開いた。
「セージ様は汚くなんてありません。セージ様は身を削って私たちを幸せにしてくれました。皆、セージ様に感謝しています」
俺の胸元が濡れる。ルチカは泣いているのだろう。
俺から離れようとしたが、俺が抱き締めて離さなかった。
「私、賢くないし、セージ様の言葉が時々わからない自分が憎いんです。
セージ様が一人で悩んでいるのをみるのが辛い・・・・・・。
一緒に同じように悩めたら、と思うことがありました
セージ様のためなら傷ついても構わないし、命を捧げる覚悟もあります」
最後の言葉に俺は戸惑った。慌てて体を離す。
「ちょっ・・・・・・言いたいことはわかった。俺で、いいの?」
ルチカは頷く。
俺は続ける。
「ルチカは気配りできるし、バカだとは思わないよ。でも、俺のために命を捧げるとか無しな。
・・・ありがとう」
誰かを愛するなんて、俺自身が一番信じられなかった。
俺は目の前の女の子を幸せにすると心に誓った。

第23章セージside ( No.233 )
日時: 2015/07/19 12:02
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

「セージ様は休んでいてください」と言われたので、俺は魔法でベンチを出現させ、ルチカを見ていた。
まだ夢の中にいるみたいだ。
つい先程、ルチカは俺の恋人になったのだ。
お母さんに報告しないとな。
なんて言おう?「娘さんを俺にください」?そして土下座?
お母さんのことだから「是非お願いします」って言われそう。
結婚はするが、少し時間を置くつもりだ。ルチカが幼すぎてまだ判断できる年じゃないだろう。
俺がルチカ以外の女になびくわけがない。

洗濯物を干すのが終わったようだ。
ルチカはこっちに小走りで来た。
「ルチカ、ここに座って」
「はい」
俺は隣に座るよう、促した。
ルチカは「失礼します」と座った。
俺は口を開いた。
「恋人同士なんだから、敬語は無しな。俺と対等なんだから」
「え・・・・・・セージ様・・・・・・えっと」
予想通りルチカは戸惑った。
奴隷が当たり前だという獣人からすると、いきなり対等にしろと言われても困るだろう。
「慣れればいいよ。・・・・・・さて、恋人になったということで、早速甘えさせてもらおうかな」
「えっ・・・・・・?」
俺はベンチに座ったルチカの太ももの上に頭を乗せた。俗にいう膝枕だ。
女の子の太もも、サイコー。
お巡りさん、来てもここから動きませんよ。
ルチカは何されているかわかっていないだろうなあ。体を硬くしている。
説明は後でいいや。
「10分だけ寝るよ。おやすみ」
「あ、おやすみなさい・・・・・・」
俺は目を閉じた。
・・・・・・そういえば、ルチカって時間の概念わかっていたっけ?
仮眠にして自分で起きるか。
ルチカ小さな手が俺の顔を撫でたのがわかった。石鹸のいい匂いがする。

少しして足音が聞こえてきた。
フォルドさんとルチカの声が聞こえてきた。
「おい、どうだったんだ?・・・・・・ってこの様子じゃ上手くいったみたいだな」
「どうって・・・・・・?あ、ありがとうございます」
「しかし気持ちよさそうに寝てるな〜。ニヤニヤして気持ち悪い」
「あの、セージ様は起きていると思います。だから静かにしてあげてください」
わかってるじゃないか。
全部会話は聞こえているよ。
寝てるふりを続けてやる。
フォルドさんは「幸せになれよ」と立ち去った。
これじゃ、爆発するのは俺の方だな。