複雑・ファジー小説
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照3000突破感謝! ( No.222 )
- 日時: 2015/12/24 02:47
- 名前: ユッケ (ID: /fe4MZQT)
———————————公園から出てすぐの道路—————————
「クッソッ! 根暗な雰囲気しやがって、割りと足が速いぞチクショウ!」
影の男と追う者達のデッドヒートは人気の無い道路で続いていた。
この場所は裏路地への入口が沢山あるせいか、休日に人気は無く、平日は学生が登下校する朝か夕方に人が集中する。
では人はどこへ行ったのか……単純だ。街である。
故に街に抜けられてしまえばほぼアウトだ。
これまで何人もの不良を裏路地でシメてきたバジリスクこと七咲 千香が、男を捕らえるのに苦労しているのかというと、相手が男だからである。
千香は女子の中でも相当足が速い部類に入るだろう。それは裏路地での功績で解る。男相手にこの間も盗品を取り返したのだから、普通の男には足では負けない。
問題は影の男だ。この男、意外にも足が速かった。
千香と男の距離は徐々に徐々に離れて行っている。加えて双葉 小春、宮本 みよりとの距離はグングン離れている。
「ハァ……ハァ……ヒィ」
「あ、あねごぉおぉお……」
「ええい! 気合で走れ! 街に抜けられたらアウトだぞ!」
そうは言っても無理なものは無理。
小春もみよりも中学生だ。小春は年齢上ではであるが。
「ヒィ……ヒィ……も、だめ……」
「コラ兎! 今止まったらその場で鍋にしてやるからな!」
「ヒィイイイイ!」
「あねごぉ……ハァ……ハァ……みよりちゃん虐めちゃ可哀想ッ……ス」
「うるさい! 余計な事に体力と空気を使うな! 必死の覚悟で走れ! 兎、キサマ超能力者だろう! 三好の役に立ってみせろ!」
「う……ういっす!」
みよりの目に僅かながら闘志が戻る。そこで千香が閃いた。
「兎! 私の目を見ろ!」
千香の能力は感情増幅。名前の通り感情を増幅させる能力で、いつもは火を見せて恐怖を増幅させて使う事が多い。そしてこの能力が、彼女にバジリスクという通り名を与えている。
今行っている感情の増幅は、みよりに戻った闘志、つまり“大好きな先輩。三好 祐の役に立ちたい”という感情を増幅させている。
「先輩の為に!! 宮本、臨界突破であります!!」
「よし! 奴を捕らえろ!!」
「イエッサァアアアアアアア!!」
みよりはありえないスピードで千香を追い越し、影の男に迫り、その首根っこを掴む事はなく……ただ闘志漲る目で先程と同じスピードで走っていた。
「…………」(千香)
「…………」(小春)
「うぉおおおおお! であります!」(みより)
「「でありますじゃねぇ!」ッス!」
「足の速さはどうにもならないでありますよぅ!」
闘志漲る目で泣きながら走っている兎が、そこにはいた。
「その2つのぶら下がりでなんとかならんのか!」
「ツインテールでどうにかなっちゃったら、それは髪が伸びたりする別の能力者ですよぅ!」
「意外! それはツインテール! みたいな感じッスね!」
「……ムム! ピカーン! 閃いちゃったですよ! 能力を使えばよかったのです!」
「何でもいいから早く奴を止めろ!」
「感情増幅でブーストが掛かっている今なら、出来る気がする! ええい!」
みよりは電気を操る能力で、自身に電気を纏うと、20メートル程先の街灯に向かって“飛んだ”。
みよりは電気から磁力を生み出し、その磁力を操って空中を飛んだのだ。普段の能力ならこんな風には使えない。実力が伴わず、本来の力が発揮できないのが宮本 みよりという超能力者だ。
しかし、既に超能力者としての資質があり、実力が出せていないだけなら、感情増幅でその力を引き出す事が可能だ。
「よし! 奴に電撃をくれてやれ!」
磁力の力で一気に差を詰めたみよりが、影の男に電撃を放つ!
「……っ」
間一髪といったところで躱される。
当たればそれはそれで良かったが、千香は電撃が外れても良いと考えていた。
なぜなら、“見る”からだ。
さっきまで遥か後方にいた追跡者が、距離を詰めて攻撃してきた。当然気になる。確認する。どれくらい詰められたのか、どのくらいの距離が今開いているのか……と。
ずっと走っていて脳に酸素が充分に行き届かず、追跡者からの急なプレッシャーを与えられれば、必ず見る。確認する。
「見たな」
「っ……!!」
ライターの炎から男は咄嗟に目線を逸らし、狭い脇道に逃げていく。そこは裏路地。千香のフィールドだ。そして増幅させた恐怖と酸素の足りない頭で何を考えるのか……千香には解っていた。
これはいつも追う者である千香だから出来る計算。
ハンターとしての獲物の捕獲術だ。