複雑・ファジー小説

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.12 )
日時: 2015/05/25 00:19
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
参照: 帰国しました。

5/25追記


 生還者の事など、露知らずといった様子で二科長こと、グラナーテ・ヘンツェはボサボサの髪を手櫛で整えた。何度となく脱色した為か、髪は痛み、根本には黒い髪がやや見えつつある。
そんな彼女が煙草を咥えながら、食い入るように見入るその映像、そこには妙な物が写っていた。暗闇の中から突然、姿を現しては消えを繰り返し、自分以外の全てに危害を加える新手と思われるノスフェラトゥだ。

「ヴァルトルート君。此奴はとんでもないもんが現れたねぇ」
「ぶっちゃけ此奴が来なかったら、誰一人死んでないっすよ。マジで」
 ヴァルトルートの口ぶりから、この映像は死地から持ち帰った物らしい。捉えた映像は此処で、急に反転している。運転席からは死んでしまったアロイスと思しき男の悲鳴が聞こえている。彼が恐怖の余り、車体を急反転し走り出したためだろう。

「まゆしー君、コーヒーを貰ってきてくれないかな? 人数分」
「科長、その呼び方止めてくんないっすかね」
「それは出来ない相談だなぁ」
「…了解っす」
 「まゆしー君」と呼ばれた日本人の青年は、納得行かないという様子で格納庫を後にする。残ったのはグラナーテ、ヴァルトルート。そして、少し離れた所でディスプレイを見つめるカケハシだった。

「この化物に襲われていて、よく生きて帰れましたね」
「ぶっちゃけ、アロイスが運転トチって、死んだ時は終わったと思ったケド」
「…アサシグレ居なかったら真面目に死んでますね」
 そうカケハシは呟き、灰皿に置いていた煙草を咥えた。やや、呆れたような視線をヴァルトルートに向けているのは気のせいではない。二科の人間でありながら、整備一本なため、戦闘車両の運用は出来ないのだ。

「マジでそうだよねー」
 軽口を叩くが、グラナーテとカケハシからの生暖かい視線に気づいたのか、ヴァルトルートはバツが悪そうにニヤついた笑みを浮かべた。

「所で科長。これ他の連中には見せました? 」
「四科には見せたよ。ハルカリ君が対策練るってさ」
「ハルカリがやるなら問題無さそうですね」
「ハルカリ君だけ出ても仕方ないね。彼女はやや高度過ぎし、他が付いてこれるか…」
「第五世代はやっぱ違いますもんねぇ…」
 二科の中では、ハルカリのようなハイエンドタイプの第四世代オートマタを第五世代と呼んでいる。完全戦闘用のそれは、それ以外のオートマタと性能が段違いなのだ。

「カケハシ君じゃ、第五世代改修出来ないしねぇ…」
 グラナーテはまるで舐め回すかのような視線で、カケハシの爪先から頭の鉄片まで見遣る。特に反応もなく、冷めきった視線を交わすカケハシに「面白くない」とグラナーテは呟き、煙草を灰皿に押し付けた。

「科長、コーヒー淹れてきましたよっと」
「まゆしー君、ご苦労」
 「まゆしー」と呼ばれた男を見る事もなく、グラナーテはディスプレイの電源を落とし、変わりに「まゆしー」からコーヒーを奪い取るとそれに口を付けた。

「いつもより濃い」
「五科の財布の紐が緩んでるんで」
「ほうほう、クレミーに集るなら今だね」
「おっかなくて出来ませんよ、そんな事」
 そう言うなり「まゆしー」はコーヒーに口を付けた。熱さは大して気にならないが、確かにいつもより濃い。いつの間にかコーヒーを奪い取っていたヴァルトルートは大量の砂糖に、ミルクを突っ込んでいる。甘たるくて飲めそうにない、と思いながら「まゆしー」は苦笑いを浮かべていた。




 消えるノスフェラトゥ。その映像を見ながらハルカリは首を傾げた。一瞬だけ現れるその姿は、既知のノスフェラトゥとは大きく異なる。その姿は人間そのものなのだ。これは本当にノスフェラトゥなのだろうか、と妙な考えがICチップの中を過る。これは二科と四科だけで、抱えていて良い物だろうか。各科、各アガルタに広め、知識と経験を募るべきだろうか。

「どう見ても完全に人型ですね、コイツ」
「やっぱそうだよねぇ…」
 机の向かい側に腰を下ろす大柄なオートマタも、そういった見解を示している。シルエットは人間、オートマタそのもの。しかし、一瞬で姿を消し、再び姿を現しては、また誰かに危害を加える。狙う箇所は人間の急所のみ、ノスフェラトゥは捕食のために危害を加える事はない。危害を加えずに捕食、踊り食い状態で食いついてくるのだ。しかし、このノスフェラトゥは明らかに急所を狙い、殺しに来ている。明らかに殺意のような物を持っているのだ。

「科長、対策は練れますかね」
「いやー、正直、ぶっちゃけ、無理。マジで」
 何やらヴァルトルートのような口調になったハルカリだったが、大柄なオートマタも、ハルカリのそういった回答が予想出来たようで、静かに相槌を打った。

「シュトゥルムー。亀の甲より、年の功って言うんだよー。なんかないのー? 」
 シュトゥルム、そう呼ばれた大柄なオートマタは首を竦め、小さく笑っていた。正直、どう対応しようか判断が付かない。見えないものをどう探せというのだろうか。車載のサーモにも写らず、姿を現すのは攻撃の瞬間のみ。二体のオートマタは首を傾げながら、映像を繰り返し見ていた。






 四科以外の各科長達は神妙な面持ちで、一点にハルカリを見据えていた。彼女はやや気恥ずかしげに顔を俯けながら、リモコンのボタンを押した。
スクリーンにはノスフェラトゥとの戦いの中で、無残にも殺されてゆくアガルタの科員達の姿があった。例によりノスフェラトゥは攻撃のとき、一瞬だけ姿を現す。その瞬間でハルカリは停止ボタンを押し、その醜悪な姿を全員に見せつけた。

「恐らくは人間からの変異生物と判断するのが、妥当かと思います。二本の足、二本の腕、一つの首。二つの目。異なるのは全身の彼方此方から伸びてる触手だけ。これで科員の身体を貫いてます」
「御託は良い。対策は用意したのか」
 ギルバートは低く唸るようにして、ハルカリに問う。向けられた視線はハルカリの瞳に吸い込まれていた。常人ならば口を紡ぐのだろうが、ハルカリはそもそも機械だ。人の圧という物がいまいち分かっていない。

「正直、姿だけですと対策の練りようがありません。暫くは人間の方は哨戒に出ず、オートマタだけに任せて貰えれば」
「…お前達の部品代も馬鹿にならんのだが」
「命より金は軽いものですよ。五科長」
「……言うようになったじゃないか」
「いえいえ」
 クレメンタインの発言を一蹴し、ハルカリは席へと腰を下ろした。五科であり、需品を担当する以上、その費用を気にするのは仕方ない事だ。彼女は彼女なりに職務を全うしようという姿勢を見せただけに過ぎない。

「ねぇ、ちょっと」
「はい」
「ソイツさ、どうにか姿見えないの? 」
「映像で見ても分かりません。実物を見てみない限りはなんともです」
「それじゃ熱源感知器、呈色感知器、呼気感知器をアンタ等の目に突っ込めば見えるかも知れないって事? 」
「可能性としては0じゃないです。もしかしたらそれで見えるかも知れません」
「やる価値はありそうだね。どう…? クレミー」
「どうって、オーダルトの予算請求してすぐ予算を貰えるとでも? 」
「それをどうにかするのが、五科でしょ? お偉方に銃突きつけても予算貰ってきてよ」
 クレメンタインとグラナーテの間に見えない火花が散りつつあるが、男衆達は大して気にする様子もない。二人してスクリーンに映ったノスフェラトゥの静止画を黙って見つめていた。それぞれに思いがある事だろう。

「ハルカリ。うちの秘蔵っ子を貸すから十分に使ってやってくれ。この星の精をぶっ殺すのに役立つ筈だ」
 スクリーンから目を離す事はないのだが、レスターは呟くように言う。スクリーンに写るノスフェラトゥを「星の精」と称したが、言い得て妙だった。
クトゥルフ神話の一つ、ロバート・ブロック著「星から訪れたもの」に登場する化物にそっくりなのだ。普段は透明で不可視、犠牲者に危害を加える時のみ姿を現し、触手を身体から垂れ下げている。レスターの発言のせいで、そのノスフェラトゥがまるでその物のように思えてしまう。

「…三科からは貸せんよ。ネーベルは戦闘用じゃあない。本当なら貸すべきなのだろうがね」
「分かってます。そう言ってもらえるだけ嬉しいです」
 スクリーンを見据えたまま、ハルカリはそう言い放つ。オートマタにも向き、不向きがあるのだから仕方が無い話だ。その分、自分達が必死に戦えば良いだけの話なのだから。