複雑・ファジー小説
- Re: 可能性の魔法使い ( No.12 )
- 日時: 2015/04/20 02:33
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
「お前達には器物損壊と名誉毀損の容疑がかかっている。大人しく同行頂きたいのだがな」
「はっ、人間の法律でオレ達が拘束できるか? この国じゃ私刑は重罪だぜ」
「法なぞ関係ない、町長の命令だ。……私をただの警察と思うな? 秘密警察は汚い手口を使っても誰も何も言わん。お前達を姦計にかけようと、それは市民の知るところではない」
「おー、おっそろしい。オレ達はローストチキンになるってか?」
保存庫の方がなにやら騒がしくて、目が覚めた。
外の明るさを見る限り、まだあまり時間は経っていないようだが、果たして。
騒ぎを助長しないよう、なるべく音を立てずに、ゆっくりと全身を伸ばす。上級蘇生薬を贅沢に使った湿布の効果は中々のもの、全身の痛みと傷は全部消えてなくなっているようだ。湿布もからからに干からびて、薬効を遺憾なく発揮したことを暗に示している。
ゆっくりと目を閉じる。暗闇の彼方、可能性の川がはっきりと映った。体調万全、魔法も使えるだろう。
傍に置かれている、ユーリが繕ってくれた帽子を被る。昔々のそのまた昔、ロータスが被っていた……と言うより、髪飾りにしていた、人間の頭にはとても入らない黒のハットだ。ロータスが死んだときに形見分けで貰い受けた奴だが、俺の頭には幸いにしてぴったり納まる。
ロータスは無造作に垂らして飾りにしていたあごヒモ、それを留め具で止めて、腕鳴らし代わりに一回羽ばたく。ばさっ、と風を切る音が、狭い部屋一杯に響いた。
同時に、保存庫の連中も俺の存在に気付いたようだ。俺が封じ杭を出している間に、会話が漏れてきた。
「ははぁ。件のジャックとやらは隣の部屋だな?」
「そーだよ。だけど、ジャックの羽音が聞こえたってこた、あんた等勝ち目ないぜ」
「何を言う、ハヤブサ風情が」
「それ以上に魔法使いだぜ。師匠の力量くらい知ってら」
ロイの野郎、焚きつけてくれてやがる。
なるほど確かに、俺はそこんじょそこらの人間なんぞ片手で捻り潰せるくらいは出来るが、だからってあんまり持ち上げられても困っちまう。苦く笑う俺の顔は、ロイには分からないだろう。
そうこうしている内に、バーン! とばかり、保存庫の扉が蹴り破られた。奥でユーリが「扉が! 扉が!」と悲痛に叫んでいるが、蹴破った当人はお構いなしだ。ずんずんと部屋の敷居を跨いで、俺を見つけるや否や、腰に下げた黒い鉄の塊をこっちに向けてきた。拳銃、というものらしい。
最近、人間の世界はやたら技術革新が進んでいる気がするんだが、俺の気のせいだろうか。
「よぉ、町長のイエスマン。元気してるかー?」
「器物損壊、及び町長への名誉毀損だ。同行願おう。でなければ撃つ」
拳銃の黒い孔から、それを握ってる男の顔の方に目をやる。すると、目深に被った帽子の向こう、カナリヤ色の瞳とかちあった。どうやらこの人間の男も、俺達と同じ“裏”を視る人間のようだ。それも、ユーリのように薬で騙し騙し異常な視力を支配するんじゃなくて、真正面から組み伏せたたちだろう。
ロータスと同じ、見ようと思えば至高の境地を垣間見れる、稀有な人間だ。だが。
「ははっ、天才肌ってだけで奢ってんじゃねぇぞ、青二才」
「何だと?」
「お前にそんな鉄ッコロ当てられやしねーよ、バーカ」
ロータスどころか、俺にだって程遠い。
——翼に隠していた封じ杭で、一突き。全国に散らばる力の湖、その一つを塞き止める。
その瞬間、男ははっとしたような顔をして、ぐぐっとばかり指に力をこめた。引き金という部分にああやって力を入れると、何か物凄いことが起こるらしいのだ。例えば、人が死ぬとか、鳥が落ちるとか。
だが、脅威は遅すぎた。俺はもう一度杭を振り上げ、溜めた歪みを一気に爆発させる。
「手加減してやるよ、人間!」
かぁん。高らかに、乾いた木が音を立てた。その瞬間。
「っがぁ!?」
真後ろから飛んできたテーブルと椅子が、男の頭に命中した。
To be continued...
テーブルが頭に命中なんて、魔法使いじゃなかったら死んでるね。