複雑・ファジー小説

Re: Subterranean Logos【オリキャラ二名募集中】 ( No.5 )
日時: 2015/04/04 16:04
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode


 唸るエンジン音に紛れて、時折聞こえる何か別の生物の咆哮に陸は苛まれていた。耳に入るたび、銃座を回転させてその方向を見遣るが何の姿も見えない。舌打ちをし、悪態を付きながら、温くなってしまったスポーツドリンクに口を付ける。極度の緊張から喉が乾いていたのか、嚥下音が周囲に聞こえる程、大きく鳴っていた。

 誰もその事について、言及する事はなく、気恥ずかしげに車内に視線を送るが、先ほどまで軽口を叩いていたヴァルトルートも真剣な様子で、カメラで外部の様子を見遣りながら、通信機を操作しながらアガルタとのコンタクトを取ろうとしている。尤もそれは成果を結ばないらしく、苛立ちを隠しきれずに車体側壁を安全靴で蹴っている。使い古し、靴先のゴムが剥げているせいで、金属同士がぶつかる鈍い音が響いていた。

「ブッチャケ、無線機壊されてるっぽい」
 陸の視線に気付いたのか、肩を竦めながら彼女は言った。銃座に戻り、ぐるりと一回転してみるが確かにアンテナらしき物はない。いつの間に破壊されたのだろうか。

「さっきまではノイズ混じりに動いてたんだけど、今まったくダメなんだよねー」
 ヴァルトルートのその言葉に一抹の不安を覚えながら、陸は銃座へと戻り、またスポーツドリンクに口をつけた。身体に沁みる。オートマタはこの感覚が分からないのだから、損をしていると思ったその時だった。ゴトリ、ゴトリと銃座の真上で物音がしたのだ。凍り付いたような表情を浮かべながら、真上を見上げる。スポーツドリンクのペットボトルが手から滑り落ち、背筋を走る悪寒に苛まれる。

「上に何かいる」
 流石に鋼鉄の装甲を突き破る事はないが、もし上にいる何かが運転席側に回り、朝時雨を攻撃したならば一貫の終わりだ。もれなく全員死ぬ事だろう。陸の言葉を聞き取ったフルートが眉間に皺を寄せたまま、M1A1のセーフティを外し、リアサイトから照準器を取り外す。近距離で撃つ場合は、照準器がない方が撃ちやすいのだろう。
「撃つなよ、台風娘」
 そう運転席から朝時雨が言う。台風娘と呼ばれたのが不服なのか、フルートは今にも噛み付きそうな表情で朝時雨を睨み付けたが、同時にヴァルトルートがリモコンをチラつかせ、事なきを得た。
確かにM1A1の.45ACP弾ではLAVの装甲を抜く事は出来ない。百歩譲って、装甲を抜き、上にいる何かに弾を当てれても致命傷にはならない。第一、貫通できなければ車内で銃弾が飛び交ってしまう。

「ハルカリみたいにミニガン持ちなよ。7.62mmばら撒いたらブッチャケ快感だと思うよ?」
「……持てない」
「あっそ」
 他愛もない言葉を交わすヴァルトルートだったが、外部のカメラを操作するその手は微かに震えている。緊張と焦りからによるものだろう。一刻も早く上に乗っている何かの正体を暴く必要がある。

「三人とも、対ショック姿勢を取ってくれ。一旦上から振り落とす」
 そういう朝時雨は前も見ずに、ハンドルに伏せている。ちょっと早いのではないのだろうかと思いながらも陸は後部の座席に捕まり、頭を伏せる。ヴァルトルートもそれに習い同じような体勢を取った途端、朝時雨が急ブレーキを踏み込んだ。
 車外と車内で何かが転がっていく音が聞こえ、すぐに頭を挙げ銃座へと陸は戻って行く。一瞬視界の端に移ったフルートが助手席と運転席の間に頭から突っ込み、挟まっていたが言及する暇などない。
止まった車体前部に転がる、人の形をした何かを見据えるなり、陸は機関銃の引き金に手を掛ける。ライトに照らされたそれは醜悪なもので、思わず目を覆いたくなるような代物だった。

 額は突き出、瞳は窪みながら真っ赤に光り輝いている。口はだらしなく開かれ、複数の舌のような物が垂れ下がり、その中から卸金のような刃が無数に覗く。やや猫背気味で正確な背丈は分からないが、180cm程はあろうか。まるで急激に痩せた元肥満の人間から垂れ下がるような皮膚、そこから覗く樹木の蔦のような何かが蠢いていた。

「——陸ッ!! 撃て!! 」
 醜悪なそれに視線を奪われ、引き金を引けずに居たが、車内で吼える朝時雨の声に我に返り、引き金を引く。14.5mmの巨大な銃弾がその醜悪な身体に吸い込まれ、肉の欠片とドス黒い血が散らばり、辺りを汚していく。断末魔の叫びを挙げる間もなく、原型を失ったそれを銃座から見下ろしながら、陸は小さく溜息を吐いた。同時に何事も無かったかのようにLAVは走り出し、散らばった破片を踏み潰す。

「化物には先制攻撃。さもなくば死ぬか、サックウェルみたいにスカーフェイスになってしまうぞ」
「五科長はアル・カポネなのかい? 」
「梅毒で死にやしないけど、ロクな死に方しないのは確かだね。マジで」
 本人の居ない場所で彼女に対する揶揄をそれぞれ口にし合い、和らいでゆく空気に陸は胸を撫で下ろした。

「にしても、もう俺達、MIA認定されてそうだよね」
「…まぁ、してるだろうな。次の補充を要請するために。あの女はそういう女だ」
「へぇ、結構辛辣な評価じゃん? ブッチャケなんかあった? 」
 やや俯き加減で語るフルートの顔を覗き込みながら、ヴァルトルートは問う。近すぎる顔に気付き、それを押し退けながら淡々とフルートは語り始めていた。