複雑・ファジー小説
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.34 )
- 日時: 2015/10/01 23:36
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v
10/1 加筆
青い返り血を浴びながら、一歩、また一歩彼女達は歩む。宛ら悪鬼の軍団長とその手勢といった所だろうか。一体のオートマタを除いて、彼等は厭に堂々としていた。
かつて人だったであろう化物を殺める際に、一分の迷いすら見せる様子はない。そんな仲間の様子を見るのがチョウセキからすると、とても辛く、耐え難い物に感じられた。もし化物と化した人間達が、声にならない助けを求め、死の間際まで自分の意識を保っていたとしたら、彼等が最期にみた物は人によって作られた鉄の兵士が自分を殺めに向かい来る光景だろう。その最期は人の手によって導き出されたと考える事も出来よう。死の間際にそんな精神的な苦痛を味合わせるのが、とても忍びなく、申し訳なく思えてきてしまう。
短機関銃を握る手がワナワナと小さく震えている。死に対する恐怖、それも他者に強いる死に対する恐怖に、チョウセキの思考は侵されていた。自分が死ぬという事も怖いが、第三者に死を強いるというのも非常に恐ろしいのだ。
「——四科長」
「なに? 」
「もし…、もしの話なんですけど人間に壊されるとしたら、どう思います? 」
「思うも何も私達は道具。いつか放棄されるでしょ」
そうハルカリは言い放つ。言葉はそこで止まり、言わずとも察せと一瞬だけ振り向いてチョウセキの瞳を見遣った。人の役に立つ事を宿命付けられ、寿命が訪れれば破壊され、本当のスクラップとして放棄される。ハルカリはそれで良いと思っているのだろう。任務の中で破壊されるのならば、本望でありそこに悔いも憂いも存在しない。致し方ない、その一言で済んでしまうのだ。恐らくこれはハルカリだけではなく、この場に居るチョウセキ以外のオートマタ全体が持ち合わせる共通の思考だろう。自分が異常なのか、彼等が異常なのか分からないままチョウセキは不安げな表情を浮かべたまま、隊列に続き歩み続けた。気分が鬱屈とし、前を見れず、自分の足ばかり見ていると再びハルカリの背にぶつかり、慌てた様子でハルカリから離れる。
「どこ見てんのさぁ。ま、いいや」
チョウセキを戒めるような口調ではあったが、彼女の目は微かに笑っていて、後ろを一瞥するなり再び前に向き直り、ゆっくりとドアに手を掛けた。防爆扉のハンドルを回す。防爆扉の向こう側からは、人間の悲鳴らしき物が聞こえ、逃げろ逃げろと誰かが叫んでいる。恐らくは中に生存者が居り、一人でに回った防爆扉のハンドルに恐れ戦いているのだろう。ノスフェラトゥがハンドルを回しているとでも思っているに違いない。ハンドルを回し終え、防爆扉がゆっくりと錆び付いたような音を立てながら開く。一歩だけハルカリは後退りながらカービンライフルを向けずに、防爆扉の前に立ち尽くす。
「科長、無用心ではないか? 」
ハルカリの前に躍り出たフルートがカービンライフルを構えながら、扉の向こう側を睨み付けていた。それに呼応するように、アサシグレとカケハシも続き銃口を扉の向こう側へと向けていた。引き金に指を掛け、何かが飛び出してきたとしてもすぐさま鉛弾の雨を降らせる事が出来るだろう。
「此方第14アガルタ。救助に伺いましたが、何分私の指揮下の者は気性が荒いようでして」
三体のオートマタを制しながら、カービンラフイルに取り付けたフラッシュライトを照らす。照らされた先には8名の生存者がそれぞれ得物を手に身を寄せ合っていた。8人全員、得物を手にはしていたが誰も撃てないだろう。ある者はセーフティーを掛け、ある者の銃口は真下を向いていた。まともに撃てるのはリーダー格と思しき男だけだった。
「…助かったのか」
リーダー格の男は口を開く。緊張からか何度か口をパクパクさせながら、ようやく声を発したそれは小さく、焦燥しきっているようだ。
「えぇ、どうにか間に合ったようです。所で何人やられましたか? 」
「……14人だ」
「なるほど、半分以上やられたのですね。情報で聞いておりましたが、護衛の狙撃手と観測手は? 」
「外で食われた…。居なかったか? 蜘蛛みたいなノスフェラトゥが」
「居ましたね。私達の火器で倒せるか不明でしたし、急いで此処に入ってきた次第です」
「そうか…」
生存者の内の一人がハルカリと言葉を交わし、現状が徐々に判明しつつあった。元々は20人のNGOに護衛が2人居たが、護衛が真っ先に捕食され急ぎベース内部に逃げ帰ってきたが、ノスフェラトゥの進入を許し、ベース内で12人捕食、吸収されたらしい。
「所で一つ聞きたい事が。——ウシオ、識別信号に応答あった時間は? 」
「あ、はい。えっと1320です」
「なるほど、その時間もう此処に逃げ込んでましたか? 」
「あぁ、明け方の4時から此処に避難していた」
その一言を聞き取るや否や、ハルカリは妙な表情を浮かべてオートマタ達の顔を見回した。時間の辻褄が合わない事から、何者かがハルカリ達をベース内部に誘導した事になる。基地内に第三者が居るのか、はたまた高い知性を持ったノスフェラトゥが紛れ込んでいるのだろうか。
「それが何か? 」
「いえ、もう少し早く来れれば良かったな、と」
不可思議な現状について、ハルカリは言及しなかった。死の恐怖に向き合い、心身を消耗した人間達に必要以上の不安を与えるべきではない。
「…輸送計画続行しますか? 」
「いや、これ以上は不可能だ。車輌を動かす人員も足りなければ、リスクが高すぎる」
「…了解です。取り合えず上に上がりましょうか。——ちょっと見苦しいかも知れませんが目を瞑っていただければ」
青い水溜りとひき肉が散らばっている、更にはそこに嘗ての仲間の死体も転がっているのだ。彼等には辛いかも知れないが、致し方ない話であるのだ。そして、彼等も理解してくれるはずだろう。そうしなければ助けてもらえなかった、と。