複雑・ファジー小説
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.33 )
- 日時: 2015/09/24 00:22
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=KkoEnYFvX18
機械の兵士達が戦いに身を投じる最中、彼等の同胞である人間達は静かに笑みを湛えながら、対外任務に出ていた同胞を出迎えていた。五科の経理員と三科の衛生兵三人が、同じテーブルで静かに酒と食事を摂っている。その中の一人である、アジア人が騒がしい科長達をじとついた視線で睨み付けていたが、彼等はそれに気付く様子もなく、ただただ馬鹿踊りをしていた。
「あの様子じゃ五科長だけで抑えきれないでしょうね…」
フランス人の若い女が呟くように言い放つ。赤毛でそばかすが印象的な彼女の名札には“E.Orange”と書かれており、名札の左端には三科員であることを示す、背後に銃とメスを背負った十字が印字されていた。余談ではあるが、彼女のように名札を付ける構成員は珍しい。
「アガルタの良心がいない以上、こうなるのも仕方ない話かと思うがね」
眉間に力が篭り、どことなく険しい表情を浮かべたアジア人の男は諦観したような言葉を吐いて、グラスに並々と注がれたブランデーに口を付ける。品のない飲み方だと思いながら、赤毛でそばかすの女の隣に座る男は顔を顰める。
「ジル、折角の祝勝会なんだ。シブい顔してないで科長達みたいに騒いだらどうだい? 」
ブランデーに口を付けた方ではないアジア人の男が、にこやかで人当りの良い笑みを浮かべながら、ジルと呼ばれた男に話しかける。何処となく浮ついた印象を宿す男を見据えながら、ジルは口を開く。
「はっ…、助けられる人を助けないで何が祝勝会さ」
「ジル」
「第一、アンタは助けられそうな人間に見切りをつけて、早々に鉛玉ぶち込むのが仕事だったろ」
「ジル、やめろ」
「…汪さん、別に止めなくて良いっすよ、必ず人を救わなきゃなんねぇなんて思ってる甘ったれの戯言でしょう? 酒かっ食らって一晩寝りゃ忘れるようなもんですよ」
「白野、口の利き方に気を付けろよ」
「何遍でも言ってやろうかい。“お医者様”」
ジルを煽る白野と呼ばれた男は更にジルを煽る。ジルは舌打ちするや否や、不貞腐れたように悪態をつき、ボトルを手に取るなりワインをラッパ飲みするという決して行儀が良いとは言えない暴挙に出た。
「お前ら、大の男がいきなり凄むな。エレンをびびらせんなよ」
「はいはい、分かってますって」
ジルと揉めた白野という男、恐らくあそこでジルが掴み掛りでもしたら、ジルを床に沈めていた事だろう。元日本国防陸軍の第一空挺師団出身者である以上、ジルは足元にも及ばない。彼もそれを招致しているからそこ、暴挙に出なかったのだろうが、白野も気が立っている彼を煽るような事をしなければ良いものを、と汪と呼ばれた男はブランデーを呷りながら考えていた。
「汪さん、事後報告はやっぱり正直に書くんですか? 」
「勿論。正規分の正規で報告しなければ意味がないからね」
「……何人“処理”したかもですか…? 」
「あぁ、勿論。総勢87名、変異を確認し、救助不可能と判断、処理を施したとね」
「なんか、その…」
「考えちゃいかんさ、俺達はハルカリ達のような機械じゃない。考えすぎれば気を病む。こういう仕事なんだ割り切りたまえ」
幸いにも報告文書を上げるのが自分で良かった、三科の人間に任せれば気を病んでしまう事だろう。ジルもエレンも、最後の処理を率先して行った白野もだ。文書を上げた先のクレメンタインが多少なりとも参ってしまうだろうが仕方ない話だと一人納得したように小さく汪は頷いて、またブランデーに口を付けた。
「汪君、それは聞き捨てならないなぁ! 」
テーブルの向こう側でクレメンタインに介抱されていたグラナーテが身を起こし、そう声を張り上げる。機械には心がない、個性がそれだというのならば人間の心までも、同義の物と考えられてしまう事だ。酔っ払いの戯言だと一瞬だけ、横目で視線をやり、赤ら顔が視界の端に入るや否や天井を仰ぐ。
「此処の警備部のオートマタほど、人らしいものはない! 殺しに心を痛め、死を恐れる臆病な優しい奴だっている。君はやっぱり理解出来ていないなぁ」
「お言葉ですが二科長。彼等のあれは心じゃない、ICチップにプログラミングされた人格が、推論と問題解決を繰り返していく内に自学し、結果を出すまでのプロセスを選んだ結果の代物です」
「分かってないなぁ、人間の心だってそうさ。社会というプログラミングを施されて、その中で色々と悩み、結果を導くためのプロセスを選び人格を形成してゆく。それが心さ。ねぇ、クレミー? 」
「はぁ? 知らん。汪。忘れてくれ、ただの酔っ払いの戯言だ」
身を起こすグラナーテを無理やりに引き倒しながら、クレメンタインは言う。何処か遠い目をした彼女は、呆れたような表情を浮かべている。心無しか何時もより翳りがないのは気のせいだろうか。
「二科長の言うとおり、オートマタに心があったらどうする? 」
話の種でも投下してみるか、そう考えた汪は三人に問い掛けた。突然なんだと言わんばかりの表情を浮かべたり、興味あり気な表情を浮かべたりと三者三様ではあったが、三人をひきつける事に成功したようだ。
「過酷な任務に参ってしまいそうですね…。その人間にもあるじゃないですかPTSDとか、心の病というのが」
「怠惰な奴だったら人間を恨むだろうな。コキ使いやがってって」
「白野、お前オートマタだったら忙しくて良かったんじゃないのか? 」
「えぇ、全く」
エレンと白野はそれぞれ言葉を発する。各々の回答は、各々の人格に沿った回答であった。エレンはどことなく優しげな回答を、白野に至ってはワーカーホリックの片鱗を見せつけ、汪は少しばかり呆れてしまっていた。
「で、ジル。お前はどう思うんだ? 」
不貞腐れ、そっぽ向く彼は手に持ったボトルを叩き付けるようにしてテーブルに置いた。向かい合う汪の顔を一瞬だけ睨み付け、硬く真一文字に閉じられた口を開いた。
「俺は————」