複雑・ファジー小説

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.16 )
日時: 2015/07/09 23:21
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: iXLvOGMO)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

クレメンタイン、彼女が記したレポートを一頻り読み終え、言いがたい肌寒さを覚えた。Nファクター投与者の末路、六年前の事件、そういった事柄が記されていた。
 内容としてはNファクター投与者は死亡の際、ノスフェラトゥへと変異する可能性があり、長期間の投与者程変異する確立が高く、急速にNファクターを投与した直後の人物も死亡せずとも、突然変異する可能性がある。また、変異した人物は可及的速やかに「処理」せよ、との文面も綴られている。

「あまり気分が良いものじゃないですね」
「えぇ、でしょうね。それで五科長もNファクターを止めたんだし」
「…止められるものなんですか? 」
「二年くらい掛かってたけども、なんとか。禁断症状で死にそうになってた五科長を見てると、ヨーゼフ・メンゲレになった気分だったわ」

 ネーベルらしくない加虐的な感想に、やや引き攣った笑みが出る。職務に真面目で、根が良心的なネーベルの事だ、どうせ見ているだけで持ち合わせていないはずの心が痛んだのだろう。そして、恐らくはクレメンタインが残したこの文章にも心を痛めた事だろう。嘗ての仲間が人でなくなった時、自分達の手を汚し、介錯をしてやらなければならない、その事柄に得も知れない感情を抱いたはずだ。

「仲間を手に掛けるのは、辛いでしょうね」

 ポツポツと余り抑揚を付けず、陸は呟くように言った。誰も介錯など出来ないはずだ。例え引き金を引き、殺めた実感を持たないとしてもだ。

「私達オートマタも悩むわ。殺せない。仲間は特にね」

 厭に人らしく、憂いを帯びた優しげな表情を浮かべながらネーベルは言う。自分は出来ないとは言っていないが、あの表情からして彼女も引き金を引く事は出来ないだろう。

「難義な物ね。仲間がそうなる可能性があって、仲間を殺せず、殺せば壊れる。——本当に難義だわ」

 整理し終えた書類に肘を付きながら、彼女は呟いた。その表情は至極、まともな感性を持ち得た人間のそれと変わりない物だった。



 格納庫に整列するオートマタ達、彼等はそれぞれの得物を掲げている。ハルカリに至ってはミニガンを二挺装備するという異常な状態であり、両脇のフルートとカケハシはドン引きしたような表情を浮かべていた。またハルカリの背後に立つ、シュトゥルムも機関銃というよりも機関砲の間違いではないかというような長大な機関銃を担ぎ上げている。LAVの銃架からもぎ取った物で、20mmのエクスプローダー弾を使用し、一発当たるだけで人間ならば文字通りの「粉」になるような代物である。

「壮観だねぇ。これから不死身のサイボーグとでも戦いに行くのかい? 」
「私達がどっちかというと“また戻ってくる”っていう立場だと思うんですが」
「今回の作戦が終わったら“戻ったぞ”で良いか? 」
「君等、旧世代の映画好きすぎるでしょ」
 ハルカリとシュトゥルムから矢継ぎ早に帰ってくる返答に、少し呆れた様子のグラナーテであるが、これだけの装備を整えた彼等を戦地に赴かせるのならば、単純に「第三案火力演習」だけでノスフェラトゥを殺める事が出来るような気がしていた。
 アサシグレとカミナリに担がせたエアバーストグレネードを装備した大型ドローンは必要ないのでは、と脳裏を過ぎったが過ぎたるは及ばざるが如しが通用しない、この現場には必要な物だろうと即自分の中で結論付けるに至る。

「ルフト、君は調子どう? 」
「……聞こえ過ぎるのも酷だ。昇降機が啼いている」
「あぁ、まゆしー君がいつか直しとくよ。我慢して」
 無理やり、搭載したパッシブソーナーのせいでルフトの頭部はやや人間らしさを失っては居るものの調子は良いらしい。尤もアクティブソーナーに変更すべきだったような気もするが、急拵えのオーダルトである以上、簡単な方を選ばざるを得なかった。

「本作戦においては、一切の指揮をハルカリに委任する。各員は命令無視や、必要以上の事はしないように。良いか、台風娘」
「なっ…、誰が台風娘だッ!!」
 工具箱に上に腰を下ろしたクレメンタインは淡々と語る。こうしてみれば今でも四科に所属しても問題がなさそうな威風を漂わせている。これに銃を持たせれば、六年前のクレメンタインが出来上がる事だろう。寧ろ加齢と頬の傷跡がシナジーを発揮し、六年前以上の凄味を発する事だろう。

「無事に諸君が戻ってくる事を祈っている。大破までは許す。誰一人として欠けるなよ。人ではない諸君も私の大切な“駒”なのだから」
 口元を歪め、悪そうな笑みを浮かべる眼前の女。ハルカリにはまるで諸悪の権現のように思えてしまいながらも、仕方がない人だ、と内心笑みを浮かべていた。