複雑・ファジー小説
- 第7章 〜?side ( No.57 )
- 日時: 2015/04/06 21:53
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
最近、街で怪しい男が突然現れたという。
その男は黒い髪に黒い瞳を持つ。人間の髪は茶色か金だと決まっている。黒い髪の人間なんて見たことがない。
店を訪れては奇怪な注文をしては金貨を大量に支払うらしい。そのため、店は男の機嫌を取ろうと必死だ。
獣人の奴隷を二人連れているようだが、獣化防止の首輪や足枷をつけていない。
獣化したらどれほど危険なのかわからないのか。
何が目的なのだ。我々はその男を追っていた。
有力な情報が手に入った。
1週間ほど前、彼はリードマン商会で家を買ったらしい。
リードマン商会は会員でなければ取り引きはできない。会員になることは簡単ではないはずだ。
リードマンは彼について話す。
「ああ、彼ねぇ。変わっていて、面白い人だったよ」
君も変わっていると思うが。
あんな短期間で彼を気に入ったのか。
その男はリードマンでさえ、変わっているといわれるほどの人物なのだろう。
「突然現れて家を買ったのだろう。奴にそんな金はあるのか」
「私も偽物かと思って調べたんだけど、全部本物だったよ」
「盗みだと思うか」
「まさか!彼はそんなことをするような悪い人じゃないよ」
リードマンの人をみる目は確かだ。彼が会長だからこそ、回りに有能な人物が集まるのだろう。
しかし、その男が国を脅かすような何かを企んでいるとしたら非常に危険だ。
ゴロツキと乱闘をしたという目撃情報もある。武術の心得もあるのだろう。
最近、国内も国境も色々物騒なことが増えている。
目撃情報による行動が我らの理解を越えており、予測不可能だ。
国を守るのが我ら騎士の役目。
名前はセージ。
それ以外のことはほとんどわからない。
その男について調べてみようと思う。
- 第7章 〜?side ( No.58 )
- 日時: 2015/04/07 21:46
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
リードマンからセージの家の場所を教えてもらい、そこへ向かう。
ちょうど朝日が昇る時間帯。人間の活動が一番鈍るときだ。
それにしても小さな館だな。
たくさん金を持っているならもっと豪勢な館を買えばいいのに。
私は扉を叩いた。
「我々はクレイリア軍第3部隊である!セージはいるか!」
しばらく待ってみたが、扉は開かず、全く反応がない。
クレイリア軍と聞けば、多くの国民は震え上がって、我々の指示にすぐに従う。
異国の者でこの国や我々のことを知らない故か。
強硬突破しようと武器を構えようとしたとき、扉が小さく開いた。
そこに現れたのは黒髪黒目の男。黒い服を着ていたというが、今は紺色のシャツにアイボリーのズボンといういたって庶民的な服装だ。
想像以上に体つきが細い。
「なんですか。朝から」
我々を睨み付け、非常に不機嫌な表情だ。
「お前がセージという男だな」
「田村聖司です」
「お前に聞きたいことがある。即刻詰所に来てもらおう」
小さく開かれた扉を無理矢理開け、二人がかりでセージの両腕を掴もうとすると、振り払われた。
「ちょっと、いきなり非常識な時間に来てあなた方の都合で来いとはなんなんですか!」
「それが我々の仕事だからだ。
我々はあなたが犯罪者でないとわかる限り丁重に扱うと約束しよう」
犯罪者なら即刻牢にぶちこむが、彼が何らかの犯罪を犯したという情報はない。
これからじっくり話して聞き出そうではないか。
セージの背後には獣人が二人いた。他の奴隷とは違い、身綺麗にされている。
「セージ様!」
「旦那!」
牛の獣人は筋肉を痙攣させる。
「よくも旦那を・・・・・・てめぇら覚悟しておけ」
マズイ、獣化する気だ。
獣人が獣化すると、人間の能力を越える。
我々は武器を構えた。
「よせ、サイト!」
セージの声でサイトの獣化は中止された。あの細い体からよく通る声を発することができるのか。
セージはいう。
「余計なトラブルは起こすんじゃない。お前まで捕まったらどうするんだ。
俺は大丈夫だ。すぐに戻ってくるからここで待っていろ」
セージの言葉でサイトはしぶしぶ頷く。
我々は改めてセージの腕を掴んだ。
彼は我々のことを知らない。
おそらくすぐに戻れることはないだろう。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【いろいろ募集中】 ( No.59 )
- 日時: 2015/04/07 21:56
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
セージが捕まってしまいましたね!奴隷の2人はこれからどうなってしまうのでしょうか!?
- Re: リーマン、異世界を駆ける【いろいろ募集中】 ( No.60 )
- 日時: 2015/04/07 23:02
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
ついに捕まってしまいましたよ!
7章は容疑者ライフ章です
あの二人は家でお留守番です。主がいない家で獣人だけで暮らすのは非常に危険です
- 第7章 〜?side ( No.61 )
- 日時: 2015/04/08 21:07
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
軍には2種類ある。
王族を守る近衛隊と、我々のような国内の警備をする憲兵だ。
どちらも戦争になれば、他国へ遠征することもある。
男の憧れの仕事である。
実力さえあれば、入隊できるが、試験が難しい。
我々の普段の仕事は国内の治安を守ること。このような怪しい男を捕まえるのも仕事のうちである。
セージは特に抵抗はしなかった。サイトと呼ばれる獣人の獣化も止めていた。
抵抗しないほうが安全だと判断したのだろうか?
普通ならパニックを起こしそうなものだが、この男は「鞄を持たせてくれ」と冷静だ。
バカではないのだろう。
今も体が一本の糸に引っ張られたかのように背筋を伸ばして歩いている。
無駄がない洗練された美しい歩き方は貴族よりも美しく、魅了された。
詰所に連れていき、尋問が始まる。通常の尋問よりは生易しいほうだが。
セージはなかなか椅子に座ろうとしない。我々を警戒しているのだろうか。
しかし、椅子に座るよういうと、「失礼します」と一礼してあっさり座った。
セージの背後には部下が二人。私の隣には書記官が一人。尋問がこれから始まろうとしていた。
「今から尋問を始める。貴様は質問に全て答えよ。嘘をついたとわかったら命の保証はない」
よく観察しないとわからないほどだが、セージの顔が僅かに強張った。この状況だとやはり緊張しているのだな。
「名前を教えろ」
「田村聖司と申します」
ハキハキと聞こえやすい声で答える。
セージは通称なのだろう。
書記がメモを取っている。
ここで私の名前を名乗ることにしよう。
「そうか。私はアーノルド・カヴールだ。クレイリア軍の第3部隊の副隊長をやっている」
「宜しくお願い致します」
セージは頭を下げた。
一挙一動が丁寧な男だな。
- 第7章 〜?side ( No.62 )
- 日時: 2015/04/09 20:42
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
私は彼に一番聞きたいことを質問した。
「お前は何者だ」
セージは何か考えているようで、口を開かない。
「早く答えろ」
「すみません、私のことについて何から説明すればよろしいのでしょうか」
質問の定義が広すぎて戸惑っていたようだ。
私はこの男について知りたいことを問う。
「年は?身分は?どこからきた?ここに来た目的は?」
「ええと、一つずつ答えても宜しいでしょうか」
タムラセージという男は日本という国からやって来たサラリーマンらしい。
サラリーマンというのは、企業で働く男性のことを指すのだという。
企業とはここでいうと、ギルド(組合)のようなもので、セージは機械を作るための材料や工具を販売している企業に所属しているのだという。
セージの説明は我々にはわからないことばかりだった。
説明が難しい部分は【スマホ】や【タブレット】というものを使って、精巧な絵画を見せながら説明した。
この機械はとても便利なもので、仕組みについて聞いてみたが、彼はわからないと言った。
彼から名刺というものを頂いた。
彼の名前と所属と連絡先が書いてあるらしいが、日本の言葉で書かれてあり、我々にはわからなかった。
先日起こった乱闘も、ゴロツキが鞄を奪おうと恐喝をしたため。
あのあと、我々が駆けつけときはゴロツキは地面に倒れてのびていた。
あれをどうやって一人で?あの細い体でどうやって戦ったのだ?
彼によると、幼い頃から格闘術を習っていたという。
しかし、戦闘目的で身に付けたわけではないようだ。
驚いたのは彼の年齢は25だということ。
成人したばかりの15だと思っていたが、まさか二十歳を越えていたとは・・・・・・。
年齢の割にはやたら落ち着いているなと感じた。
セージによると「日本人って若く見えるらしいので・・・・・・」と照れたようにはにかむ。
彼の人間らしいところが初めてみることが出来たと思う。まだ幼さが残るその笑みは保護欲をそそる。
その年齢で結婚どころか婚約をしている異性もいないという。
「今は結婚をするメリットがないので」と本人はあっさりと言った。
我々の国には結婚をして、世間に一人前だと認められる部分がある。結婚をわざわざしないなんて考えられないことだ。
日本とは遥か東に浮かぶ島国だという。
そのようなところからどうやってここへ?と聞いてみると「百貨店のトイレと繋がっていた」という。
ここに来たときは彼も訳がわかっていないようだ。
そのため、ここに来た目的も特にないようだ。
セージは一つ一つ説明するため、彼にとっては僅かなことでも、我々が理解するには時間がかかってしまった。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【いろいろ募集中】 ( No.63 )
- 日時: 2015/04/11 10:55
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
今までで一番疲れた尋問だった。
書記は疲労で目を真っ赤にしている。理解できないことをずっと書き続けるのは大変だっただろう。
鞄はこの男が所持していると、危険がありそうなので、取り上げて別室に保管した。
ちょうど巡回している騎士たちの交代の時間になる。
少し休憩することにしよう。
セージも顔には出さないが、少し疲れている様子だ。水と少量の食事与えると、少しずつ口に入れた。朝から何も食べていないのだから腹がへっているだろう。
詰所に戻ってくる兵士たちと、巡回をする兵士たちで入り乱れる。
黒髪黒目の人間を捕らえたと噂になり、兵士たちは一目見ようとこぞってセージを見に行った。
セージは見物人に対して無反応だ。まるで、見物人がそこにいないかのようだ。
休憩が終わり、次の取り調べのために別室に連れていく。
私はセージに命令した。
「服を脱げ」
質問にハキハキと答えていたセージがここで初めて逡巡した。
「脱がなければいけませんか」
「貴様が獣人かどうか確かめるためだ」
我々の常識では黒髪の人間なんているはずがない。
彼が逃亡した獣人の可能性も考えられた。
奴隷の生活に耐えかねて、人間のふりをして生活する者もいる。そのような獣人は捕らえて収容所送りだろう。
全てを説明していないのに、セージは理解したのだろう。観念したように目を伏せて衣服を脱ぎ始めた。
ネスカがいればこんな手間はかからないのだが・・・・・・。
彼女はまだ別の仕事から戻ってこない。いつ帰ってくるのかわからないような危険な仕事だ。
我々の目はセージの裸体に釘付けになっていた。
同じ男だとは思えない。白に近い肌と黒の体毛のコントラストがとても神秘的に見えた。
そしてあまりにも細い。簡単に折れてしまいそうなほど可憐だ。
セージは「早くしろ」と言うかのように私を睨む。
ああ、目的を忘れてしまっていた。
耳や背中を調べるように部下に命じたが、獣人の要素はどこにもなかった。
調べ終わると、彼は急いで服を着る。
彼は人より羞恥心が強く、裸を見られるのが嫌だったのだろう。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【いろいろ募集中】 ( No.64 )
- 日時: 2015/04/11 09:02
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
セージ君が脱いでしまいましたね!ううむ、何とも色気がありそうで……もしエリックが彼の裸体を見たらどんな反応をするのか気になりました。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【いろいろ募集中】 ( No.65 )
- 日時: 2015/04/11 10:53
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
セージ君は細マッチョ設定ですw
モテないわけじゃなかったので、見るに堪えられないというわけではないようです。
日曜日の午後に8章に入りますが、脱いだ時のセージ視点もみることができます
- 第7章 〜?side ( No.66 )
- 日時: 2015/04/11 17:50
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
夕方になって、ようやくネスカが戻ってきた。
予想より早い帰還だった。
「おかえり、早かったな」
「ふん、今回はチョロい敵だったなのよ」
ネスカは得意そうに鼻を鳴らす。白いラブラドールのような犬族の彼女はこの騎士団に所属する奴隷だ。
ほっそりとした体型に可愛らしい顔には似合わず、彼女の服には血がついていて、腕には包帯が巻かれている。
今回の任務がいかに危険だったのかを物語っている。
しかしネスカは最年少クラスだが、優秀な奴隷だ。
騎士団に所属する奴隷は他の獣人たちと比べてかなり恵まれている待遇だ。
主な仕事は種類によって様々だ。ネスカの仕事は逃亡した犯罪者の捜索や戦闘である。
仕事さえすればある程度の自由が与えられる。使えなくなったら処分されるのが大半だが。
そして戦争になれば、人間の盾になってもらう。
これが彼らの宿命だ。
ネスカに付いている血は大半が返り血で、怪我は大したことはなかった。
怪我の治療を終えてからネスカにはもう一仕事ある。
「ネスカ、頼みたいことがある。ある人物を少し見てくれないか。少し特殊でな・・・・・・」
「どんな人なのよ?」
興味を示したのか、ネスカの瞳は輝いた。
部下に命じて、別室に待機させていたセージを連れてこさせた。
午後の取り調べ以来、セージの機嫌は良くない。ムスッとした顔で我々には目をあわせようとしない。
裸にしたのが悪かったのだろうか。しかし、同性の前で裸になることの何が悪いのだろうか。
ふと、彼はネスカを見る。
「怪我してるじゃねぇか、大丈夫か」
ネスカは胸を反らす。
「ほとんど返り血なのよ。ネスカ、戦闘は得意なの」
ネスカの誇らしげな言葉を聞いて、セージは何故か顔を曇らせる。
「労基法どころか国際法知らないのかよ、お前ら。
こんな子供に危険な仕事させて、発育に影響があることがわからないか」
労基法とやらが何なのかよくわからないが、彼の国の法律なのだろう。
我々の国は子供でも労働力になる。法律はあるが、金を持つ貴族がやりたい放題であるため、あってないようなものである。
セージの国は恵まれた場所なのだろう。彼の言動を見ればわかる。
犬族のネスカの鼻でセージが人間どうか確認した。
結果は「人間と猫と牛の匂いがする」のみで、彼が獣人ではないことがわかった。
- 第7章 〜?side ( No.67 )
- 日時: 2015/04/12 10:51
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
あれから3日。今日は雨が降っている。
一日の大半が窓もない部屋で軟禁状態のセージにはわからないだろうな。
3日の間、セージや騎士団に変化が現れた。
セージは少しずつ日本のことについて話してくれるようになった。我々には理解できないこともあるが、彼の話は興味深かった。
セージは相変わらず食事を残している。捕らえた初日からこの調子だ。
どうやらここの食事はセージの口に合わないようである。
「肉が固すぎて噛めない」など文句を言っている。
そんな彼にに菓子を与えようとする兵士が何人か現れた。
セージは甘いものが好きなようで、喜んで食べる。
彼に気に入られようと、兵士たちは高価な菓子や果物を買い、セージに貢いでいる。
彼のことを【姫】とあだ名する奴も現れた。
確かに彼は魅力的だが・・・・・・男だぞ。
そして、セージ自身も詰所を掃除をしたり、我々に食事を作ってくれるようになった。
彼が作ってくれるスープが絶品で、野菜の甘味と塩加減がちょうどいいのだ。
俺の嫁よりもよく働いてくれる。
ああ、彼は顎の力が弱いようだから柔らかいパンを買ってこようかな。あんな細い体では力がでないだろう。
夜明けになる頃、誰かが詰所の扉を叩いた。
何か緊急の知らせがあるのか?
扉を開けると、そこには長身の金髪の中年の男性が立っていた。
「エリック様?こんなところにどうなさったのですか」
エリック様はこの国で4番目に実力がある魔術師だ。
彼は普段は職務をサボって小説ばかり書いている。
小説をやめて本気を出せばこの国で一番の実力者になるはずだという噂があるのに・・・・・・。
しかし、本人はそんなことを気にせず、のんびりと獣人と暮らしている。
そのような人物がなぜこんなところに現れたのだろう。
「ここに黒髪の人間がいると聞いた。会わせてくれないか」
やはりセージ目当てか。
おそらくセージの噂をどこかで聞いて駆けつけたのだろう。
穏やかな口調とは裏腹に護衛もつけないで、服の裾が泥で汚れていることから、ここに来るまでかなり焦っていたということがわかる。
私は適当な嘘をつくことにした。
「彼は翼が折れたカラスの獣人でした。黒髪の人間なんているはずがないでしょう」
セージは寝起きは機嫌が悪い。
そっと寝かせてあげたいと思った。
しかし、エリック様は引き下がらない。
「それは大変だ!すぐに手当てをしなければ!そこをどきなさい」
エリック様の魔術で私は弾き飛ばされた。
普段穏やかなエリック様のこんな姿を見るのは初めてだ。
まずい。
今、セージは軟禁してある部屋にいる。なんとしても見つかってはならない。
「お待ちください、もうこんな時間ですし・・・・・・」
「何か私に見られると都合が悪いものがありますか?」
そう言われてしまったら反論ができない。
そのとき、何かが倒れたような物音がした。
「うわぁっ!」
セージの声だ。
何があったのだ。
「そこですねっ!?」
エリック様は部屋に向かって一直線に走る。
このとき、もうダメだと思った。
扉を開けると、部屋には椅子が倒れていただけで誰もいない。
窓もない部屋だし、扉には見張りが立っている。
消えてしまったのか・・・・・・?
あれから私たちは詰所をあちこち探し回ったが見つからなかった。
私もセージがなぜ突然消えたかわからない。
まあ、あの人は害がなさそうだしいいか・・・・・・。