複雑・ファジー小説
- Re: ラージ ( No.7 )
- 日時: 2015/09/24 17:56
- 名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: IQBg8KOO)
「すごい! 正解です!!」
だからこう言われても、大して驚きは———
「えぇ? あってるんですかぁ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
まさか本当に合っているとは思わなかった。
でも、という事はつまり、この伝言を寄こした人は僕以外居ないんじゃないだろうか。
アルティメット・エクストリーム。そう呟くだけで、心にグッとくるものがある。
さっきも言ったように僕はこの言葉が好きだ。だから日常的に使う。
アルティメット・エクストリームいいね、とか、アルティメット・エクストリーム素晴らしいね、とかそんな風に。そしてその度に、皆首を傾げ、意味を尋ねて来た。でも、この言葉の意味を誰かに話したことなど一度としてない。何せ今思いついたんだから。だけど僕に伝言を寄こしてきた誰かは、僕より先にこの言葉の意味を思いつき、そして知っていた。
そんなことができるのは、未来の僕以外居ないんじゃないだろうか。
まぁ、この女性が適当なことを言っているだけと言う可能性も捨てきれないけれど。
「……あの、それで、伝言の方なんですけど………」
「え? あぁ、そう言えばまだ聞いてませんでしたね」
まぁどうせ僕のことだから、夢の中で青春を謳歌しろとか目が覚めないように気をつけろとか、そんなようなことを言うんだろう。
しかし、女性の小さな唇から発せられた伝言は、想定外のものだった。
「えぇっと、言っていた通りに言いますね。
〝死ぬ気で走って飛び降りろ。そうすれば、思い通りの場所に辿り着く〟
〝でもそこは、呆れるほどに都合が良くて、息が詰まるほど狭すぎる〟
〝お前がそのことに気付くまで、きっと目が覚めることはない〟
〝でも忘れるな。そこには何もない。いつまでも、狭い世界に閉じ籠るな〟
〝目が覚めたらその時は、部屋の外に出ろ。家の外に出ろ。この世界の、外に出ろ〟
〝そこには全てがある。この部屋の中には無い、全てが〟
……だそうです。あの、別にこれは、私が言ってるんじゃないんですよ?」
「❘嘘だ。そんなはずは………」
「本当にこう伝えろと言われたんです!! 信じてください!」
多分この人は、嘘なんかついていない。でも、だとしたら、それはそれで辻褄が合わない。
何かがおかしいなんてもんじゃない。根本的に違う。この伝言を寄こしたのは、僕じゃない。
間違いなく他の誰かだ。そう言い切れる。僕が、この僕が、家の外へ出ろなんて言うはずが無いし、全てが思い通りに行く世界を、あんな風に貶したりはしない。
でも本当に僕じゃないとしたら、他に誰がいる? 僕以外にこの言葉の意味がわかる人なんて、目の前に立っているこの人しかいない。でもこれが現実だとしたら、この人は僕のことを知らないはずだし、夢の中にしてはあまりに酷だ。
ふと、視界の端にわずかに映り込んでいた女性の足が、消えていることに気がついた。
慌てて顔を上げると、そこにはガラス張りの壁があるだけだった。エレベーターは既に九階に着いていて、その扉は開いたまま、閉じる気配が無い。
降りろということなんだろう。僕は敷居を大きく跨ぎ、九階に降り立った。
直後に扉が閉まり、あっという間に下の階へと消えていった。