複雑・ファジー小説
- 第28章 カスパルside ( No.268 )
- 日時: 2015/08/12 18:47
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
[第28章 カスパルside]
季節は秋だが、残暑の暑さが厳しい。熱気を含んだ風が絶えず通りすぎる。
白い塗料で塗られた住居が立ち並び、太陽の光を反射する。
人間と獣人たちは協力して、たくさんの食べられる魚が入った箱を運ぶ。
私は港町である人物たちを待っていた。
水面から魚の獣人が顔を出す。
目が覚めるような真っ赤な髪とギョロりとした大きな目が印象的だ。
「カスパルさん、来ましたよ」
大きな船が水平線から見えてきた。
この船にはクレイリアとルテティアの重要な人物たちが乗っている。
私はセージ殿から重要な任務を与えられていた。
両国の戦争が終わるかもしれないきっかけを作るのだ。
足に障害があり、お荷物扱いされていた私をセージ殿は拾ってくれた。
何としても達成しなければならない。
クレイリアとルテティアの大臣がそれぞれ3人が見えた。お互い険悪そうに見える。
船は港にたどり着き、次々と両国の大臣たちが港へ降りる。
私は口を開く。
「ようこそ、ハポネ国へ」
ハポネ国というのは、この島にある国の名前だ。
最初は『セージ様の島』と呼ばれていたようだが、呼ばれていた本人が嫌気をさしたのか、国の名前を募集した。
しかし、国の名前を募集しても『セージ様の国』となるため、結局セージ殿が【ハポネ国】と名付けることになった。
ハポネとは、セージ殿の故郷を外国式に読み方を変えたものらしい。とても素晴らしい響きだと思う。
大臣たちは辺りを見回す。
「ほう、港はなかなか立派だな」
「セージ殿に会えるのを楽しみにしておりますぞ」
どの大臣たちの目も我々を見下したような目をしていた。
仕方ないところもあるだろう。
誰もが自分の国が一番だと思い込んでいるのだから。
彼らを案内してからセージ殿と待ち合わせをしている場所に向かうという計画だった。
彼らに豊かなハポネを見せるという意図があるのだろう。
私たちは第2地区に入る。
まず、目に見えてきたのは広大な畑だった。
「なんと、こんなに大きな作物は見たことがありませんぞ!」
「これだけの土地をどうやって開拓したのだ」
全員驚いているようだ。
入り口だけ立派だと思っていたのが、どこまでも整備された道が続いているのだ。
私も初めて見たときは驚いた。
戦争が起こる前よりも豊かだから。
たった数年でここまで発展させたとは思えない。
私たちは島の東側にあたる第2地区に入った。
どの道も平らに整備されていて、住居が建ち並んでいる。
ゴミなど1つも落ちていない。
獣人と人間が協力して仕事に取り組んでいる。時々談笑しているところも見えた。
クレイリアでは見られない光景だ。
- 第28章 カスパルside ( No.269 )
- 日時: 2015/08/13 07:30
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
子供たちが噴水や遊具を囲んで遊んでいるのが見えた。ルチカも子供たちと一緒にここにいる。
しかし、ここにいるものたちはあれは何かわからないのだろう。
「カスパル殿、あれは何だ。彼らは何をしている」
「あれは公園といって子供が遊んだり、大人が憩いの場に使う場所です」
「遊ぶ・・・・・・だと?労働はしないのか」
子供でも労働力として利用するのが当たり前である。
遊ぶのは上流階級の子供だけだろう。
私は彼らに説明した。
「ハポネの子供は5歳になるまでこのようにひたすら遊びます。
5歳になると、5年間学校に通います。
10歳まで労働する義務はありません」
彼らは目を丸くするばかりだ。
港に降りてから衝撃の連続だっただろう。
この学校が無償だと言えば、更に驚くことだろう。病院も安価で治療を受けることができる。
国民が納税した分、このように社会に還元されている仕組みだ。
国民たちもこのことを知っているため、真面目に働く。
目の前の大臣たちのように私利私欲のために無駄遣いはしない。
ルチカは私たちに気がついたようで、こちらを見た。
軽く会釈をすると、ルチカは手を振った。
子供たちの中には大臣を見て、怯える者がいた。
「人間だ!」
「私たちを捕まえに来たの!?」
泣き叫ぶ子供もいる。
彼らにとって深い心の傷が残っているのだろう。
ルチカは子供たちに言う。
「みんな落ち着いて!この人たちはあなたたちを捕まえたりしないわ!」
しかし、子供たちは遊具の上に登って警戒していた。
ルチカの子であるマコトは、母親の服の裾をギュッと握っていた。
そのとき、大臣の一人が呟いたのが聞こえた。
「シャム猫だ・・・・・・なんて美しい」
シャム猫は美しい顔立ちと体つきのしなやかさが特徴で、愛人としても人気がある。
島の外では獣人が激減したため、値段が高騰しているようだ。
私はルチカを凝視している彼に注意した。
「彼らも警戒しているため、獣人に手を出さないでもらえますか」
「なに、少しだけだ。少しならいいだろう」
彼は下品な笑みを浮かべ、ルチカに近づく。
しかし彼がルチカに近づいたとき、突然彼の体が沈んだ。
彼の足が公園の土にはまって動けなくなったようだ。
「な、なぜだ!どういうことだ!」
大臣は慌てふためいている。
私が聞きたい。
硬いはずの地面がまるで沼に漬かったかのように、膝まで埋まっていた。
マコトは地面の固さを確かめるように、その場をジャンプしていたが、沈まなかった。
我々も何ともない。
そしてマコトは大臣と目があうと、こう言った。
「パゲェ」
その言葉を聞いて我々は凍りついた。
はっきりとは言えてないが、恐らく『ハゲ』と言ったのだろう。
ルチカは慌ててマコトの口を塞いだ。
言われた大臣は顔を真っ赤にして震わせている。
「ヌヌヌ・・・・・・ハゲだと!?獣人のガキが!」
しかし足を動かそうとしても、びくともしない。
むしろ少しずつ沈んでいる。
「た、助けてくれ!」
体が少しずつ沈んでいくなんて、怒りどころではない。
大臣の顔が怒りから恐怖に変わった。
- 第28章 カスパルside ( No.270 )
- 日時: 2015/08/13 07:29
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
そのとき、セージ殿が魔法を使って現れた。
「人の嫁に手を出すからだ、バカタレが。
犯罪とか秩序を乱すようなことをすれば、こんなことがあるからな」
大臣たちの顔が青ざめた。
ルチカがこれから話し合う相手の家族だとわかっていたら、彼らは世辞でも言って機嫌をとろうとしていただろう。
この国で悪事を働こうとすれば、地面に埋まったり雷に撃たれると聞いた。
まあ、悪事を働く者なんて今まで見たことがなく、保安官としての仕事がないのだが。
セージ殿は続ける。
「俺の息子だ、可愛いだろう」
「え、ええ。セージ殿に似て、とても利発そうなお子様ですね」
大臣の声は震えている。
さらにセージ殿は追い討ちをかける。
「『そうな』じゃないんだよ。実際に賢いんだよ、ハゲ」
「ひぃぃ!」
これでは質の悪いゴロツキが絡んでいるようにしか見えない。
とても一国の元首とは思えない言動だ。
そのとき、ルチカは口を開いた。
「セージ様、その人を許してあげて」
「あのなルチカ、家族が手に出されたら許せないぞ」
「でもやり過ぎよ。これから話し合いをするんでしょ?今回は許してあげて」
セージ殿は顔をしかめ、地面に沈んでいた大臣の足を元通りにしてやった。
そしてこう言う。
「『今回は』許してやる。次やったときは頭まで沈めるからな」
人間が獣人の言うことを聞いた。
我々が恐怖に震えるなか、ルチカは「もうっ!」とセージ殿を軽く諌める。
マコトもルチカの真似をして「パパ、めっ」と言う。
獣人が人間に対してあり得ない態度だ。しかしセージ殿はルチカや誠に怒る様子もない。
私はマコトに言った。
「マコト君。人にあったとき、なんて言うんだったかな?」
子供にはきちんと躾が必要だ。
マコトは少し首を傾げてからこう言った。
「こにゃちは!」
マコトは元気よく声をだして頭を下げる。
「そうだ、えらいぞ」
誉められてマコトはニコッと笑って嬉しそうだ。
とても素直でいい子だ。
少し離れたところでセージ殿はルチカに「自分の子供にハゲなんて教えた覚えはねーよ」と弁解していた。
さすがのセージ殿でも妻と子供には弱いのだろう。
- 第28章 カスパルside ( No.271 )
- 日時: 2015/12/23 00:02
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
本当は待ち合わせ場所でセージ殿と会う予定だったが、ルチカが襲われた(未遂だが)ため、急遽現れた。
セージ殿はマコトを抱き上げてこう言う。
「まあいいや。遠いところからお疲れ様。これから昼食を食べませんか?」
長い船旅で疲れているのもあり、どこかで休みたいのだろう。彼らは頷いた。
公園で遊んでいた子供たちは「セージ様、さようなら」と手を振った。
マコトを抱き上げ、ルチカと手を繋いで歩いているセージ殿はただのいい父親にしか見えなかった。
セージ殿が彼らを連れていった場所は国民がよく使う食堂だ。
大臣たちが明らかな不満顔になるのは当たり前だ。
私は頭を抱えた。
普通ならここは身分が高い者たちを連れていく場所ではない。
しかし、食べる場所といえばここぐらいしかないのだ。
贅沢で立派な建物など必要ないのだから。
そこには個室などなく、簡素なついたてで仕切られた場所に案内した。
そこにはルチカとマコトは同席できない。ついたての外で待ってもらうことにした。
ルチカはマコトの目線にあわせるようにしゃがんで説明する。
「パパはこれからお仕事だから、静かにしてようね」
ルチカの言い付けを聞いて、マコトは人指し指を口に当てる。
「しー」
「そう。しー、よ。いい子にしようね」
するとセージ殿は財布から銅貨をいくつか取りだし、ルチカの方をたたく。
「ルチカ、これで誠になにか食わせてやれ」
「え・・・!?そんなのいいわ。私たち、待ってる」
「いや、子供に長い時間待たせるのは酷だ。いいから食わせてやってくれ」
それでも受け取ろうとしないルチカの手を握り、硬貨を渡した。
マコトはセージ殿のほうを向いて見上げる。
「パパ、お仕事頑張ってね」
「おう、ありがとうな」
とても和ましい光景だ。
これから歴史を変えることになるとは思えなかった。
我々はついたてで仕切られた部屋に入る。
それぞれ席に座った。
店主のメルトをはじめ、店員が料理を運び、テーブルに並べていく。
大臣たちは目を見張った。
料理は数々の野菜でとても色鮮やかに彩られており、どれもいい匂いを放っていた。
食事を前にすれば、料理に穴があきそうなほど凝視し、いかにもよだれを垂らしそうだ。
あまりにも彼らが料理を食いつくようにみるので、配慮したのかセージ殿はこう言った。
「まずは食べましょうか」
すると彼らは返事もせずに、料理に食いついた。私も、おそらくセージ殿も呆れていた。
大臣のような高い地位であっても戦争でいいものを食べられなかったのだろう。
ここでは、これらは獣人も普段食べているものだが。
- 第28章 カスパルside ( No.272 )
- 日時: 2015/08/14 17:45
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
予想以上の食いつきぶりだった。
食事を済ませて、ようやく会議が始まった。
セージ殿は周囲の一人一人の顔を見て、言う。
「お忙しい中、ハポネに足を運んでくださり、ありがとうございます。
僕が貴殿方を集めた理由はわかっていますよね」
セージ殿は戦争を続ける両国に和平条約を結ぶことを提唱した。
和平を結べば、両国に食糧と技術の発展の援助をするという条件を出した。
すると、クレイリアの大臣が手を上げた。
「セージ殿、私からの言い分を聞いてもらいますか。
あなたは異国の者である故、わからないことはあると思います。
しかしこのことを知ってもらわないければ、我々はあなたの出した条件に納得できません」
「なんですか、続けてください」
セージ殿に発言を許可され、大臣は言った。
「そもそも今回の戦争の原因はルテティアにあります。ルテティアの国王は家族にクレイリアの王族の親戚がいるというので、王位継承権に干渉してきたのです」
「それなら身内で解決すればいいですよね?なにもわからない異国人の僕を呼び出す必要はありませんよね」
セージ殿は【異国人】を敢えて強調する。
セージ殿の黒い瞳は家族に向けるような暖かさは全く感じなかった。
セージ殿は続けた。
「あなたたちの先祖は建国当時から何かと理由をつけて戦争しました。競走するかのように、獣人たちの国へ侵略しましたね。
貴殿方の身勝手な行動でどれだけの犠牲を出したかわかりませんか
戦争をするたびに生活が犠牲になるのは国民ですよ」
思い当たることがあるのか、大臣たちは言葉に詰まってしまう。
セージ殿は次々と大臣たちに胸に突き刺さることを言う。
彼らが戦争や駆け引きに夢中になっている間に、セージ殿は国民と協力してハポネの発展に尽くし、たった数年で両国を追い越してしまった。
獣人を格下と見ていた彼らにとって屈辱的に感じるだろう。
セージ殿は言う。
「貴殿方がここに来たのも、国の崩壊が近く、援助が欲しいからですよね。
貴殿方に恨みはありますが、恨んでもなにも生まれません
貴殿方の援助をして、全ての人が平和に暮らせた方がはるかに生産性があるでしょう」
セージ殿は書類を大臣たちに配る。
それは援助を受けるための条件と援助の内容が書かれていた。
戦争をやめ、今すぐ和平条約を結ぶことが条件に含まれていた。
国の崩壊が近い今、猶予は認められない。
彼らもそのつもりで来たのだろう。
大臣たちは力ない表情でサインをした。