複雑・ファジー小説
- Re: 可能性の魔法使い ( No.5 )
- 日時: 2015/03/31 11:29
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
「ジャックー、杭刺してきたぞー」
「……五分二秒。遅刻だぜロイ」
「二秒は誤差の範囲だろ流石に! そういうあんたはどうなんだ、見つかったのかよ!」
「あのなァ、ロータスの直弟子ナメんなよ? とうの昔に見つけてんよ」
そんなこんなで、ロイも戻ってきた。此処からは俺の番だ。
ロータスが俺と同じ事をしようとすれば、命と魂を投じるしかない。だが俺はこれを一人で出来る。これは実力云々じゃなくて、元々の魔法使いとしての素質がそうだと言うだけだ。
ロータスは凝集、俺は離散。ついでに言えば、ロイはどっちも出来るが中途半端だ。
「ほんじゃ、ロイ。これ」
「おわっ! とっ、と……! あ、いつもの封じ杭」
「合図でこいつの脳天にぶっ刺せ。割と場所は適当でいい」
「あんた適当だな」
お陰で、ロイはいつも俺の補助ばかりやっている。ロイ自身はその立場にそれほど不満を持っていないらしいが、鳥的には攻撃を仕掛ける側たる猛禽の彼が、魔法使い的には立場が逆になるってのは因果な話だ。多分、ロイが俺の手から離れるためには、ロータスを越える技量を身に付けるしかないのだろう。
……ま、こんな時に長々と考えていてもしようがない。さっさと終わらせることにしよう。
俺も封じ杭を出し、像から降りて地面に構える。
俺が持っているのはロータスの奴じゃなくて、自分で作った方だ。ロータス作の杭みたいにガイコツとか蔦とかは付いてないし、むしろパッと見ただの棒に見えるだろう。だが、俺ならそれで十分。分散させた力を見失う真似を、俺はしない。俺はそういう魔法使いなのだから。
「ロイ、せーので刺せよ!」
「OK、いつでも来い!」
「せーの!」
振り上げて、振り下ろす。
コォーン、と、高く乾いた金属の音が、夕闇の広がる空に浸透し、びしっ、という鈍い音に変わった。
「ロイ、その像から離れろ!」
「えっ、おわっ、わ! じゃ、ジャック、おいっ……!」
ぴしり、ばきばき、ぱきん。
鈍い音は、俺の背後でどんどん数を増していく。ロイは離れさせたが、俺はまだ此処から離れられない。
可能性の集まる場たる力脈の中でも、特にそれが集まっている箇所、力湖。この国には全部で百一箇所あるその全てに、俺はロータスの封じ杭を打って流れを塞き止めた。そして、塞き止めた力脈の流れを像に向かって逆行させてるのが今の状態だ。
俺の魔法は、力脈が歪められたとき、しかるべき形に戻ろうとするときの爆発力を使う。だから、此処で今俺が離れたら、支配を失った歪はどうしようもない。その先に待っているものが何かなんて、考えたくもない。
眼を閉じる。途端、毒々しい黄色が脳みその中にまで飛び散って、頭がくらくらした。数秒も見ていると、全身の感覚が覚束ないほどの鮮烈さだ。少しでも気を緩めると、魂ごと持ってかれそうになる。
だが。流れるな。流されるな。
「そ……らァっ!」
煉瓦の地面に爪を噛ませ、封じ杭で、もう一度力脈を叩く。その瞬間。
ばぎんっ、と、一際鈍い音が背後から聞こえて、ロータス像はあっくなく崩れ落ちた。
俺はジャック。離散をつかさどる、可能性の魔法使い。
弟子のロイ共々、師匠の後を継ぐにはまだまだ未熟者だ。
To be continued...
第一話完。
もうちょっと登場人物は増える予定。