複雑・ファジー小説
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.18 )
- 日時: 2015/08/05 23:45
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v
内蔵カメラを暗視モードに換えながらハルカリは暗闇を睨み付ける。目当ての化物は寄って来るだろうか、どうやって粉にせず殺害しようか等と考え、少ない人らしい顔の部分が歪む。片手でミニガンを担ぎながら、ノイズが発生しないようにインカムをもう片方の手で包み込みながら、小さくとも聞き取りやすい声で言葉を紡ぐ。
「ルフト、状況は? 」
「——此方Lu。現在、30mm機関砲の着弾地点に居るが酷い有様だ。残存ノスフェラトゥは確認出来ない。粉どころかハンバーグにしてしまったのではないか? 」
「無きしにも非ずだね。まぁ、良いや。哨戒を続行して」
「——Ja」
了解、という短い返答の後、インカムのマイクボリュームを下げる。ドローンの飛行音と油圧サスペンションの駆動音、LAVのエンジン音だけが辺りに響く。まるで言い争いをしているかのように互いが互いの音を侵しあい、聞き込む内に何の音か判別が付かなくなってきている。
「——ハルカリ」
ふと突然静かな口調でフルートがハルカリの名を呼ぶ。返事こそしないが、左手を小さく挙げ、聞こえているとハンドサインを送る。
「30mm機関砲で攻撃を仕掛けておきながら、ノスフェラトゥは愚か、ターゲットが近寄ってくる様子もない。…不思議に思わないか? 」
「……何が言いたいの? 」
「私達は釣られたんじゃないのか」
「そこまで賢いとは思えないんだけども」
頬にカービンライフルのストックを押し当てながら、ハルカリの言葉にフルートは小さく相槌を打った。ノスフェラトゥは今まで組織的に攻撃を仕掛けてくる事はなかった。群れを作っていようと個々が連携を取る様子もなければ、指揮を執るような存在もない。
「——まぁ、私がノスフェラトゥだったらさ。主力が出払っている時に警備部を攻めるね」
「だよなぁ」
「連中の指揮を執る輩は居ないし、そこまで頭が回るものでもないさ。それにベースには戦上手な鬼が居る」
鬼と呼ばれて思い浮かぶ人物は一人しかいない。
「杞憂か」
「杞憂だねぇ…。————来たかな。シュトゥルム。五時の方向敵影と思しき物体がある。火力支援を」
「Ja」
ゆっくりと砲塔が旋回し、砲身が空転し始める。射線に被らないように左右に避けながら内蔵された視覚センサーの倍率を30倍まで上げ、着弾を確認する体制を取る。ミニガンに取り付けたレンジファインダーによると標的までの距離はおおよそ1900m余り。弾は重力に引っ張られる為、砲塔は僅かに仰角を付け始めている。
「射撃準備完了した、指示を」
「了解。——撃」
言い終わるか終わらないかの刹那、何かが視界に入り込む。それは何もないはずの暗闇から突如として、姿を現しミニガンを持つハルカリの左腕を削ぎ落とす。ミニガンが落ちるよりも早く、機関砲が火を噴きノスフェラトゥへと向かう最中、一体のノスフェラトゥが嘲笑うように咆哮を上げる。次の一撃を貰わないように右手でマシンピストルを抜き、碌に照準も定めずにただただ引き金を引き続ける。フルオートのそれは一瞬で弾を撃ちつくし、数発ノスフェラトゥへと命中するが、何発かフルートにも流れ弾が命中していた。
「クソがぁあああッ!! 」
流れ弾でノスフェラトゥの存在に気付き、吼えながらカービンライフルの引き金を引く。マシンピストルからの流れ弾は人工の皮膚を穿ち、機械的な素体が露わにしていたがそのような事は気にしていられない。ハルカリ同様、スコープを覗く事もせずに腰だめのような状態で1マガジン全てを撃ち切ると、カービンライフルを捨てノスフェラトゥへと飛び掛って行く。長い尾を打ち付けられ、地面に叩き付けられながらもその尾を掴み取り、決して離さまいと必死の様相を浮かべる。
掴まれた事からノスフェラトゥは暴れ、尾を自切するなり再び姿を消してしまう。逃げるのか、それとも体制を建て直し、再び不意を打つのか判断は付かないもののフルートは腕を失ったハルカリのインカムを奪い取った。
「射撃中止! ——中止ッ!! 」
車内に無線は届いたらしく、すぐさま射撃は中止される。着弾を確認する間もなく、ハルカリを立たせ、投げ捨てたカービンライフルを手に取り直す。
「…参ったねぇ。火力激減だぁ」
切り落とされた腕を拾い、LAVの上部に投げ込む。急襲されたというのに緊張感の欠片もなく、戦闘意欲を見せる様子もない。あくまで普段と同じ、平静を保っている。
「腕をやれられたようですね」
「まぁね。まぁ、うちも尻尾削いだし、ウィンウィンだ」
「さて、次はどう来るでしょうな」
「…さぁね。攻撃して来ないし、血痕が離れていくって事は逃げたって事だ。一旦、総員集合させよう。フルート、ルフトを呼んで」
「あ、あぁ。分かった」
少し慌てた様子でLAVへと向かうフルートの背を見送って、切り落とされた腕の切断面をなぞる。血の変わりに機械油が滴り、ケーブルが露わとなる。引き裂かれ、僅かに残る人工筋肉を引きちぎり投げ捨て、機械油で汚れた手で自分の頬をなぞる。
「尾が手に入ったなら“粉”にしてやろうか…。ね、シュトゥルム」
「それは愉しみですね。えぇ、とても」
暗がりを睨み付けるオートマタ。もし彼女を正面から見るならば、存在しないはずの口元が大きく歪み、笑みを浮かべているように見えた事だろう。それ程におぞましい気配を発していた。