複雑・ファジー小説
- Re: ラージ ( No.1 )
- 日時: 2016/04/25 23:52
- 名前: 全州明 (ID: GrzIRc85)
第二話 「落下地点のその先」
コンクリートのその先は、天国でも地獄でもなく、一見どこにでもありそうで、どんな所にも似ていない。
そんな町だった。
朝と昼の間くらいの時間帯なんだろうか。
ほどよく日の光が差し込んでいて、町はやさしい光に包まれていた。
しばらく道なりに歩いていくと、二差路にぶつかった。
僕は迷わず左を選ぶ。
それこそ歩き慣れた道を進むように。
どこまでも古い雰囲気の家々が建ち並び、道はしだいに緩やかなカーブを描き始める。
向こうから三輪の車がゆっくりとやって来て、横を通り過ぎて行った。色褪せた橙色の車で、どこか懐かしを覚えた。
その後も道なりに進んで行くと、この道に、見覚えがあるように思えてきた。知らないはずなのに知っている。いつかどこかで見たことがある。
例えるならそれは、デジャヴにも似た感覚だった。
心が躍り、歩幅も自然と速くなる。
この先に、きっとある。ずっと探し求めてきた、何かが。僕は、そう信じて疑わなかった。視界の端の独特な違和感も、しだいに気にならなくなった。
道幅は、しだいに広くなり、ぼんやりと、マンションらしき影が見えてきた。
日が傾き始めても、そのマンションだけは夕日に染まることはなく、独立した空間に佇んでいるような、独特な神秘性があった。
- Re: ラージ ( No.2 )
- 日時: 2016/04/25 23:53
- 名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)
第二話 「落下地点のその先」
コンクリートのその先は、天国でも地獄でもなく、一見どこにでもありそうで、どんな所にも似ていない。そんな町だった。
朝と昼の間くらいの時間帯なんだろうか。ほどよく日の光が差し込んでいて、町はやさしい光に包まれていた。
しばらく道なりに歩いていくと、二差路にぶつかった。僕は迷わず左の道を選んだ。
それこそ歩き慣れた道を進むように。
どこまでも古い雰囲気の家々が建ち並び、道はしだいに緩やかなカーブを描き始める。
向こうから三輪の車がゆっくりとやって来て、横を通り過ぎて行った。色褪せた橙色の車で、どこか懐かしを覚えた。
その後も道なりに進んで行くと、この道に、見覚えがあるように思えてきた。知らないはずなのに知っている。
いつかどこかで見たことがある。
例えるならそれは、デジャヴにも似た感覚だった。
心が躍り、歩幅も自然と速くなる。
この先に、きっとある。ずっと探し求めてきた、何かが。僕は、そう信じて疑わなかった。視界の端の独特な違和感も、しだいに気にならなくなった。
道幅は、しだいに広くなり、ぼんやりと、マンションらしき影が見えてきた。
日が傾き始めても、そのマンションだけは夕日に染まることはなく、独立した空間に佇んでいるような、独特な神秘性があった。
その中のエレベータで、僕は一人の女性と居合わせた。エレベータはガラス張りで、外の景色が一望できて、床だけが、人工大理石が埋め込まれていた。
このまま上の階へ行くのかと思うと身が竦んだけれど、女性の方はまるで微動だにしない。ここの住人なのだろうか。すらりと伸びた細身の体に茶色のコートを着込み、肩まで伸びる長い髪で、思わず目を奪われてしまうような美しい人だった。
「あの……」
今にも消え入りそうな、か細い声だった。
「はい?」
あまりに小さいその声に、僕は思わず聞き返す。
「あの……何階、ですか?」
言われて初めてまだ動き出していないことに気がついた。
各階がデザインされたボタンは、六階だけが、淡いオレンジ色に光っていた。
「え? あぁ、すいません。屋上でお願いします」
「あの……屋上へは、行けないんですけど……」
女性は怪訝な顔になって、申し訳なさそうにこちらを覗ってくる。そして形のいい綺麗な人差し指で、一番上の階を指した。
しまった。怪しまれたかな。
いや待てよ。これは僕の夢なんだから、ある程度は思い通りにできるはずだ。僕はこの人に好かれたいと思っているから、怪しまれる以前に、もっと好意的に話しかけて来てもいいはずじゃないか。ということは、やっぱりここは、現実なのか?
だとしたら、記憶をもとに造られるはずの夢の中で、見ず知らずの女性に会う理由も頷ける。
「あ、あの…………」
女性の顔は、すっかり脅え切って、目には涙が滲んでいた。
「あぁ、すいません。やっぱり九階でお願いします」
今度はしっかりと確認してから一番上の階を指定した。
「あ、そっか。……すいません」
なぜか謝られ、こちらを見つめてくる。
「あっ、すいません。……あの、ひょっとして、ずっと昔、どこかで会いませんでしたか?」
ぺこりと頭を下げてから、茶色く綺麗な瞳で尚もこちらを見つめてくる。
「え? 多分、今日が初めてだと思いますけど……」
「そ、そうでしたか。あ、でも、あの、その………伝言が、あるんですけど……」
「伝言?」
「あっ、そのいえ、あの、誰かは言えないんですけど、確認のため、言う前にクイズを……」
「クイズ?」
今度はこっちが訝しむ番だった。しかし、この気弱そうな女性がふざけているようには見えない。
「あの、アルティメット・エクストリームの意味を答えろっていう問題なんですけど……」
「アルティメット・エクストリーム?」
「……ご、ごめんなさい。意味分かんないですよね」
確かに意味が分からない。けれど、初めて聞く言葉では無かった。
それどころかそれは、僕の一番好きな言葉だ。
「………これは、今思いついたことなんですけど、その……言葉自体に意味はない。ただ❘」
「ただ?」
女性は目を輝かせ、期待の眼差しを向けてくる。
「ただ、ただ単にそれは、アルティメット・エクストリームカッコいい言葉だ」
それは本当に、たった今思いついたものだ。けれど、なぜだか間違っている気はしなかった。