複雑・ファジー小説

Re: 可能性の魔法使い ( No.4 )
日時: 2015/03/28 14:42
名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)

「くっそー……言われた通り若手ありったけ連れてきたぞこら。百で十分だろ」
「上々。ほんじゃ、これを力湖にぶっ刺してこい」
「ぉう——って、多っ!? つか、趣味悪ぅっ! 何だこのシャリコウベ!?」
「趣味悪い言うな、ロータスの使ってた封じ杭だよ!」
「ロータスのセンスどうなってんだよこれ……それに、いつもの封じ杭はどうしたよ」
「俺のじゃ効果不足だから引っ張り出してきたんだよ」

 なるほど、此処にしばらく留まってみると、確かに力脈の流れがおかしいことが良く分かる。いつもなら、この付近の力脈は南に向かって直線に走っているはずなのに、このロータス像からは時計回りに緩やかな弧を描いていた。
 時計回りの弧というのは“凝集”を示す兆候だ。早く何とかしなければ、爆発する。

「ちくしょう、オレと若手にやらせてあんたはやらんのか! 鳥使いの荒いカラス様だ」
「俺ぁ今力脈を探してるとこなんだ、さっさとお前等でやってこい。制限時間五分な」

 傍でハヤブサがギャーギャーと五月蝿いのが鬱陶しいが、ロイはそういう奴だから最早気にしない。適当に嘘じゃない言葉を投げ捨てて追い払おうとしたものの、此処でロイは食い下がってくる。

「探してるって、一番太いのじゃねーのか?」
「有り得ねぇなそんなの。一番太いのに封したら離散の兆候が出るはずだ」
「お、おう。ンなこと初耳だぜオレ……」
「そりゃ、初めて言ったもん」

 何なんだそれは、とか、弟子に何も言わないでいきなりそれかよ、とか、ぶつぶつ言いながら、それでもロイは俺の片翼くらいはある長さの鉄杭を一本ずつ分け、自分も一本杭を足に掴んで、次々に飛び立っていく。風を掴み、あっという間に飛び去っていく猛禽の背を見送りつつ、俺は目を閉じた。

「さァて、見えるかねぇ」

 力脈——この世界の“裏”を成す世界の一部——は、瞼を開いて見る視界に映るもんじゃない。眼を閉じ、いつも見る景色を遮って初めて見える、秘められた可能性の川だ。そいつは自覚できないほど小さく体調を崩しただけで見えなくなる。だが幸いにして、今日ははっきり見えるらしい。
 鳥目の俺でも、多分人間や猫でも、何も見えないほどの真っ暗闇。そこに、原初のままの可能性が、黄色い光を帯びて浮かんでいた。その色は言葉に出来ないほど毒々しく、あんまりずーっと見ていると気が狂いそうになる。ロイは平気そうだが、あれはちょっと色の識別が甘いだけだ。
 ——太く細く、遠く近く、縦横無尽に走る無数の力脈。ある程度目星をつけながら、歪みの根源を探っていると、それは案外すぐに、そして近くに見つかった。
 ロータス像の肩に止まる俺の真下、一番太い力脈のすぐ隣に走っている、歓楽街方面に伸びるものだ。そこの力脈が、ロータス像から南側だけぷっつり切れて無くなっている。
 なるほど、歓楽街方面の力脈を封じると、全部の力脈が町長のお宅の方——つまり、西に向かって凝集するらしい。薄気味悪いほど具合が良いが、多分町長はこれを知った上で凝集する場所に家を構えたのだろう。力脈という可能性の川、そこに秘められた力を独占するために。
 だが、こんな乱暴なやり方で力を持ったとて、誰もが不幸になるだけだ。それをあいつは分かっていない。


To be continued...