複雑・ファジー小説
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照2000突破感謝! ( No.212 )
- 日時: 2015/11/02 19:03
- 名前: ユッケ (ID: Pi8kpTE6)
■それぞれの夏休み最終日■
【千年 音羽の場合】
今日はお兄ちゃんに会いに来た。
何度も会いに来ているせいか、もう随分と留置所にも慣れてしまった。
透明な板を一枚挟んだ向こう側にお兄ちゃんがいる。
その板はまるで世界を二分しているようだと感じる。
「音羽、お兄ちゃんもうすぐ出られそうだよ。秋には出られるかな」
「ほんと!? 良かった〜」
「ここから出たら、改めて三好君にはお礼を言わないとな。今日は一緒じゃないのか?」
「ぁ……う、うん。今日は私1人」
私は、祐を英雄視していた。それはお兄ちゃんも一緒で、私達兄妹にとって、祐は文字通り英雄(ヒーロー)だ。
でも祐は1人で背負い込んで、何でも1人で解決しようとして、巻き込みたくないからと、私達を遠ざけた。
そんな祐に腹が立つ。
でも私は頼り過ぎたのかもしれない。
勝手に英雄視して、祐を追い込んだのは私なのかもしれない。
そんな自分に腹が立つ。
明日は始業式。
いったい、どんな顔して会えばいいんだろう…………。
【緋色 赤菜の場合】
「はぁ〜〜〜」
レッスン場の隅っこで座り込んで深い溜息。そりゃそうだ。アレ以来悩み過ぎて頭が痛い。
突然の解散……出来る事は何も無かった。
祐に初めて会ったのは、高校に入ってからだ。
何だか目立たないように控えめに過ごしている気がして、影があるみたいで気になっていた。
気になってしまえば後は早かった。作った笑顔でも、時折見せる祐の笑顔に、次第に惹かれていった。
それから、以前よりも明るくなった祐に話しかけられて、友達になって、相談も聞いてもらって……これからもっと楽しくなると思っていたのに……。
「なんで……また独りを選ぶんだよ……」
アタシはそれが理解出来ない。
【宮本 みよりの場合】
「今日も出かけないの?」
「うん。特に用事も無いから……」
リビングでただボーっとしている私に、お姉ちゃんが心配そうに声をかける。
毎日あの溜り場へ遊びに出かけていたのに、あの日以来、私は家から出ていない。
「皆と何かあった?」
お姉ちゃんが心配するのも無理はない。私が遊んでいるのはほとんどが先輩。その事を知っているから余計に心配なのだろう。
でも、本当の事は言えない。
だから、全部は言えない。話を変えて言う。
「お姉ちゃん、先輩はね、絶対に私を守ってくれるの。でも、私は先輩を守ってあげられない。祐先輩は独りにしてくれって言って……私はどうしたらいいの?」
「みよりは先輩が大好きなんだもんね。祐先輩って男の子よね? だったら、独りになりたい事もあるもんよ。でもね、きっとまたみよりの事を守りに来てくれるわ」
「でも……」
「いい? みより。母さんからの受け売り。女は度胸と愛嬌と辛抱!」
「ええー、何それぇ」
「フフ、もう少ししたら解るわよ。みよりはお姉ちゃんの妹だもん」