複雑・ファジー小説
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.17 )
- 日時: 2015/07/26 02:44
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=lCPwR7R4hlA
軍用車輌というのはどれだけ時代が進み、技術が発展していても乗り心地は最悪なのだ。ディーゼルエンジンの騒音や振動が原因で、未だに車内で言葉を交わしても聞き取れず、空調もままならないため、空気は劣悪。兵員待機室の座席も鋼鉄の上に、薄いマットが敷かれているだけ。こういった不快感を感じる程にまでオートマタの感覚を人間に近づけるのは如何なものだろうか、とハルカリは思いながら傍らの戦友を見据えた。巨躯であるが故に、居心地が悪いらしく腕を組み、口元を固く閉ざしている。
「なんです? 」
「副長殿にお伺いを立てようかと」
おどけた口調のハルカリをシュトゥルムは横目で一瞬だけ視界に留める。何を聞く事があるというのだろうか、敵であるノスフェラトゥはとにかく殺すだけであり、現状それ以外のオーダーはない。
「見えない奴をさ、生け捕りにするじゃん? 」
「無理でしょうね、“粉”にしてしまいます」
「まぁ、まぁ。話聞いてよ」
「…えぇ」
「百万歩譲って粉にしないで、原型保ったまま回収するじゃん? Nファクターの良い材料になると思うんだよね」
「確かに良い材料にはなるでしょうが、間髪入れずに殺すのが被害も少なく、最適だと思いますよ」
形など気にせず、とにかく殺せ。そう言い張るシュトゥルムの頬を小突く。何度もしつこく、執拗に小突いているがシュトゥルムは抵抗する事もなく、黙ったままハルカリを横目で見ていた。
「ハルカリ、俺以外にも聞いてみたらどうです? 」
「そうしようか。じゃ、ルフトから順番に」
シュトゥルムを小突きながら問うハルカリ。やや困惑した視線を浮かべながら、指名されたルフトは口を開く。
「私の役割は索敵だ。殺しじゃない。任せる」
一見気乗りしないような回答であったが、ルフトの性格上こういった返答が出てくる事は至極自然な事だった。小さく相槌を打ちながら、ルフトの隣に腰掛けたフルートを飛び越し、ガンケースとドローンケースに板挟みにされたカミナリに視線を向ける。
「難しい事考える必要はないでしょ? 成り行きに任せるよ」
彼もまたルフトと同様、言葉短く同じような返答をしてみせる。
「ハルカリ…、私は——」
「フルートは粉にしない派ね。決定。次カケハシ」
話を聞き、それなりの考えを持っていたのだろうが意見を出す間もない。心外だと言わんばかりのフルートの表情を見ても、気に留める事なく次のカケハシへと問う。
「……私は反対よ」
「——へぇ」
黒い鋼製のマスクで覆われ、存在しないはずの口許が歪んだような気がする。声色のせいなのだろうか、はたまた気のせいなのだろうか。その判断こそつかないものの、物怖じする様子を見せてはならないと、ハルカリの機械的で真っ黒な瞳を見据える。
「もしかしたら昔の仲間かも知れない。死んだ人を自分の身体に入れるなんて気分悪いじゃない? 死んだ人間なんて記憶に残ってるだけで充分よ」
「ふーん。アサシグレはどう? 」
「賛成だな。人間が死なずに済むならば必要な事だ」
「賛成三名、反対二名、任意二名。殺しても粉にはしない。——良いね」
誰一人として声を挙げる事はせず、頷きもしない。代わりに不愉快そうな表情を浮かべたフルートがコッキングハンドルを引き、その音が車内に木霊した。
「気が早いようだね、台風娘」
「その呼び方は止めて欲しい」
彼女が抱えた小銃は、いつもの古めかしい物とは違った。通常の小銃よりも銃身が短く、擲弾筒と赤外線スコープが取り付けられている。
「…外に何か居る気がしないか」
「——さて、ね」
真っ黒な瞳を天井に向けながらハルカリはおどけてみせる。フルートの一言に顔を顰めたシュトゥルムは機関砲の銃座へと向かい、ルフトはハッチの外を黙ったまま見据え、ゆっくりとその姿を透過させる。
「シュトゥルム。状況は? 」
「2時の方向、800m先、ノスフェラトゥの群れ。後方及び側面に敵影はありません。先制攻撃を仕掛けますか? 」
「…アサシグレ、車止めて。油圧サス稼動。アウトリガーを出して。カミナリは一機ドローンを飛ばして。それ以外は戦闘準備を」
姿が見えないルフトがハッチを開くなり、各々が装備を片手に暗闇へと身を投じてゆく。車体が唸り声を上げながら、油圧サスペンションを稼動させ、同時平行しながら車体側面のアウトリガーが伸張されていく。射撃可能になるまで恐らくあと30秒ほど掛かるだろう。ゆっくりとした足取りでハッチから身を躍らせ、車体上部にマウントさせたミニガンを一挺、更に一挺と担ぎ上げる。
「アウトリガー伸張完了、サスペンション稼動確認完了。いつでも撃てるぞ」
運転席から顔を覗かせたアサシグレが静かに語る。その言葉を聞き入れるなり、インカムに静かに語りかける。
「目標ノスフェラトゥ。射撃許可。肉の破片すら残すな」
「——Ja」
くぐもったドイツ語が聞こえた刹那、機関砲が火を噴く。30mmの砲弾が音を置き去りにして、標的へと飛んで行く。舞い上がる土煙に動じる様子も見せず、ノスフェラトゥが打ち砕かれ、燃え上がる様子を黙したまま見据えていた。
「…1、2、3——」
遅れて鳴り響く砲声。こんな砲で撃たれたくないと考えながら、各々のオートマタは装甲車を取り囲むように隊列を組む。一旦、攻撃を仕掛けてしまったのだ。ノスフェラトゥが集まってくるのは時間の問題だろう。その中に、今回の標的が居る事を祈るしかない。
「ルフト、哨戒に」
「もう居ない」
「あぁそう…」
少し離れた所からそうフルートは返答する。彼女は小銃を頬に押し当て、赤外線スコープを覗いている。顔は険しく、これから殺し合いをする。そう意気込んでいるように見られた。