複雑・ファジー小説

【閑話休題5・ライカside】 ( No.252 )
日時: 2015/07/31 21:38
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

【閑話休題5・ライカside】

ダグ様が死んだ。
祭りの日に、軍によって殺された。
自分を犠牲に俺たちを優先して逃がしてくれた。
俺はダグ様に代わって残ったやつらを守らなければならないと思って、部下に指示を出しながら逃げた。
しかし逃げた先には俺たちを待ち伏せしているやつらがいた。
その中には獣人もいて、同じ獣人と戦わなければならなかった。
激しい戦いになり、そこで俺は仲間を数人失った。

奴隷だった俺を【解放】して、育ててくれたのはダグ様だ。
俺も強くなってあの人に少しでも恩返しをしようと思って、がむしゃらに頑張った。
どんな危険な任務でも先頭に立って、多くの獣人を解放した。
しかしあのとき、俺は逃げてしまった。
ダグ様は強いから殺されることはないだろうと思っていた自分が甘かった。
大抵の連中は「よく頑張った」と労ってくれたが、一部のやつは責める声もある。
俺はあのとき一緒に戦っていれば、ダグ様は助かったかもしれないと何度も考えた。

ダグ様はレジスタンスの指導者で皆から慕われていた。
豪快で誰にたいしても分け隔てなく接してくれた。
ダグ様はとても偉大だった。
あの人がいなくなってできた穴は大きすぎた。

今、レジスタンスで新たな指導者を決めるのを揉めている。
指導者の候補で何人かあがっていて、俺も推薦された。
しかし候補同士や支持する団体で争っていて、本来の活動もままならなくなった。
事実上の仲間割れだ。
レジスタンスは俺にとって家族同然で、仲間同士でいつまでも争って欲しくなかった。
こんなことで争うよりも、一人でも苦しんでいる人たちを【解放】する方が大切だ。
それに、死んだダグ様が今のレジスタンスを見たらきっと悲しむだろう。
だから俺は指導者を辞退した。

『私、暴力で解決する人、大嫌い!!』
『お前の意思が獣人全体の意思みたいなことをいうな。
お前の結論が下にいるやつらの命を奪うことになっているのがわからないのか』
祭りの日に二人に言われたことを何度も頭の中で繰り返す。
あの日、俺は石像を爆破して獣人を怪我させてしまった。
セージという人間がいないかったら、あの獣人は死んでいたかもしれない。
ダグ様に人間は悪いやつだとばかり教えられたが、セージはそうだとは思えなかった。
俺のやっていたことは正しかったのだろうか。
あのとき、違う行動をしていたらもっと多くの獣人を救えたのではないだろうかと思った。
セージならなにか答えを持っていそうな気がする。

閑話休題5・ライカside ( No.253 )
日時: 2015/08/01 07:03
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

「呼んだか?」

突然人間が表れて俺は身構えたが、彼はセージだった。
俺は口を開いた。
「いや、呼んでなんかいないが・・・・・・」
俺はセージのことを考えていただけで、セージと話したいとは思っていない。
「そうか。なんか俺に聞きたいことがあるんじゃないかなーって思ってさ」
セージの言葉に俺は口をつぐんでしまった。
セージは言った。
「今まで自分がやってきたことに疑問を持ったか」
こいつ、俺の気持ちが読めるのか。
俺は顔を上げた。
「そんなことはない!獣人を【解放】して自由を得ることは我々の目的なのだ!」
俺は自分に言い聞かせるように言った。
そうだ、俺は何も間違っていない。疑問を持つということはダグ様を否定をするということだ。
俺を育ててくれたダグ様を否定するわけにはいかない。
セージは言った。
「我々が、ではなく自分の頭で考えろ。暴力で獣人を解放することは正しいと思うか?
それが多くの命を奪うことになっても」
俺は頭を抱えて何も答えなかった。
まさか石像を爆破したとき、獣人が下敷きになっているとは思わなかった。
それでもセージは続けた。
「誰にでも間違いはある。
大事なのは間違いに気づいたら繰り返さないことだ。1度じっくり考えて結論出してみろ」
そういうと、セージは消えてしまった。

ダグ様にも間違うことがあるのか?
ダグ様は人間に味方する獣人も敵だと言った。なら、ルチカもか?
ルチカの泣きそうな顔を思い出す。
ダグ様のいう通りにするなら殺さないといけないだろう。
しかし、俺にはあの子を殺すなんてできない・・・・・・。
あの子はただセージと一緒にいただけで、何も悪いことはしていない。
ルチカはどうしているんだろうか?
他のやつもそうだが、なんでセージと一緒にいるんだろうな。そしてセージは彼らのどこが気に入っているのだろう。
俺が知ってる人間は自分勝手で、自分たちが俺たちより格上だと考えているやつらばかりだった。
しかし、セージは俺のことを見下したようなことはなかった。

俺も、セージの奴隷になっていたら何か変わっていたかもな・・・・・・。