複雑・ファジー小説

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.35 )
日時: 2015/10/07 00:26
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v

 青い血や、そこらに散らばった肉の塊、薬莢などを足蹴にしながらオートマタと八人の人間達は行く。八人のうちの一人の男が、スマートデバイスに内蔵されたカメラを使ってその光景を撮影していた。

「…随分と肝が据わってる事で」
「えぇ、こういう事が起きたのであれば、それを記録に残すが生存者の責務だと思いますので」
「なるほど。強い人だ。私の同僚の人間なんて、ちょっと前まで引き摺っててね」
「その人は優しいんだと思いますよ。」
「そうかねぇ」

 撮影する人間を傍目に、チョウセキは気が気ではなかった。まだ、自分達が遭遇していない未知の脅威が存在しているかも知れない。自分達をベースに招き入れた何かが待ち構えているかも知れない。そこで誰も死なずに済むか、何も殺さずに済む事だろうか。その答えは否だ。どちらかを取れば、どちらかを失う。死ぬ恐怖と、殺す恐怖が混在し頭で縺れ合っている。

「ウシオ、下を見るんじゃない。前を見ろ」
 隣で前だけを見据えながらアサシグレは呟くように、チョウセキを諭す。言葉は静かではあるが、目先の任務に集中していないチョウセキに思う所があったのだろう。

「…はい」
 この場でチョウセキを戒めたのは、一人のミスで全員が物言わぬ鉄屑と成り果て、人間は化物の餌、果ては化物の一群と化してしまう。それだけは避けなければならない。人間は守るべき対象であり、自分達はその為に作られた代物だ、という考えから来るものだったのだろう。
今のチョウセキはそれが分かっていないのではないのか、とアサシグレは思いながら不快そうな表情を浮かべ、短機関銃を吊り下げたベルトを掛け直す。

「随分と気を張ってるねぇ」
「…そういう事もある。年を取ってもこの緊張には慣れん」
「そうかい、そうかい」
 大ベテランであるアサシグレが、緊張からチョウセキを戒めたというのに、先頭を切って歩むハルカリには全くその様子が感じられず、口調はいつも以上に砕け、ややぶっきら棒に感じられた。

 そんなハルカリであったが、頭の中では噛み合わない出来事について様々な思考を巡らせていた。NGOの構成員達が防爆扉の向こうに身を隠したのは、午前4時。そして自分達がベースへと識別信号を送ったのは午後13時20分。防爆扉の外には生存者は居らず、皆が食い散らかされたか、化物に取り込まれていた。識別信号を送った時まで誰かが生き延びていたのだろうか、しかし化物から逃げながら、識別信号の受信に気付き、応答を返すことは出来るのだろうか。自分が人間ならばそのような余裕はない事だろう。

 ゆっくりと口元の鋼製マスクを取り外し、それをフラックジャケットに仕舞う事なく、口元に取り付けられた強制通信器のスイッチを入れる。横目でフルートがその様子を見ていたらしく、薄ら笑いを浮かべながら口から何かを引き剥がすようなジェスチャーを取って、カケハシの前でおどけてみせる。

「馬鹿じゃないの」
 やや辛辣なカケハシからの言葉を気にする様子もなく、フルートは前に向き直る。バツが悪かった訳ではないが、余りにも機敏なフルートの行動が、一見シュールだったらしく、アサシグレは小さく鼻で笑っていた。

『——チョウセキ。此処に居る八人は全員人間かしら』
 不意に身体の内側に響く機械音声、ややビクつくような仕草をしながら彼は小さく頷いて見せる。その動作はハルカリには見えなかったのだが、彼女は言葉を紡ぐ。

『誰かが私達を招き入れた。そしてこのベースに生き残ってるのは彼等だけ。化物は全て殺したはず。そう考えたら私達を化物と鉢合わせるようにして、此処に招き入れられるのは彼等だけじゃない? 』
 ハルカリの強制通信に誰かが答えれば、それをオートマタ達が人間を疑う事となる。そして、その疑念が正解だった場合の対処はワンテンポ遅れてしまう事だろう。

「そういえば此処に入り込んだ化物の数は何匹居たんだ? 」
 アサシグレが機転を利かし、人間達に問う。

「四体だ。うち一体は我々で仕留めたんだが、死体は見なかったか? 」
「いいや、全然。仕留め損ねたんじゃないのか? 」
 一体仕留めたと彼等は言うがそのような死体はなかった。その個体が高い知性を持ち合わせ、人間同様見よう見まねで識別信号に対し、応答してきたのだろうか。

「仕留めたはずなんだがなぁ」
 NGOの男も首を傾げながら言う。彼等が嘘を言っておらず、仕留め切れていないなら一体のノスフェラトゥが何処かに潜んでいるはずだ。仕留める必要がある。

「——本当に一体か? 」
「あぁ、本当に四体だ。なんだ、そんな嘘吐いたって全く旨みがないだろう? 」
「……そうだな。忘れてくれ」

 アサシグレはこれ以上の追求は不和を産むと判断したのか、あっさりと引き下がり肩を竦める。何もかもが合点が行かない状況に、やや苛立ちを覚えたのか足元に落ちている薬莢を蹴り飛ばした。その瞬間だった、フルートが踵を返し真後ろの人間にカービンライフルを突きつけたのは。

「なぁ、あんた達。教えてくれ。本当にアンタ等人間か? さっきから私にはあんた等が九人居るような気がしてならないんだ。誰かの中に“二人居ない”か? 」
 そうフルートは言う。各々の人間がフルートに銃を向け、引き金に指を掛けている。彼女の主張は信憑性に欠ける物であったが、彼女は生体感知に関してパッシブで働くセンサーを装備しており、それが彼女のICチップに違和感を訴え続けていたのが、遂に堪え切れなくなったのだろう。

「冗談じゃないぜ、オートマタのお嬢さん。俺等化物と一緒に隠れてたってのかよ」
「あぁ、そういう事だ」
「有り得ないね。誰一人もノスフェラトゥに触れるような事はしていないし、血にだって触れていない」
「なら、何で九人居るように思えるんだ」
「それはあんたの何かが誤作動してるんだろ! 」
「いいや、そんな事はないね。ばっちり動いてるさ。エラーなんてありゃしない! 」

 目の前でフルートとNGOのリーダーと思しき男が口論を繰り広げる。その光景がチョウセキには不愉快な代物だった。仲間内を疑うような事をするのは如何様なのかと、疑念を抱く。

「あの…、取り合えず止めませんか。その…、仲間内で揉めるのはよくないと思うんですよ」
 おどおどした様子ではあるが、チョウセキが言う事は尤もでありフルートとNGOのリーダーと思しき男は毒気が抜かれたような表情を浮かべ、互いに視線を合わせ、一瞥するなり互いに謝罪をする事もなく視線を逸らした。