複雑・ファジー小説

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.9 )
日時: 2015/05/04 01:56
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

 地底に聳え立つコロニー。アガルタ、あの場所は自分達が生きて帰るべき場所なのだ。後部のハッチを開き、背後に広がる暗闇を見据える。戦友を置いてきた、自分達は生き残り、後は死した。
どのような顔をして、帰れば良いか分からない。素直に喜ぶ事も出来ない。複雑な表情を浮かべたながら、陸は散弾銃の折り畳まれたストックを開く。無線機が故障している以上、どうにかして気付いてもらう必要がある。格納庫のハッチにLAVをぶつける訳にも行かず、仕方なしに後部ハッチから身を乗り出して、照明弾を撃たなければならない。
 8ゲージのキャニスター弾に似通った機構を持つ大型な照明弾なのだから、気付いて貰えるだろう。開いたハッチから手だけ出して、一発打上げると鮮烈な閃光が、辺りを明るく照らす。眩しさに目を細め、何かを見据えながら、ハッチを閉じ、シートに腰を掛けると溜息を吐いた。

「気付いて貰えるかな」
「これで気付かなかったら、アガルタの警備部は盲だね。マジで」
 ヴァルトルートの軽口に相槌を打つ気にもなれず、陸は手に持った散弾銃に弾を込めて行く。前時代的なポンプアクションだったが、防衛部のように荒事専門の輩は信頼性を重視する傾向がある。壊れにくく、整備のし易い物をチョイスするのは仕方ない話だった。何より陸もこの銃を気に入っていた、ノスフェラトゥにも一撃で致命的な傷を負わせる事ができ、取り回しも良い。警備部五科の需品センスには感心だった。

「戦いの匂いでもしたか? 」
「いや、そういう訳じゃないんだけどさ。照明弾で別のモノを呼び寄せてしまったらって考えたらね。銃座も残弾少ないし、即応出来る体勢を作っておこうかな、って」
「その心意気や良し。若いのに感心だ」
 大仰に語るアサシグレだったが、彼も陸と同じ考えを持っていたようで、LAVの窓を鎧戸で閉じ、座席の位置を下げPDWを膝の上に置いていた。四人のうち二人がいつでも、戦えるようにと銃を拵えたためか、車内は再び緊張に包まれ、フルートの表情がやや険しい物に変わっていく。

「青いなぁ、台風娘」
 そう煽られても憤慨する訳なく、M1A1のボックスマガジンを抜き、二連装のドラムマガジンに付け替えると溜息を吐いた。

「え、ぶっちゃけマジなってんの? 」
 ヴァルトルートのいまいち意図が掴めない言葉に、誰も頷かない。代わりにフルートがセーフティを解除した音だけが車内に木霊する。腹を括ったのか、彼女もマシンピストルを引き抜いて、ハッチを睨み付けた。


 その時だった、車体側面を何かが擦るような音が聞こえ、全員が息を飲み、ゾッとしたような表情を浮かべ、その音に耳を傾ける。音は少しずつ車体後部へと向かい、ハッチの真ん前で音は止んだ。

「お迎えかな」
 軽口を叩くアサシグレだったが、語気は静かで重苦しい。覚悟を決めているようで、ヴァルトルートは緊張した面持ちで銃を構えた。都度都度、聞こえるハッチを叩く音、叩かれるたびに鼓動が早まっていく。手が震え、まともに照準を定める事が難しい。

「…どなたでしょうか」
 陸の言葉に応答はない、代わりに叩かれたハッチが歪み、微かに外の風景が見え始めていた。陸やアサシグレは銃口をハッチに向けていないが、フルートもヴァルトルート同様、銃口を向け緊張した面持ちで引き金に指を掛ける
 撃たれては敵わないと陸もハッチから離れ、ヴァルトルートの隣に腰を下ろす。
その瞬間だった、歪んだハッチの隙間に手が突っ込まれ、引き剥がすようにしてハッチが開かれた。相当な怪力なのだろう、片方50kg弱はあろうかというハッチは後方へ投げ捨てられ、人間の背丈ほどの何かがLAVの中へと飛び込んでくる。叫び声を上げながら、何かに発砲するヴァルトルートとフルートだったが、それは止まる気配を見せず、フルートを引き倒し、馬乗りになると、彼女の表情を見据え、聞き覚えのある笑い声を上げていた。

「————いやー、生還おめでとう。驚いた? 」
 柔和で、聞き覚えのある声に呆気に取られるヴァルトルートとフルートだったが、同時にアサシグレと陸は笑い声を上げていた。LAVの中に飛び込んできたのはハルカリだったのだ。服は銃弾によって穿たれ、穴だらけだったがハルカリ自身には一切傷はない。ボディーの剛性が、他のオートマタと段違いなのだ。

「…ぶっちゃけグル? 」
「うん、照明弾撃った時から、もう格納庫のハッチの外に居たから」
「鎧戸を下げた時に、ちょっとなぁ」
 じとついた視線を往なしながら、ネタばらしをする二人を横目で見ながらハルカリは小さく笑う。
「何はともあれ生きてて良かったよ。帰ろうか、アガルタに。五科長の白髪が増えるのは、もう沢山だ」
 口のないオートマタは出来る限りの満面の笑みを浮かべ、四人に語り掛けた。