複雑・ファジー小説

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.30 )
日時: 2015/09/10 22:29
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v

 ベース内部は薄暗く、厭に人の気配が感じられなかった。天井に備え付けられた明かりにはノイズが走り、頻繁に点滅していた。最後にベース内部へと入れたハルカリは外を気にするように一瞥すると、ドアの引き手にパイプを差込、それを圧し折って外部から開かないように固縛し、更にオートロックを掛けた。

「人の気配がないんですよね」
 ヘッドマウントディスプレイの生体センサを起動させながら、チョウセキはグルっと見回す。やはり感知音が鳴らず、生体反応が全くないようである。

「識別信号送って応答は来たの? 」
「はい。南側の、——此処のドアを開けておくとの事で」
 そうい言うなりチョウセキはハルカリに突きつけるように、タブレットを見せる。確かにそこにはチョウセキが言った言葉通りの返答が帰ってきている。

「ふーん」
 妙だと訝しげに間延びした返事をするハルカリであったが、すぐさま頭の中は切り替わり、室内戦になった場合、自分が手に持つチェーンガンは非常に使いにくく、邪魔な代物だと感じていた。

「…チェーンガン置いてくれば良かった」
 チェーンガンと外部バッテリーを置くとサイドアームのカービンライフルを手に取り、一連の動作確認を行う。動作は良好、一切不具合はないようである。

「——長蛇陣形、先頭は私が勤める。並び順、奇数は左を、偶数は右を警戒。最後尾はフルートが勤めよ」
「Ja」
 短く了解と呟くと、フルートはカービンライフルのコッキングハンドルを引き、前を見据える。それに呼応するようにアサシグレやカケハシ達もコッキングハンドル引いては、神妙な表情を浮かべていた。これから何が起こるか分からない、そんな状況に存在しえないはずの心を締め付けられているような気がしていた。

「ダクトには要注意ってね」
「また映画? 」
「リメイクされた方のThe Thingみたいだねぇ。この状況」
 まるで映画の中に生きているような錯覚を覚えたのだろうか、ハルカリの語気は上ずり楽しげなものだった。ハルカリに口があれば、恐らくニヤニヤとした笑みを浮かべている事であろう。

「火炎放射器が必要になりそうで」
 そう軽口を叩くカケハシであったが、静まり返り生体反応が一切見られないこの状況に関して、一種の恐怖のような物を感じていた。識別信号を送った際には返答が返ってきていながら、屋内には誰も居ない。人ならざる者の仕業なのだろうか、はたまた地下にでも潜り、何かから逃げているのだろうか。

「不安かね」
「まぁね」
「帰ったら調整だねぇ、オートマタに恐怖なんて要らない」
 そうハルカリは言いはする物の、人間らしい感性を失えばそれは畜生と同じ、引いてはノスフェラトゥと同義的な存在になってしまう。それだけはカケハシの矜持が許す事はない。

「お言葉ですが、四科長。感情の抑制はICに負担を掛けます、出来れば避けたいですね」
「冗談に本気で返さないでよ。私だって恐怖はあるんだからさ」
 ハルカリはそんな事を言いながらも、早足にドンドン前に進んでいく。曲がり角や、天井配管などのクリアリングもこなし、最も被害を受けやすいであろう配置であっても、その歩みは止まる事を知らない。

「————! 」
 その彼女の歩みが突然止まり、止まれというハンドサインが送られる。その動作はキビキビした物ではなく、なるべく音を立てないようにとゆっくりと静かな挙動だった。

 ゆっくりと静かに上げられたその手は口元を覆う鋼製のマスクに宛がわれ、それに指を這わせると隙間に指を差込み、マスクを引き剥がした。引き剥がしたマスクはフラックジャケットのポケットに無造作に突っ込まれ、再び手は口元へと戻る。

『——強制通信を行う。以後、言葉を発するな。生体反応を感知したが、どうにもおかしい。壁に張り付きながら、移動しているようだ』
 一方的にオートマタ達のICチップに響く声、それは普段のハルカリらしい女性的で柔和な印象を宿す物ではなく、機械的でどことなく抑揚のない声だった。その正体はオートマタにプリセットでインストールされている、機会音声である。

『明らかにノスフェラトゥの進入、ひいては汚染を受けていると判断、これより制圧及び生存者救護任務へと移行する。またNGOに雇われているという情報である狙撃手及び観測手を発見し次第、捕縛せよ。人間ベースのノスフェラトゥとの交戦は避けたい。戦闘訓練を受けた記憶を引き継ぎ、我々の戦闘能力に匹敵する可能性がある。もし既に変異しているようであれば即時殺害を許可する。————最後にオーダーを告ぐ、化物は皆殺しだ』

 抑揚のない機械音声から紡がれる、強い口調、物騒なフレーズに参ったというような表情を浮かべながらもチョウセキは小さく頷いた。
他のオートマタ達は全く微動だにする様子もなく、ただただ立ち尽くしていた。彼等は戦場を駆けずり回り、このような物言いに慣れているのだろう。
目の前の自分以外のオートマタ達の表情は分からない。出来る事であれば、彼等が自分の知らない悪鬼のような表情を浮かべていない事を望み、祈るだけである。