複雑・ファジー小説
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.29 )
- 日時: 2015/09/06 04:52
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=h1AaKBbNGkk
雪に沈み込む身体、歩行すらままならない程の積雪にハルカリは苛立ちを隠せずに居た。彼女の重量は160kg余りある。それに加えチェーンガンの重量50kg、そしてチェーンガンのバッテリー約30kg、約250kg弱の重量。雪に足を取られるのも無理はない。サイドアームとしてPDWとマシンピストルを携えているのだが、チェーンガンを放棄して慣れない武器を扱うのは勘弁願いたいため、先ほどから意地になって雪を漕いでいる。
こういう時だけは軽量な第三世代、第二世代を羨ましく思うがない物強請りをした所で仕方がない話だ。
「五科長、そろそろ連中のベースが見えてきましたね」
気遣うように歩調を合わせ、傍らに付き添うチョウセキが知らせる。彼の手には短機関銃が握られていた。拳銃弾を扱うそれがノスフェラトゥに有効化は定かではないが、彼にはそれしか扱えないのだろう。
「あと1.7kmって所ね」
左目のレンジファインダーを作動させながら、距離を呟くようにして伝えるとチョウセキは緊張した面持ちで短機関銃のストックに力を込めた。
「そろそろ狙撃銃の射程内ですね…」
「ん、あぁ。誤射されるのだけは気をつけないと」
「識別信号送っておきますか? 」
「お願い」
短機関銃を手放し、懐からタブレットを取り出すと慣れた手つきで16桁の符号を打ち込んでいく。その間、短機関銃はストラップにぶら下がり、無防備に揺れていた。セーフティーが掛かっていないのは気のせいではなく、躾が成っていないと内心毒づきながら、ハルカリはNGOのベースキャンプを見据えた。
ヘリが着陸するスペースもない程に小規模で山岳地帯に存在するため、周囲の地形は険しい。数台の輸送トラックと一両の戦闘用車輌が見受けられる。
話によれば二名、人間の狙撃手と観測手を雇っているとの事らしい。サーモグラフィーを起動してみるものの、熱源は見られない。警戒監視を行っている訳でもないようだ。
「熱源無し、誤射は多分ないね」
「対物ライフルなんかで撃たれたら、一発でお釈迦ですからね」
「レスター曰く人間は手足に当てると殺せて、オートマタは胸から上に当てると確実にICまで壊せるとかって」
「ノスフェラトゥは…? 」
「首だけでも動く個体がいるわ。だから挽肉にしてやるのよ」
「ノスフェラトゥのタルタルステーキですか」
「うーん……、生肉食べるとかやっぱ味覚細胞少ないのか」
「五科長とか、二科長に聞かれたら味も分からん機械風情がって怒られますよ」
「どっこいどっこいでしょ、味音痴って言い返してやろう」
「……そんな度胸ないです。それに——」
後者はともかく前者にそれを言えば、次の日には地上の屑鉄置き場に並べられていても不思議じゃないと、喉まで出掛かっていたがそれを押さえ、余計な言葉を発さないようにとチョウセキは口を噤んだ。
その瞬間だった、5m程前方を歩むフルートが立ち止まり、ある方向に銃口を向けながら、ゆっくりと身体を雪の上に伏せ、姿勢を下げろとハンドサインを送っていた。
チェーンガンから動力を伝えるためのチェーンを離し、それをフルートの近くまで投げ込む。自身も滑り込むように姿勢を下げ、フルートの隣に伏せた。
「それを投げるとかどういう神経してるんだ」
「神経ないわ」
バッテリーにチェーンを連結させ、チェーンガンの動力を確保しながらハリカリは返答して見せた。
「どこに熱源があるって? 」
「此処から北北西の方向に320m、交戦しようか」
「人間の可能性は? 」
「手足が8本もあって、5m近くある人間がいるか」
フルートがヘッドマウントディスプレイで撮影した、画像がハルカリのICに送られてくる。それは確かに手足と思しき物が8本あり、大きさは5m程、岩肌にへばり付いている。まるで蜘蛛のようであったが、頭部は人間のように丸みを帯びている。後頭部がやや長いようである。それから憶測するには人間の変異種だと考えられる。
「先制攻撃かね、五科長」
「……7.62mmが通るとも考え難いわ。大型ノスフェラトゥは外皮が頑丈なのばっかでしょ? 」
「近づいてきたら攻撃を仕掛けましょうか」
「それが一番ね、ベースに到着したらまた別の攻撃手段を用意出来るだろうし、早く進もっか」
「それが最善かと思いますね」
伏せる際、頭から雪に突っ込んだのか真っ白になったカケハシがやや不機嫌そうな表情を浮かべながら言う。彼女の手に持たれた小型の無音狙撃銃は亜音速の弾丸を放てるが、それでも貫通出来るかは分からない。何より有効射程ギリギリなため、従来の性能が発揮できるかも分からない。カケハシをあてにする事は出来ない。
「…走る、か」
そう呟くなりフルートは身を起こし、一気に駆け出す。元々警察の特殊部隊で運用され、「洪水」と揶揄されていた型のオートマタだ、雪原であったとしてもその身のこなしは軽やかで機動性を損なわずに居られるようだ。
「うらやま…、じゃない。走ろう」
ノスフェラトゥを一瞥し、走れとハルカリはハンドサインを送る。既にアサシグレやカケハシは走り出しており、チョウセキが矢張り離れず、気遣うようにして傍らに付き添っていた。
「——さっさと行きなよ」
「なんか気が引けるので」
「なら、せめて私の前を走って」
「と言いますと」
「穴に嵌るよ? 」
「あっ」
しまったと短く悲鳴を上げた時には既に遅く、チョウセキはハルカリが雪原に空けた穴に足を取られ、頭から雪に突っ込んでいた。短機関銃の銃身が曲がってなければ良いが、などと思いながらハルカリは立ち尽くし苦笑いを浮かべつつ、岩肌にへばりつくノスフェラトゥの姿を睨み付けていた。