複雑・ファジー小説

第25章 セージside ( No.242 )
日時: 2015/07/23 19:28
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ルチカとある場所に転移する。
以前発見した無人島だ。世界は丸いという概念がないため、誰も大陸を出ようとしなかった。
そのため、存在を知らない場所だ。
国王と会うと、絶対にトラブルがあるということは既に予想していた。
安全のため、城に行く前にあらかじめ家具と同居人たちを移動させておいた。
そうしておいて、正解だった。

転移すると、サイトが早速何かをいくつか持ってやって来た。
「旦那、なんか形は変だけど、上手そうなやつがありますぜ!」
見せてきたのは俺にとって見覚えのある果物ばかり。
それらのうち、細長い黄色いものを手にとって皮をむいて食べてみた。
「ん、これ、バナナだ。バナナ」
「バナナっていうんすか?」
「うん。栄養あるからいいぞ。他のも多分食べられる」
「マジっすか!?」
そういえば、クレイリアには馴染みがないものだっけな。
食料はこれでなんとかなりそうだ。
他の果物について話していると、メルトさんがやって来た。
「サイト、遊びに来てるんじゃないのよ」
あ、すみません。
俺も目的を忘れかけてました。
メルトさんは神妙な顔をして言う。
「どうだったの・・・・・・?」
「だめだった」
こうなるってわかっていた。
でも辛いな。
戦争が止められなかったって。

エリックさんから国王陛下のことは何回か聞いていた。
会って話をしたいと言われたとき、何か裏があると思ったから、慎重になった。
爵位をもらうということは、責任を果たさなければならない。
その頃、ルテティアとの関係が怪しくなってきたというのも気になっている。

魔力が強くなると、前世の記憶をだんだん思い出してきた。
そして、これから世界がどうなるかということも。
クレイリアとルテティアは長い間、戦争を続けてきた。そのため、世界を構築するシステムのあちこちにガタがきてしまったのだ。
今すぐにでもそのシステムを直さないと、世界が滅びてしまう。
神は基本的に人間に手出しをできない。
だから前世ここにいた俺をこの世界に送り込んだ。
人間に見切りをつけ、俺に獣人たちをここに連れてこさせようとしていた。
世界が滅んでも、ここだけは安全地帯のようだ。
所謂ノアの方舟計画だな。

しかし、俺はなんとか戦争を食い止めたかった。
知り合いが誰もいなかったら、こんな糞みたいな国なんてどうでもいいが、不思議な縁で大切な仲間がいる。
ダメ元で国王に説得をしてみたが、あいつは俺を道具としかみていなかった。
このまま黙ってクレイリアが滅ぼされるのをこの島から見送るしかできない。

前世の俺は獣人の王だった。
もう絶滅しているが、竜の獣人だ。
なぜか神とは友人のような関係だったらしい。
前世のときは、仲は良くないが、人間も獣人も平等に暮らしていた。
今の俺と違って、聖人君主みたいなやつだったようだがな。
だが、人が良すぎて人間に裏切られて殺された。
そんなことがあったから、神は人間が嫌いなんだろう。

第25章 セージside ( No.243 )
日時: 2015/07/30 22:58
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

俺は無意識にこの言葉を言った。
「ごめんな。俺にはできなかった」
項垂れる俺にルチカはそっと寄り添ってくれた。
戦争を実行する国王が原因だから、この謝罪は目の前にいるルチカやメルトさんに対してじゃない。
俺を連れていったエリックさんや、第3部隊の皆、俺と知り合った人たち。
そして、戦争とは無関係の人たちだ。
ルチカは言った。
「セージ様は悪くないわ。私たちにはできることをやりましょ」
そうだよな。
おちこんでなんていられない。
今、辛くても前に進むときなんだ。
俺は一人でエリックさんのところに向かった。

どうやら陛下は怒って出ていってしまったようで。
エリックさんが中庭のベンチに座っているところを発見した。
エリックさんが俺の存在に気がついたところで声をかける。
「エリックさん。さっきは顔に泥をぬるような真似をして、申し訳ありませんでした」
「いいのですよ。しかし、世界が滅ぶなど・・・・・・全く想像できませんな」
エリックさんは俯いた。
体がわずかに震えている。
「神にお聞きしたい。あなたはなぜこんなに無慈悲なのかと。
奴隷になって辛い境遇にある獣人たちを救わないのかと
ミシェルもそうです。幼くして家族から離されて・・・・・・。愛しているのですが、本当に幸せにしてやれているのか時々不安になるときがあるのです」
神は無慈悲じゃなくて、放置しているだけだがな。あれこれ介入できない事情もある。
俺は口を開いた。
「確率は低いですが、助けられる方法はあります。獣人の楽園を作るんです。そのためにはあなたの協力が必要です」
エリックさんは目を見開く。
「獣人の楽園・・・・・・!?是非とも私にお手伝いをさせて頂きたい!」
エリックさんって獣人好きだしな。了承してくれると思っていた。
しかし、そのためには厳しい条件がある。
「・・・・・・エリックさん、あなたはこれまで築いてきたものを全て捨てられる覚悟はありますか?」
エリックさんは呆然と俺を見る。
そりゃそうだよな。
さっきまで色々ありすぎたもんな。
魔術師や政治家としての地位、たくさんの金・・・・・・簡単に手放せるものじゃない。
いきなり捨てろって言われてもすぐに決断できないよな。
俺はエリックさんの返事を待った。
少しして、エリックさんは言った。
「私にはできません。
地位や金なら捨てられる。しかし獣人、特にミシェルだけは捨てられません。
彼は私にとって大切な伴侶ですから
私はミシェルを幸せにすると約束したのです」
「なら大丈夫だ。ミシェルも連れていくつもりだったんだ」
エリックさんはキョトンとする。
ごめん、俺の説明不足だった。
ミシェルは最初から連れていくつもりだった。エリックさんが反対しても。
戦争なんかなったら獣人は人間の盾にされたり、前線に放り込まれるからな。
でも、エリックさんが行くというのなら、ミシェルにとっていいことだろう。
俺はエリックさんを転移の魔法で連れていった。

第25章 セージside ( No.244 )
日時: 2015/07/25 09:28
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

エリックさんを連れていったら、すぐにミシェルのところへ向かった。
ミシェルにもエリックさんに言ったことと同じことを言った。
エリックさんは既に島にいることは言った。
ミシェルの決断は早かった。
「エリック様がそちらにいるなら僕も行きます」
「でも綺麗な格好をしたり、美味しいものも食べられないかもしれないぞ?」
ミシェルは首を振った。
「いいんです。エリック様がいれば、何もいりません
どんな試練にも耐えます」
ミシェルの意志は強い。
この子なら大丈夫だ。
ミシェルは俺のシャツの袖口を引っ張った。
「あの・・・・・・セージ様。他の獣人たちを連れていってもいいですか」
ミシェルがいう獣人たちはエリックさんが保護したり、購入した獣人たちだ。
勿論だ。俺は頷いた。
エリックさんの獣人は50人ぐらい。俺は大規模な転移の魔法を発動させた。

ミシェルを連れて到着すると、エリックさんは駆け寄ってきた。
「ミシェル!よく来てくれた!」
「エリック様ぁ!」
お互いに抱き合う。ミシェルはエリックさんの腕のなかで泣きじゃくっていた。
「すまない、今の私には今までみたいな贅沢をさせてやれない。それでも側にいてくれるか?」
「はい。僕はエリック様がいれば、何もいりません。皆で支えあいましょう?」
「そうだな。ミシェル、ありがとう。愛している」
「僕もです」
良かったな。これからずっと一緒にいられる。
ミシェルも純粋な子だし、心配はなさそうだ。

エリックさんや、獣人たちは驚いた様子で見渡している。
以前から俺は一人になったときに、この島で密かに何かしていた。
魔法で家を建てたり、畑を作ったり、スライム倒したり。
魚類の獣人もいた。海は広いから人間の奴隷にはならなかったそうだ。
俺は彼らに事情を話すと、彼らは快く承諾してくれた。人間とは偉く大違いだな。
奴らは粗っぽいがサッパリした親分肌の性格の奴が多い。
サメの獣人が「困ったときはお互い様だ」と言ってくれた。
さらに風呂やトイレの水をつくってもらうなど、協力してもらっている。

世界が滅ぶというのはわかっていたから、そのときになったらここを避難場所として使おうと考えていた。
家は50軒ほど作ってある。2階建ての家だ。
全て個別に与えてやりたいが、誰かが少し窮屈な思いをさせそうだ。
しかし、エリックさんの獣人は俺の想定以上のことをする。8人で1つの家を使おうとしていた。
「8人で1つの家って、すごく余るよ?もっと広く使えばいいのに」
すると、獣人の一人はこう言った。
「しかしこうすれば、もっと多くの獣人がここに来れるでしょう?私たちには充分です。奴隷のときよりもずっといいです。
セージ様、どうか一人でも多くの同胞を助けてください」
自分より他人を優先するなんて、なんて心が綺麗なやつなんだろう。
しかし、俺はいつまでも窮屈な生活をさせるつもりはない。
早速あの人を呼ぼう。

第25章 セージside ( No.245 )
日時: 2015/07/25 18:59
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

俺はハッツガグ建築組合がある場所をスマホで探し、そこに転移した。

リリナさんは書類の整理をしているところだったらしい。
俺の姿をみると、驚いて目を見開いていた。
そりゃあ、いきなり現れたら俺だってビックリするわな。
アポなしの突撃訪問、すみません。(されたら一番怒るのは自分なのに)
「セージ殿、突然どうしたのです?」
俺は言った。
「リリナさん、依頼したいことがあるんです。家を建てて欲しいんです・・・・・・たくさん。できるだけ急ぎで」
「たくさん?どこか土地でも買ったんですか?」
似たようなものだな。
俺はリリナさんに経緯を説明した。
獣人をできるだけあの島に住ませる必要があるから、俺が建てた家だけでは足りない。
俺もしばらくは獣人たちを運んだり、島の整備が必要だから、家の建築まで手が回らない。
リリナさんなら丁寧にやってくれると信じていた。
「そうですか・・・・・・なら、しばらくクレイリアには帰れそうにないですね」
「ええ。しかしもし急な用事があれば、すぐに先程の魔法でここに移動できるようにします。
お願いできますか?」
無茶なお願いをしているというのはわかっている。
彼はハッツガグ建築組合の跡取りだ。この仕事を引き受けたら事実上それを放棄することになる。
生真面目な彼は引き受けてくれないだろうと思っていた。
しかし、俺の予想に反してリリナさんは頷いた。
「わかりました。全力を尽くすため、僕が所有する獣人を全て連れていきます」
「ありがとうございます!」
俺は深く頭を下げた。
あ、忘れていたことが1つ。
「契約に際して、1つお願いがあるんです」
「なんでしょうか」
「獣人に対して暴力を振るわないことです」
「お安い御用です。僕は獣人と協力して仕事をするのが目標ですから」
初仕事の後、色々あったんだろうな。彼が成長したというのが明らかにわかった。
俺はリリナと彼の獣人たちを島に連れていった。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑3000!!!】 ( No.246 )
日時: 2015/07/26 09:06
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

リリナさんが連れてきた獣人は20人ほどだ。ゴリラとか熊とか逞しいやつがいっぱいいる。
ガチムチ集団にいると、リリナさんの小柄さが際立つな・・・・・・。

家や町の構想はリリナさんに任せることにした。
俺、センスは皆無だから。
学校とか病院とかつくってほしいけど、まずは皆が住むための家を最優先させた。
サイトとガズナも手伝ってもらうことになった。サイトはリリナさんと仲良しだったもんな。

家が完成したらどんどん人を呼ぼう。
神は獣人だけの国を作るつもりだが、俺は獣人と人間が協力しあう国を作る。
そのためにはある程度選別が必要だけどな。人間も獣人も。
人間にも嫌なやつはいるが、獣人も環境によっては嫌なやつになっている。
せっかく平和に過ごすつもりなのに、そんな奴らに和を乱されたら嫌だからな。

リリナさんによると、1ヶ月に簡単な造りの家を3つ建てられるほどだという。
3つか・・・・・・獣人の受け入れは少しずつだな。
そのとき、サイトはこう言った。
「旦那、俺はしばらく野宿でも平気ですぜ」
「いや、せっかく家があるんだから使いなさい」
しかし、サイトは首を横に振った。
「いや、俺、昔はこんな家に住んでいたこともあったんですよ」
サイトは自分が作ったという家を見せる。リリナさんも興味深そうに見ていた。
それは、大きな枝3本を柱にしてテントのような形で、大きな葉っぱを隙間なく埋めて屋根にしていた。
まるで縄文時代の竪穴式住居を彷彿とさせる。
「ほう、よくできてるな」
これを僅かな時間で作れるとは、さすが獣人だと言える。
サイトは「ありがとうございます」と言った。
リリナさんは家を揺らして、頑丈さを調べている。
「うん。安定感あるし、いいと思う。これなら材料を応用して3日でできそうだよ」
サイトの案で材料を丈夫なものにして、この形の住居を仮設住居として使うことにした。
仮設住居を大量につくって住まわせたら、後で家を建てればいいだろう。

第25章 セージside ( No.247 )
日時: 2015/07/26 20:00
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

次の日、俺はどうしてもこの島に連れていきたいやつのところに向かった。
翼だ。
俺の家族だった奴だから、危険な目に合わせたくなかった。
彼はリードマン商会に就職して3ヶ月たつ。
レイズさんによると、なかなかいい仕事をするようで、常連の客もいるという。
話術が巧みなので、絵を描きながらじいちゃんばあちゃんの話し相手になっているらしい。
俺の家にいたころとは違うじゃねえか・・・・・・。猫被ってるな。
お年を召した方々は金持ってる人はいるから、いいカモ・・・・・・いや、客になるからな。
さすが俺が育てただけあってよくわかっていやがる。

リードマン商会の近くに移動して、門番に会員証を見せて中にいれてもらう。
「やあ、いつも手紙を渡す君が珍しいね。どうしたんだい?」
レイズさんにこう言われたが、この人にはまだ話すわけにはいかない。
俺はしばらく会えないことだけ伝え、笑ってごまかした。
「翼はどうしてますか?ご迷惑をかけていませんか?」
「いや、彼はよく働くよ。よかったら近くにいるから会って話すかい?」
そう言って、翼がいるという部屋に連れていってくれた。
レイズさんは部屋をノックする。
「ツバサ、セージが来たよ。入っていい?」
扉の向こうで「どーぞ」という声が聞こえた。
扉を開けると、まず目に入ってきたのは無数のデッサンだった。
翼は1枚の絵に色を塗っている最中だった。
レイズさんは「それじゃあ私はしばらく仕事してるからね」と言って部屋を出た。
聞かれたくない話だということを察したのだろう。

俺は翼にどう伝えたらいいのか悩んだ。まずは仕事のことから話すことにした。
「レイズさんのところはどう?皆と仲良くできてるか?あの人は厳しいところがあるからね」
翼は答えた。
「お前が心配するほどじゃねーよ。自分の心配しな」
相変わらず生意気な口を利きやがる。
翼は声を潜めてこう言った。
「・・・・・・アポなしで俺のところに来たのは何かあったのか」
察しがいいから、心理的な負担がかからなくて助かる。
俺は本題に入ることにした。
「ああ。近いうちに戦争がおこる。この戦争が起こったら、クレイリアもルテティアも立ち直れないほど損害をうける。
もしかしたらたくさんの人が死ぬかもしれない。
俺は翼の身の安全を守りたい。だから遠く離れた場所で過ごすのはどうだ?
皆そっちにいるんだ。ルチカたちも翼を待ってる」
翼は答えた。
「俺は行かない。だって俺はリードマン商会の一員だもん。
戦争が起こったら、俺らのことを便りにする客はいるし、忙しくなるんだよ。
あそこも家族みたいなものなんだ。あいつらを置いていく訳にはいかねえよ」
もう3ヶ月で仕事人の自覚を持ったのか。レイズさんの人格があってこそだろうな。
翼は頑固なところがあり、1度決めたらなかなか動かない。
心が痛むが、俺は翼の決断に任せることにした。
その後、翼の勧めでリードマン商会で働く獣人を何人か譲り受けた。
近いうちに解雇するつもりの獣人だったという。
レイズさんが解雇するつもりだった獣人は、怪我をしていたり、年齢が若いやつばかりだった。
レイズさんは「獣人を解雇しても受け入れ先がないから悩んでいたけど、君が受け入れてくれるなんて助かるよ」と言ったが、彼も近いうちに戦争があるということが既にわかっているかもしれない。
名残惜しいが、俺はリードマン商会に別れを告げた。

Re: リーマン、異世界を駆ける【超→感↓激↑3000!!!】 ( No.248 )
日時: 2015/07/27 19:45
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

フォルドさんたちを探したが、あの人はフラフラしていて、見つけるのはなかなか困難だった。
スマホでさえ、彼の位置を探知することはできなかった。
ようやく見つけたとき、彼らはルテティア近くの国境にいた。
俺もそこに向かう。
突然現れた俺を見ても、全く驚く様子はなかった。
「よう、セージ!俺の顔を見たくなって寂しくなったか?」
いきなり軽口を叩けるんだな。
俺は言った。
「ちげーよ、ちょっと話がある。場所はあるか?」
そこでフォルドさんが案内してくれたのは古びた酒屋だった。
「ギャンブルとお酒があれば話が弾むんだけどな〜」とフォルドさん。
トラブルさんから「無駄遣いできるお金はありませんよ」と言われてしまった。
昼間から酒飲むのか?これから話す話題は弾まねえよ。
しかも奢ってほしいだと?もうこれお約束だな。
酒屋に入ると、ほこり臭かった。中にはマスターが一人本を読んでいるだけだった。
フォルドさんはなれた様子でマスターに話しかける。
「よう、例の部屋借りるぜ」
マスターはなにも言わず、錆びた鍵を渡した。

酒屋の目立たない場所に扉があった。その扉を開けると、階段が続いていた。
地下までの階段は薄暗い。
明かりはランタンのみで、足元の視界がほとんど見えない。
階段を踏み外さないか不安で俺は壁を支えにして慎重に降りた。
かなり時間はかかってしまったが、皆は待っていてくれた。

地下に着くと、周囲に人が何人かいた。ここは獣人たちの解放のための地下組織だそうだ。(レジスタンスとは別の団体だそうだ)
フォルドさんはこの団体の一員だと言った。
このような地下組織は国境に関係なく、いくつかあるらしい。
フォルドさんたちの居場所がスマホでいくら探してもなかなか見つからなかったのは、地下にいるからだったのか。
ここから色んな場所に繋がっているらしい。
フォルドさんは彼らに挨拶をしながらある一室に向かった。
錆びた鍵はこの部屋のものらしい。

第25章 セージside ( No.249 )
日時: 2015/07/28 19:20
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

天井に吊るされたランプをつけると、明るくなった。フォルドさんはベンチに腰かけた。
「ここなら大丈夫だぜ。話ってなんだ」
「まだいつ起こるかわからないけど、クレイリアとルテティア必ず戦争がおこす。
信じられないと思うけど、戦争が起こったら、世界は滅ぶ。
フォルドさんたちと知り合ったのも何かの縁だと思うし、生き延びてほしいんだ。
戦争の間だけでも安全な場所に来ないか?
ルチカたちもそっちにいる。」
フォルドさんは顔をしかめた。
「セージは世界が滅ぶってわかっていて、何もしないのか」
「そういうことじゃないよ。俺もできる限りのことをやったけど、ダメだったんだ」
国王に戦争を中止するように言ったが、信じてもらえず耳を貸してくれなかった。
戦争がおこるのが変えられないなら、自分たちで対策を練らなければならないと思っていた。
フォルドさんは言った。
「セージなら卑怯な手段を使ってでもやりとげると思ったんだがな。諦めるのか。
・・・・・・なら、俺がやる」
「なっ・・・・・・無理だよ!ただの戦争じゃないぞ」
世界が滅ぶとなれば、最悪の場合は神と戦うことになるかもしれない。
神を怒らせたら何が起こるかわからない。
しかし、フォルドさんは意思を曲げなかった。
「この世界で理不尽な目に合っても必死に戦っているやつがいるんだ。
それを『どうせ世界が滅ぶから無理』って簡単に片づけられたらたまんねーよ。お前が神様だろうと、俺はやる。」
皆は『やれやれ』という感じだ。
この世界がどうなるのかわかっていて、フォルドさんを放っておくのは辛い。
しかし、彼の強い意思を曲げたくなかった。俺は鞄に手を突っ込んだ。
「なら、これを貰ってくれ。なにか役に立つかもしれない」
俺はフォルドさんに剣を渡した。ずっと前に翼を助けようとしたとき、剣が光ったからやめたやつだ。
今も相変わらず光ってやがる。暗闇に慣れていたため、少し目を細めた。
むしろ光が強くなってないか?
サルサさんはいう。
「これ、吟遊詩人から聞いたことがある。『天空の剣』じゃないか?」
「へぇ、知らなかった」
「伝説の剣だぞ・・・・・・」
こんなしがない元リーマンが大層な剣を持っていてすみませんでしたね。
まあ、本当の所有者は前世の俺だけど。
フォルドさんはいう。
「ありがとよ。なんか勝てそうな気がするわ」
むしろそんな死にそうな戦いをしないでほしいと思っている。
俺はさらに伝説級のアイテムをフォルドさんに渡した。
お母さんかと自分でも思うが、少しでも役に立てたい。
俺は木刀で十分だ。
あまりにも渡しすぎて、「持てねーよ!」とフォルドさんに怒られた。

第25章 セージside ( No.250 )
日時: 2015/07/29 19:43
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

これで一通り縁のあるやつを誘えた。
第3部隊にいる獣人たちもつれて行きたかったけど、今はやめておこうと思う。
まだ戦争が起こっていない段階で下手なことをいえば、国全体がパニックになる恐れがあるからだ。マーティやネスカにも会いたいけど、後でいいよな。

あとはリリナさんの仕事のペースを見ながら、獣人たちを連れていけばいいだろう。

俺は獣人や人間をここに連れてきたり、島の整備をした。
種族で差別は禁止している。
今のところ、規則はその1つだけ。破ったら・・・・・・雷がそいつの上に落ちるようになっている。
皆は俺のいう通りにしているが、馴染めないやつもいる。
ルチカとミシェルはそのような人たちをサポートする役だ。
島にやってきた人たちを案内する。
エリックさんは今は魔法で怪我をした人を治療しているが、これから俺の顧問として政治のことについてアドバイスを貰おうと思う。

働いてばかりではなく、たまに休みをとって、皆でピクニックに行ったりして自由に過ごすこともある。
俺は地面にシートをしいて(虫が近くに潜んでいたら怖いし)、皆の様子を眺めていた。
獣人だからなのか自然があるところが好きみたいだな。開発ばかりじゃなくて、このような場所も残すべきだろう。
ルチカも向こうで皆と遊んでいる。獣化して、草むらで駆けたり跳んだりしている。
やはり年相応な女の子なんだなと思った。見ていて微笑ましい。
彼女の様子を見て、お母さん(ルチカの)は「もうすぐ伴侶になるというのに、こんなにやんちゃですみません」といった。
化粧してブランド物を着飾る女よりずっと好感持てるよ。
むしろ、俺の方こそルチカに申し訳ないと感じていることを伝えた。
忙しいのは今だけだろうと思うが、仕事ばかりで寂しい思いをさせていないかと心配になる。

第25章 セージside ( No.251 )
日時: 2015/07/30 19:35
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ルチカがこっちに駆けてきた。
草むらで遊んでいたから彼女の体のあちこちに草がついている。
「セージ様、来て来て!あっちに綺麗な木があるの!」
俺はルチカに引っ張られながらその木がある方向へ向かった。

それは桜の木だった。日本でよく見かけるソメイヨシノだ。
ちょうど桜が満開になって花びらが散っていた。
ルチカは興奮しているかのように言った。
「ね、凄いでしょ?葉が全部ピンク色なの!雪みたいにヒラヒラ落ちてくるのよ」
「ルチカ、それは花だ」
葉っぱだと勘違いしていたんだな。花が先に咲く植物なんて珍しいよな。
すると、ルチカは驚いたのか俺の顔と桜を交互にみる。
「葉は?葉はないの?」
「花が散ったら緑色の葉が生えてくるよ。秋になったら葉が赤や黄色になる。
・・・・・・日本人が好きな木だ」
まさかこの世界に桜があるなんて思わなかった。久しぶりに見ても、やはり桜が一番だなと思う。
「これが・・・・・・セージ様の・・・・・・」
そう呟いたルチカの横顔が綺麗で一瞬目を奪われた。初めて会ったときより大人っぽくなったかな。
ルチカにあることを伝えるなら今だと思った。
「ルチカ・・・・・・。その、今まで仕事ばかりで忙しくてごめん。でも愛しているという気持ちは変わらないんだ」
ルチカは「私もセージ様のことを愛しているわ。私のことは大丈夫よ。獣人たちが一人でもここに来られたら嬉しいわ」と言った。
本当はもっと構ってほしいだろう。
それでも我慢して、誰かの奴隷になって辛い思いをしている獣人たちのことを心配していた。
俺だってもっとルチカと向き合うべきだとわかっている。
俺は言った。
「今は色々あって無理だけど・・・・・・来年、桜が咲く頃になったら結婚しようか」
ルチカは目を見開いた。
大きな目から涙が出てくる。
そして、なにも言わずに俺に抱きついてきた。
この子を抱き締めながら俺は彼女を幸せにしてやろうと誓った。