複雑・ファジー小説
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.43 )
- 日時: 2015/11/09 00:10
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: 10J78vWC)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v
レスターに行けと指示された場所——兵員待機室——では、オートマタ達が映画を見ていた。彼等は手足を失ったり、顔を半分潰されていたり、酷い物は半身を失っていたが意気軒昂という様子でスクリーンの中で、光る棒状の剣を振るう二人の男の戦いを興奮気味に見ている。
「前、失礼するわ」
オートマタの前を過ぎりながらサリタは、オートマタを見据えた。そのオートマタには口がなく、目も人間のそれとは異なり厭に機械的な代物だった。そのオートマタはサリタと目が合うなり、小さく会釈しグラナーテを見据えていた。
「あなたの連れ、放心状態よ?」
そう指摘するオートマタの言う通り、グラナーテは自失呆然としていた。何が原因なのであろうか。オートマタと言えども人型、ややショッキングな状況に恐れ戦いたのだろうか。
「……グラナーテ?」
彼女からの返答はない。
「此処に来る途中でグロテスクな代物でも見たかなぁ?」
間延びした物言いでオートマタは言う。彼女が言う“グロテスクな代物”とは恐らく頭陀袋の中身の事だろう。幸いにも中身は見ていない、死臭が漂っては居たがグラナーテはあの甘ったるい臭いを死臭だとは知らないはずだ。
「いや、あれの中身は見てないけど」
「あぁ、そう。——そんじゃあ私達が原因かな?」
オートマタはそういうなりグルっと周囲を見回した。人間では有り得ない欠損を負った物ばかりで、彼女の視線を追いサリタは最後に彼女を見遣れば、全身を焼かれたように爛れており、人工皮膚がまるで溶け、固まった蝋のように拉げていた。
「……正解だよ」
オートマタの問いに答えるように、漸くグラナーテは口を開いた。言葉はやや震え、何処となく怒りや悲しみに似通った感情が感じ取られた。
「此処は修理も、整備も満足にしてもらえないの?」
「上からの補給が滞っててね、二科の人間も戦地に引っ張り出されてるもんだから、満足に修理してくれる人が居なくてさぁ。余程酷い損傷じゃない限りは自分で直して誤魔化し、誤魔化ししてるんだけどねぇ。——まぁ、ねぇ?」
周囲のオートマタの様子を見る限りでは、そろそろその“誤魔化し”が限界を迎えつつある様子だ。それ故に現地任務に付かず予備兵力として、待機しているのだろう。
「——作業場は!? 案内してッ!」
「急にどうしたの——」
「私が直すからッ!! 早くッ!」
オートマタの言葉を遮り、グラナーテは激昂した様子で吼える。自分が直す、そういう彼女の言葉は何を根拠にして、発せられたものかとサリタは首を傾げ、顔を顰める。
「そういうけど、グラナーテ? あなたに直せるの?」
「私、ハンドメイドオートマタの工房で育ったんだ。だから……、大丈夫」
「へぇ、新人さん大したもんだねぇ。——シュトゥルム! あんた駆動系故障してたよね、やってもらってきなよ」
シュトゥルム——、そう呼ばれたオートマタは厭に巨大な体躯をしていたが、左手はだらりとただぶら下がっているだけで、全く動きもしない。外部的なダメージから電路が破壊されたのだろうか。
「俺がかい?」
「そう、あんた。あんたが現場復帰すれば四科も楽だろうから、至急修理してもらいなよ」
「だが、この小娘が本当に修理でき——」
「さっさと来る! 案内して!」
オートマタの群れを抜け、自分の身の丈よりも遥かに巨大なオートマタの前に立ちはだかったグラナーテは吼える。言葉を遮られ、グラナーテの勢いに押されつつあったシュトゥルムと呼ばれたオートマタは、納得行かないといった様子で立ち上がり、グラナーテに引っ張られるような形で兵員待機室を後にしていった。
「……嵐のような子だったのね、そう見えないんだけど」
「昔からの顔見知りじゃないのかい?」
「えぇ、つい四時間くらい前に知り合ったのよ」
「へぇ……まぁ座りなよ」
オートマタはソファを詰めてサリタを手招く。彼女の胸元にはも“A.Orange”や“L.E.Dunhill”と同様に名札が取り付けられていた。小銃を交差させたエンブレムの横に“Type.Harukari HK-114 HARUKARI”と記されていた。恐らくは日本製のオートマタ、春狩型の114号機で、個体識別名としてそのまま「ハルカリ」という名を与えられているのだろう。
「えーと、ハルカリさんで良い?」
「あ、呼び捨ててで良いよ。で、あんたは?」
「こういう者です」
ETE時代の兵籍番号が記されたIDカードを見せる。彼女はそれをマジマジと見つめていた。元が付く軍人など、珍しい物でもないだろうに少し不思議に思う。
「サリタね。という事は新しく入ってくるって連絡されてた新人かー。よろしく」
「えぇ、よろしく」
「所でRAMCの大尉は?」
レスターと同様の質問をハルカリはぶつけてくる。それ程クレメンタインの加入が大事になっているのだろうか。確かに階級的には中隊を率いるような階級で、もう一粘りで佐官に手が届くようなビッグネームであるのだから、話題になっていたとしても不思議ではない。
「オレンジ、という人に連れてかれたわ」
「……アニーおじさんの拉致事件が“また”起きたのね」
また、といわれる限り彼の拉致は矢張り、日常的に起きる事なのだろうか。
「所で今何が起きてるの?」
「ん、隣の13アガルタがノスフェラトゥに攻め込まれててね。うちから警備部員が出動して、合同で防衛戦線を張ってる最中」
「此処の防備が手薄になるんじゃ……? 」
「連中は組織戦闘出来ないから大丈夫。たまにしてくるけど、陽動なんて頭は働かないよ。一応、オートターレットも動いてるから大丈夫」
と、ハルカリは語る。慢心ではないか、という疑念をサリタは抱き、一抹の不安が脳裏を過ぎった。もし別働する者達が強行的に突破してきたなら、この負傷者と故障したオートマタだけで太刀打ち出来るのだろうか、と。
「人じゃないから大丈夫。上は人ばっか相手にしてたもんね。……酷かったでしょう?」
そうだ、これから戦う相手は人ではない。各々の強さは人と比べ物にならないが、集団での強さは人には到底敵う物ではないはずだ。そう言い聞かせながら、不安を払拭しようとハルカリの隣で映画に目を向けた。