複雑・ファジー小説
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照3000突破感謝! ( No.231 )
- 日時: 2016/02/01 06:05
- 名前: ユッケ (ID: pVbpOhVU)
〜〜〜〜〜千年 音羽の回想〜〜〜〜〜
「千年 音羽さん……だよね?」
「え? ……」
突然名前を呼ばれて振り返ってみたものの、そこにいる灰色のパーカーにジーンズ、金髪が少し暗く見えてしまう眼鏡のその女性に、私は全く見覚えが無かった。
「あれ? ひ、人違いでしたか? すすすすみません! すみません!」
凄くドンくさそうな人だな〜と思ってしまった。私より年上に見えるのに、何と言うか自信無さ気だ。
「いえ、千年 音羽は私ですが。兄の知り合いの方でしょうか?」
私はこの女性に見覚えが無いので、思い当たるとすれば兄、真也の知り合いだろう。
「ほっ……良かった〜人違いじゃなかった〜。え〜っと、私実はこういうものでして」
彼女が取り出したのは警察手帳。いきなり見せられたもので一瞬ドキリとしてしまった。
兄の件だろうか? それとも私が知らず知らずの内に何かやらかしてしまったのだろうか?
「えっと、私にいったいどういうご用件でしょうか?」
「お話はどこか公園ででも……そう言えば向こうにありましたね。移動しましょう」
「はい……」
緊張と不安と共に街中の公園まで来た。公園にキレイに植えられている樹木達は、街中には不釣合いな緑だが、なんだか心休まる気がした。
「あ、申し遅れました。私は能力犯罪特務捜査班 東北支部 泉川 日向と申します。東雲 凛人さんをご存知ですね? 私は本部の凛人さんの同僚です。
私、今凛人さんが入院している間の穴埋めで呼ばれてきているのですけど、千年 音羽さん、あなたは鷹東 キリエという人物を知っていますか?」
「は、はい。この街で最も出逢ってはいけない人物だと聞いています」
「そうです、そのキリエです。率直に訊きますが、千年さんはキリエに出逢った事がありますか?」
「いえ、出逢った事は一度もありません」
「では、あなたの周りでキリエに出逢った事のある人はいますか?」
正直、その質問が1番困る。来ると解ってはいたが、答えに躊躇った時点でもうそれが答えになってしまった。
「…………」
「正直に、お願いします」
釘まで刺されてしまった。第一印象とは裏腹に、流石は警察だと思うほど取り調べ慣れしている。
「はい、本当かどうかは解りませんが、います」
「お話が聞きたいので、お呼びする事はできますか?」
ほらきた……だから嫌だったのだ。私達は今そういう事が出来る状態じゃない。王国という訳の解らない組織のせいで……半分は自分達のせいで、仲違いやすれ違いをしてしまっている。
しかし、これをどう説明すれば良いのか……。
初めから説明するしかないか……私は心の中で溜息をつきつつ、泉川さんに経緯を説明した。
「そうでしたか……それではお呼び頂くのは難しいですね」
「はい、すみません」
「いえいえ、お気になさらず。では、キリエに出逢った事のあるという人の名前だけ教えていただけますか?」
「はい、それくらいなら。えっと……」
祐達の名前を言おうとしたその時だった。
突然、目の前……私と泉川さんの間にまるで瞬間移動したように男の人が現れた。
それに加えて、泉川さんの雰囲気が少し違って見えた。というかかなり違った。クミちゃんとミクちゃんみたいな感じだ。
「え? ええ?!」
男の人は状況を理解できていないようだった。私もだけど……。
「悪いね、俺の能力で空間を入れ替えたんだよ。で、キミはなぁ〜んでさっきからこっち見てたのかな〜? 俺解るんだよね〜、狙ってる目っていうのがさ……もしかしてキミが王国とかいう組織の人?」
眼鏡を外してサラサラと金髪を靡かせながら尋問する泉川さん。っていうか俺って! 全く別人なんですけど!!
「は、ははは……だったらどうしたって?」
男はパニックを抑えつつ強気に口を開く。しかし、泉川さんは怯まない。
「俺さ〜こういう職種の人なわけ。ドューユーアンダスタン?」
ポケットからチラッと見せたのは警察手帳。金に輝く警察のマークを見て、男の顔はそれとは対照的に青冷める。
「じゃ、じゃあ……俺は失礼します!!」
流石にあっさりと帰って行った。しかも全速力で……無理もないか。
「あ、あの……ありがとうございます」
「うん? まぁ怪しかったからね。キミの可愛さに寄って来たのかと思ったけど、俺が一番乗りだから譲りたくなかったしね」
ぎゃああああああ全く別の人だぁああああああ!!
「あ、あはは……泉川さんって変わってるんですね〜」
「変わってなんかいないさ。そうだ、この近くにおいしいランチが食べられる店があるんだが、ご一緒にどうだい? 間違ってキミまで食べちゃうかもだけど」
「結構ですっ!!!」
「冷たいな〜、そういうキミも魅力的……だと……思う……よ…………ハッ! またやってしまったのでしょうか?!」
眠そうに目を閉じたかと思うとハッと目が開き、我に返えり落ち込む泉川さん。
「あ、あの〜」
眼鏡を装着すると、泉川さんはどんよりとした空気の中愚痴るように喋り始めた。
「はい、さっきのは別の私ですから……ええ、そうです……私はそういう人間なんです……子供の頃自信を持たなきゃって思って、自信家のマネ事をしていたらいつの間にか別の人格が……しかも女好きというオプション付きで……しかもしかも! ボンヤリと覚えているんですよ。入れ替わっている時の事……何度思い出して眠れない夜を過ごした事か!
……そのせいで目の下にはクマができて、高校の時は「目の下にクマ住んでるぞ〜」って言われて、以来アダ名が「クマさん」になって……ブツブツ……ブツブツ……イジイジ……」
「た、大変だったんですね。でも、お陰で助けてもらいましたし! 本当にありがとうございます! 私、能力も弱いから1人じゃ何も出来なかったと思います」
「千年さん……ダメだダメだ私! 私がしっかりしないと!」
「泉川さんは充分しっかりしてると思いますよ。取調べとか上手そうですし。なんというか、こう……静かなですけど迫力がありました。この人の前で嘘は吐けないだろうなって感じました」
「そ、そうですか? いえいえ、私はまだまだです。もっと頑張らないと!」
なんとか立ち直ってもらえたようで良かったと思っていると……。
(音羽! 今どこに———)
「きゃあああああああああああああああ!!!」
突然頭の中に声が響き、絶叫してしまった。
私の突然の絶叫に、泉川さんまで肩をビクゥッ! と跳ねさせていた。
私だめ! こういうビックリ系とかドッキリ系とかホラー系とかそういうのダメ!!
(音羽! 一体何が? 今どこに———)
「誰ーーー! 頭に声がぁああああああ!!」
(あ……ご、ごめんごめん。僕だよ、祐)
「え? 祐? どうして……」
(詳しくは会って話すよ。今どこにいるの?)
「うん、え〜っと……」
イマイチ状況がよく解らないが、確かに祐の声だった。
私はこの能力を知っている。木戸先輩のモバイルだ。
おそらく祐が先輩に借りたのだろう。でもなんで……あ、そうか……携帯家に置いて来ちゃってたんだ。
とりあえず現在位置を教え、待ち合わせる事になった。
祐から連絡があるなんて思わなかったから……なんだか嬉しい。
「えっと、キリエに出逢った事のある人に話を訊きたいんですよね? もうすぐ来ると思います」
「……そうですか、それは……………………」
眠たそうに目を閉じ、眼鏡を外す泉川さん……まさか……。
「キミ達のグループは可愛い女の子が多いらしいじゃないか! 皆きっと宝石のように美しく、子犬のように可愛いんだろうね〜」
「あはは……どう説明しよう……コレ……」
そして、現在に至る……というわけ。