複雑・ファジー小説

Re: 茜の丘【第五話更新】 ( No.8 )
日時: 2015/03/27 23:10
名前: 西太郎 (ID: 8topAA5d)

【第六話】

槐はそれはそれはその細身にいくつ入るんだというほどの数の団子を平然と平らげ老人を困らせながらも、銭を払い終えると沈丁の手をひいて早々に茶屋を出た。

「槐さんっ、そろそろ教えてくれよ、さっきの!」
「ん? そんなに種が気になるのかい」
「そりゃ、俺本当に妖力なんてないのに…! 今さっきの何したんだ?」

沈丁はどうしても分からなかった。それまでいくら想像しながら力んでみてもできなかった術を、彼の掛け声一つでできるようになってしまうということが。
自分をじっと見つめ続ける沈丁に、槐はまるで待てをされた犬のようだという感想を抱きながらそうだなあ、と考えるように顎に手をかけた。

「そんな目をされたらちゃんと教えてあげなくちゃいけないよね。種明かしをしたいのは山々なんだけど、うーん、人目のつくところはちょっとね」

そう言って槐は周りを見渡した。今彼らは村の畦道を並んで歩いているのだが、村では嫌われ者の沈丁と、ここらでは見かけない見知らぬ男というのはどうにも目を引く。ついでにその見知らぬ男は端正な顔立ちと浮世離れした茜色の長髪をしているので、村人は話しかけることもできずにただ遠巻きに見ているのだった。
沈丁は槐が「人目」と言ったことでやっと周りの様子に気づいたようだった。

「あー……じゃあ、俺いい場所知ってる。村人もあんまり寄り付かない場所なんだ」
「そんなところがあるのかい? じゃあ、案内してくれると嬉しいな」




「ここだよ、いい場所」
「へえー……古き良き、って感じかなあ」

沈丁が槐を案内したのは、村外れの小さな神社だった。一つだけの石鳥居を抜けると、ところどころ雑草や苔に覆われた石畳が短く続き、すぐそばには美しい(ことであっただろう)花浅葱色の屋根を構えた拝殿が参拝者を迎えていた。
お世辞にも、村人に大切にされ、充分に管理されているようには見えない。一つ良いところを挙げるとするならば、鳥居のすぐ脇にそびえるしっかりと標縄のされた御神木の立派さだけだという有様だ。

「嫌いなのか知らないけど、村のやつはあんまりここに来ない」
「えっと、神主さんとかは」
「いない」
「へえー……」
「何やってるんだ、教えてくれるんだろ? ここ座れよ」

いつの間にか拝殿前の木製の階段に座っている沈丁は、ぽんぽんとその隣を示した。強く叩きすぎたのか、はたまた老朽化が酷いのかギイイ、と不安な音を立てている。

「じゃあうん、そうさせてもらうよ」

槐は自分がそこに座ったら床が抜けてしまわないかと不安に思いながら鳥居の向こうに足を踏み入れた。

「まず、火粉術のことからだったね」

神社の御神木が、彼が鳥居をくぐり抜けたと同時にざあざあとその枝を激しく揺らした。まるで槐を歓迎するように、はたまた拒むように。