複雑・ファジー小説

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.28 )
日時: 2015/09/01 00:32
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=F_6IjeprfEs

「ミサゴ」の名を冠した大型のティルトローター機が空を行く。その中にはハルカリをはじめとした、五体のオートマタ達がさぞ退屈そうに壁に備え付けられた座席に座り込んでいる。

「オスプレイも、もう第三世代なのね」
 一人ごちるようにカケハシは言う。カケハシの生産国であった日本では、初代オスプレイについて、相当すったもんだしたらしく左寄りの偏向報道により民衆に間違った印象を植え付けていた。事故が多発していたのは、特殊部隊のための訓練や、実戦任務中に搭乗員の錬度不足から発生しただけであり、通常のヘリのように貨物や、人間を輸送する分には事故率は既存のヘリよりもずっと低いのが真実だった。

「なんかコイツの初代は随分と揉めたみたいね」
「えぇ。隣国のメディアに圧力を掛ける程、隣の国はこれを脅威と見たんでしょうね」
「あぁ、もう無い赤旗の国かぁ」
 話に乗ってきたハルカリはもう無いと言い放つと首切りのジェスチャーを取った。第三次世界大戦、厳密には第一世代オートマタの謀反で滅んだのだ。国力を増し、独自にオートマタを作っていたがその多くが第一世代でありながら「戦闘用」それが災いし、オートマタに二十億人近い国民の半数が殺められるという前代未聞の被害を被っていたのだ。

「これ良いじゃんね。早いし、静かだし、何より“アレ”が」
 アレと指差す先には、12.7mmガトリングが両舷にドアガンとして装備されている。毎分1500発も放つそれはとてつもなく重厚な存在感を発していた。

「四科長はやっぱりトリガーハッピーですね」
「豆鉄砲しか撃てないのは面白くなくてさ。ね? フルート」
「…普通のオートマタではミニガンぶっ放すのも無理だ。第三世代と第四世代じゃ段違いだと何度言えば分かるのか」
 第三世代と第四世代ハイエンドの違いを、ハルカリは分かっていないとフルートは苦言を呈し、膝の上に置いたガンケースに広げたブリーフィング資料を見遣る。
 今回の護送対象は6名の医者と、27名の看護スタッフ。そして彼等の様子を撮影するためのジャーナリストが2名。彼等は戦闘のための技能を持ち得ないはずだ。移動は空輸であるが、陸に降りた途端、何があるか分からない。今回の任務は激務になりそうだと感じながらフルートは視線を窓の外に向けた。

「……凄い雪だ」
「ホント。前も見えないくらいにね」
 そうハルカリは言う。確かに視界を遮る吹雪は強烈な物で、この陸もこの状況だと考えるだけで悪寒が走る。もしノスフェラトゥに襲撃されたならば、どう対処しようか。答えは即刻導き出す事が出来ず、フルートは溜息を吐く。

「アサシグレー。前見えてる? 」
「一応な。ただまぁ、この様では着陸が難しいかも知れんな」
「垂直着陸に切り替えたら? 」
「なんだ、墜ちたいか」
 と、冗談にも聞こえない冗談を言い放って、アサシグレは大仰に笑う。
「なーに、問題ないさ。キチンと着陸する。あと30分もすれば目的地だ、支度をしておく事だ」
 支度と言われても、彼等が持ち込んだのは予備パーツと銃器及び弾丸、そして充電用のクレイドルだけだ。食料も水も必要なく、人間と比べれば実に身軽、陸に下りる支度などする必要もない。両舷のハッチから獲物を持って降りる。たったそれだけなのだ。



 ハルカリと随伴のオートマタ達が居なくなった、アガルタは人間達の品のない笑い声が響いていた。主にグラナーテとギルバート、その中に時折レスターの声が混じる。喧しいそれに顔を顰めたクレメンタインが居たが、彼女には一つ心配事があった。

「ウシオの奴はまともにやってるのだろうか…」
「らしくないですね、五科長。——どうぞ」
「あぁ。——奴は戦闘用でないのでな…、アサシグレの補佐として付けてやったが戦地に順応出来るのか、とな」
 陸からコーヒーカップを受け取るも、それに口を付ける事もなく不安を呟く。曲りなりにもオートマタ、人間と比べれば遥かに頑丈で、戦闘能力もある。

「部下を信じられないってのか、シンディー」
「信じられん訳ではないさ。アレは優しすぎる」
 そう言うなりクレメンタインはコーヒーに口を付け、はぁと溜息を吐いた。
「スカーフェイスが溜息とは世も末ってもんだな。——いってぇ」
 どことなく含みを持たせた物言いをするギルバードの脛を蹴り飛ばしながら、クレメンタインは眼鏡の位置を直し、ふんぞり返るように椅子に座りなおした。

「私はこうやって尊大に振舞っていた方が良いか」
「そいつがお似合いだ、悪の親玉って感じが——」
 顔面に肘が吸い込まれていくその状況に、一瞬陸は身動ぎする。自分の所属科の科長が、床に仰向けで倒れながらゲラゲラと笑う異常な状態に困惑したような表情を浮かべざるを得なかった。

「ほら、クレミー。小僧をビビらせてんじゃん」
「……お前はこれみたいになるなよ。——ろくでなしにはなるなよ」
 ギルバートと同じ轍は踏むまいと、陸は小さく会釈をし、肝に銘じた。決して脛を蹴られたり、顔面に肘を貰ったりはしたくない。

「しっかし、他の連中はまだかよ? 」
「1900集合としたのだがな」
「忘れてんじゃなーい? 」
「人も揃う前から出来上がってる奴があるか…。全く」
 食堂のテーブルの上には大量のアルコールと、食事が置かれていた。陸上に出向していた人員達の慰労会を開くに至ったのだが、主役と数名の構成員達がまだ来ていないのだ。
その前から既に出来上がりつつあるグラナーテとギルバート。それを制す、レスターとクレメンタインにも限界が訪れつつある。そのうち陸にも招集を掛ける必要がある事だろう。
心の中で小さく詫びながら、クレメンタインは食堂の出入り口に視線を送っていた。