複雑・ファジー小説

第9章 エリックside ( No.88 )
日時: 2015/04/19 11:11
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

「ご主人様、そろそろデュゼル伯爵との謁見の時間です。遅刻してしまいますよ」
隣に座っている獣人が私に声をかける。
彼はミシェル。フェネック族の獣人だ。
色白で女性のような顔立ちだが、これでも雄だ。フェネック族の特徴である大きな三角の耳がこちらに向いている。
私はミシェルの頭を撫でた。
「何、少しぐらい遅刻しても構わないだろう。今、いいところだから・・・・・・」
そう言うと、ミシェルは微笑んで、これ以上言わなかった。
遅刻なぞ、よくあることだ。
獣人を劣悪な環境で働かせ、金儲けしている悪どい伯爵と謁見など本来しなくていい。
ミシェルは私が一目惚れして購入した獣人だ。
人間たちの玩具にされていたのを見かけて、放っておくわけにはいかなかった。
顔が美しいだけでなく、性格も素直だ。私にとってこの子は伴侶のような存在だ。

私は今、小説を書いているところだ。頭の中に浮かんでいたアイデアを紙に書き進めている。
ミシェルは私に寄り添い、紙を覗きこんでいる。
「エーシャナはどうなるのですか」
エーシャナとは私の書いている小説に登場する人物だ。彼女は悪い魔法使いに拐われたところだ。
「大丈夫、彼女はラファエルに助けられるよ」
しかし、エーシャナは洗脳されて、ラファエルの家臣を殺してしまう。洗脳が解けた彼女はその罪に苦しみ続けるのだ。
私の本来の職業は宮廷魔術師だが、副業で小説を書いている。
青年の騎士が獣人と協力して活躍する物語だ。

そんなある日、奇妙な人物の噂を聞いた。
金持ちの黒髪の人間がいると。
おそらく異国の商人ではないかといわれている。
私は彼に1度会ってみたいと思った。
彼の話を聞いて、新しい小説のアイデアにしようと考えていた。
現在、彼はクレイリア軍の第3部隊の詰所に拘束されているそうだ。
異国でたった一人、心細い思いをしているだろう。
夜眠れず、私はいてもたってもいられなくなり、護衛をつけずに外套を羽織って、詰所に転移の魔術で移動した。

詰所の門を叩くと、副隊長のアーノルドが対応した。
「エリック様?こんなところにどうなさったのですか」
「ここに黒髪の人間がいると聞いた。会わせてくれないか」
アーノルドは答える。
「彼は翼が折れたカラスの獣人でした。黒髪の人間なんているはずがないでしょう」
なに、翼が折れているだと?
鳥類族にとっては致命的ではないか。
すぐに手当てをしなければ。
「それは大変だ!すぐに手当てをしなければ!そこをどきなさい」
私は魔法を発動させ、彼を押し退けた。
周囲の声を無視して、部屋の扉を開けると・・・・・・

彼はいなくなっていた。

転移の魔法を使ったのか?
あれは1つ間違えたら命を落としてしまうこともある魔法。熟練者でもマスターするのは難しい。
しばらく彼を探し回ったが、彼は見つからなかった。

第9章 エリックside ( No.89 )
日時: 2015/04/19 17:56
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

その後、私は彼に関する新たな情報を入手する。
今日、リードマン商会に訪れるそうだ。彼自身がそこに伺うと手紙を出したのだという。
手紙を書くなんて律儀な者だな。
私は急いで用意をして、ミシェルを連れて馬車でそちらに向かう。
「黒い髪の人間ってどんな人でしょうね」
ミシェルは隣で私を見上げ、こう言う。目がキラキラしている。私も会うのが楽しみだ。
「彼は異国の人物らしいな。獣人を差別的に見ていないようだ」
「ご主人様みたいに優しい人なんですね。僕、異国の話を聞いてみたいです」
第3部隊の噂によると【姫】とあだ名されるほど可憐だそうだ。ますます興味が沸いてくる。
ミシェルに寄り添うと、彼の尻尾が甘えるように私を撫でた。
今日は宮廷魔術師の議会があるが、あんな退屈な議会などどうでもいい。
途中アーノルドに出会い、合流した。彼らもリードマン商会に用事があるようだ。

セージ殿はリードマンと話し合いをしているそうだ。
私たちは彼がいる部屋の隣にお邪魔させてもらった。
一体何を話しているのだろう。
壁はウサギ族でも聞こえないほどの防音仕様になっていて、全く聞こえてこないのが残念だ。
私はミシェルと雑談していたが、アーノルドはかなりイライラしている。
時間がかなり経ったとき、リードマンの獣人が扉を開いた。
「お待たせしました。会長がお呼びです」
やっとセージ殿に会える。
私は心臓の高鳴りを感じながら、隣の部屋に入った。

噂通りセージ殿は黒い髪に黒い瞳。女性らしい要素も見えるが、決して女々しくない。
特徴はないが、欠点もない。かなり整った顔立ちだ。
両脇に二人の獣人を連れている。
セージ殿は私をみると笑顔を見せたが、それは一瞬。
アーノルドに視線を移すと、笑顔を消した。
彼は軍の所属。捕らえられていたとき、やはり何かあったのだろう。
猫の獣人は顔を強ばらせてセージ殿に寄り添い、牛の獣人は警戒の表情を見せる。
リードマンは私たちをソファに座らせる。
「紹介するよ。
彼はエリック・フォン・ブライユ9世。宮廷魔道師だよ。
エリック様、こちらはセージ・タムラ。異界の商人のようです。彼は教師を探しているようですが、いかがでしょうか」
私の返事はとっくに決まっている。
「私を選んで貰えるなんて、とても光栄だ」
異界の人物と触れあえる機会を頂けるとは思わなかった。
リードマンの話によると、二人の獣人にも差別せず文字を教えてほしいようだ。
獣人の様子を見ると、大事にされているのがよくわかる。
彼のためならお安いご用だ。
彼の傍にいさせてもらえる権利を頂くなんて、神に感謝しなければ。
セージ殿は口を開く。
「レイズさん、宮廷魔道師って忙しいでしょう。そのような素晴らしい人物に私のために時間を割いて頂いてよろしいのでしょうか・・・・・・」
とても礼儀正しく、奥ゆかしい人物だなと思った。
だがリードマンは苦笑いした。
「彼が嫌なのかい?」
どうやら図星だったようだ。セージ殿は黙ってしまう。
遠回しに断っていたようだ。
リードマンは続ける。
「でも、彼しか適任者はいないと思うよ。彼は仕事をよくサボっているから心配しなくていい。それに、彼は獣人を差別しないよ」
セージ殿は「はぁ」と力なく頷いた。

警戒されても仕方がない。私は国側の人間なのだから。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.90 )
日時: 2015/04/19 18:06
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

ついにエリック視点になりましたね!ミシェルも可愛くて大好きです!

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.91 )
日時: 2015/04/19 21:48
名前: 羊青 (ID: F2lwV46U)

もうほんと聞きあきたと思いますが言わせてください。

ルチカちゃんまぢてんし

ごめんなさい色々語りたいことはあるのですがこれ以上彼女について触れるとセージさん絞め殺したくなりそうなのでここまでにしておきます。あかん。天使。かわいい。もはや犯罪級。

あ、あとハッツガグ商会ちょろっと登場しましたね!
依頼取り消しされるフラグガンっガンたってますね!

エリックさんかっこいいです。かっこいいですがあれですねウホッてますね。
最近皆ウホウホですね! それも好きだけどルチカたんの前では霞むんですよフッ

更新頑張ってください、応援しております!

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.92 )
日時: 2015/04/19 22:45
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

モンブラン博士さん
エリック視点になりました!
彼はセージさんに勉強を教える重要なキーパーソンです
魔法でセージさんの可能性がぐっと増えます
お互い影響を与え合う関係になれたらと思います

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.93 )
日時: 2015/04/19 23:00
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

羊青さん
全然聞き飽きていません!むしろエネルギーです
日中いろいろ妄想していてできた産物がこの嘘予告ですw
(雷のシーンとか)

一緒に寝てどうしてるかって?
「ルチカって中学生ぐらいだろ?俺、犯罪者やん・・・触れないようにしないと」
今度はセージさんが眠れなくなりましたw

回想するとセージ7章からいろいろ災難続きですねwww

結構周囲がウホウホですねw
逃げ切れませんよ

リリナ君は10章の頭に出てきて、15章に彼視点で考えています
10章ではちょっといけ好かない奴みたいな感じになってます・・・

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.94 )
日時: 2015/04/20 08:51
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

エリックとミシェルの放送禁止のシーンは本編でも登場するのか楽しみです(笑)

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.95 )
日時: 2015/04/20 22:20
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

残念ですが放送禁止は本編ではできません!

しかし、構想は残っています
ご希望があれば大人カキコにかいちゃいますが・・・?w

第9章 エリックside ( No.96 )
日時: 2015/04/20 22:25
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

ずっと蚊帳の外だったアーノルドは痺れを切らしたかのように口を開いた。
「セージ殿、私からも話があるのですが、そろそろよろしいでしょうか」
長時間待たされてイライラしていたのか、語気がとても強くなっている。
猫の獣人はセージ殿を庇うように寄り添った。
セージ殿は視線だけを向ける。
「なんでしょうか。ルチカは怖がるし、サイトは変な顔になりますので、簡潔にしてもらえますか」
心底嫌そうな顔をアーノルドに向けている。
牛の獣人は「俺、変な顔っすか!?」と戸惑っている。セージ殿は「うん」と頷いた。
猫の獣人に対しては「怖いか?」と声をかけている。
まるでアーノルドのことなど視界に入っていないかのようだ。
軍人に対する態度ではないが、アーノルドはそれを咎めようとしない。
アーノルドは咳払いする。
「先日のことは済まなかった。取り調べの結果、あなたに敵意はないと判断した」
軍が一般人に謝罪するなんて、滅多にないことだ。
しかし、セージ殿の表情は変わらない。サイトという牛の獣人の頭をポンポンと手のひらで軽く叩いたぐらいだ。
アーノルドは続けた。
「しかし、それだけでは上が黙ってくれないのだ。時々でいいから我々に君の生活を観察させてもらえないだろうか」
彼の説明によると、定期的に第3部隊の誰かがセージ殿の家を訪れ、彼らの生活の様子を報告するようだ。
セージ殿は顔をしかめるばかりだ。リードマンはそんな彼をなだめる。
「その条件は飲んだほうがいいと思うよ。第3部隊の人たちの最大の譲歩じゃないかな。
それに、軍が頻繁に訪れるところなら変な奴等に狙われることは少なくなるでしょ。
今、物騒な世の中だしね」
確かに軍が特定の人物に対して特別扱いすることはない。
釈放されてこんな風に扱われているのを見るのは彼が初めてだ。
彼らがそうさせるぐらいの理由がわからない。
一体なにがあったのだろうか。
セージは少し考えた後、しぶしぶ「よろしくお願いします」といった。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.97 )
日時: 2015/04/21 06:14
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

それでしたら、お言葉に甘えてぜひ書いてくださると嬉しいです!!
でも、本当によろしいのでしょうか?

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.98 )
日時: 2015/04/21 19:54
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

モンブラン博士さん
私は全然かまいませんよ
お蔵入りしていたやつをただ出すだけですからw
モンブランさんこそ構いませんか?

本編のペースは崩しませんが、あちらの方が不定期になりそうです。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.99 )
日時: 2015/04/21 20:01
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

こうして私は5日に1回セージ殿の家に訪問して、勉強を教えることになった。
軍の者も私と一緒に訪問し、観察を兼ねることになる。
1度に用事を済ませた方がセージ殿にとって負担が少なくなるだろう。

そして、いよいよセージ殿の家に訪問する日がきた。
大金持ちと聞いていたが、控えめな屋敷に住んでいるようだ。飾らない人物だから贅沢は嫌うのだろう。
傍にはミシェルと、新人の兵士がいる。
兵士は緊張した面持ちで、彼に贈るつもりなのか花束を持っている。
ミシェルは楽しそうに尻尾を振っている。
「僕、あの二人と友達になれたらいいなあって思っているんです」
「ああ、二人とも素直そうだったな。いい友達になれると思うよ。」
ルチカとサイトという名前だったか。セージにとても可愛がられているなと思った。
ミシェルには私か屋敷の使用人ぐらいしか話し相手がいない。同じ年頃ぐらいの友達ができればと考えて連れてきた。
ミシェルは楽しみにしすぎて昨日の夜があまり眠れなかったほどだ。

門を叩くと、セージ殿が扉を開いて控えめな笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃい。お待ちしておりました」
セージ殿は訪問する前に連絡を入れないと機嫌が悪くなる。
あらかじめ訪問する日時がわかれば迎える準備をするという。
兵士は花束をセージ殿に渡す。セージ殿は柔らかな笑顔で受け取った。
なるほど、【姫】と呼ばれるのもわかる。この笑みを見るためなら何でもしようと思えるのだろう。

我々は広間に通され、椅子に座るよう勧められた。部屋を見渡すと、家具は贅沢ではないが、彼のセンスのよさが伺えた。
先ほど兵士が渡した花は花瓶に飾られた。
ルチカという猫の獣人が紅茶とマカロンという菓子を用意してくれた。
初めての相手に対して非常にきめ細やかに我々をもてなしてくれる。セージ殿にとってはこれが当たり前のことだと言う。
私は初めてマカロンというものを手に取って口に入れる。
柔らかく、ほのかに甘い。軽くて口の中ですぐに消えてしまう。果物のジャムが挟まれており、味のバランスが絶妙だ。
今まで様々な菓子をたべたが、このような菓子を食べたことがなかった。
「これ、すっごく美味しいです!」
ミシェルも嬉しそうだ。
セージ殿は「お口に合ったようでよかった」とほほ笑む。
初対面のミシェルに早速打ち解けているようだ。
近いうちにマカロンを様々な人を相手に販売するという。リードマンはすぐに人気になるだろうといっていた。
私も実際に食べてみてその通りだと思う。

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.100 )
日時: 2015/04/21 20:11
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

もちろん大丈夫です!不定期でもいくらでも待ちますので!
そしてついにエリックとミシェルの2人がセージの家に到着しましたね。
ミシェルも嬉しそうで何よりです!

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.101 )
日時: 2015/04/21 21:34
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

モンブラン博士さん
早速題名だけ書いてきました
題名は【リーマン、異世界・・・から【第9章嘘予告企画】】です

Re: リーマン、異世界を駆ける【参照1000ありがとう】 ( No.102 )
日時: 2015/04/22 19:34
名前: yesod (ID: ZKCYjob2)

私はセージ殿に文字を、ルチカとサイトにはミシェルがペンの持ち方から教えることになった。
ミシェルも最初は少し緊張していたようだが、今はもう打ち解けている。
「サイト、ペンは握っちゃダメだよ。持ち方はこう」
「書けりゃどれも一緒じゃねぇか?」
「違うよぉ」
時折笑い声も聞こえる。3人とも和気あいあいと楽しそうだ。
ミシェルがこんなに楽しそうにしているのは久しぶりにみた。
連れていって正解だと思った。
しかしサイトという獣人はミシェルとやけに仲が良いな・・・・・・。
後で今夜はミシェルにじっくり聞くとするか。

セージ殿は頭がよい。
全てを言わなくても察してしまうし、自分の名前もすぐに書けてしまった。
私はあることに興味がわいた。
「セージ殿、異界の学校はどのような感じですか?」
「日本は六歳から9年間義務教育があります」
我が国だけには限らず、他国も子供は重要な労働力だ。7歳になれば大人と同じように扱う。
セージ殿の説明によると、中学校を卒業するまでは働いてはならないという。法律で決められているそうだ。
さらに高校や大学に進学して、勉学に励む者もいる。
セージ殿は大学を卒業しているようだ。幼いころから教育を受けているため、これほど頭がいいのも納得できる。
大人でさえ勉学に時間を割ける余裕があるほど日本という国は豊かなのだろう。
我々ではとても考えられぬことだ。

「セージ様。自分の名前書けました!」
ルチカは嬉しそうに紙を見せる。
しかしその文字は少々イビツで少し間違えている。
しかし、セージ殿はそれを指摘しない。
「えらいな、この調子だぞ。自分の名前が書けたら、俺とサイトの名前が書けたらいいかもな」
セージの知識は豊富だが、偉ぶるようなことはしない。
ルチカは一生懸命ミシェルに教えてもらいながら勉強に取り組んでいる。
全く・・・・・・弟子たちに彼らの姿を見せてやりたい。

私の理想は獣人と人間が共存する世界だ。
獣人と人間が同じ机を囲んで勉学に励む。
私の理想がここで実現したのかもしれない。
いや、セージ殿がさらに何か起こすかもしれない。