複雑・ファジー小説

Re: 超能力者の落ちこぼれ ( No.23 )
日時: 2015/02/23 04:30
名前: ユッケ (ID: TzDM8OLf)

■ゴールデンウィーク4日目■




朝、すでにニュースになっていた未知の薬物“パワー”。

名前を知っているのは極一部の人間だろうけど、警察が動いているから成分も売買ルートも名前も、すぐに分かるだろう。

慎也さんが目を覚ましたと連絡があった。

僕は足早に病院へと向かった。

朝早くだったが病院は開いていた。東雲先輩と城戸先輩が先に着いていたからだ。

医者が言うには、検査の結果、慎也さんは更生できるか分からない程に大量のパワーを使っていたらしい。

それほどの依存性と効果とリスクを持った薬物のようだ。

僕が最後に出来ることは一つ。

慎也さんにパワーを食べさせ、能力を僕に向けて使わせる。もちろん警察官と医師の立会いの下でだ。

そして、それで“得た催眠能力”で僕が慎也さんに催眠をかけて更生させるのだ。

超能力の催眠。効果はある程度実証済み、「眠れ」の一言で慎也さんを眠らせたのだ…催眠というよりは“命令”だけど、出来るはずだ。

「しかし、とんでも能力だね。三好君の超能力は」

「…はい、もう二度と使わないつもりでした」

「他人の能力を超能力として使う……。三好君の過去は悲しいと思うわ。でも、だからってこのままお別れは寂しいわよ。音羽ちゃんだってきっと解ってくれるわ!」

「音羽が優しいのは今回の件で充分に分かりましたよ。でも、だからこそ僕が側にいちゃいけない。そんな気がするんです」

「三好君、準備ができました。慎也君に催眠をかけてください」

立会いの警察官が僕を呼んだ。いよいよだ…。

これが、僕に出来る全て…これで終わりだ。

最後に、人を救う為にこの能力を使えて良かった。

これからは別の学区に移って、静かに暮らそう…誰も傷つけずに…また、超能力者の落ちこぼれとして、無能力者として…。

さようなら……ゴールデンウィークの間だけだったけど、キミが声をかけてくれて良かった……僕を頼ってくれて良かった……さようなら、音羽……。

「祐のバカーーーーーー!!」

「え!? へぶっ!?」

何が起きたのかすぐには分からなかった。僕は…病室を抜け出してきた音羽に頬を平手打ちされた。

「さようならなんて言わないでよ! 祐! どっか行っちゃう気でしょ! 祐の能力と関係あるんでしょ! でも私は、祐の味方だよ!」

「音羽……」

「祐の過去とか、能力とか、そんなの知らない! 私は祐と一緒にいたい!」

そんなこと、許される訳がない……僕は、他人の才能を喰らい尽くして、傷つけて、そんなことを繰り返したくない…!

「だってさ〜、どうする? 三好君」

城戸先輩…だけど僕は…。

「東雲は、あなたの味方です。辛い事があったら何でも相談して、ね!」

東雲先輩…。

「祐は、もう充分苦しんだよ。もう自分を許してもいいんだよ。もっかい言うよ? 私は祐と一緒にいたい!」

音羽……!

ゆっくりと、僕は立ち上がる。

「うん! じゃあ、待ってて! すぐ帰ってくるから!」

慎也さんを更生させるべく、僕は部屋に入る。

このままお別れなんてしない。

皆が居場所をくれたから。

僕は、必ず皆のところに帰る。