複雑・ファジー小説
- Re: 可能性の魔法使い ( No.11 )
- 日時: 2015/04/17 23:36
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
「あー、えーっと、とにかく! 多分それなら怪我のほとんどは治るはずっ! 湿布薬にしといたからあんたはそのまま寝てればいいわ。ついでにロータスのよしみとロイ君の弟子十周年を記念して御代をタダにしてやろう!」
「オレの弟子十周年記念、二週間前にもやったけど……」
「第二段! 何、記念イベントは何回もあるものだから構わないっ!」
「そんなもんか」
ユーリが何かにつけ上級の医薬品をタダでばら撒くのは恒例行事。彼女が自分の作った薬で金を取るのは、金貨を五百枚払っても惜しまない大富豪と、本当にしかるべき材料を使って作ったときと、彼女の技術を以ってしても難しいと言わしめる最上級の蘇生薬を作ったときだけだ。
金儲けをしようと思えば、恐らくユーリはいくらでも金を稼げるだろう。それこそ全国の薬師からぶっ飛ばされても文句言えないほどの技術を、彼女は一人で持っている。
そうせずに技術をタダで配り歩くのは、薬師として他の薬師と共存するためと、もう一つ。
「それに、あんた達どうせお金なんか持ってないんでしょ?」
「持ってるぜ、金貨百枚」
「百枚!? カラスがそんなに持っててどうすんだよ!」
「でも無理ねー、百枚じゃ相場に見合わないわよ。湿布に出来る量なら六百枚くらいくれないと」
「ろっぴゃ……!?」
「施薬院の薬価暴騰しすぎだろ……」
「そうね、どれもこれも馬鹿みたいに高くて。でも、そんなことあんたの怪我とは関係ない」
富豪でない民衆にも、最高の医薬を届けたい——そんな純粋すぎる願いのためだ。
彼女がどんな経緯でそんな良い子に育ったのかは知らないが、とりあえず俺は、師匠のロータス共々、そんなユーリの性格に甘えさせてもらっている。ついでに、ロイは薬の価値の高さに驚いてばかりだ。
「金で命は買えない」と詭弁を振り回す医者は多い。ユーリもその口だが、それなら金貨を何百枚も払ってまで買った蘇生薬で延命することは、間接的に命を金貨何百枚で買ったことにならないのだろうか。本当に命が金で買えないのなら、どんな富豪も、赤貧舐める貧乏人も、等しく同じ病気で死ぬべきだ。
……と言うとユーリにぶっ飛ばされるから、それは心の中に秘めておいた。
「それじゃ——わたし、保存庫で整理してるから。痛みが引いたら言いに来てよ」
思案に暮れていた俺を引き戻したのは、背中に当たるひやりとした感触と、涼やかなユーリの声だ。目をやれば、カナリアイエローの瞳が、渋柿色のグラスの向こうから俺を見ている。
どうでもいいが、ユーリは胸がでかい。
「あぁ、あの馬鹿でっかい倉庫……手伝おうか、オレ? どうせ暇だし」
「あら、いいの? それじゃ一緒に来てね」
「おうおう」
ぱたぱた足音をさせながら保存庫の方に向かっていくユーリと、都合よくそれにのっかったロイ。一人と一匹の後姿は、すぐに俺の視界から消えていく。
まあ、たまには何も考えずに寝るのも気分が良いだろう。
目を閉じると、いつもの真っ暗闇が、あっという間に俺を引きずり込んでいく。
To be continued...
ユーリは胸がでかい(迫真)