複雑・ファジー小説
- Re: 茜の丘【第三話更新】 ( No.6 )
- 日時: 2015/03/21 23:46
- 名前: 西太郎 (ID: 8topAA5d)
【第四話】
手を差し出され相手に求められていることは分かっても、人の手を借りて立ち上がるということを知らなかった沈丁は焦れた槐に手を握られ、茶屋の前に設置してある申し訳程度の長椅子に座らされていた。
「えーっと、ここのお店の人いますかー?」
「ハイハイ、お客さんかねーっ、て沈丁!?」
茶屋の経営者である老人が元気に暖簾をくぐって出てきた。彼女は椅子に座る美しい槐に一瞬見とれて目を細めたが、隣の沈丁を見るやいなや、どこにそんな表情筋があるのだろうと疑問を持つほど、まるで般若のようにその目を吊り上げた。
「ここは根無しなんかが来る店じゃないよっ、そこのお姉さん、そいつは根無しで、この村の厄なのさ。何言われたか知らないけどね、とっとと追っ払ってくれ」
老人は沈丁を視界にすら入れたくないと言わんばかりに彼から目を逸らして、しっしっ、と手で払う仕草をしてみせる。
沈丁はほらこうなったと思いながら俯いて、ちらりと槐の表情を伺う。ここまで嫌われていると知らなかったと哀れみの目で見られるのかと思えば、槐はにっこりと笑って、その口元に人差し指をあてて静かに、という合図を出した。そして老人に向き直り、ゆっくりと話し出す。
「いいえ茶屋のお姉さん。私はただお団子とお茶を頂きにきただけでね。それにこの子は厄なんかじゃない、私をこの店に導いてくれた幸運の子なのさ。その幸運に、何かお礼をしてあげたいんだ、私の性分としてはね」
「幸運の子ぉ? 根無しが幸運なんて馬鹿らしい。そんなにそいつを庇うんなら、お姉さんにも出てってもらうよ」
老人は槐の言葉に耳を貸す気はないようだった。沈丁は内心溜め息をついたが、老人は得意げに言葉を続けた。
「ああ、もしかしてお姉さんは根無しの意味を知らないかい? 根無しは人間として妖力を持ってないやつのことでね、そこの沈丁なんか火粉術すら使えやしない」
火粉術とはその名の通り、火の粉を生み出す術だ。この術は村人が最も重宝し、尚且つ幼子でもできるような最も簡単な術だった。以前自分よりも十も下の子供がこの術でかまどに火をつけているのを見た沈丁は、槐の前でひっそりと自分が火粉術を使えないことを恥じた。
しかしそんな沈丁の考えを知らない槐はからからと笑って、とんでもない発言をした。
「いやあまさか。彼は火粉術くらい扱えますよ」
「……は!?」
思わず顔を上げた沈丁に、槐は「ね?」と同意を求めてくるが、火粉術を扱えないことを誰よりも知っているのは他でもない沈丁自身だ。絶対に肯けず、かと言って槐の口振りから容易に否定することもできない。
老人は沈丁の様子を横目で確認し、鼻で笑った。
「ふん、じゃあやって見せてみい。根無しの火粉術を」