複雑・ファジー小説
- Re: 可能性の魔法使い ( No.7 )
- 日時: 2015/04/05 14:32
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
ぼんやりしながら眼を閉じる。辺り一面真っ暗闇、何も見えない。この不調なら当たり前だ。
全身が痛くて、睡魔も襲わない。眼を開ける。ゆるゆると回るシーリングファンと、煤けた木の天井、それから、ロイの顔が見えた。碧いハヤブサの目が俺を覗き込んでいる。幾分心配そうだ。
「ジロジロ見んな、こっぱずかしい」
「仮にも師匠の身を心配しないっつーのは、弟子としてちょっと……」
「変な所で義理立てすんのなお前」
ふふん、と少し笑うのも辛い有様だ。全く恥ずかしい、あんなハゲに一杯食わされるとか。
目一杯肺に空気を溜め込んで、溜息一つ。今までだらしなく広げっぱなしにしていた翼を畳んで、軋む身体をごろりと反転させ、古ぼけた机の上にうつぶせた。鳥の身としては、人間どものように仰臥するよりこっちの方が少し楽な気がする。痛みも軽くなり、ここぞとばかりに睡魔が襲った。
どてちっ、とばかり頭を落とすと、木の机のささくれがちくちくする。絶妙にイラつく刺激だが、それにもまして眠気が酷い。多分我慢のしすぎで疲れが溜まってるんだろうが、此処で寝たら死んじまいそうだ。
眼をこすりこすり、断続的に襲う睡魔に耐えていると、ロイがふいと顔を上げた。そっちに眼をやっても、ロイの視線の先は俺の視界の外。ただ虚しく、瀟洒なステンドグラスのランプだけが眼に映る。
「ぁ、ユーリ」
見ているものの正体はロイが自ずから明かした。それに応える声も一つ。
「流石ロータスの弟子、頑丈に出来てんのねぇあんた達。はい帽子」
「ロータスとは特に関係ねぇんだけど……つか、今それ渡されても」
「違うわよ、彼方此方破れてたから繕っといたの。こんな調子でどう?」
「ん——すげぇや、相変わらず完璧」
「ユーリ様の手にかかればこんな綻びなんのそのよ。でも、わたしの用事はそれじゃない」
薬師、ユーリ・ラビエリ。
四六時中鼻に引っ掛けた、何やら複雑そうな眼鏡が特徴の人間。
彼女はロータスの元友人で、今は俺が怪我をした時の主治医みたいなもんだ。そして、彼女もまた、俺達と同じ——世界の裏側、可能性の川を視ることができる眼を持っている。
だからと言って、彼女は魔法使いじゃあない。力脈に流れている可能性で奇跡を起こす点は俺達と同じだが、俺達のように、可能性をそのまま奇跡に変えたり、ましてや破壊に変えたりするのは彼女の領分と言わない。
ならば、彼女の起こすものは。
To be continued...
眼鏡女子は正義。