複雑・ファジー小説
- Re: 可能性の魔法使い ( No.10 )
- 日時: 2015/04/06 23:22
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
そう、それは、薬と言う名の奇跡。力脈から汲み出した無秩序な可能性と、薬草が持つ秩序ある可能性。この二つを混ぜ合わせ、彼女は全く別の可能性を作り出す。
それはつまり、五山で銅貨一枚のクズ薬草から、金貨百枚で小瓶一本も買えない高級薬を作り出す奇跡。
何千人もの薬師達の、何百年という努力の結晶を、たった一人で、わずか三十秒の間に生む悪魔の技術だ。
「仕方ないでしょ、出来ちゃうものは」
「それ全国の薬師に言ってみ? ぶっ飛ばされるから」
「あの人達だけが苦労してるなんて言わせないわよ。わたしだっていつまたアレが再発するか!」
プンスカプンスカと軽く怒りながら、ユーリは人差し指で眼鏡のツルを押し上げた。渋柿色のレンズの向こう、覗くツリがちの眼は、色つきレンズ越しにもはっきりと分かるカナリア色だ。眩しいほどのまっ黄色は、鳥にはよくある目の色だけど、人間ではあまり見ない。俺の知り合いには沢山いるが、そういう問題じゃあないのだ。
「再発再発って、それ体質だろ」
「日によって見え方が変わりすぎるのは立派な病気よ」
「俺達にとっちゃ日常だぜ」
「道具や薬でコントロールできるのは体質って言わない」
「カツラや育毛剤でコントロール出来る遺伝性のハゲもか?」
「あのねぇ……」
人間にはどうやら無いらしい色をした目。それがどうやら、“裏”を見る力を持った人間の目印のようだ。
だが、人間はどうも不便なことに、裏を見る力と同時に、脳みその許容量を越えるほどの視力も身に付ける。異常な眼の良さが一体どんな光景を見せるのか、俺達鳥にはよく分からないが、ユーリのたまわく「想像するだけで身の毛もよだつほどの苦痛」らしい。
人間はこれに『異望症』などと名前をつけ、病気として扱っているそうだが……詳しいことは知らない。
To be continued...
薬師業界のブレイクスルーガール、ユーリ・ラビエリ。
苗字に冠する天使の御名は伊達ではないのだ。