複雑・ファジー小説

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.14 )
日時: 2015/06/08 23:41
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

整備工場の顔ぶれはどうにも珍しいものだった。ハルカリをはじめ、仏頂面を浮かべたフルートや、シュトゥルムの四科、アサシグレを筆頭とした一科のオートマタ達、そして二科員達が映像を見据えている。

 攻撃の瞬間だけ姿を表し、瞬時に姿を消す。そんな輩とこれから戦わなければならない。故に全員に共通の認識を持たせると同時に、全員で打開策を導き出そうというのだ。

「これ、平時から延々と姿消してる訳ですかね? 」

 皆より少し離れた所で、カケハシは憮然とした疑問を口にする。その問いに答えられる者は居らず、直接交戦する寸前まで接近されたアサシグレも首を傾げている。

「どういう原理で見えなくなってるか、ですよね。それ次第です」
「ルフトはどうやって消えてるんだっけ? 」
「…光を回折させてるだけに過ぎない」
「うん、よく分からない」

 ルフトと呼ばれた一科の陰気なオートマタも同じくして、姿を消す技能を持ち合わせているのだが、彼の場合は姿を消したとしても光を自分の身体の周囲で折り曲げて、無理やり見えないようにしているだけであり、移動する事によって空間が折り曲がり、何かが動いているというのは分かる。しかし、映像のノスフェラトゥにはそれがない。結局、打開策を導き出せずに皆口を閉ざしてしまう。

「…先人達が残した映画のワンシーンにあったのですがね。血が出るなら殺せるはずだっていう名言がありましたよ」
「全員でミニガンでも撃つか? 」

 ハルカリの言葉にやや食い気味に言い返すフルートだったが、ハルカリが言う事は確かにそうだろう。血が出るのなら、傷を負わす事が出来る、傷を負うなら、その勢いで殺す事も出来る。血が出たなら、血痕を辿って追跡する事も可能だろう。

「まぁ、オーダルトの予算が下りなかったら最悪それも考えなきゃいけないだろうね」
「……全員でミニガン撃つんですか? 」
「そうじゃなくて。天に召します我等が神に祈って、運に任せた殺し合いをさぁ」
「結局そこに落ち着きそうな気も」

 二科と四科、そして一科ががやがやと互いの考えを発しているのだが、どれも大して考えられた物には感じられない。グラナーテが言う「運に任せた殺し合い」という物はその最たる物だろう。そうカケハシは思いながら、皆から少し離れた所で冷めた視線を向けていた。

「本当に勝つ気があるんでしょうかね」

 ぼそりと呟くように言い放たれたカケハシの言葉。意見が飛び交う中では聞こえない程に小さな声も、オートマタに搭載された集音器はその言葉を確りと捉えていた。
 シュトゥルムが険しい表情をカケハシへと向けている。何を言う訳でもない、ただただ険しい表情を向けているだけだ。それがまるで戒められているかのような錯覚を覚え、カケハシは居心地の悪さを覚え、顔を顰めた。

「案の一つも出さない二科の玩具が何を言ってるんですかね? 」

 シュトゥルムが吐き出した毒に、グラナーテは感嘆の表情を浮かべ、せせら笑う。「玩具」そう形容されたカケハシを確かにその通りだと笑っているのだろう。何故か、皆がグラナーテのように笑っているように感じ、その場に居てはならないかのような疎外感に苛まれる。

「カケハシ、あなたは何もないんですか? 」
 
 諭すようなハルカリの声に救われたような気がしたが、彼女の顔を見れば表情はなく、何を考えているか分からない。腹の中で、ハルカリも笑っているのではないだろうか、と思案が頭の中をめぐる。

「姿が見えない相手と戦うとなれば、どうにかして見えるようにしなければならないかと思います」
「その手段を探してるんだ、何を言って——」
「なるほど、それではどうしましょうか」

 横槍を入れたフルートの顔面を押し退けながら、ハルカリは表情のないまま次の案を導き出そうとする。助け舟を出されたのか、はたまたハルカリに乗せられているだけなのか判断は付かない。

「エコーロケーションを用いるのが手っ取り早いんではないでしょうか…? 」
 エコーロケーション。音波を発し、対象の位置を探る。暗闇で蝙蝠や梟が獲物を探るために使う代物。それを用いて、ノスフェラトゥの姿を探れば良いのではないかと、口にする。姿が消えているだけであって、そこに存在しない訳ではない。であれば、大凡の位置を探り出し、討ち取る事も可能ではないのだろうか。

「有難うございます。二科長。これをルフトに追加する事は出来ますか? 」
「ソナーなんかがあれば簡単にやれると思うけど。ルフトが積んで良いと思うか次第だね」
「別に構わないが、壊れやすい物は勘弁して欲しい」
「壊れ屋に積むんだ、そこはちゃんとするよ」
「…では第二案といきましょうか——」

 いつの間にかハルカリが周囲を仕切りだし、カケハシに向けられたヘイトを逸らして見せた。中々まとまらない話に、皆が内心苛立ち、火が燻っていた所に油を注いでしまったらしい。下手を打った、そう思いながらカケハシは椅子を引き、群れの中に加わり、話に耳を傾けていた。