複雑・ファジー小説

Re: 茜の丘 ( No.5 )
日時: 2015/03/21 23:07
名前: 西太郎 (ID: 8topAA5d)

【第三話】

「俺は、根無しなんだよ!」

沈丁の言葉に、槐は口を開けてぽかんとしてしまった。
しかし、ほら、と沈丁が自嘲の笑みを洩らした瞬間槐はふわりと笑った。

(え……え!?)

何故そんなに優しく笑うのだろう、目の前の相手のことが本格的に分からなくなり、沈丁は困惑した。
そんな彼にお構いなし、と槐は手を差し出しながら言い放った。

「私は旅人さ。君のような人間をもう何度も見てきているよ。今更どうということはないし、私は君が優しい人間だと分かっているからね」

今度は沈丁がぽかんとする側だった。沈丁は"根無し"が自分の他にも何人もいるという槐の言葉に激しく動揺し、ついでに一つ疑問が浮かんでくる。

(優しい? 優しくされた覚えはあっても、優しくしたことなんて……)

訳が分からず首を傾げると槐はもう片方の手で右を指さした。その先に目を向ければ村に一つだけの茶屋。やたらご飯、と言っていたし、自分が意図してここにつれてきたと槐は勘違いしているんだろう。

「優しいって、ただの偶然だろ……」
「へえ、君は偶然で私を茶屋に導いてくれたのかい? とっても幸運な少年だよ君は。だから、そんなに卑屈にならないで」

はい、ともう一度差し出された手に、沈丁は降参を認めるしかなかった。