複雑・ファジー小説

第2章 リーマンside ( No.7 )
日時: 2015/04/06 21:53
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

俺はごく普通の日本人のはず
しかし、今はなぜか異世界にいて、なんかおかしなことになっている。
俺は内定の時に親に買ってもらった愛用の鞄をじっと見つめた。
ここは、どこだろう
俺はついさっきまでトイレでうんこしていたはず
しばらく俺は回答がでない疑問をぐるぐると考えていた。


友達はいたが彼女はおらず、地元で有名な大学を卒業して、神奈川県にある中堅の商社に就職したという特筆すべき人生もない。
その日は新規の取引先との数回目の打ち合わせということで、手土産の菓子を持って取引先へ向かった。
うまくいけば年1000万の利益が臨める大仕事。
これで俺も出世できる可能性が上がる。

とても緊張していた。

腹が痛くなり、うんこにいきたくなった。
腕時計をみると、まだ時間に充分余裕がある。
近くにある百貨店のトイレにかけこみ、うんこすることにした。

5分ぐらいしてすっきりして扉を開けたら…
突然異世界だった。

リーマンside ( No.8 )
日時: 2015/07/20 23:28
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

まずは落ち着こう。
俺はさっきまでよくいく百貨店のトイレでうんこしていた。
一番奥の1個手前の個室を選んだところまで覚えている。
すっきり出したのも覚えている。
まさか夢を見ているのか?
いや、トイレで気絶しているなんて考えられない。
そんなことよりも早く手を洗いたいんだが。

しかし、トイレの扉を開くと、何処かの町の通路に繋がってしまっていた。
疲れているかもしれない。最近プレゼン資料作りで残業続きだったから。
俺は扉を閉じた。
次開けたら、百貨店のトイレだ。こんなところにいつまでもいないで、早く取引先に行こう。いや、まずは手を洗おう。
意を決して扉を開けた。
しかしその風景は全く変わらなかった。

とりあえず鞄の中にウェットティッシュがあるから、それを使おう。
鞄のファスナーを開けて、中を覗くと、ブラックホールだった。
なんじゃこりゃあ!?
俺の携帯は!?財布は!?
鞄の中に手を突っ込むが、手になにも触れない。
全部なくなったら困るんだけど。とりあえずティッシュ!
すると、手に何かが触れた。それを掴み、取り出してみると、手にはウェットティッシュが握られていた。
なんだこれ?とにかくあったのはよかった。俺は一枚取りだし、手を拭いた。

もしかして俺が何か願ったら、それが出てくるの?
再び俺は鞄の中に手を突っ込む。
携帯が欲しい。命の次に大事なものだ。
すると、予想通り携帯を取り出すことができた。
仕事用のガラケーだ。
時計は1時をしめしている。約束の時間は1時半だ。
百貨店から取引先への距離は歩いて10分ぐらいだ。
遅刻したら、非常に困る。まだ時間に少し余裕はあるが、万が一のこともある。
怒られる覚悟で上司に電話をしようと思ったら、電波が繋がらなかった。

第2章 〜リーマンside ( No.9 )
日時: 2015/03/12 22:32
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

居場所を知りたくて自分のスマホを取りだし、電源をつけると、見慣れないアイコンがあった。

【田村聖司】

俺のフルネームじゃないか。
ウイルスかもしれないとか関係なく、迷わず俺の名前のアイコンをタッチする。
すると、RPGにでてきそうな画面が出てきた。
職業は【リーマンlv99】
なんじゃそりゃ。そんなんだったらもっと早く出世してる。

次に所持品を調べてみた。
先程中身を見たときは、ただ暗闇ばかりで少しパニックになったが、ウェットティッシュも勿論、財布も手土産の菓子もちゃんと全てあるようだ。

驚いたのは所持金の額。
9がいくつならんでいるのだろう…・・・。
試しに鞄に手を突っ込む。
つかんだのは大量の金貨だった。
あれ?これで俺金持ちじゃね?
働かなくてもよくないか?
金貨を取り出しても所持金の額は減らなかった。

地図を開くと、見慣れない地名。日本ではないことがわかった。

スマホの充電器は持っているが、それでも無制限というわけにはいかないので、俺は電源を落とした。
これから役に立ちそうだから、大事に使わないとな。

第2章 リーマンside ( No.10 )
日時: 2015/03/12 22:33
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ここはどこだ。
空は晴れ。わたがしみたいな雲がゆっくり流れている。
いつまでもここにいても変わらないし、歩いてみるか。なにか手がかりが見つかるかもしれないし。

まるで、ファンタジーだった。
間違えてテーマパークのトイレを使ってしまったのか?
だとしたら世界観の完成度が高すぎるだろオイ。
第一入場料払っていないぞ。
それに街には至るところにゴミが落ちていて汚すぎる。スタッフ仕事しろという以前の問題だ。

歩く人間をチラチラ見てみると、皆茶髪か金髪だ。
日本では平均的な黒髪でスーツ姿の俺一人が目立ってしまう。
なにより目を引いたのは頭に耳が生えたやつや背中に羽が生えているやつがいることだ。
あれなに?コスプレ?
動物的なコスプレをしているやつらのほとんどは、鎖に繋がれて歩いていた。
暴力を振るわれている者もいるが、誰も見向きもしない。
俺も余計なことに首をつっこみたくなくて、見て見ぬふりをすることにした。

たまたまパンを売っている商店を見かけ、俺は試しに金を使ってみることにした。
「いらっしゃい!」
店主は愛想よく挨拶をする。俺は金貨を一枚出した。
「これでパンを買えますか」
すると、店主はギョッとした。
「き、金貨ですか!?」
「はい」
店主の反応をみると、金貨は相当高価なもののようだ。
それを俺は無限に持っている。
どうやら大富豪になったようだな、俺。
俺は金貨を渡す。
「では、パンを3つください」
「かしこまりました!!」
店主はパンを3つ袋にしまう。
お釣りを貰ったが、どうやら店にある金を全部つぎ込んでも足りないらしい。
まあ、いいけど。
ここの貨幣は金貨の他に銀貨や銅貨などがあるらしい。中でも白い貨幣が一番多かった。

金貨を払ったせいか、俺は注目の的になってしまった。
商売人たちの熱い視線が俺に突き刺さる。
「兄ちゃん、焼き鳥うまいよ!どうだい?」
「とびきり可愛い子がいるんだけど、遊びに来ない?」
ええい、しつこい客引きは違法だ!
俺は「すみません」とダッシュで逃げた。

第2章 〜リーマンside ( No.11 )
日時: 2015/03/14 15:45
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

広場に人がたくさん集まっている。
ちょうどいい。人混みに紛れ込めば見つかりにくくなる。
それになにがあるのか気になる。
俺は集団からわずかに距離をとってその様子を眺めた。

台の上に男がたち、陽気に話す。
「さあ、今日もいい商品を仕入れたよ!時間になるまで手をあげて値段を叫んでください」
なるほど、オークションか。
ショッピングは好きだ。常に新しい発見がある。どんな商品が並ぶのだろうと俺はわくわくした。

しかし、俺はすぐにここに来たことを後悔する。

台の上に何人か鎖が繋がれた人間が立った。中には明らかに未成年の者もいる。
商人の男は彼らについて説明する。
「まずは犬族の雄、年齢は二十代半ばです!働き盛りで丈夫ですよ!」
広場にいた者たちは値段を叫んでいく。
そして一番高い値段に決まり、犬耳の青年は抵抗もせず、新しい主人に引き渡されていった。
「次はネズミ族の親子だよ!」
親子は不安そうな顔をして寄り添っている。
「親に金貨3枚!」
「子供に2枚だ!」
ネズミ族の親は金貨5枚、子供は金貨3枚にきまった。
すると、母親は抵抗した。
「待って、せめてこの子と一緒に・・・・・・」
商人の男はそれまでの陽気さから一変し、鞭を振り回した。
「うるさい、獣人のくせに意見するな!」
こうして母親と子は無理矢理引き離されてしまった。
引き離されながら母親は狂ったように泣き叫んだ。子も涙を流して母をよんでいる。

なんて国なんだろう。
人が人を売買するなんて。そもそも人身売買は国際連合が禁止しているはずだ。
ここは多分俺が知っている世界じゃない。
俺はここから逃げるように立ち去った。

Re: リーマン、異世界を駆ける【いろいろ募集中】 ( No.12 )
日時: 2015/03/14 23:37
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

あれが奴隷市場・・・・・・
本の中でしか見たことがない世界を俺はみた。
この世界では耳や翼など動物的要素を持った奴等は人間の奴隷になるということがわかった。
あの親子はどうなるのだろう。

時間は過ぎ、約束の時間なんてとっくに過ぎてしまった。
考え事しながら歩いていると、猫とぶつかった。シャム猫だ。
シャム猫は人間になった。でも猫耳と尻尾は健在だ。俺は猫がすきだ、もふもふしたい。
この子も奴隷だろうか。
空から大きなカラスが降りてきて、人の形になった。この猫を追いかけていたのだろう。
「捕まえたぞ、手を煩わせやがって。さあ、いくぞ」
「いや!」
シャム猫は抵抗する。
まだあどけない女の子が下着のような露出が多い服を着ている。
普段なら面倒なことに関わりたくないから、気配を殺してこの場を立ち去るのだが、奴隷市場の光景を忘れられない。
「あの、何があったのか知りませんが、乱暴はよくないですよ」
今の俺は大量に金があるだけのニート。
先方も怒っているだろうし、打ち合わせも最悪白紙になっているだろう。
最高にイライラする要素が揃っている。
もう、なにも怖くない。
そのとき、女の子の大きな瞳が俺をみた。
まるで『助けて』と聞こえてきそうだ。

第2章 〜リーマンside ( No.13 )
日時: 2015/03/15 22:24
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

大体想像していた通りだった。
カラス曰く、この女の子は新しい主人に買われる予定だったが、逃げられていたという。
逃げた罰を与えなければならないという。
まだこんな小さな子供なのに可愛そうだ。女の子は小さな身体を震わせて俺の腕を掴んでいる。

少しして、主人が犬の奴隷を連れてやってきた。
中年でたるんだ体型の親父だ。
臭いで探知したんだな。
「なにをやっている!約束の時間に遅れてしまう、早くそいつを連れていけ!」
主人は俺の存在に気づいていないのか、カラスに怒鳴った。
女の子が怯えている。俺は女の子の頭を恐る恐るなでた。
これ正解か?彼女できたことないから扱い方がわからない。

ここで主人は俺の存在に気づいたのか態度を変えた。
「あなたが捕まえてくれたのですね。お手数をおかけしてすみません。この娘は今日取り引きをする大事な商品なのです。お礼はいたしますので、商品をこちらにお渡しください」
話がぶっ飛び過ぎていて、「あぁ」「はい」「そうなんですか」としか適当に相槌をうつことしかできない。
このハゲ、なんか苦手だな。
俺の嫌い上司に似てる。
人に文句ばかり言って、自分はなにもできない無能に。
「お願い、私を助けて!」
「いい加減にしろ!獣人ごときがこれ以上迷惑をかけるんじゃない!」
すがりつく女の子の髪をおっさんが引っ張った時点で俺は堪忍袋の緒が切れた。
本気でキレるとかえって冷静になるんだよな、俺 。
「お礼はこの子でよろしいでしょうか」
主人は答える。
「その娘は見目がよく、特別な商品です。とても高価ですよ」
望むところだ。いくらでも払ってやる。俺は億万長者どころじゃないぞ。
主人は俺をまっすぐみてニヤリと笑った。
「・・・・・・金貨20枚です」
あ、こいつ嘘ついたな。
営業舐めんなよ。
俺は鞄から金貨を可能なだけつかんだ。よし、20枚以上ある
主人は俺の手を凝視している。
こいつおもしろいぐらい分かりやすいな。
数えるのも途中でやめる。面倒臭いし、これも演出だ。
「十分でございます!!では契約成立ということで・・・…」
手渡すときに俺はうっかり手を滑らし、2、3枚落としてしまった。
主人は慌てて拾う。その手を俺は少し力を籠めて踏みつけた。
主人は俺を見上げ、目が合う。
「あ、すみません」
営業スマイルを浮かべ、足をどける。俺、性格悪いんだ。
主人はなにも言わず、苦笑いを浮かべながら金貨を拾う。そこまで金が欲しいか?
こいつ、この先ダメだろうな。
目先の金に捕らわれて、取引先の信頼を失うなんて。
まあいいや、おっさんがどうなっても俺には関係ないし。

第2章 〜リーマンside ( No.14 )
日時: 2015/03/16 22:34
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

首輪まで勧めてきたが、小物臭がするオッサンと関わりたくないから立ち去った。
あの子は自由だ。着いていきたければ勝手に着いていけばいい。
と思ったら俺のあとを着いてきた。
「これ、着たら。寒いだろ」
俺はコートを手渡す。別に寒くないし、露出が多い服をきているから、目のやり場にすごく困る。
「ありがとうございます」
女の子はお礼を言って、コートを着ると、おしりのあたりまで隠れた。これでよし。

辺りが暗くなっていく。百貨店のトイレに戻れる希望はなくなってきた。
そうなると、問題がある。
俺一人ならその辺で野宿でもいいけど、女の子いるからそういうわけにはいかないよな・・・・・・
女の子に話しかける。
「この辺ホテルとか知らない?」
「すみません、わかりません」
女の子は顔を歪めて俯いた。別にそんなことで怒らないって。
「そっか、じゃあ探すか」
俺はスマホを取り出した。
一か八か地図のアイコンをクリックする。すると、街の地図が出現した。
女の子は後ろから興味深そうに除いている。
多分あの建物がホテルだろう。
俺は地図が示す場所に急いで向かった。

しばらく歩いて宿を見つけた。
「ここでいいよな?」
女の子は頷く。決定だ。
宿のなかに入った。
「二人分、お願いします。食事つきで」
主人から鍵を受けとって部屋に向かった。
部屋はテーブルとベットが1つある。
「あのヤロ・・・・・・っ」
ベットをみて思わず出た言葉。
あの主人、俺達をみて何を勘違いしていたんだ。
俺も男だけど、未成年には手を出さないって!!
この子可愛いけど!!
俺の顔が怖かったのか、女の子は泣きそうな顔をした。
「ご主人様、ごめんなさい!なんでもするから怒らないで・・・・・・」
女の子は頭を深く下げている。
誤解させちゃったかな。
「大丈夫、怒っていないよ。それよりもお腹空いたろ、ご飯食べような」
最高の営業スマイルをみせても、この子は怯えていた。
説得力ないよな。

夕飯はオムレツとスープ。昼に買ってきたパンも追加した。
女の子は恐る恐るだけど、食べている。
ここの世界の動物って何でも食べられるのか?
よく聞くのはネギ類とかダメだって聞くけど・・・・・・
しかし、女の子の様子をみる限りは大丈夫そうだ。

そう言えば、女の子の名前を聞いていないな。女の子も俺の名前を知らないだろう。
俺のことをご主人様って呼んでたしな。
「なあ。名前、教えてもらってもいい?」
女の子はかろうじて聞こえるほどの小さな声で答えた。
「ルチカ…」
「ルチカか、綺麗な名前だな。俺は田村聖司っていうんだ」
ここで俺は初めて自分の名前をなのった。
「タムラセージ・・・・・・」
ルチカは俺の名前を復唱する。
「ルチカって名前だろ?俺も聖司でいいよ。
俺はルチカを奴隷にしたつもりはない。だからご主人様なんて呼ばないでほしいな」
「セージ様・・・・・・」
様はいらないけどな。まあ異世界の常識は違うだろうし、いきなりはむずかしいだろうから、当分はこれでいいか。

食後に手土産の菓子を1つずつ食べた。もう取引先にいかないだろうし、いいや。
ルチカは初めて食べるお菓子に目を丸くしていた。
人を驚かせるのは好きだ。
取引先のおっさんよりこの子にあげてよかったと思う。