複雑・ファジー小説
- 第8章 セージside ( No.74 )
- 日時: 2015/04/12 19:05
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
【悲報】警察に捕まったった
俺はこれまで警察と縁がない人生を歩んでいたはずだ。
一体どんな罪を犯してしまったのだろうか。
単純に考えれば密入国か。
いやしかしあれは勝手に俺をこの世界に送り込んだ神のせいだ。
しかしよく聞いてみれば、俺が黒髪で怪しいから捕まえたような感じだ。
捕まえて取り調べをしながら何の罪を犯したか明らかにするという。
なんじゃそりゃ。罪がはっきりしてないのに逮捕かよ。いつの時代だよ。
そのおかげか地下牢に入れられなかったのは幸いだが、窓もない部屋に軟禁された。外には見張りがいる。
詰所は男の花園だからそこらへん汚くて変な臭いがするし、食事は不味いし、毎日風呂に入れないのは辛いな。
あと何かしらねぇけど変な目で見るやついるし。
ルチカはどうしているだろうか。俺がいなくて泣いているだろうか。
サイトは畑の手入れしてるかな。あいつらちゃんと食ってるかな。
家を購入して一週間ぐらいにになる頃。
俺はこの暮らしに少しずつ慣れてきた。
最初の3日間は掃除ばかりしていたが、綺麗になるとやることがない。
あとはレイズさんところに行って食糧や日用品の買い物をやったり、サイトと筋トレをするぐらいだ。
庭に畑があったので、サイトは耕し始めた。あいつは力があるから荒れた畑があっという間に耕せた。
ルチカも種を撒いたり、水をやったりして手伝っている。
お前ら・・・・・・奴隷だったころ散々辛い思いして働いたからそんな働かなくてもいいのに。
まあ自給自足はいざというときのために悪くないことか。
今、育てている作物はジオラというジャガイモのようなものと、タルシェというキャベツのような野菜だ。
二人を見習わないとな。
俺?俺はやらないよ。
都会育ちだから畑仕事は二人に任せている。
二人が楽しそうにやってるのをただ見てるだけ。
俺、虫が嫌いなんだもん。見るだけでも無理。
働いていたら、1日のリズムができるが、何もしていないと自堕落になっていく。
今の俺は毎日が日曜日状態。
俺もなにかしようかな。金はいらないけど。
この世界の仕事ってなにがあるのだろう。ハローワークとかあるかな。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.75 )
- 日時: 2015/04/13 19:53
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
そしてあの日がやってくる。
夜明けになるころ、クレイリア軍と名乗る者が門を叩いて俺の名前を呼んで声を張り上げた。
全く、近所迷惑だな。
クレイリア軍とはこの国を守る軍隊らしい。
俺は2階に上がって、窓から奴等をみる。十数人ほどで全員武装している。
ルチカは怖がって震えている。俺も怖いのでルチカの傍に寄った。
サイトは口を開いた。
「旦那、旦那を守るためなら俺は戦うぜ」
「万が一のことがあったら頼む。ただし、こっちからは絶対に手出しするなよ」
あちらは俺を指名してるから、俺が扉を小さく開ける。
目の前に十数人の武装集団。
日本で暮らしていたらまずお目にかかれねぇよ。
「なんですか。朝から」
この時間帯にいきなり訪れるなんて非常識にもほどがある。
代表格の男が偉そうにいう。
「お前がセージという男だな。お前に聞きたいことがある。即刻詰所に来てもらおう」
小さく開かれた扉を無理矢理開けられ、二人がかりで両腕を掴まれた。
「ちょっと、いきなり非常識な時間に来てあなた方の都合で来いとはなんなんですか!」
俺は抗議する。腕を振り払おうとしたが、すぐに捕まれた。
カチンとくる態度だし、礼儀を知らないのか。
「それが我々の仕事だからだ。
我々はあなたが犯罪者でないとわかる限り丁重に扱うと約束しよう」
なんなんだよ?それって
とりあえず捕まえておこうってノリか。魔女狩りかよ。
丁重に扱うなんて信じられないぞ。
振り向くと、二人と目があった。
「よくも旦那を・・・・・・てめぇら覚悟しておけ」
サイトは筋肉を痙攣させる。
何?何が起こるの?
なんかサイトの体が少しずつ大きくなっていく気がするし、皮膚の色が変わっていくし。
軍隊の皆さんも武器を構えているし。
これはヤバいぞ。
「よせ、サイト!
余計なトラブルは起こすんじゃない。お前まで捕まったらどうするんだ。
俺は大丈夫だ。すぐに戻ってくるからここで待っていろ」
すぐに戻ってこれるかどうかはわからない。サイトを安心させるための嘘だ。
なんとか切り抜けてやるさ。
営業、舐めるなよ。
これでも修羅場をいくつか越えてきたんだ。
クレーマーのおっさん
セクハラだと騒ぐ従業員の仲裁
行方不明になったアルバイトを捜索してたら、そいつは犯罪者になっててしばらく文通してたり。
これ営業関係あるかわからないけど。
- 第8章 セージside ( No.76 )
- 日時: 2015/04/14 19:19
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
俺は取り調べのため、一室に連れていかれる。
どんな質問をされるかスムーズに答えられるよう、あらゆるシチュエーションを想定した。
あいつらがどこまで知ってるかわからないから、俺の話が通じるかわからないが。
相手はアーノルドと名乗った。第3部隊の副隊長である。
まずは俺の個人情報について聞かれた。隠すことじゃないので俺は素直に答える。
興味を示したのか、だんだん質問が矢継ぎ早になっていく。
ここのやつらは俺とは常識が違うため、ちょっとしたことでも説明が必要だ。
相手にわかるように説明するって大変だな。午前中の取り調べが終わったころには俺の頭はふらふらしていた。
休憩で昼食が出される。
朝から水以外何も口にしていないが、食欲がない。
しかもあいつら俺が珍しいのか、ぞろぞろ集まってくるんだよ。
俺は珍獣か!
とにかくやつらを無視し続けた。
飯は不味いし散々だな。
しかし、このあと午後の取り調べで俺に悲劇が起こる。
【悲報】集団に見守られながら裸にされたった
これ、やりすぎだろう。
裸にする必要があるのかと聞いたら、俺が獣人か確かめるんだってさ。
日本なら違法だぞ。
だからってさ・・・・・・そこばっかり見るなよ。お前らもついてるだろうが。どうせ日本人だよ、小せぇよ。
過剰な取り調べと強要罪で訴えるぞ、コラ。
結果、俺が獣人じゃないことが認められた。
脱がされてから、俺はある程度自由に振る舞うようになった。
あいつらの都合で連行されたんだから、少しぐらいのワガママは許してもらえるような気がした。
飯が不味い、部屋が汚いと文句を言いまくった。
そして我慢の限界を超えたので、勝手に厨房に入って料理をしたり、詰所の掃除をした。
ワガママでやったつもりがこれがあいつらにとって好評だったようで。
いつのまにか俺は第3部隊に馴染んでいた。
あれ?俺、なに容疑者ライフ楽しんでるの?
なんか知らねぇが、俺のこと【姫】とか呼んでるやつは誰だ?
俺が男だって知ってるよな。
眼科行けよ。
男だらけの世界って怖いな。
ケツ、狙われないようにしないと。
触ってくるやつがいたら遠慮なく手首を捻らせてもらっている。
いや、逆にあいつら利用してもいいかな。
『ねぇ、外に連れていって?』って演技でお願いすれば一発じゃないか?
捕らえられて3日目の明け方、外で門を叩く音で俺は目覚めた。
こんなときになんだよ。ここの世界の住民は非常識な時間に訪問するのが常識なのか?
部屋の外で会話が聞こえる。
扉が小さく開いた。容疑者ライフで仲がよくなった獣人が顔を出す。
馬の獣人であるマーティ。茶髪でひょろりと背が高い。
軍隊にいるのが意外なほど穏和な性格でよく俺に気にかけてくれた。
「あ、起きちゃったよね。ここから出ないようにしてね」
何か緊急性のある出来事が起こったのか。
扉は俺に配慮するかのように静かに閉められた。
俺は椅子に座る。会話が段々近づいてきた。
穏やかじゃねぇな。
そのとき、何者かに後ろから襟首をつかまれて、引っ張られた。
- 第8章 セージside ( No.77 )
- 日時: 2015/04/15 19:58
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
乱暴に引っ張られ、後ろへ投げ出された。
「ぃでっ!」
派手に尻餅をつく。
やり方荒いな、全く!
文句を言おうとしたが、誰もいない。
辺りを見回すと、そこは軟禁されている部屋ではない。
何もない白い空間・・・・・・ここ見覚えがあるぞ。まさか・・・・・・
背後に人の気配がして振り向くと、あの【神】がいた。
以前は人をバカにしたようなヘラヘラした顔だったが、今日はしかめっ面だ。
「あれほど魔法の勉強しろと言ったでしょ!?」
「はぁ!?無茶言うなよ!」
またいきなり説教かよ。思わず素が出てしまう。
あれほどってあんな紙切れ1枚だけで指示は雑すぎるだろう。
魔法よりもまずは文字の勉強をしないといけないのに。
慣れない異世界で、しかも独学だと習得するのに時間がかかる。
まだあいつに聞きたいことがある。この世界のことについて。俺の前世について。
しかしそれを聞くことができず、俺はまた神に投げ飛ばされてしまう。
「今回だけ特別だからね!ちゃんと転移の魔法ぐらい覚えるんだよ」
そんな言葉を残して・・・・・・
ガリなのによくそんな力があるな。
気がついたら俺は地面に投げ出されていた。
空をみると、曇り空の隙間からから光が一筋差し込んでいる。
ついさっきまで雨が降っていたのか左半身が泥だらけだ。
近くには第3部隊に取り上げられた鞄が転がっている。
最悪だな。
もうちょっと丁寧に扱えよ。
俺はノロノロ立ち上がる。
ルチカとサイトの顔を早く見たい。
どうしてるんだろうか。
以前の俺なら、あいつらに何か土産物を買ってくるが、今はひたすらあの家に帰りたい。
現在地は家の近く。遠くに家が小さく見えるぐらいの距離だ。
鞄を拾い、歩きだした。
門を叩く前に、扉が開いた。
そこにはルチカがいる。
俺の足音を聞いてたのかな。
何と声を掛けるべきか迷ってしまう。
ルチカの目から涙が溢れてくる。
こんなに淋しい思いをさせてたんだな。ごめんな。
ただいま、と言おうとする前にルチカは駆けてきた。
「おかえりなさい!」
俺についてる泥が着いてしまうのも構わず、ルチカは抱きついた。
- 第8章 セージside ( No.78 )
- 日時: 2015/04/16 19:49
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
早速風呂に入りたいのだが、現代みたいに湯がすぐに沸くわけがない。
たらいに水を貯めて、布で体を拭くぐらいしかできない。しかし入らないよりはマシだろう。
風呂からあがって服を着替えると、鞄が綺麗に拭かれていた。
「拭いてくれたの?」
ルチカは遠慮がちにこくりと頷く。気遣いがとても嬉しい。
俺はルチカの頭を撫でた。
「ありがとう、気が利くな」
ルチカはニコリと笑った。
一ヶ月前の俺なら女の子の頭なんて絶対に撫でない。妹の頭を撫でたのは小学生低学年までだ。
撫でたらセクハラだ犯罪者だと言われるのがオチだからな。
でもルチカは頭撫でると嬉しそうにするからたまに撫でている。
そしてルチカは少し涙を浮かべてニコニコしながらこう言った。
「セージ様が戻ってきてよかったぁ」
ルチカ、それ反則な。
戻ってきても普通にしてたらどうしようかと思ってたんだよ。
こんないい顔見れたから、寄り道しないでよかった。この顔が見れるなら外出した時はまっすぐ帰ってもいい。
俺もここで暮らしていて何か変わったんだろうな。
俺は遅めの朝食を作って、三人で食卓を囲んで食べる。
そういえば俺がいない間、飯はどうしていたんだろう。
あいつらは料理はほとんどできない。
サイトは調理器具を壊すし、ルチカには俺が教えているが、今はオムレツしか作れない。
だから飯は俺がいつも作っていた。
これからもこんな風に俺がいなくなる可能性もあるから、あいつらでちゃんと生活できるようにしないといけないな。
「なあ、飯はちゃんと食ってたか?」
俺は二人にきく。ルチカは答えた。
「レイズさんの使いが食糧を届けてくれたんです・・・・・・」
レイズさんは俺が騎士団に捕まっていたのを知っていたらしい。
あの人、よく気がつくな。
今度、お礼に行かなきゃ。
あの人のお礼は何がいいかな。
大きな店やってるから、大抵のものは持っていそうだし。
変なもの持っていくわけにはいかない。
う〜ん、考えるの難しいな〜。
- 第8章 セージside ( No.79 )
- 日時: 2015/04/17 20:22
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
俺は数日ぶりにリードマン商会に訪れる。
ルチカとサイトも連れて。
そのときはスーツを着る。やっぱりキチンとした格好じゃないと気合いが入らない。
ここにくる前に手紙で
『ありがとう。明後日そっちいく。』
と下手な文字で書いてレイズさんの使者に渡した。
もっと文字が書けたら、失礼がないように色々書けるんだけどなあ・・・・・・。
独学だとこれが限界。お許しください。
レイズさんなら多目に見てくれるだろう。
「やあやあ、セージ殿。釈放おめでとう」
レイズさんは俺に握手してくれた。
「レイズさん。俺がいない間、色々ありがとうございます。助かりました。これ、お礼です。お口に合えば嬉しいのですが・・・・・・」
俺はお礼の手土産が入った箱をレイズさんに渡す。
「ありがとう、開けてもいいかい?」
俺は「どうぞ」という。
箱を開けると、そこにはお菓子。
「これはクッキーかい?」
「マカロンです」
正確にいうと、マカロンもどき。
5才下の妹がキッチンをメチャクチャにしてお菓子作るから、作り方なんとなく覚えちゃったんだよな。
ちなみにそのあとの片付けは俺の役目。
試しに作ってみたら、意外とそれっぽくできたから、いくらか改良を重ねた。
アンヌというアーモンドに似た風味の種の粉と卵白を硬めに泡立てて、形を整えて焼いたもの。
電動の泡立て器がないため、手動でメレンゲを作るのだが、かなり体力を使った。
あとは、季節の果物のジャムを挟む。
形が日本で売ってるものより少々イビツだが、これが俺の持ってる技術の限界。
ルチカと形が綺麗なものを選んで箱に入れたんだ。
ここの世界のお菓子ってナッツとかドライフルーツが入ってる菓子パンかクッキーぐらいしかないんだよな。
大抵のものなら持っているレイズさんに手土産を持っていくなら、物珍しくて保存がきくマカロンがいいと思った。
レイズさんは1つを詰まんで口に入れる。
「美味しいねぇ。これ、隠し味にアージュ地方のラム酒使ってる?10年ものだよね」
「はい。よく気づきましたね」
「利き酒は得意なんだよ」
リードマン商会に何度か訪れて、レイズさんの部屋に高級感そうなボトルの酒がいくつか並んでいたから、彼は酒が好きではないかと考えた。
気に入ってくれたようでよかった。
マカロンを食べると、レイズさんはこう言った。
「これ、大量に作れない?取り引きをしたいんだけど・・・・・・」
【速報】リーマン、パティシエに転職するか?
- Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.80 )
- 日時: 2015/04/17 20:33
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
セージ君はマカロンを作れたんですね!女々しさがあって可愛いです!
リーマンからパティシエになるんですか!そうなると、作品のタイトルが変わってしまいそうですね(笑)
そういえば、エリックが8章で登場していませんが、彼はもう少ししてから登場するのでしょうか?
- Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.81 )
- 日時: 2015/04/17 20:33
- 名前: HIRO (ID: bfv3xRAx)
ガタッ←とりあえず座れ
おいすーヒロです
商魂たくましい、リードマンさん、リーマンの作ったマカロンもどきを商品にできるか。
後、現物よりも作り方を書いたレシピを売る形がいいかと。
あくまで貿易のため腐るものや足の早いものはNGじゃないかな。
- Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.82 )
- 日時: 2015/04/17 23:29
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
セージさんはいろいろ器用です。
彼女はいなかったけど、女子からやたらチョコもらったりして男子から嫉妬の目線を感じてたりしてましたw
八章は土曜日の夕方に終わる予定です。
エリックさんは最後にちょっと登場です。
そして、日曜から始まる9章はエリックさん視点です。
7,8,9と時系列が重なってる部分があったりして、テンポちょっと悪いかな…と今後悔
- Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.83 )
- 日時: 2015/04/17 23:36
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
HIROさん
いらっしゃい、どうも!
マカロンは賞味期限1週間ほど。
小麦粉入れたり(それはダックワーズというお菓子になる)、固く焼いとけば日持ちするかな
700年ごろからあったようなので、製造は可能みたいです
これのためにデパートでマカロンを買いあさり、
自分でもマカロンを作りました。
確かにレシピ渡して、菓子工場に受注すればいいかも…
- Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.84 )
- 日時: 2015/04/18 10:49
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
俺達に仕事が見つかったかもしれない。
あまりにも唐突で信じられなかった。
キョロキョロしてるとルチカとサイトに目が合うが、どちらも何も言わない。
レイズさんはフッと笑う。
「君の判断に任せるよ。つい、商売人魂がね・・・・・・。ダメだったらレシピだけでも教えてくれない?」
「いえ、やらせてください。お願いします!」
俺は頭を下げた。
せっかくのチャンスだ。逃すわけにはいかない。
あの二人に食いっぱぐれがなくなってよかった。
俺とレイズさんはこれからのマカロンの取り引きについて、大まかに打ち合わせをする。
材料のことや値段について・・・・・・。
マカロンを作るには時間がかかる。頑張っても1日数十個が限界だろう。そこが課題だ。
まず、人手が必要だ。
今、マカロンを作れるのは俺だけだ。ルチカが手伝ってくれてもまだ人手不足だ。
一日中メレンゲをひたすら作ってたら、腱鞘炎になりそうだし。
奴隷市場に行って何人か買おうかな。
そして、場所。
家の厨房ではオーブンが小さくて、焼ける数に限りがある。
そういえば、庭に小屋が2つあったな。そっちの大きなほうをマカロン専用の厨房に改築しようかな。
大きな小屋は俺はずっと家畜小屋だと思っていたが、サイトによるとどうやら獣人の住居だったらしい。
あそこに奴隷を10人ほど押し込むようだ。
俺にはそんなものは必要ない。
サイトやルチカだって見るのは嫌だろう。
だったら思い切って厨房に改築したほうがずっと価値がある。
レイズさんにお願いして、いい建築組合を紹介してもらうことにした。
ハッツガグという建築会社が有名らしい。歴史のある教会の修理を請け負うこともあるほどだ。
俺はそのあたりはよくわからないので、レイズさんを信用して任せることにした。
- 第8章 セージside ( No.85 )
- 日時: 2015/04/19 00:42
- 名前: yesod (ID: ZKCYjob2)
打ち合わせが大体終わって、俺は一息つく。紅茶がさめてしまっていた。
これから数日、いや数ヵ月かかるかもしれない。とにかく時間をかけて細かい交渉していくだろうな。
新しいことをやるには念入りな準備が必要だ。
俺には今、悩みが1つある。
レイズさんに聞いてもらおうと考えていた。今日訪問したのはそのためでもある。
「レイズさん。こんなタイミングでこの話題を出すのはどうかと思いますが、レイズさんしか頼れる人がいないので・・・・・・。1つ相談してもいいですか?」
「なんだい?できることなら手助けするよ」
俺はレイズさんに悩みを話す。
俺が今悩んでいることは、勉強面のことだ。
この世界には学校があり、7歳から通うことができる。だがそれは経済的に恵まれた人間の子供しか通えない。
俺も、ルチカとサイトも勉強する必要があった。しかし、俺はともかく獣人の二人は苛められるだろうと思った。
ならば家庭教師をつければいい。
何人か声を掛けてみたが、獣人に勉強を教えるのは嫌なようで、全員断られた。
おそらく俺は事業主になるだろう。これから文字が読めないと色々不都合がありそうだ。
それに俺は魔法が使えるようだし、早く魔法の本が読めるようになってスマホを充電したい。
レイズさんならいい教師を紹介してくれるかもしれない、と思った。
相談を聞いて、レイズさんは柔らかい笑みを浮かべた。
「う〜ん、私の獣人で文字が読める者はいるけど、君はそれだけじゃ満足できないでしょ」
「あ、はい・・・・・・」
俺は苦笑いして頷く。
なんでもお見通しだな、この人。
レイズさんはいう。
「獣人を差別しなくて、魔法の腕が世界トップクラスで、巧みな文章を書く人が今ちょうど隣の部屋にいるんだけど・・・・・・」
何っ!?そんな好条件な人物が近くにはいるのかっ!?
「是非!是非会わせてください」
「うん、わかったよ。エリック様をよんでくれるかな」
レイズさんは近くの獣人に命じる。
獣人を差別しない人なんて初めてのような気がする。どんな人なんだろう。
扉が開いたとき、上品そうな中年の金髪の人が歓喜の表情で俺を見ている。
そして、彼の近くには狐みたいな獣人と・・・・・・アーノルドのおっさん。
俺はまだしばらく軍の人たちのお世話になるらしい。