複雑・ファジー小説

Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照2000突破感謝! ( No.209 )
日時: 2015/10/25 14:52
名前: ユッケ (ID: Pi8kpTE6)

第6章
■はじめに■



僕が世界を呪ったから、世界は僕を呪った。

世界が彼女を呪ったから、彼女は世界を呪った。

だからこれは、呪いの話。

初めから始まっていた話。

僕も知らない場所で……時で……もう既に……。

始まっていた話。












残りの夏休みを、引き篭もって過ごした。

誰とも会わず、誰とも話さず、ただ部屋で過ごした。

たまに来る、みよりや鈴也君からのメールは既読をつけるだけで返さなかった。

後輩からの心配のメール。

今すぐ返信したい! 大丈夫だよって伝えたい! でも、それをすると寂しさにきっと負けてしまう。

だから返信はしなかった。

大切な仲間を危険に巻き込みたくないから誓った。

独りになる事を……。

僕らは僕らをやめて、僕になった。

孤独に部屋に篭もり、ただ時間を過ごしている僕が唯一やっている事と言えば、趣味の料理くらいだった。

「…………あ、冷蔵庫空っぽ」

晩御飯は何にしようかなと冷蔵庫を開けてみるが、中身は空っぽだった。

あの夜以来外に出ていないし、当然の事だった。

「仕方ない、買い物に行こっか」

どうせ明日は始業式だから、今日外に出るのも明日外に出るのも変わらないよね。

ドアを開けて外に出る。

このアパートの階段を降りるのも久し振りだ。

太陽の眩しさと空の青さが何だか新鮮な気がして、外の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んでみた。

「スーーーーーハーーーーーー……少し気分も変わるな〜。やっぱり外に出なくちゃ人間駄目になっちゃうのかも」

少しだけ、ほんの少しだけ足取り軽く近場のスーパーを目指す。

向かっているスーパーは実は結構珍しい食材が置いてあったりして、料理が趣味の僕としては宝島のような存在なのだ。

レモンオイルやグリーンペッパー、フィンガーライムやグラスジェムコーン、亀の手、その他珍しい魚や牛豚鶏の希少部位などなど、なんともマニア向けの趣向を持つお店なのだ。

珍しさが売りなだけあって、見ているだけでも楽しかったりする。

目的のスーパーが交差点の向こう、目の前に見え、待っていた横断歩道の信号が青に変わった時。

「孤独な坊や、ちょいとお待ちよ」

「え?」

声に驚き振り返った瞬間だった。

キキーーーーッッッ!!!

けたたましい車のブレーキ音とクラクションの音にまた驚き振り向く。

どうやら紅葉マークの車が信号を無視して交差点に突っ込んで行ったようだった。

幸い事故にはならなかったようだけど、紅葉マークはそのまま走り去り、ブレーキをかけた方の運転手はとてもイラついた表情で車を走らせた。

ほんのすぐそこで起こった出来事。

もしかして僕は……。

「死ななかったにしても、怪我はしていたかもねぇ。私が声を掛けなければ救急車とパトカーが必要だったかもだ」

この女性に助けられたのか。

その女性は奇妙な柄の服、頭にはかんざし、アイラインシャドウと艶やかな赤い口紅、キツネが化けたらきっとこんな感じなんだろうなと思うような人で、怪しさと妖艶さでむせそうだった。

「うわ、胡散臭っ」

つい言葉に出てしまった。だって怪しいんだもん。

「命の恩人に大層な言い草だねぇ」

「いや〜すみません。では……」

そう言って早々に立ち去ろうとした。

嫌な予感がひしひしと伝わって来るんだもん!

「だからちょいとお待ちって、孤独な坊や。何かお困りのようだ、折角だから占ってあげよう。キミはラッキーだねぇ、命を拾って占いまでしてもらえるなんて、本当に幸福だ」

「占い……ですか?」

ますます胡散臭い!

「私は占い師なのさ。そうさね、私の事はタマモと気軽に呼んでくれたまえ」